Fate/afterglow renew–uplift 作:神谷萌
東瑞苑駅。
瑞苑町街区を東西に貫く大通りの東端、道路の方がT字路になる形で突き当たる部分で、併用軌道と専用軌道の境目になっていて。その専用軌道側にホームが設置してある。ホームの東側には、留置線がある。
上り線(赤塚方面)ホームに地上駅舎が直結していて、アーチのエントランスに、関東では珍しい『北豊田電車のりば』の電光看板が上がっている。見る人によっては、
「少し前の東武浅草駅、あれを小さくした感じ」
と、言うだろう。
トロリーバスとの交点にもなっており、交差点部分には、路面電車の架線とトロリーバスの2線式架線とを絶縁するため、物々しい
そして、駅舎の前、そのトロリーバスの架線がある通りを挟んで反対側に、地元住民が “デパート” と呼ぶ、『御買物処リブレケイセイ瑞苑』がある。かつては実際に8階建ての立派な百貨店だったのだが、他の地方都市同様、バブル崩壊・
この中に、立香のバイト先である『SUBWAY瑞苑店』が入ってもいる。
────が、今回はここは目的地ではない。
プシューッ……ガララララ……
上り線ホームに到着した単行電車から、立香達が4人連れで降りてくる。
単行電車は基本的にワンマンで、軌道線区間では中央扉を締め切って前扉を降り口、後扉を乗り口としているが、鉄道線区間では遠隔管理で券売機と改札機が設置されているため、上り電車は此処から先は、ワンマンでも3扉とも開く。
「あーでもホント、降りた途端に蒸しッとくるわ……」
冷房の効いている車内から一変、不快指数の高い夏の暑気を浴びて、
「ほんとに……エジプトルーツの人間がそれでいいの?」
「日本の夏は特別。湿度がヤバい」
隣を歩く立香が、パトラに向かって、呆れ混じりなのか苦笑しながら問いかけるように言うと、パトラはそう、即答した。
そんな2人の後ろに続くように、エラとセイバー並んで歩いている。エラがセイバーに視線を向けると、セイバーは苦笑しつつ肩を竦める。それを見て、エラも困ったような苦笑を浮かべた。
ホームの西端部はスロープで降りるようになっている。ここを右に向かうと駅舎側で、左に向かうと、下り線・終端線ホームへ渡る踏切となっている。交差点の路面とはツライチで、柵で仕切られているが、踏切の横断者用信号機は交差点の信号機と連動している。
「みなさーん!」
その、上り線ホームのスロープを降りたところで、琉希が手を振っていた。
目一杯手を上げている琉希に対し、立香とパトラも、スロープに差し掛かったところで、自身の肩のあたりの高さで、手を振り返した。
「少しだけご無沙汰してしまいました!」
「ようこそ。私達もまた会えて嬉しいよ」
笑顔に弾む声で言う琉希に対し、立香が、やはりフレンドリースマイルで返した。
「また賑やかになりそうだけど、賑やかなのは嫌いじゃないからな」
パトラも、嬉しそうな表情で言った。
「時間も時間だし、みんなで食事に行かない?」
立香が、そう提案し、指し示すように、デパートの方を振り向いた。
デパートには、1階に食堂街、8階の、かつて百貨店直営だったレストランの跡には、『京成友膳』が入居している。他にSUBWAYと、『ケンタッキーフライドチキン瑞苑駅前店』も入っている。また、パン好きの立香が行きつけにしている3つのパン屋の内のひとつ、『ブレッド・デ・ソレイユ』にも、イートインスペースがあった。
「あ、それなんですが……この後、
瑞坂台教会。瑞苑の住宅街にある、小さな教会だが、聖堂教会に属し、瑞苑の聖杯とその聖杯戦争を、魔術協会とともに監理する為の拠点でもある。
「へ? 教会? なんで?」
立香が、呆気にとられたような表情になって、訊き返す。
すると、
「ええと……すみません、詳しいことは直接話す、と」
と、琉希がいくらか申し訳無さそうに、そう言った。
「立香は教会苦手だからなぁ……」
