※この作品はR-18です。

浣腸鬼と呼ばれた男   作:たちばなさとし

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事件簿06 田舎暮らしの女 浣腸の強制

 前回の女──―出せない地獄を味わわせたヒマリという名の女子大生──―を脳内で反芻しながら、影山晶は既に次の獲物を探し始めていた。

 同じ主題の繰り返しは凡庸な自己模倣に過ぎない。それが彼のポリシーだった。

 彼の想像は新しい苦痛の形を求めて止まなかった。次のテーマは自からの手で苦しませること。そう決めていた。

 

 彼の目は、今や都会の喧騒から離れた場所に向けられていた。

 インターネットの地図サービスを駆使し、衛星写真とストリートビューを丹念に調べていく。

 彼の指が止まったのは山間の集落から少し外れた場所にぽつんと建つ一軒家だった。

 周囲には畑が広がり、最も近い隣家まででも数百メートルはありそうだ。

 昼間であれば、たとえ悲鳴を上げようとも誰の耳にも届くことはないだろう。完璧な舞台だ。

 プロフィールをさらに掘り下げると、その家には中年と思しき女が一人で暮らしていることが判明した。

 夫とは死別か離別か、子供は独立しているらしい。

 孤独、孤立、無援。

 それは影山にとって極上のスパイスに他ならなかった。

 

 数日後、影山はレンタカーを近くの林道に隠し、その一軒家へと向かった。

 よく晴れた平日の昼下がり。

 小鳥のさえずりがのどかに響く中、彼は何の気負いもなく、堂々と玄関のチャイムを鳴らした。

 訪問販売員か、あるいは何かの勧誘員にでも見えるだろう。

 彼の身なりは清潔で、人好きのする笑みを顔に貼り付けていた。

 しばらくして、内側から鍵を開ける音がし、中年の女が怪訝そうな顔でドアを少しだけ開けた。

 歳は四十代半ばといったところか。

 化粧気はなく、着古した普段着姿。

 穏やかな田舎暮らしが、その警戒心の薄い表情に現れていた。

 

「はい、どなた様でしょうか」

「こんにちは。少しよろしいでしょうか」

 

 影山は穏やかに微笑みかけたまま、懐から取り出した500mlのペットボトルを彼女の目の前に突きつけた。中には無色透明の液体が満たされている。

 

「これはガソリンだ。今ここで火をつけられて、この家ごと焼かれたくなければ、俺の言うことを聞いてもらう」

 

 女の顔から血の気が引いていくのが分かった。

 穏やかな昼下がりの訪問者の口から発せられた、あまりにも唐突で暴力的な脅迫。

 彼女の目は恐怖に見開かれ、声にならない悲鳴が喉の奥で詰まっている。

 影山は、その表情の変化を芸術品でも鑑賞するかのように楽しんでいた。

 

「ひ……」

「騒ぐなよ。騒いだら、その瞬間に終わりだと思え」

 

 女はわなわなと震えながら、こくこくと頷(うなず)いた。

 金目当ての強盗だろうか。通帳はどこにしまったか、現金はいくらあったか。そんな思考が必死に頭を駆け巡る。

 だが、影山の次の言葉は彼女のそんなありきたりな予想を根底から覆すものだった。

 

「洗面器に水を入れて持ってこい。今すぐにだ」

 

「え……? み、水……ですか?」

 

 あまりに場違いな要求に女は思わず聞き返した。

 強盗が、なぜ水を?

