都会の夜は無数の欲望を飲み込んでは吐き出す巨大な生き物だ。
影山晶は、その生き物の体内を流れる血流の一部であるかのように、雑踏の中を音もなく漂っていた。
獲物を探す捕食者の目は、行き交う女たちの姿を冷静に、そして精密に分析していく。
派手な化粧をしたギャル、流行りの服に身を包んだOL、友人とはしゃぐ女子大生。
どれもこれも、彼の欲望を満たす素材としては上辺だけの価値しかない、ありふれた存在に思えた。
彼の求めるのは、プライドが高く、羞恥心という名の鎧を強固に纏った女。
その鎧を内側から破壊し、崩れ落ちる様を眺めることこそが、彼を昂ぶらせるのだ。
一時間ほど歩き回っただろうか。
ネオンの光が肌を滑り、喧騒が耳を掠めていくだけで、彼の心を捉える獲物はいなかった。
苛立ちが、まるで低温火傷のようにじりじりと彼の内側を焦がし始める。
路上での偶発的な出会いを待つのは効率が悪い。
彼の時間は有限であり、その価値は極めて高い。
影山は舌打ちを一つすると、足を止め、スマートフォンを取り出した。
「……今夜は趣向を変えるか」
彼は独りごちると、煌びやかな看板が立ち並ぶ一角へと迷いなく歩を進めた。
目的は、清潔で防音性が高く、そして何より「仕事」がしやすい高級なラブホテル。
受付の液晶パネルを慣れた手つきで操作し、エレベーターで最上階の部屋へと向かう。
重厚なドアを開けると、そこには俗っぽい豪華さと、非日常的な空間が広がっていた。
間接照明が照らし出すキングサイズのベッド、壁一面の大きな鏡、そして窓の外に広がる都会の夜景。
しかし、影山が興味を示したのは、窓際に置かれた洒落たデザインのソファだけだった。
ソファに深く腰を下ろした彼は、再びスマートフォンを手に取った。
開いたのは、金銭を介した出会いを斡旋する、いわゆる「パパ活」用のマッチングサイト。
彼のプロフィールには、医師や経営者を装った偽りの情報と、いかにも羽振りが良さそうな写真が並んでいる。
彼は手慣れた様子で、新規の募集をかけた。
「今夜、都内ホテル。静かに過ごせる大人な女性希望。お手当30万」
相場の数倍はあろうかという破格の報酬。
この金額に釣られる女は金に困っているか、あるいは強欲か。どちらにせよ、御しやすい相手であることに変わりはない。
影山は送信ボタンを押すと、スマートフォンをテーブルに置き、備え付けの冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。
あとは網にかかる魚を待つだけだ。
十分も経たないうちに、スマートフォンが軽快な通知音を立てた。
複数の応募の中から影山は一人の女を選び出した。
ミカ、24歳、OL。プロフィール写真は、少し気弱そうだが、意志の強さも感じさせる整った顔立ちをしていた。
何より、その瞳の奥に、隠しきれないプライドの高さが透けて見えた。
これだ、と彼は直感した。
簡単なメッセージのやり取りを済ませ、ホテルの名前と部屋番号を伝える。
ミカと名乗る女は、すぐに「向かいます」と返信してきた。
約束の時間通り、部屋のインターホンが鳴った。
ドアを開けると、そこに立っていたのは写真通りの、少し緊張した面持ちの女だった。
安物の香水の匂いが、ふわりと鼻を掠める。
「ミカです。よろしくお願いします」
「ケンです。どうぞ、入って」
影山はハンドルネームを名乗り、紳士的な笑みを浮かべて彼女を部屋に招き入れた。
女は部屋の豪華さに少し気圧されたように周囲を見回している。
影山はテーブルの上に置かれた封筒を指さした。
「約束のものです。先に確認してください」
ミカは一瞬ためらったが、やがて封筒を手に取り、中身を確認した。
分厚い札束を見て、彼女の表情が微かに緩むのが分かった。
金の力が彼女の警戒心を麻痺させていく。
「ありがとうございます……。あの、それで、私は……」
「シャワーでも浴びてきたら? 俺はここで待っていますから」
影山の穏やかな口調にミカはこくりと頷き、バスルームへと消えていった。
その背中を見送りながら、影山の口元には、やはりあの冷たい笑みが浮かんでいた。