「! アンタ、知ってて言わなかったわね!?」
ニヤニヤといじる悪そうな笑顔で言うパトラに対し、立香が声を荒げた。
「まぁまぁ……」
エラは、憤った立香を、その背後から嗜めると、
「でも、そう言う話だったら、アタイ達がついて行っても大丈夫なのかい?」
と、視線を琉希に向け直して、そう訊ねた。
「ええ、この前の聖杯戦争の参加者なら問題ないそうです。特に、師匠と立香さんは、利害関係が成立しないから大丈夫だと」
「利害関係が成立しない?」
琉希の説明を聞いて、立香は、キョトン、とした表情になり、そう言った。
ちなみに、琉希はパトラのことを「師匠」と呼ぶ。というか、実際に師弟関係だ。ただし、魔術などではなく、投資と不動産運用についてだったりするが。
「それじゃあ、まぁ、トロリーバスだな」
パトラが言った。
方向的には、今、琉希が横断道を渡ってきた下り線ホーム側になる。そちらにも、駅舎とは呼べないが、風雨を避ける壁があって、磁気・IC両対応の簡易改札機が設置してある。だが、トロリーバスは、どちら向きの便も、駅舎横のトロリーバスロータリーから発着する。
ロータリー内は一方通行になっていて、駅舎とは、ロータリー内のタクシープールを挟んで反対側の入り口に、瑞坂台からの便は右折で、反対側からの便は左折でロータリー内に進入する。そして、中をグルっと回って、途中乗客の乗降を行った後、駅舎よりの出口から、瑞坂台方面行は左折、反対側行は右折で出発する。どちらも、進入か出発いずれかで、左折する際に車両側の極性転換を行う。
北豊田電軌のトロリーバス車両は、かつての三菱グループに一貫して発注しているため、現在の車両も三菱ふそうの、内燃機関バスとシャシーを共有する準同型車体になっている。
瑞坂台方面と、反対側の
「なんだか、そんなに離れていたわけじゃないのに、『懐かしい』って感じちゃうなー」
琉希が、2台のトロリーバスを、キョロキョロと見回すように観察しながら、好奇心旺盛そうな表情で言う。
「トロリーバス自体が貴重だからじゃないかな」
パトラも、どこか感慨深げに笑みながら言う。
なにせ、北豊田電軌
だからか、町の観光協会も町興しに使おうと、『瑞苑ぐるり線』なんて愛称名を着けたが、肝心の地元住民にまったく周知されず、 ────一般的な住民は普段「トロバス」「北豊田トロバス」と呼んでいるが、正式名称の「桜坂線」なら、
「…………あーあーあー、トロバスのことね」
程度には知られているのだが、外部からの訪問者に、
「『瑞苑ぐるり線』ってどこにありますか?」
と聞かれると、地元住民はだいたい、
「…………何線!?」
となる。要は大失敗したわけだ。
『発車します、ドアにご注意ください』
ペーッ
自動放送と、扉扱いブザーとともに、扉が閉まる。
ヴィイィィィン……
モーターの音を立てて、500形はロータリーの出口へ向かって発車する。
『本日は北豊田電軌トロリーバス桜坂線をご利用いただき、ありがとうございます。御乗車のバスは、瑞坂台行きです。次は────────』
瑞坂台教会。
本聖堂が常設30席の小さな教会だ。敷地正門を入ると、正面に本聖堂、左手に24時間開放の小礼拝堂、右手奥には、本聖堂と渡り廊下で繋がる、和洋折衷型、やや和風寄りの住宅部がある。
敷地内には、冬期の一時期を除いて、常に色とりどりの花が植えられたプランターが多数、建物を囲むように置かれている。
小礼拝堂の入口には、678-A2形ダイヤル赤電話と、スリムスタイルの災害支援型自動販売機が設置されている。
自販機が販売しているのは、水分補給のためのアクエリアスとやかんの麦茶の他、ジョージア エメラルドマウンテン/プラチナムブラック/アイスココア、タカナシ牛乳、ドクターペッパー、マックスコーヒー、そして缶飲料型プラスチックケースで販売されているキットカットとカロリーメイト。
その自販機のところに、助司祭の
