毒親に虐げられた青年は宝籤で大金を手に入れたので母親に復讐する話 作:葛轍偲刳
翌朝。タクシーに乗って駅前まで出る。既に彼は待っていた。その隣のレンタカーは高級車種ではなく、目立たない中古の大衆車だった。
「すみません。これが香織さんとのデートであれば別なのですが、今日は向こうで待っている誠二と真由さんに警戒されては話が始まらないので」
申し訳なさそうに頭を下げてくる。私は内心で不満を抱きながらも、それを露わにはせず笑顔を作る。
「いいのよ、気にしないで」
そう言って彼に優しく笑いかける。既に私とデートする時のことを考えてくれているというだけで寛大な気分になれた。彼の視線が私の足元から顔まで這い上がるのを感じる。
「早く行きましょう」
彼がハンドルを握り、私は助手席に座る。シートベルトを締める。
「いい匂いですね。どちらの銘柄ですか?」
さりげなく香水を褒めてくれる。実にスマートだ。
「ありがとう。私のお気に入りなのよ」
香水の瓶は有名ブランドの限定品だ。それをわざわざ買ったのは彼に媚びるためだけではない。彼の隣に座ることを想定して身だしなみを整えたのだ。
「香織さんのような美人がつけると、さらに匂いが引き立ちますね」
「嬉しいわ」
吟味してきた服の胸元を少し緩める。襟ぐりの広いカットソーは鎖骨と乳房の膨らみを強調し、ストッキングに包まれた脚を組み替える。彼の視線を感じる。ああ、いい雰囲気だ。こんな時でなければ、もっと色々と二人で愉しめるだろうに。
「それで、その別荘ってどの辺にあるの?」
「ここから車で2時間ぐらいでしょうか。途中で一度休憩を入れるので、2時間半くらいと見込んでいます。向こうに着くのは昼過ぎくらいですね」
「そう、それくらいなら、まあ……」
半日も車の中というのでは気晴らしも出来ないが、それくらいなら許容範囲ではある。
「すみません。香織さんのような女性をドライブ程度で楽しませられるとは思ってはいませんので。もし本当にこれがデートなら、もっと別のところにお連れするべきですね」
「別のところ?」
彼の横顔を見る。彼の首筋から胸元を見る。高級ブランドのスーツにネクタイ。タイピンひとつ取っても高価そうな宝石がついている。ハンドルを握るカフスボタンにもだ。こんな中古の大衆車には不釣り合いだ。だが、私には相応しい。私の相手となる男なのだから、これぐらいの装いはしてもらわないと。
「例えば?」
「そうですね。海辺のホテルとか、郊外のレストランとか。二人だけの時間を過ごせるプライベートな空間で、ゆっくりとお互いを知り合えたらいいなと思います」
「素敵ね」
彼の股間を盗み見る。昨日はテーブルの影になっていて、よく見えなかった。だが、こうして見ると大きい。ズボン越しにもわかるほど。まだ勃起していないのに。
これが膨張すればどれほどの大きさになるだろう。
「ねえ……」
「はい?」
私は身を乗り出し、彼の耳元に唇を寄せる。
「私、そういうところが大好きなの。二人きりで過ごせるようなところ……」
彼の耳朶にそっと息を吹きかける。彼の肩がピクリと震える。
「……いい香りですね、本当に」
彼は静かに言う。だがその声色には明らかな興奮が滲んでいる。
「そう? この香水だけじゃないわよ? 私の身体も、きっと良い匂いがすると思うわ……」
胸元をさらに広げて見せる。下着の上辺が見える。シフォン素材のキャミソールは薄く、肌に貼りついて乳房の形を浮かび上がらせている。乳首の位置までバレてしまいそうだ。
「触ってみたい?」
「今は……」
彼は微かに喉を鳴らす。ハンドルを握る手が動きかけたのがわかる。しかし、彼はそれを抑えた。
「今は、運転中です。それにまだ真由さんの件も解決していませんから……」
「ふふ、そうね。でも別荘に着けば、その後でゆっくり楽しめることになるのでしょう?」
「はい。そうなるはずです」
まだ若いのに、がっついてくるわけでもなく、ムードを大切に出来るというのも良い。自制心があって、TPOもわきまえていて、私のことを大事にしてくれている。完璧だ。
「楽しみにしてるわね……」
「はい」
再びシートに背中を預ける。足を組み替える。スカートの裾が少し捲れ上がるのがわかる。太腿が露出する。膝から足先までストッキングで覆われているのが彼の視界に入るだろう。
彼の視線がそこに釘付けになるのを感じる。ドライブ中で退屈になる暇もない。私と彼の視線と手の動きが車内の空間で絡み合っている。
「ねえ……」
「はい?」
「別荘に着いたら、その……すぐに? それともまず話をしてから?」
「そうですね……」
彼は少し考える振りをする。
「まずは誠二を帰しましょう」
「ああ、そうね」
邪魔者は要らない。早々に帰してしまうべきだろう。私と娘と、あとは彼さえいればいい。いや、処女さえ彼にもらってもらえれば、娘も要らなくなる。娘は単なる道具に過ぎないのだから。
「その後で……ゆっくりと二人で話をしませんか? 今日の宿泊予定はどうするかも含めて」
「そうね。でも、さすがに娘を今日のうちに説得できるかはわからないわ。もしかしたら明日までかかるかもしれないし……」
私は声音に艶を滲ませた。
「上手く娘を説得できたとしても、疲れちゃうかも。そうなったら宗一郎君が優しく私を癒してくれると嬉しいわ。出来たら、明日の晩も、その次の日も……」