事前の「契約」は滞りなく行われた。
シャワーの音が聞こえる中、彼はショルダーバッグから小さなケースを取り出した。
中には体温で溶けるように作られた白い坐剤が数個入っている。
今夜の主役だ。
彼はそれをコートの内ポケットに忍ばせた。
シャワーを終えたミカがバスローブ姿で現れる。
肌を紅潮させ、濡れた髪が艶めかしい。
二人は、まるで恋人同士のようにベッドで肌を重ねた。
影山は、あくまで優しい男を演じ、ミカの体を丁寧に愛撫した。
しかし、その行為に彼の感情は一切乗っていない。
それは、これから始まる本番のための、ただのウォーミングアップに過ぎなかった。
やがて、ひと通りの行為を終えると、ミカはどこかほっとしたような表情でベッドから起き上がろうとした。
「ありがとうございました。じゃあ、私はこれで……」
彼女がそう言って服に手をかけようとした、その瞬間だった。
乾いた音が部屋に響き渡った。パァンッ、という鋭い破裂音。
ミカの顔が横に振り飛ばされ、彼女はバランスを崩してベッドの上に倒れ込んだ。
何が起きたのか理解できず、呆然とする彼女の頬が、じわじわと赤く染まっていく。
「な……なに、するんですか……?」
震える声で問いかけるミカを影山は冷え切った目で見下ろしていた。
先程までの紳士的な態度は仮面が剥がれ落ちるように消え失せている。
「なに、だと? 本気で言ってるのか? こんなもの、ただの前戯だろう。俺はな、これくらいじゃ満足できないんだよ。さっさとベッドに戻れ」
その声は絶対的な支配者のそれだった。
ミカの瞳に恐怖の色が急速に広がっていく。
彼女は殴られた頬を押さえ、後ずさろうとするが、影山に腕を掴まれ、力ずくでベッドの上に引き倒された。
「いやっ……! 離して……! 話が違う……!」
「違う? ああ、違うな。お前が考えていたような簡単な小遣い稼ぎじゃなかった。それだけのことだ」
恐怖と痛みでミカの目から涙が溢れ出す。
嗚咽が漏れ、体が小刻みに震えている。
その怯えた姿を影山は恍惚とした表情で眺めていた。
これだ。この表情が見たかった。
「泣いてるのか? 綺麗だな。だが、まだ足りない。もっとだ。もっとお前の醜いところが見たい」
影山は泣きじゃくるミカをうつ伏せにさせると、コートの内ポケットから、あの白い坐剤を取り出した。
冷たい輝きを放つそれをミカの目の前に突きつける。
「これから、これをアンタの中に入れる。そして、もう一度セックスする。俺が果てるまで、これを漏らさずに我慢できたら……綺麗に解放してやる。もちろん、約束の金もそのままだ。だが、もし失敗したら……どうなるか、わかるよな?」
それは悪魔の提案だった。
ミカは絶望に顔を歪め、小さく震えていた。
影山の力は圧倒的で抵抗は許されない。
恐怖に支配された心は正常な判断力を失っていた。
この状況から逃れるには、この男の言うことを聞くしかない。
その思考だけが、かろうじて彼女の頭の中に残っていた。
「……わ、かり……ました……」
絞り出すような声で彼女がそう答えると、影山は満足げに頷いた。
彼はミカの尻を高く持ち上げさせると、指先に取った坐剤を躊躇なく彼女の蕾に押し込んだ。
冷たくぬるりとした異物が体内に侵入してくる感覚に、ミカの体がビクンと跳ねる。
影山は、一つでは足りないとでも言うように、立て続けに二つ、三つと、同じものを彼女の奥深くに捻じ込んでいった。
「さあ、ショーの始まりだ。せいぜい頑張るんだな」
影山は冷酷に言い放つと、再び彼女の体に覆いかぶさった。
先程とは比べ物にならない、暴力的で、一方的な陵辱が始まる。
ミカは必死に肛門に力を込めた。
内側から込み上げてくる得体の知れない圧迫感。
影山の腰の動きが激しくなるたびに腹の奥がぐにゅりと蠢き、耐え難い便意が彼女を襲う。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で、彼女はシーツに顔を埋め、ただひたすらに耐え続けた。
「くっ……んぅっ……!」
頼むから、早く、早く終わってくれ。ミカは心の中で絶叫した。