これから琉希達が来るのが解っていながら、
自販機の取り出し口に手を入れていた直哉が、俄に近付いてきた喧騒に気がついて、そちらに視線を向けながら身体を起こした。
「ああ、鷺ノ宮さん……それと、君達か……」
そう言った直哉は、その場で、ジョージア プラチナムブラックの185g缶を開け、ぐいっと煽った。
「いちいち自販機で買わなくても、
その様子を見ていたパトラが、苦笑しながら言った。
「いや、単に味の問題だよ」
直哉は言う。
「メーカーで煮詰めちゃったコーヒーだと、ブラックで飲むのにはな……特にアイスの場合は」
そう言って、再度缶を煽り、中身を飲み干し、空き缶を回収箱に入れてから、
「じゃあ、来てくれるか? 鷺ノ宮さん」
「あ、はい」
と、直哉が先導して、琉希とともに本聖堂に向かう。
「君達も、 ……そうだな、わざわざ暑いところにいる必要はないだろう?」
「あ、は、はい」
直哉が一度振り返って、立香達を促した。
木製の重厚感のある扉を開く。
室内は家庭用システムマルチエアコンの室内機2台が設置され、天井に取り付けられた扇風機がその冷気を撹拌している。その冷やされた室内の空気が、開かれた扉から漏れてくる。
扇風機は、ゆっくり回るシーリングファンだったら教会のインテリアにもマッチするのだろうが、近隣の公民館でも参考にしてしまったのか、北豊田電軌の車両でもおなじみの、
「はー……ちょっと歩いただけでも汗だっくだくになっちまうからなぁ」
腕で額の汗を拭ってしまいながら、パトラが言う。
「あ!」
立香が、短く声を上げる。
「ようこそおいでくださいました」
すでに、壇上にはこの教会の司祭、
豊満な体型を隠しようのない女性神父────ただし、周囲には “公然の秘密” となっているが、その身体には女性器と同時に男性器も宿っている。所謂
「あっ、えーと……お招き、ありがとうございます、なのかな?」
琉希は、どう挨拶したらいいのかと戸惑う。ただ、怯む必要がない相手というのは、その発する雰囲気だけで理解できた。
「…………?」
演台の上に、浅いバケツのようなものが置かれていた。その中には、淡い灰白色の、 ────キメが細かく、しかもキラキラと……外部の光を反射しているだけではなく、自ら鈍く発光している部分もあって ……それでも、表現するなら灰、と言うしかないシロモノが、山盛りに入っていた。
「これは……?」
セイバーが、視線を美鈴に向けて、どこか怪訝そうな、深刻そうな表情で訊ねた。琉希、立香、パトラの3人は、しげしげとそれに目を取られている。
「! そうか、
直哉が、はっと気付いたようにそう言った。
「あ、すみません。私のことは引き続き “セイバー” と。その呼び方をされると、アーチャーシルエットを背負って『月は出ているか?』と言わなきゃならなくなりそうで……」
「あるのね、ツインサ◯ライトキoノン……」
セイバーの言葉を聞いて、バケツとその中身を凝視している姿勢のまま、脱力したような、呆れたような苦笑をして、パトラが言う。
「解りました。それで……セイバーは、これは危険なもののように感じますか?」
美鈴神父が、セイバーに問いかける。
「…………うーん、セイバークラスの今の私の感覚がどれだけアテになるかは疑問なんですが、多分、悪質なものではないと思います」
「なるほど」
それを凝視しながらセイバーが答えると、美鈴神父は短く返した。
「これは、ルーラーが集めてきた、君達が破壊した巨大物体の残滓なんだ」
「なっ!?」
直哉が説明すると、本人と美鈴神父以外の、その場にいた全員が戦慄し、緊張しつつ身体を引くようなリアクションを取る。
「アンリ・マユの残骸を、なんで集めたんだ!?」
パトラが、信じられないと言った様子で、糾弾混じりに声を上げる。
「い、いえマスター、集めた事自体は正解です。どのような性質を持って街に降下したのかは、私も気がかりでしたから……」
