毒親に虐げられた青年は宝籤で大金を手に入れたので母親に復讐する話 作:葛轍偲刳
真由と適当な駅で落ち合うと、俺たちはそのまま駅前のビジネスホテルに入った。俺の顔を見た途端、真由は泣きっぱなしで話を聞こうにも嗚咽でまともな言葉も出てこないようだったからだ。
それでも、ホテルの部屋で二人っきりになって、ひとしきり俺の胸で泣いた後は少し落ち着いたようで、ようやくポツポツと何があったか話し始めた。
お袋さんの発言には、もちろん俺も腹が立つところもあったけど。『子供を育てるのは遊びじゃない』っていう部分だけは、確かに間違っていないと思った。
俺は遊び半分で真由と子作りのセックスをするつもりはなかったし、だからこそ結婚するまでは真由と子作りはしたくなかった。真由にも大学がある。俺にも仕事がある。今のままで子供が出来ても、ちゃんと育てられるかはわからないからだ。
「誠ちゃん」
「うん?」
「これから、どうしよっか」
腕の中の真由が泣き腫らした赤い目で俺を見上げる。俺は真由の頭を撫でながら考え込む。
真由のお袋さんが幾ら反対しても、俺も真由も、もう21だ。ただ結婚するだけなら、籍を入れるだけなら別に何とでもなる。もう成人している男女が自分の自由意志で結婚するだけのことに、外野から何を言われても問題はない。
ただ、それでもやっぱり真由にとっては実の母親だ。どうせなら祝福してもらいたいというのが本音だろう。俺としても、別に真由に苦労をかけたり負担をかけたいわけじゃない。子供を産むまでの生活にしても、産んだ後の子育てにしても、お袋さんの手を借りれるかどうかで真由の負担も変わってくる。
今となっちゃあんまり詳しくは覚えてないけど、妹を産むまでの俺のお袋だって――
「誠ちゃん?」
「ん?」
「宗一郎君には相談しないの?」
真由の声に、別のところに飛んでいた意識が戻ってくる。
「うーん、そりゃ、相談すれば力にはなってくれるだろうけどなぁ……」
「相談したくない?」
「したくないっていうか、なんでもかんでもアイツに頼るってのはどうなんだろうなぁ」
このホテルの宿泊代だって、実質的に宗一郎の懐から出ているようなものだ。真由の誕生日プレゼントにと用意してくれた最新型のスマホには、電子マネーと電子決済系のアプリが複数インストールされていた。電子決済で引き落とされる口座は宗一郎のもので、限度額という縛りは一応あるものの、真由がその気になれば好きなものを買えるしカラオケでもゲーセンでも好きなように遊ぶこともできる。
尤も、決済履歴を見れば真由がどこで幾ら使ったかはわかるから、もし真由が自分のために贅沢をするようになれば宗一郎はすぐに口座を解約することだって出来る。
「ついさっき『真由が絶対に俺が守る』って大口を叩いておいて、結局はこうだもんなぁ」
だから、このホテルの代金も、さっき頼んで2人で食べたルームサービスの金も、宗一郎の奢りのようなものだった。正直、そうでもしないと俺の懐事情が厳しいのは事実だ。
宗一郎のことだからイチイチ使い道を問いただしてきたりはしないだろうけど、何かあったんじゃないかと訝しがられれば俺たちの足取りを調べるのも簡単だろう。まさかとは思うが、真由のお袋さんが宗一郎に手を回したりは――いや、さすがにそれは無いか。というか、もし万が一そうなったら完全に詰みだ。
「宗一郎君、もし誠ちゃんがこういう時に蚊帳の外に置いてたって後から知ったら、きっと怒るんじゃない?」
「いや、怒りはしねえと思う。怒りは――な」
ただ、落胆はするかもしれねえ。あんだけ普段は偉そうに友達面をしておきながら、いざとなると肝心な時は除け者にすんのか、って。
「大事な友達を巻き込みたくない?」
「……そうかも」
真由が俺との仲を反対してるお袋さんと喧嘩して家出なんて、宗一郎にしてみれば特大の地雷そのものだろう。まして、そのお袋さんが真由に何を言ったかを知ったら――
「どう考えても、宗一郎が大人しく俺たちの手助けだけをしてくれるとは思えねえんだよな」
具体的に何をするかまでは想像もつかないが。それでも、絶対に何かとんでもないことをやらかしそうな気がする。
「……お母さんが諦めて、私と誠ちゃんとの仲を認めてさえくれれば、何もかもうまくいくのに」
俯いた真由がポツリと呟く。それが間違いなく本心なのはわかるが、今の状況を見ればそうなる確率は限りなく低いだろう。
「とりあえず……」
現実逃避なのはわかっているが、堂々巡りに陥りかけた思考を別の方向に向ける。
「今は、別のことを考えようぜ」
「……うん」
「まずは、服だな。真由は昨日からずっと同じ服だろ? 服だけじゃなく下着も」
「うん」
「着替えもそうだし、いつまでもここにいると、お袋さんに嗅ぎつけられるかもしれねえし。新しく服を買って、着替えて、それから別のホテルに移って、飯を食って、寝よう。ちゃんと休めば、また別の考えが浮かぶかもしれねぇし」
「うん、そうだね」
真由は努めて明るく笑おうとしてくれている。俺は、かえって真由に気を遣わせてしまっている自分の無力さが歯痒かった。
「じゃ、まずは服屋に行こうぜ。……あ。あと、俺も職場に電話しとかねぇと」
「大丈夫? ずる休みとかになったりしない?」
「真由の一大事だって言えば大丈夫だろ、きっと。施設に入居してる爺さん婆さん達にも、真由は孫娘みたいに可愛がられてるし」
そう言って、俺は職場に電話した。結論から言えば、わざわざ上司が『彼女は大事にするように。ただし駆け落ちする気なら、ちゃんと事前に報告するように』と、激励だか説教だかわからない言葉をくれた。
「駆け落ちかぁ。……まあ、最悪、その手もあるか」
「誠ちゃんと一緒なら、私はそれでもいいよ」
「出来れば、そうなりたくはないけどな」
「二人で働けばちゃんと生活していけるよ」
確かに、20過ぎの健康な男女が二人で協力すれば普通に暮らしていくだけなら十分可能だと思う。だけど、問題はそれだけじゃない。
「宗一郎に頼りっぱなしにはしたくねぇけど。せめて資金援助ぐらいは受けてもいいかもな。それだけでも、随分と楽になるし」
「うん。私も、宗一郎君に迷惑をかけたくはないけど。でも、彼が手を貸してくれるなら、それは助かると思う」
結論から言えば。今のところ、俺たちがこの場で決められることなんて殆どなかった。