Fate/afterglow renew–uplift 作:神谷萌
東瑞苑駅────の、北東側に隣接する瑞苑貨物取扱所。
その留置線の1本に、鉄骨製の簡単だが頑丈そうなプラットホームが設けられている。
やたら広々としているそれは、旅客の────人間の乗降用ではない。
「よいしょっ、と……」
ホームに載せられた緑色のU30Aコンテナから、台車に載った小型のコンテナが引き出されると、対面に停車しているクモニ1200、荷物車に載せられていく。
「あれ……?」
「ん……?」
若い女性────まぁ、年格好と年齢で言えば少女と言っても差し支えない者と、眼鏡をかけた若い青年が、作業中、お互いの顔を確認して、思わず相手を凝視してしまった。
「柏木さん!?」
「藤丸さん!?」
お互い、驚いたように相手の名前を呼んでしまう。
「ほらそこ! 話してもいいけど手も動かす!」
作業班長が、自身も作業をしながら、2人を注意する。それを受けて、2人はとりあえず、小型コンテナを荷物車に積み込む作業を再開した。
「これで最後!」
外の作業員がそう言った。手動の荷役扉が閉じられる。
ファン
AW5警笛を鳴らして、クモニ1200形1200号は動き出す。
荷物車に本来そんなものは必要なかったのだろうが、昨今の作業環境改善の流れからか、荷室の一部が区切られて、そこに冷房装置が収まり、上部の吹出口から冷気が吹き出してきている。
「柏木さん、いつ瑞苑に戻ってこられたんですか?」
立香が、柏木────過日の瑞苑の聖杯戦争に、魔術協会が送り込んだ、バーサーカーのマスターとして参加した、柏木直斗に問いかけた。
「引っ越しは先週末……日曜だから、今週頭って言った方がいいのか?」
少し考え込むような表情をしつつ、直斗はそう答える。
「え、そんな前に来てたんですか?」
立香が軽く驚く。
「連絡してくれればよかったのに」
「いや、君達みたいな若い女の子ばかりの中で……俺みたいなのが加わるっていうのも……」
多少不満気にしつつも、他意なく言う立香に対し、直斗は、困ったように苦笑しながら返した。
「それは、まぁ…………でも、
立香は、納得しかけながら、途中で思い直したように、重ねて問いかける。
今度は、直斗が軽く驚いたような表情をして、
「え? 彼女そんな歳なの?」
と、聞き返したが、すぐに、あることを思い出した。
「あ、でも彼女クルマ運転できるんだったな……」
「仲間内では一番年上ですよ」
直斗の言葉に対して、立香がそれを支持するようにそう言った。
「連結はじめまーす、揺れるので気をつけてねー!」
荷扱作業員の班長が、立香達、車内にいる作業員に声をかけた。
クモニ1200は、瑞苑貨物取扱所から出て、渡り線から上り線を飛ばして、上下線の間に存在している中線を走ると、合流してくる上り線に入る。
その前方に、瑞苑町街区の西端、水神神社のある地区への明神行きとして、元京成車のクモハ3150形が停車している。
クモハ3150形の方が一度客室扉を閉じる。その後ろ側の貫通路の扉を開けて、ツナギ姿の女性の作業員が、誘導用の旗を振っている。
緑の旗を頭の上まで上げた状態で、手招きするように振っていたが、クモニ1200が目前の距離に近づくと、さっと緑の旗を下ろし、赤い旗を横向きにして上げた。低速で走っていたクモニ1200が停止する。
クモハ3150形の貫通路に立っていた作業員、それに、クモニ1200の運転席に乗っていたツナギ姿の操縦者免許持ちの作業員もクモニ1200側の貫通扉を開けて、連結器を確認する。
ナックル形の密着自動連結器の、そのナックルが開いていることを確認してから、クモニ1200側の作業員が運転席に戻る。クモハ3150側の作業員が、しゃがんだ状態で、赤い旗を頭の上に上げてちょいちょい、と、“前に出せ”と合図をする。
クモニ1200が、人が歩くよりも遅い速度で僅かに前進する。ガチャン、と、連結器が握り合う。
それを視認してから、貫通路上の作業員が赤い旗を再度振ると、クモニ1200が後進に入れて、最低限起動トルクがかかったところで停止する。密着自動連結器を締める為の動きだ。
クモハ3150形の貫通路にいた乗務員が、線路上に降り、連結器を側面から観察する。
北豊田電軌の電車は、時短と省力化の為、車両同士を連結する連結器の下に、電車の信号線と、ブレーキの為の圧縮空気管を連結するための、電気連結器と呼ばれるでかいコネクターをつけている。
