毒親に虐げられた青年は宝籤で大金を手に入れたので母親に復讐する話 作:葛轍偲刳
気づいたときは、真っ暗だった。
違う。目の周りに何かが巻かれている。目隠しをされている。口にも何かが押し込まれている。口を閉じようとしても邪魔している。舌先で探ると、金属製の輪が上下の歯と歯の間に挟まるように口の中に入れられている。輪の左右には革ひもが繋がれ、後頭部にまで回っている。
「にゃによ、ひょれ……!?」
何よ、これ。そう言いたかったが、あまりにも無様な掠れ声しか出なかった。
手足も動かない。何かに縛られている。ベルトか何かだろうか。椅子の肘掛けのようなところに腕は固定されている。しかし脚は大きく開かれている。産婦人科の分娩台の上に乗せられているような姿勢だ。
わからない。ここはどこだ。何故、自分はこんなところに?
混乱する意識が、扉の開閉音らしき物音を聞きつける。
「ひゃれ!? ひゃなひて!」
誰? 放して。混乱する意識のままに声を張り上げる。
別荘に到着したところまでは覚えている。だがその後の記憶は曖昧だ。
車から二人で降りた、それは確かだ。自分は彼に擦り寄った。高級スーツの仕立てと肌触りを楽しんだ。
『ここであまりイチャイチャしてると、真由さんに見つかってしまいますよ』
『少しくらいはいいじゃない。いっそ物陰で――』
彼の手が私の背中に回る。優しく抱き締められた。それが心地よかった。男の腕に抱かれるのも久しぶりだった。細身に見えて、意外と鍛えられていて逞しい。胸板が厚い。
これならベッドでも、私を十分に――だが、そこで意識が途切れた。バチィッ!という何か電気が弾けるような音が聞こえたような気がする。それはまるで、スタンガンか何かのような。スタンガン? まさか。だが、そうとしか。ならば、だとしたら、私は――
「ひょーひりほうくん?」
宗一郎君?と呼びかけたつもりだったが、返事は無い。コツコツという硬い足音が近づいてくる。
足下はコンクリートか何かが剥き出しになっている。あるいはタイル? 声や音の反響からすると、しかし屋外ではない。
髪を掴まれる。首を固定される。抵抗したいが、せっかくサロンで金をかけてまで整えている髪が抜けてしまう。
「んぐぅっ!?」
口の中に何かが流し込まれる。水だ。生ぬるい水。吐き出すこともできない。轡を噛まされて開きっ放しの口に流れ込んでくる水を必死に嚥下する。溺れたくなければ飲むしかない。口の端から流れ出る水が顎から首筋、胸にまで伝う。その濡れた感触で、自分が裸だと理解する。
「んぐっ、んぐっ……」
飲む。ひたすらに飲む。飲みたくないが、飲むしかない。胃の中に水が溜まっていく。気持ち悪くなりそうになったところで、ようやく解放される。
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ……」
一気飲みを強いられたせいで息が切れる。必死に酸素を貪る。しかし――
「ひゃひぃっ!?」
いきなり、股間に冷たい感触が触れて思わず飛び上がるほどに驚いた。何かが股間に塗り付けられる。軟膏のようなグリスのような、しかしこれは違う。ヌルヌルとした感触は、ローションだろうか。
無遠慮に、陰毛から陰唇へと塗り広げられる。べったりと股間にローションを塗り込められる。その手の感触は、少なくとも男のものではない。子供か、女か。そういえばさっき髪を掴んだ手も、男の手ではなかった。それほど力も強くなかった。男であれば、下手をすれば髪が引き千切られている。
「うぎぃっ!?」
しかし、そんな思考が邪魔される。ローションを塗りたくられた股間に、異物感。膣孔に捻じ込まれる、樹脂のような感触。
バイブだ。小型だが振動するバイブを膣孔に押し込まれる。抵抗は出来ない。バイブにもローションが塗られているせいだ。痛みというほどではない。だが、心の準備も何もない状態でいきなり挿入されたのは、大きさ以上に屈辱的だった。無慈悲に捻じ込まれたバイブが膣孔の中で振動を始める。
「あっ……あああぁっ……!」
振動が子宮口を突き上げる。反射的に膣孔が締まる。締まった膣孔の内側を、バイブの突起が擦り上げる。ビクンと腰が跳ねる。
「あ゛ーーっ!!」
無駄とわかっていても叫ばずにはいられない。しかし、やはりその悲鳴は潰され掠れたような声にしかならない。
視界を塞がれ、聴覚は振動音で麻痺し、そして手脚は固定されて身動き一つ出来ない。
私は今、完全に無力な肉塊と化してここに在る。
「や……め…て……」
私は懇願した。無様に。惨めに。恥知らずに。
しかし、バイブの振動は止まらない。
「んぐっ!?」
口の中にまた何かが突っ込まれる。ニュルリとした舌触り。一瞬これもローションかと思ったが、違う。人工甘味料の風味。ゼリーか何かだろうか。だが食べ物であるにしてもこんな形で与えられては不愉快だ。それに咀嚼しようとしても口は開きっ放しのままだ。飲み込めばいいのか。味は甘いが、喉越しが最悪だ。口内に甘ったるさだけが残る。
「う゛っ……ぐぅっ……」
胃が痙攣する。無理矢理ゼリーを流し込まれたせいで喉奥から胃袋までが圧迫されているのだ。しかし吐き出せない。