 理解が追いつかないまま恐怖に凍り付く彼女を影山は玄関から家の中へと無遠慮に押し入れた。

 そして、有無を言わさず彼女の腕を掴み、洗面所へと引きずっていく。

 女は抵抗する力もなく、されるがままだった。

 

「ほら、早くしろ」

 

 影山に背後から監視されながら、女は震える手で洗面台の蛇口をひねった。

 古い陶器の洗面器に透明な水が注がれていく。

 ゴボゴボという音が、張り詰めた静寂の中に不気味に響いた。

 恐怖の中で彼女は言われた通りに洗面器を水で満たした。

 影山はその様子を満足げに眺めていた。

 

「よし、それでいい。それを居間へ運べ」

 

 影山に付き添われたまま、女は重い洗面器を両手で抱え、こわごわと居間へ移動した。

 日当たりの良い、何の変哲もない和室。しかし、そこに佇む影山の存在が、日常の風景を悪夢の一場面へと変えていた。

 彼は女に洗面器を畳の上に置かせると、持参したビジネスバッグから、奇妙な形状の器具を取り出した。

 赤いゴム球にプラスチックのノズルが付いた、手のひらサイズの浣腸器具。

 エネマシリンジと呼ばれるものだ。

 

「さあ、ショーの始まりだ」

 影山はその器具を女の目の前に突きつけ、冷酷な声で宣告した。

 

「このエネマシリンジで、洗面器の中の水を全部お前の腹の中に収めてみせろ。一滴残らずだ。それができたら、黙って帰ってやる」

 

「な……何を言ってるんですか……? そ、そんなこと……」

 

「できないのか? じゃあ俺が手伝ってやろうか? それとも、やっぱりこの家を燃やした方が手っ取り早いか?」

 

 彼の目に宿る狂気の色に女は完全に屈した。

 火をつけられる恐怖と目の前の男に直接体を弄られる屈辱。

 それらを天秤にかけ、彼女は浣腸を自ら行うことを選んだ。いや、選ばされたのだ。

 女は俯き、震える声で「……自分で、やります」とだけ答えた。

 

「賢明な判断だ。ほら、さっさとズボンと下着を脱げ」

 

 命令に従い、女はゆっくりとズボンを下ろし、そして恥辱に顔を歪ませながら、濡れた染みが浮かぶ生成りのパンツを足首まで引きずり下ろした。

 衆人環視の──―今はただ一人の男の前だが──―中で、自らの手で衣服を脱ぎ、恥部を晒す。

 その行為自体が既に精神的な凌辱だった。

 彼女は四つん這いになるよう指示されると、言われるがままにその屈辱的な姿勢をとった。

 そして、影山から手渡された冷たいエネマシリンジを握りしめ、自らの尻の穴へとその先端を差し込んだ。

 

「んぅっ……」

 異物が体に侵入する不快感に思わず声が漏れる。

 彼女は目を固く閉じ、洗面器の水に器具の吸水口を沈めた。

 ゴム球を強く握りしめ、手を緩めると水が吸い上げられていく。何度目かで冷たい水が腸内へと注ぎ込まれていった。

 奇妙で、不快で、そして何よりも屈辱的な感覚だった。

 洗面器には、およそ1000mlほどの水が入っていただろうか。

 エネマシリンジで一度に吸い上げられる量はたかが知れている。

 気の遠くなるような作業の始まりだった。

 

 何度も、何度も、彼女は同じ動作を繰り返した。水を吸い上げ体内に注ぎ込む。

 そのたびに腹の中が冷たい水で満たされていくのを感じた。

 やがて腹の底から不穏な圧力がこみ上げてくる。

 強烈な便意。

 生理的な現象でありながら、それは今、彼女の尊厳を破壊するための凶器と化していた。

 

「う……っ」

 思わず漏れそうになるのを必死に肛門に力を込めて堪える。

 その様子を見て、影山はさらに追い打ちをかけるように言った。

 

「おい、漏らすなよ。もし一滴でも漏らしたら、その瞬間に約束は反故だ。お前ごと、この家を燃やすからな」

 

 その言葉は彼女の恐怖をさらに煽った。

 漏らしてはいけない。絶対に。その一心で彼女は括約筋に全神経を集中させる。

 腹の中では嵐が吹き荒れている。腸がねじれるような痛みと、今にも決壊しそうな便意の波。

 それでも彼女は必死に耐えながら、機械のように浣腸を続けた。

 