中小地鉄の北豊田電軌に、自力開発…………できないと言うほどのものでもないが、大手が開発したので、使用料を払う形で導入した。車両同士を連結するための連結器を自動解放する機構と合わせて、M式自動解結装置と呼ばれる。MはMeitetsu、つまり、名古屋鉄道が開発元だ。
空気シリンダでクモニ1200側の電気連結器がせり出し、クモハ3150形側のそれに密着する。
クモニ1200側の作業員は、運転台のランプ、それに空気圧力計を確認して、それが正常であることを確認すると、運転席から出て、連結幌の接続にかかった。
連結した編成を見ると、京成からの鉄道型車両であるクモハ3150形に対して、クモニ1200はまるで子どものような大きさだった。
導入時、当時の経営陣の道楽、特異な車両のコレクション、あるいは内閣総理大臣も輩出した相手の経営者に
モーターの内、2つは台車に装備しているが、もう2つ、台車の内側軸を駆動するモーターは車体の下に取り付けているという、この愉快な構造を保存するためだった、という。
言い方が曖昧なのは、当時は蒸気機関車以外の鉄道車両は、文化財的保存物の対象という意識が低かったためだ。表向きは、車体長15m以下の小型の荷物電車兼牽引車の車台が欲しくて買い取ったとされている。
それを、西武所沢工場に依頼して、前後にデッキのついていた旧車体から軽量構造の新車体をわざわざ荷物車用に造って載せ替え、台車も軽便鉄道用の762mm軌間用のものから、国鉄のTR14A台車に駆動系を流用できるように魔改造を執行したものに交換し、制御器も複電圧のものに交換して、入線した。
実際、導入された1974年当時の北豊田電軌では、1957年製のクモニ1200は、在来の旅客車より新しかった。当時は戦前製の、路面電車用モーターを使った非力な自社発注車を、国鉄や西武、小田急、京王の旧型車を買ってきて置き換えている最中だった。相方として越後交通から購入したクモニ1201・クモニ1202(モハ216・モハ217。1964年・1966年製)より新しい旅客電車はいなかったのである。用語が解る方の為に説明すると、本格的なカルダン駆動化が1992年に京成からのクモハ3000形・クモハ3050形が入ってきてからだ(厳密に初のカルダン車は、1986年に郵政省から購入したクモユ145形を改造したクモハ1410形だが、たったの3両だった)。
旅客用には戦前とその延長線上の電車しかいなかった時期に、荷物車の方がより新しい製造年次の下回りに、西武所沢工場製のピカピカの新品の車体を載せているという、チグハグな時期があったわけである。
他の鉄道同様、北豊田電軌も鉄道小口荷物は細っていき、1987年に対外サービスとしては新聞・雑誌の輸送を除いて終了した。丸ごと1両の荷物車が不要になって、大柄だが旧い他の荷物車は廃車解体されたが、クモニ1200形は適当に小さかったので、自社内の配給と回送車の牽引に使われていた。
ところが2010年代になって、モーダルシフトの流れから、再び鉄道小口荷物輸送の見直しが始まった。
2011年に、京都の嵐山で、嵐電こと京福電鉄嵐山本線の電車による宅配便輸送が始まると、こんな面白いもの逃してなるものか、うちでもやるんだとばかりに、町を巻き込んで……というか、町もノリノリで続いたわけである。
嵐電は旅客車を荷物輸送に転用していたが、北豊田電軌にはクモニ1200形があった。
自社配給用の荷物車を旧型の旅客車から改造して確保し、クモニ1200形3両はこの任務に充てられた。
さらに嵐電にはできなかったことだが、北豊田電軌は国鉄、JR貨物と粘り強く交渉して一般貨物を続けていた。電車に乗せるまでも、中・大型トラックに頼らず、瑞苑貨物取扱所までコンテナで運んでこられた。
ちなみに京福電鉄とクモニ1200形の因縁が北豊田電軌の原動力のひとつとも言われている。というのも、この京福電鉄が2000年頃に、福井の越前本線で立て続けに起こした事故のせいで、ブレーキワークの構造が同じクモニ1200形を含む北豊田電軌の旧型車も単行運用できなくなった。旅客用の旧型車は急遽、京成3150系と相鉄新6000系を調達してきて置き換えることになったが、クモニ1200形は台車ごとにブレーキシリンダーを装備するFS40台車を総武流山鉄道と近江鉄道から貰ってきてTR14Aから駆動系を移植して事なきを得た。
