毒親に虐げられた青年は宝籤で大金を手に入れたので母親に復讐する話 作:葛轍偲刳
翌日の昼を回っても、やっぱり俺の頭では名案は浮かばなかった。仕方なく、どうしようもなくなって宗一郎に頼ることにする。
真由はホテルにいてもらって、俺は宗一郎の家に来た。インターホンを鳴らしても相変わらず反応はない。いつものように電話する。
『誠二』
「中にいるんだろ、宗一郎」
『ああ。だが、今日は平日だぞ。仕事はどうした?』
「それなんだが……」
『いや、いい。中で聞く。少し待て』
玄関の前で少し待つと、鍵が開く音がする。いつものように扉が少し開く。
「悪い、宗一郎。実、は――」
そう言いかけた俺の舌が急停止する。そこに立っていたのは俺の親友ではなく、俺よりずっと年上の女性だったからだ。きちんと洗濯され、染み一つ無い白のブラウス。清楚そうな黒のロングスカート。腰に巻いたフリル付きのエプロンが家庭的な雰囲気を醸し出している。
「え、あ、あれ?……す、すいません、俺……家、間違えました?」
もしかして、真由のことで慌てていたせいで、実は宗一郎の家とは別の家の玄関で待っていたとか?
「誠二さん、ですよね? 宗一郎のお友達の」
「え? あ、その、はい。そうです。自分は、河原誠二と……」
「初めまして。宗一郎の叔母の天野美和子と言います。今は宗一郎の住み込み家政婦……のようなものです。どうぞ、お上がり下さい」
叔母? 住み込みの家政婦? というか、あの警戒心と人間不信の塊みたいな宗一郎が、幾ら叔母とはいえ他人を自分の家の中にまで入れてるのか?
「誠二」
口をパクパクさせて俺が驚愕のあまり何も言えなくなっていると、なかなか入ってこない俺に焦れたのか奥から宗一郎が出てきて、俺と美和子さんを見比べた。
「叔母さん、どうかした?」
叔母さん!?
どうかした、だって!?
いやいや、別にそれ自体はどうってことのない口ぶりなんだが、それを宗一郎が口にするというのがおかしかった。まるでごく普通の家族の会話だ。普通に、甥が叔母に向かって話しかけているというだけの。
「どうもしないわ。むしろ、私の方が訊きたいのだけど。お友達に対して普段は一体どういう態度なの?」
「いや、普通だけど」
ああ、そうだな!
俺に対して『だけ』はそうかもしれないけど!!
それ以外の他人には別だろう!?
なんでお前がそんな普通にしていられるんだよ!?
「宗一郎、お前……」
思わず内心で絶叫している俺が必死に目だけで言いたいことを伝えようとしていると、当の宗一郎は呆れたように首を振った。
「叔母さん、先に誠二と俺にお茶を淹れて。お代わりのポットも一緒に」
「わかったわ」
「あと、何かお茶請けも。それが終わったら掃除に戻って」
「何か注文はあるかしら?」
「じゃあ、スコーンで」
「昨日の残り物でもいいの?」
「ああ」
聞けば聞くほどに、すごく、普通の会話だった。むしろ、宗一郎が叔母さんの優しさに少し甘えてる感じがする。あの、宗一郎が。
「誠二」
「え?」
「さっさと入れ。話があるんだろう?」
俺は宗一郎の背中を見た。それから、叔母の美和子さんに目線を向けた。
「どうぞ、中に。すぐにお茶を淹れますね」
優しそうな美和子さんにそっと手で促されると、もう俺は「すいません。お邪魔します」としか言えなかった。