 洗面器の水が、あと少しでなくなりそうだった。

 もう少しだ。もう少しで、この地獄から解放される。

 女の心に、わずかな安堵の光が差し掛かけた。

 その瞬間だった。

 影山がにやりと笑い、おもむろにズボンのジッパーを下ろした。

 そして、まだ水が残っている洗面器の中に躊躇なく己の尿を放ち始めたのだ。

 ジョロジョロという生々しい水音が静かな部屋に響き渡る。

 黄金色の液体が透明な水と混じり合い、アンモニアのきつい臭いをあたりに撒き散らした。

 

「な……!? あなたいったい何を……!」

 

「それもだ。それも全部、腹に収めろ」

 

 女は絶句した。

 嫌悪感に全身が粟立つ。

 他人の排泄物を自らの体内に注ぎ込めというのか。

 それは単なる苦痛や屈辱を超えた、魂そのものを汚されるような行為だった。

 しかし、彼女に選択肢はなかった。

 目の前の男は悪魔だ。人の心など持ち合わせていない。

 女は嗚咽を堪えながら、震える手で、汚された水をエネマシリンジで吸い上げた。

 生温かく、不快な臭いを放つ液体が彼女の体を内側から侵していく。

 涙が畳の上にぽたぽたと落ちた。

 それでも彼女は手を止めなかった。

 ただひたすらに、この悪夢が終わることだけを願って。

 

 ついに洗面器の中の液体が全てなくなった。

 女は、もう限界だった。

 腹ははち切れんばかりに膨れ上がり、内側から突き上げる圧力は、もはや意志の力だけでは抑えきれないレベルに達していた。

 彼女は息も絶え絶えに、しかし最後のプライドを振り絞って影山を睨みつけた。

 

「ぜんぶ……ぜんぶ、入れました……! 約束通り、帰ってください……!」

 

 その必死の訴えに対し、影山は悪魔のような笑みを浮かべた。

 

「ああ、もちろんだ。……無事にトイレまで、行けたらな」

 

 そう言うが早いか、影山は四つん這いのままの彼女の膨れ上がった腹を容赦なく足蹴にした。

 

「ぐっ……あ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!!」

 

 不意に腹部にかけられた強烈な圧力。

 それは限界まで張り詰めていたダムの最後の堰を破壊するのに十分すぎた。

 ブシャアアアアアッ! という、耳を塞ぎたくなるような凄まじい音と共に、彼女の肛門から、抑えられていた全てが一気に噴出した。

 水と尿と、そして溶け出した便が混じり合った汚濁の奔流が畳の上に叩きつけられ、あたり一面に飛び散る。

 もはやそれは便意などという生易しいものではない。決壊だった。

 

 女は何が起こったのか理解できないまま、ただ自分の体から溢れ出す汚物を眺めることしかできなかった。

 意識が遠のいていく。

 止まらない。止められない。

 羞恥も、恐怖も、痛みも、全てが麻痺していく。

 自分が人間でなくなっていく感覚。

 とめどなく流れ続けていた水様便がようやく落ち着きを見せた頃、彼女は死んだように畳の上に突っ伏していた。

 

 影山は、その惨状を満足げに見下ろした。

 そして、汚物の中でぐったりとしている女の側に屈み込むと、その耳元で囁いた。

 

「ずいぶん綺麗になったじゃないか」

 

 その言葉を合図に彼は女の尻を掴むと、抵抗する力も残っていない彼女の、汚物で濡れた尻の穴に、自らの欲望を突き立てた。

 痛みも感じなかった。

 ただ、魂がゆっくりと殺されていく感覚だけがあった。

 熱い精液が体内に注ぎ込まれる感触も、どこか遠い世界の出来事のようだった。

 

 射精を終えた影山は何事もなかったかのように女の体から離れると、ズボンを履き、身なりを整えた。

 まるでレストランで食事を済ませ、満足して席を立つかのように、彼は悠然とその場を去っていった。

 ドアが閉まる音だけが、汚物と絶望の中に横たわる女の耳に虚しく響いていた。

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