「バーサーカー……えっと……」
台車に載せられた小型コンテナが載せられている車内、その隙間で、取ってつけたようなと、言うか取ってつけたベンチシートに座りつつ、立香が直斗と会話している。
「
立香が言い澱んだ言葉を読んで、直斗が言う。
「そうそう。彼女はいないんですか? まだ、瑞坂台教会には行ってないとか?」
立香は、直斗の言葉を受けつつ、そう訊ねる。
立香は、
「いや、もう行ってきたよ」
「じゃあ、実体化させなかった、とか?」
直斗の答えに、立香は重ねて問う。
「いや……うーん……まぁ、教会に借りになるとは思ったが、あの神父は信じていいと思って、言葉に甘えさせてもらった……と、言っていいのか? まぁ、そんなところだ」
聖堂教会と魔術協会は、組織の主幹自体は対立関係にある。末端にあっては、一方的な対立関係ではなかったりもするが。
そう言う事もあって、一応は魔術協会に属している直斗としては、聖堂教会の好意を受けた、というのは、あんまり大っぴらに言えるものではない。
「え? じゃあ……今は、どこに?」
立香が、心底不思議そうな表情で、更に直斗に訊ねた。
「
直斗は、なぜそんな態度を見せるのか、解らないと言った様子で、他意を感じさせない口調で答える。
「あ、そうなんですか……」
立香は、なんだか妙に気が削がれたような様子で、言う。
すると、
「まぁ、誰も彼もがサーヴァントを食い扶持稼ぎの員数に数えてるってわけじゃないってこったね」
と、そう言って、立香を挟んで直斗の反対側に座り、それまで帽子を深く被って黙っていた
「ランサー……いたのか」
「おっと」
エラに気付いた直斗が言いかけると、エラが、それを遮った。
「もうアタイ達の聖杯戦争は終わったんだ。アタイの事はエラと呼んでおくれ」
「了解…………なるほどね、くくっ」
エラの言葉に、直斗は、了承の返事をエラに返しつつ、失笑して、思わず口元を押さえかけた。
「え?」
立香は、わけがわからない、といった様子で、取り残されたかのように、キョロキョロと、エラと直斗を交互に見ている。
「いやー、別にアタイは自分の食い扶持ぐらい稼ぐのはいいし、今更仕事に貴賤をつけないけどさぁ……マスターが自分からサーヴァントを一般労働に駆り出そうって考えるのは、一般的とは言えないと思うよ?」
立香を、やんわりと嗜めるように、エラはそう言った。
「むーっ、マリーだってやってるじゃん」
「あの娘の場合は、下のリサイクルショップも半分自宅みたいなものなんだろう?」
むくれて、他人のことをあげつらう立香に対して、エラは柔らかい口調ながらも、言い返す。
「それとも、アタイみたいに、日雇いにまで担ぎ出してるのかい?」
「う……それは、してないけどさ……」
立香が、言葉を詰まらせる。
「はーい、中通り3丁目、着きますよー! 準備してください!」
ちょうどよく、というわけでもないだろうが、班長がそう声を上げた。
電車は、中通り3丁目電停(電車停留所)に滑り込む。
2両だが、ワンマンの単行運転の電車に荷物車がくっついて走っている運用のため、ワンマン運用時の前降り後ろ乗り、中央扉締切で、クモハ3150形の扉が開く。
同時にクモニ1200の荷室扉を開き、ホームとの間にスロープ板を渡す。
「いよぃ……しょっ……!」
台車に乗っているとは言え、それなりの重さがあり、動かすには踏ん張って力を入れる必要があった。
立香が、荷室扉からコンテナを下ろすと、次のコンテナを、直斗とエラが扉のところまで押してくる。それを、
「よいしょっ……」
と、立香が、次から次へとホームへ降ろしていった。
「以上だね」
降車停留所の札を確認し、中通り3丁目電停が指定されているコンテナが全部降りたのを確認し、エラがそう言った。二重確認した直斗と、エラが顔を見合わせる。
後は地上の人間に任せ、扉を閉める。
ペーッ……
『ドアが閉まります、ご注意ください』
関鉄バスと共通の扉扱いブザーの後、客室扉も閉まり、電車は発車する。
ホームでは、電車の合間を縫って超小型電気3輪トラックが着けて、その荷台にコンテナが移される。ベンチャーが主体のジャンルなので、比較の為に、日本エレクトライク、VIVEL、モービル・ジャパンのものが使われている。3輪トラックに積み込みが終わると、配達員が運転席に乗り、汎用Android端末に表示された配送先へと向かっていく。