思わせぶりに笑う。
「それは勿論」
「ふふ。ねえ、でも……」
私は足をさらに開いてみせる。スカートがさらに捲れ上がる。ストッキングの透け具合とその下の肌色がはっきりと見える。私は膝に触れさせた指を、ゆっくりと脚の内側に滑らせていく。ツツ、という指とストッキングの布地が擦れ合う音がする。
「娘のことが片付いても、これからも宗一郎君とは『親しく』お付き合いしていきたいわ。例えば……」
「例えば?」
「さっき言ってたでしょう? 私とデートしてくれる? 海辺のホテルとかで、二人きりで、じっくりと」
車内に沈黙が落ちる。だが、不快ではない。きっと彼は考えている。ホテルに泊まって、私の体を貪る自分を考えている。私の裸を想像している。私の膣孔に挿入して腰を振るところを妄想しているに違いない。
私も考えている。彼の体を。彼の生殖器の大きさ、長さ、太さに硬さ。そして熱さ。精液はどれくらいで、どんな匂いがするだろう。ああ、想像するだけで身体が熱くなってくる。
「いいですね。是非そうしたいです」
時計の秒針が何度か回転し切った後で、ようやく彼が言った。
ベッドの上で彼に組み敷かれながら喘ぎ啼く自分を思い浮かべていた私は、少しだけ反応が遅れた。
「……ずいぶんと黙っていたみたいだけど、何を考えていたのかしら?」
「きっと香織さんと同じことですよ。素敵な女性と二人きりになることを思えば、つい色々と妄想してしまいます」
彼はハンドルを握り直す。車線変更のウィンカーを出す。
「あら、どんなこと?」
「香織さんの胸とかお尻とか、あまりに素敵なので、ついつい目が吸い寄せられてしまいます。男のサガですね。すみません」
「いいのよ。むしろ誉め言葉として受け取っておくわ」
私はまた胸元を少し開けた。シートベルトが肌に食い込む感触がする。スカートの裾は鼠径部に近いところまで捲れ上がっている。
「宗一郎君の目も素敵よ。こんなおばさんでも、こんなに熱烈に見つめてくれるんだもの」
「香織さんのような綺麗な女性に、間違ってもそんな失礼なことは言えませんよ」
「嬉しいわ。ねえ……」
私は自分の膣孔が濡れてくるのを感じた。私は今、隣にいる若い男に欲情している。あの河原家の息子では、到底そんな気にはなれなかった。金もない障害持ちの若造など、私には相応しくない。だけど、この男になら。
「私の体、本気で魅力的だと思う?」
「もちろんです」
「欲しい?」
彼は黙った。私が本気で言っているとわかったのだろう。
「いいんですか。もし真由さんのことを気にしておられるのなら、香織さんの体を無理に差し出そうとなさる必要は……」
「違うわ。娘のこととは別よ」
もっと嬉しくなる。私が娘の代わりに、自分の体を提供する代わりに、あの河原家の息子と話をつけて欲しいと言っているように思ったのだろう。だが、それは誤解だ。誤解だが、嬉しい。それは私に、私の体に、それだけの価値を認めているということだ。娘の件と引き換えにできるほどの価値が、私の体にはあると彼は考えてくれている。それが嬉しい。
「純粋に、私があなたに抱いて欲しいだけ」
ラブコール。雌が、牡に求愛する。車の中、それもこんな安っぽい大衆車の中でというのが惜しい。もっと良い場所で、違うシチュエーションで言いたかったと思う。
しかし、こんな時でもないと言えないのだから仕方ない。娘の件が片付いてしまえば私と彼が接触する機会も理由も無くなってしまうのだ。次に二人きりになれるのはいつになるかはわからない。だったら、今ここで言うしかない。
「困りました」
「どうして?」
「そういうセリフは、是非とも男の方から切り出させて欲しいのですが」
迂遠な答えだが、私は思わず口元を綻ばせた。
「洒落た言い回しね」
だが、いい。とても、いい。すごくいい。私が抱いて欲しいと言って、だけど彼は単純に「Me too(自分も)」とは言わなかった。あえて一拍を置いて、私に尋ねさせた上で別の形で同意を示した。
この年で、彼は既にもう大人の男なのだ。
「そんな言い方、誰に習ったの?」
「気になりますか?」
胸が高鳴る。膣孔だけでなく股間までもが濡れているのが、ストッキングに染みてきているのがわかる。パンティの中では恥丘が熱く火照り、膣孔が勝手に蠕動しては淫蜜を分泌している。
「ええ、すごく」
「海外で、超一流のセレブに呼ばれるような高級娼婦の女性がいまして」
「まさか……」
「そういう女性は、お洒落な言い回しや女性の口説き方もよく知っているんですよね。何しろ、自分がそうされてきた側なので」
さらりと言ってのける彼が急に老成して見えた。
彼は、ただ大金を手にしただけで舞い上がって自惚れたガキではない。本物の富裕層を知り、それを垣間見てきている。
ああ、素敵だ。本当に素敵だ。私は今、ようやく本当に理想の相手に巡り合えたのかもしれない。
子宮が疼く。火照る。思わず内股を擦り合わせた。もういっそ、このままどこかで――……
「どうかしましたか?」
「な……何でもないわ」
私は平静を装った。しかし身体の変化は止められない。股間だけでなく乳首も硬くなって尖り始めている。
「もうすぐ到着しますよ。別荘で真由さんが待っています」
彼が前を見て呟いた。