「飲みにくそうね」
「ひゃれ!?」
聞いたことのない声だった。女の声だ。誰かはわからない。聞いた感じは、私よりも年下でも年上でもない。やや落ち着いた、しっとりとした声音。しかし、そんな私の問いかけにも答えず独り言のように続ける。
「先に水を与えた方が口の中が潤って良いかと思ったのに。かといって喉にゼリーが詰まったまま水を入れたらそっちの方が窒息するんじゃないかしら。ああ、それともバイブを入れたままというのがまずかったのかも。なら、次はバイブを抜いた状態で食事を与えてみるのはどうかしら。水を飲ませ、食事を与え、そしてバイブを入れる。この順番で試してみるのもいいかもしれないわ」
そう言いながら、女の手が私の背中をトントンと叩く。赤子の嚥下を促すような仕草。だが、それだけで私は喉に詰まった異物を嚥下させられてしまう。ゴクリと喉が鳴る。
「うえぇっ……」
「大丈夫よ。ちゃんと消化してね。間違っても死なれては困るから。ちゃんと水も栄養も欠かさず与えてあげる」
背中をさすられて吐き気は治まった。しかしまだ気持ち悪さは残っている。女の声はどこか楽しげにさえ聞こえる。私は一体どんな顔をしてこの女を見ているのだろう。見られていないだろうか。
「ひゃなひて……おねがい……」
懇願する。しかし女は無言で去っていく。
足音が遠ざかる。静寂が訪れる。膣孔のバイブはまだ振動を続けている。
「うっ……あっ……あっ……」
振動が続く。私の意思とは無関係に体が反応する。乳首が硬くなるのがわかる。汗が噴き出てくる。膣孔の締め付けが強くなり、振動をより敏感に感じるようになる。
「んぐぅっ……あっ……はぁっ……!」
体が熱い。バイブの振動だけではない。体温そのものが上がっている。膣孔の粘膜から分泌された淫蜜がバイブと擦れて湿った音を立てる。
「うっ……あっ……やだぁ……」
だが膣孔は収縮するのを止めない。バイブを締め付け、頭の芯が蕩ける。こんなのは嫌だ。こんな形で感じたくはない。私は女として尊厳を奪われているのだ。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
呼吸が荒くなる。視界を遮られているせいで聴覚と触覚に意識が集中してしまう。身体の感覚が研ぎ澄まされる。膣孔にバイブが挿入されていることをより強く感じる。膣壁がバイブの凹凸を感じる。膣孔の襞がバイブに絡みつくように締め上げる。粘膜が擦れて熱を持つ。体液が分泌される。バイブの振動音と湿った粘膜摩擦音が脳内に響く。
「うぐぅっ!?」
そのときだ。尿意を感じた。膀胱に溜まった水分を排出したいという生理的な欲求。たった今、大量に水を飲まされたばかりというのがそれに拍車をかけた。
だが手脚は拘束されており便所に行くことも叶わない。それにバイブが挿入されているせいで力を込められない。
排泄行為そのものに対する羞恥心。それを誰かに見られるかもしれないという恐怖。
「あ゛……やめ……で……!!」
脚を閉じようとした。だが無駄だった。手足が固定された拘束器具はビクともしない。
「や、だ。……やだぁっ……!」
尿意は強まる一方だ。我慢したい。だが、出来ない。膣孔に入れられっぱなしの異物が集中を阻害する。股間を振動が延々と刺激する。人間なら声が通じる。しかし機械には通じない。
私は仰け反る。暴れる。ダメだ。出てしまう。チョロリ、という微かな水音が、何故か私の耳にはっきりと聞こえた。それはバイブの振動音よりも大きく聞こえた。
「あぁぁああああっ!!」
絶叫する。私は漏らした。拘束されたまま、失禁してしまったのだ。排尿が止まらない。自分の意思で止められない。
「んっ……んんんっ!」
下腹部が熱い。暖かな液体が股間から溢れ出している。それが太腿を伝っていく。ストッキングを着けていたならきっと染みて汚していただろうが、私は今素っ裸だ。下肢の拘束具も濡れているのがわかる。
尿意はすぐに消え失せた。しかし羞恥心は残ったままだった。そして、さらなる恐怖を感じた。
私は裸だ。そして、手足を拘束されている。トイレには行けない。行かせてもらえない。今、自分は失禁した。ならば、もし次に便意が来たらどうなる? これで終わりではない。もし次があるなら。もしそうなったら。それを考えた時、全身の血の気が引いた。
「ひゃめで……おねひゃい……ひゅるひて……」
涙が溢れた。視界を塞ぐ目隠しが濡れる。嗚咽を漏らしながら懇願する。だが声は掠れ震えただけで意味のある言葉にはならなかった。
もう、何もかもがどうでも良くなった。早く終わって欲しい。楽になりたい。だがそれが不可能だと理解している。
私の体は自由にならない。思考も行動も制限されている。私は誰かの手の中で弄ばれている玩具だ。玩具は人間ではない。
「あ゛ーーっ!!」
私は叫んだ。狂ったように頭を振り回した。だが拘束具は外れない。視界は塞がれたままだ。
私の中で何かが砕け散った。理性か自我かそれとも希望か。わからない。だが何かがひび割れた音が確かに聞こえた気がした。