電車の車内では、その様子を、エラが最後尾から眺めていた。
「本当に、いい時代だ」
エラが言った。
電車は瑞苑町街区中心部を東西に横断する大通りを走っていく。
通り沿いには雑居ビルが並び、その1階、2階は商店になっていて、人通りが多い……────という程でもないが、途切れる様子もない。
大都会というわけではないが、ひと通りのものが揃っていて、特に困ることのない、
その瑞苑町街区の西寄り、南は住宅街の松原地区、北へ行くと、立香のマンション・ニュー北川端ハイツのある北川端地区を抜けて、松原と対になる
鉄道型の大型車が曲がる為の広い交差点には、軌道の分岐器の制御塔がある。制御塔というのは北豊田電軌の社内用語で、一般的には操車塔と呼ばれる。
乗務側の負担軽減と確実な経路開通のため、この制御塔は現在も使用されている。
地理的な中心からは西に外れるが、ランドマークとして目立つこの場所は、近くに瑞苑町役場庁舎もあり、東瑞苑駅周辺とともに象徴的な場所だ。
『次は、役場前、役場前です』
その、大交差点の手前にある直近の停留所である、役場前電停に接近する。
「役場前、着きますよー! 準備してください!!」
班長が声を上げる。
残りのコンテナは、全てここで降ろす。コンテナの指定札も、全てその通りになっていた。
電車がホームに停車するのと同時に、
「よいっしょお!」
と、立香が、いくらか大仰に声を出して、荷室扉を開けた。
ホームとの間にスロープ板をかけると、今度は、最初のコンテナと一緒に、立香は車外に出る。
1個目のコンテナを地上班にわたすと、直斗が扉の前へ移動させてきたコンテナをエラが押し、また立香が引く。
もう一方の荷室扉で同じように作業し、クモニ1200の車内に残っていた全てのコンテナを降ろし終える。
「こっち全部降りましたー!」
「こっちもでーす!」
手を振りながら直斗が言うと、もう一方の扉からも声が上がる。
「確認、よし」
班長が確認してから、荷室扉を閉じる。
「出してくださーい!」
班長が合図をすると、クモハ3150形の客室扉が閉まり、
カン・カァーン!
と、フートゴングを鳴らして、電車は走り去っていった。
役場前電停には、折返しの設備はあるが、切り離したり連結したりするまでの余裕はないため、カラのクモニ1200は、一度明神電停まで往復してくる。
中通り3丁目電停と同じように、超小型電気3輪トラックが待機している。
地上班を、降車した乗務の荷扱作業員も手伝っている。
「ちょっと力、要るぞ、大丈夫か?」
「大丈夫、慣れてるから……よいしょっと」
直斗が背後から問いかける言葉に答えつつ、立香は3輪トラックの荷台にコンテナを落とし込んだ。
そして、電気3輪トラックが発進していくのを見送る。
「下りが来るまで、休憩ね」
班長がそう言った。
明神から東瑞苑へ向かう、下りは集荷だ。すでに、ホーム上にコンテナが集められてきている。
「ふー……これで暑い時期じゃなかったら、結構トクなバイトなんだけどなぁ」
「いやいや」
立香が、無意識に汗を拭う仕種をしながら、息を
「移動の間だけでも、冷暖房が効いてる場所って言うのは楽なうちだよ」
「そうそう。アタイらの時代なんか、いくらカンカン照りでも、人や
エラもそう付け加えた。
「馬はいたんでしょー……」
立香は、そう言い返すものの、それを聞いたエラは、少し呆れ混じりの苦笑をする。
「ああ、アニメとかゲームとかの内容のようには行かないよ。そもそも、衛生面がねぇ……もちろん、機械だって汚れた油に
「まぁ、それは当時を知ってる人じゃないと、わかりませんよね」
直斗が、ベンチに腰掛けつつ、そう言った。
エラと直斗で意気投合しているように見えて、拗ねたように唇を尖らせた立香だったが、
「あ!」
と、視界に入ったそれを見て、思考を切り替えた。
「すみませーん、コンビニ行ってきていいですかー?」
作業班長に向かって、立香が声をかける。
「はい、間に合うように戻ってきてくださいね!」
「はーい!」
立香は、横断歩道を渡る。そのほとんど直線上に、『デイリーヤマザキ瑞苑
瑞苑町は、どういうわけか、3大コンビニエンスストアチェーンの空白地帯で、全国区チェーンは、『ミニストップ』が、郊外も含めて3店だけ。