しかし、影山はまるで彼女の苦しみを愉しむかのように、わざと射精を遅らせ、執拗に腰を突き上げ続ける。
腹の中では坐剤が体温で溶け、内壁を刺激し、腸の蠕動運動を強制的に活性化させていた。
もう限界が近い。
肛門の括約筋が意思に反して痙攣を始めている。
「ああ……もう、でちゃう……っ」
影山の動きが一際激しくなった、その瞬間。ミカの中で、何かが決定的に決壊した。
ブチュッ、という湿った音とともに括約筋の抵抗は完全に無力化され、熱い奔流が彼女の体内から迸った。
汚泥のような下痢便が純白のシーツの上に醜い染みを広げていく。
強烈な悪臭が部屋の空気を満たした。
「やああああああっ……!!」
ミカは羞恥と絶望のあまり、狂ったように叫んだ。
自分の体から排泄された汚物の中で、まだ男に犯され続けているという事実が、彼女の精神を粉々に打ち砕いた。
その叫び声と絶望に染まった表情を見て、影山はついに満足の絶頂に達した。
彼はミカの体内で射精すると、ゆっくりと体を離した。
「ハハ……、ハハハハ! 見ろ、この様を! 最高じゃないか! これが本当のお前なんだよ!」
影山は高らかに笑い、汚れたシーツを指さした。
ミカはただ、シーツに顔を押し付けて泣き続けることしかできない。しかし、罰はまだ終わっていなかった。
「約束を破ったな。罰ゲームの時間だ」
影山はそう言うと、再び坐剤のケースを手に取り、残っていた数個を汚れたままの彼女の肛門に次々と押し込んでいく。
そして、彼女の大きく豊かな臀部を、まるで太鼓でも叩くかのように、平手で何度も何度も、力強く打ち据え始めた。
乾いた打撃音が、ミカの嗚咽に重なって響き渡る。
赤く腫れ上がった尻に、さらに追い打ちをかけるように、影山はベルトを抜き、その革で容赦なく鞭打った。
どれくらいの時間が経っただろうか。
ミカの意識が朦朧とし始めた頃、影山の動きが不意に止まった。
「……なんだ、もう終わりか、つまらんな」
彼は、壊れたおもちゃを放り投げるように吐き捨てた。
その声には先程までの興奮の色は微塵も感じられない。
「おい、いつまで寝てる。さっさと支度しろ。帰るぞ」
ミカは何が起きたのか理解できなかった。
ただ、解放されるという言葉だけが、ぼんやりとした頭に響く。
彼女は震える手足で、よろよろと起き上がった。
体中が痛み、腹の中はまだグルグルと不穏な音を立てている。
追加で入れられた坐剤が再び活動を始めようとしていた。
「あ、あの……帰る前に、トイレに……」
彼女がそう懇願した瞬間、影山の目が再び冷たい光を宿した。
「ああ? 聞こえなかったのか。殴られたくなければ、今すぐここを出るんだ。トイレは外で探せ」
その脅しに、ミカは完全に抵抗する意思を失った。
彼女は汚れた体のまま、急いで服を着た。
影山は財布からさらに数枚の万札を掴み出すと、それをミカの手に無理矢理握らせた。
「迷惑料だ。さっさと行け」
彼はミカの腕を掴み、ほとんど引きずるようにして部屋を出た。
エレベーターの中でも、ロビーを横切る時も、ミカの腹はいつ決壊してもおかしくないほどに切迫していた。
頼む、間に合ってくれ。
彼女は必死に祈りながら肛門に力を込める。しかし、その祈りは無情にも裏切られた。
ホテルの自動ドアを抜け、夜の冷たい空気に触れた、その瞬間だった。
緊張の糸が切れたのか、あるいは外の寒さが刺激になったのか。
ミカの括約筋は最後の抵抗を虚しく放棄した。
ブジュジュジュ……という生々しい音と共に熱い液体がスカートとストッキングの内側を伝い、足元へと流れ落ちていく。
アスファルトの上に汚らしい水たまりが広がった。
「ああ……」
絶望的な声が彼女の口から漏れた。
通行人が何事かと怪訝な顔でこちらを見ている。羞恥で死んでしまいたい。
その場に崩れ落ちそうになるミカを影山は冷ややかに一瞥した。
「ハッ、傑作だな」
彼は満足そうに鼻を鳴らすと、もう彼女には何の興味も示さず背を向けた。
そして、何事もなかったかのように夜の雑踏の中へと消えていく。
残されたのは、人通りのある路上で糞尿にまみれて立ち尽くす、一人の女だけだった。