自身も戦慄と動揺を隠せない様子ながら、セイバーはパトラに言う。
「あ、そ、それはそうか……」
そうは言うパトラだったが、慄いている様子は解けない。
「ただ……『
セイバーは、断言は避けつつも、踏み込んだ見解を口にした。
「それで、集めた理由までは解りましたが、セイバーと師匠ならともかく、なぜ、ボクに最初に?」
琉希が、視線を美鈴神父の方に移し、訊ねる。
「…………もし、これが今、セイバーが言ったように、性質や属性を失った
「バーサーカーやキャスターのマスターにも声をかけてあるが、順番的にあなたが最初になった形で……実験台になりたくない、というのであれば、他のマスターと合意が取れてから、改めて、という形でも構わないが……」
「実験台?」
琉希の背後で、立香とパトラが言い、どこかキョトン、とした様子で、顔を見合わせた。
────場所は変わって、瑞坂台教会の住宅部、普段使っていない、フローリングの部屋。
性質、属性が抜けた “無垢な白い泥” の一部が、浅い容器に移されている。
『いいんだね、さつき』
琉希は、自身の中の “存在” に問いかけた。
『うん、いいよ』
そう、答えが返ってくる。
『私が成功するぐらいなら、他の2人も大丈夫だと思うしね』
『解った』
「じゃあ、始めます」
琉希は宣告し、開始する。
念の為にと、セイバーは自身の装甲服『聖城装甲アーヴァロン・セイバーシルエット』をすでにまとっている。ビームブーメランは斬ってあるが、ビームサーベル『カリバーン
同様に、エラも、サーヴァント・ランサーとしての、白い衣装に金色の胸甲と盾、太陽の象徴である
琉希は、ゴクリ、と喉を鳴らす。
器の中の “無垢な白い泥” に、令呪を接触させた。
すると……────────
パァァァ……
器の中から、まばゆい光が放たれ始める。
「ッ……」
琉希も、反射的に腕で顔を庇うようにしながら、器から少し
そして、光の放射の中に、その光の塊のようなものが現れて────
「琉希クン!」
「わ、あっと」
光の塊は、茶色がかったツーサイドアップの少女になり、そして、そのまま、正面の琉希に抱きついた。
「私、私、
「う、うん、ボクも嬉しい……けど、その、さつき……、そのっ」
琉希は、喜んでいると言うよりは、慌てて手足をバタバタとさせている様子になっている。
「あ、あの、アサシン、そのです、ね……」
「あ、アサシン、な、なぁ?」
セイバーとエラが、それぞれ、気まずそうに言う。
「セイバーと……ランサー? なにが……」
まだ気付いていない様子で、アサシン、と呼ばれたツーサイドアップの少女は、琉希に抱きついたまま、キョトン、として、2人を見る。
「だから……その……」
「ハダカ……」
「……………………………………………………………………………………へやっ!? ひゃっ、ひゃあぁぁぁぁぁぁっ!?」
状況認識にたっぷり数秒かけた後、自身が一糸纏わぬ姿であることに気づき、少女は、羞恥で顔を真っ赤に染めつつ、混乱したように声を上げて、抱きついている琉希を振り回してしまう。
「武装、武装を呼び出すんだよ! 服が一緒だろ!?」
エラが、やや大きく声を張り上げて言う。
「あ、そ、そうか」
少女はそう言って、落ち着きをある程度取り戻してから、琉希から離れて立つ。武装────利き手に金属クローに、その反対の手に疑似神経用ナノファイバー・エーテライトを扱うためのグローブ。そしてそれとともに、学校制服を思わせるライトオレンジのベストに白いシャツ、そしてグレーのキュロットスカート。そしてその上から、胸甲と肩当て、小さな脇楯が装着される。
「アサシン、
具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
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