他のコンビニは、『デイリーヤマザキ』が同様に4店、『セイコーマート』が3店となっている。前者は、地方にありがちな、八百屋と青果店と駄菓子屋がごちゃまぜになった、食料品店が、ヤマザキパンを販売していた縁から、後者は、元酒屋が、それぞれフランチャイズを受けている。
「他のみなさんも、今のうちに水分補給をしてくださーい」
班長は、残りの作業員にそう呼びかけた。
「…………全員確認、と」
より上位の監督係が、タイムシートに、名前が印字されている、全員の直筆サインがあることを確認すると、
「只今をもって退勤時間とします! 皆さん、お疲れ様でした!」
と、日雇い・短期扱いの作業員たちに、そう告げ、挨拶をした。
「お疲れさまでした!」
他の作業員と揃って挨拶し、立香はエラとともに帰途につこうとする。
「あれ、方向一緒なんですか?」
立香は、東瑞苑駅に向かう自分達と、同じ方向へ歩く直斗を見つけて、そう訊ねた。
「まぁ、ここに住むんなら、だいたいそうじゃないか?」
「それもそうですが」
直斗が苦笑しながら答えると、立香も苦笑し返した。
住宅街という点では、トロリーバスも帰宅手段だが、立香達と直斗は、どちらも東瑞苑駅の上りホームへと向かった。
電車が入ってくる。元小田急車のクハ240形を先頭に、クモハ3050形が推す形だった。
『お待たせしました、谷地行です』
「はーっ、涼しーッ」
クハ240形の車内に入って、立香が、冷房からの冷気を撹拌する扇風機の真下へ行き、
「はしたないとも思うんだけど、まぁ労働の後に言うことでもないかねぇ」
エラが難しい表情で言う。直斗は、苦笑しながら、頬を掻く仕種をした。
電車は、夕暮れの瑞苑町を、傾いた陽を追いかけるかのように走っていく。
その車内。
「でも、直斗さんみたいに、固定のポジションのある人でも、今日みたいに日雇いの仕事したりするんですね」
立香が、苦笑交じりに、直斗に問いかけるようにそう言った。
「そうだね、ちゃんとサラリー貰っているもんだと思っていたよ」
エラが、立香に同意するように言いつつ、直斗に視線を向ける。
「いやぁ……支局長ぐらいになればまだしも、その下働き程度じゃ、家賃を払う程度がせいぜいだよ」
とても苦い笑いで、直斗は答えた。
「贅沢とかしたきゃ、封印指定の代行者にでもならなきゃ……ま、あれも安定収入とは言えないがね……」
「世知辛いねぇ」
直斗の言葉に、エラも苦笑を返す。
「夢も希望もありゃしない、か。ま、
「はは……否定はしない」
立香が窓の外を見ながらそう言うと、直斗は力の抜けた苦笑をしながら返した。
やがて、大交差点へと至り────
ペーッ
『発車します、ドアにご注意ください』
扉が閉まる。
カン・カァーン!
大交差点に接近し、“チンチン電車”の語源であるフートゴングを鳴らす。制御塔の制御係が、電車の接近を見落とさないようにするためだ。
道路信号が変わり、車道、横断歩道の信号が全て赤になると、路面電車専用の黄色い矢印信号が、右側を示す。
ヴォオォォォォォ…………
キシッ……キシン……ッ
フランジが擦れる音を立てつつ西日に照らされて車体を輝かせながら、ダイナミックに電車は右へと向かっていく。
「あれ?」
立香は、直斗がまだ自分達と同じ車内にいることに気がついた。
「直斗さん、こっちの方なんですね」
「ああ、同じ
直斗も、意外そうに言った。
「案外、ご近所様かもねぇ」
エラが軽く言い、「あはは」「ははは」、と、立香と直斗と笑い合う。
しかし────
「あれっ?」
北川端1丁目電停。
立香とエラも、直斗も、ここで降車して、さらに北へ向かって歩こうとしていた。
「ホントにご近所様みたいだねぇ」
エラが言う。
そして、ニュー北川端ハイツの敷地に入り……────
「えーっ!?」
1階の部屋の並びに向かおうとした立香と、階段を
具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
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Discordは「一時メンバー」となりますので、私のオフライン時に来られた方は、「エントランス」及び「一時メンバーの連絡用チャンネル」のアナウンスに従って必要事項を書き残してください。