毒親に虐げられた青年は宝籤で大金を手に入れたので母親に復讐する話 作:葛轍偲刳
「頭を下げろ。目を閉じていろ」
言われるがままにする。
頭から水を浴びせられる。
繰り返し水が浴びせられる。
私の体が水で洗い流されていく。精液も尿も全て流れていく。
「そのまま目は開けるな」
その命令と共に、目隠しが外される。
顔をタオルで拭われる。尿と精液が拭われる。
「……ったい、な、い……」
勿体ない。
思わず、そう呟いた。
私は落胆さえ覚えていた。
あれほど美味なものなら一滴残らず舌で味わいたかったのに。
だが、私の意思は無視された。
ある意味ではいつも通りに。
私の体は拭われ、立たされた。
膝が笑っていた。生まれたての動物のように足が萎えていた。
体を抱き上げられた。
しかし目は開けなかった。
どこかに運ばれていく感覚がする。
扉が開く音。
部屋の外に出る。
明らかに空気が変わる。
目では見えない分、どこか空気が仄かに色づいている気がした。
あの部屋が灰色と黒塗りなら、こちらは木と漆喰の色合いがする。
それで気が付いた。
ごく僅かな木の匂い。
それから――
「……いい、におい……」
私は呟く。
私を抱いている牡の匂い。
私は鼻を鳴らした。
私に精液を飲ませ、私に放尿した男の体臭を覚える。――私に命令した男の匂いを、覚える。
再び扉が開く音。私は再び空気が変わったことに気付く。
自分の体が寝かせられる。ベッドだ。マットレスの柔らかさ。スプリングの弾力。清潔なシーツの肌触り。
そして、誰かの手が私の目を塞ぐ。というか、優しく目の上に手が置かれただけだが。
「ゆっくり、少しずつ目を開けろ。薄目を開けたまま、ゆっくりと瞬きを繰り返せ」
言われるがままに薄目を開ける。眩しい。闇に慣れ切った眼球に針を刺すような刺激を感じる。すぐに目を閉じて、涙の滲む視界でまた少しだけ薄目を開ける。
パチパチと何度も瞬きを繰り返す。少しずつ、時間をかけて光に目を慣らしていく。
「俺の掌が見えるようになったら、言え」
「……」
私の目の上に掌を置いてくれている人物。声は先ほどと同じ。私に命令した男。
私が今、寝ている場所。周囲の音や空気の動き。
私は再び目を瞑る。瞼の裏にぼんやりとした明かりが映る。それだけでも眩しい。
「……みえ、ます……」
少しずつ目を開く。掌が見える。肌色。男の手だ。若い男の手だ。
「良し、失明はしていないようだな。視力が落ちているかどうかは検査の必要があるだろうが」
淡々と言って、掌が離される。
「……」
何も言えなかった。その顔に見覚えがある、どころの話ではない。
天野宗一郎。私をここに連れてきた男。私を監禁した男。私を、私を私を私を――!!
「……。はぁ」
一瞬だけ、憎悪とも激怒ともつかない感情が燃え上がりそうになって、すぐに消える。
それはそうだ。感情が燃え上がるには燃料が無ければならない。燃料とは情動だ。喜怒哀楽、何でもいいが、それらの感情は心があればこそ動く。
私の心は砕けていた。粉微塵に擂り潰されていた。彼に。
「さて、何か言いたいことはあるか?」
彼が尋ねてくる。私は首を振った。横に。
どうでもいい。そう思った。死にたいとさえ思った。
その上で、私は彼に、彼の精液を飲み、精液を飲んで悦び、彼の尿を飲んだ。喜んで飲んだ。美味しかった。ああ、本当に美味しかったのだ。
「――…もし、」
「なんだ?」
「もし、望めるなら」
掠れた声で呟いた。
「言って見ろ」
「また、あなたの精液と尿を飲ませて」
「ほう?」
宗一郎は私の顔を見下ろして、微かに笑った。冷笑とも嘲笑ともつかない笑みだ。
「あれだけのことをされて、ようやく人間らしい寝床に戻ってこれて、最初に言うことが、それか?」
「飲みたいです。飲ませて下さい」
私は懇願した。媚びるような視線を向ける。
「あなたの精液を飲ませて下さい。あなたの尿を飲ませて下さい。あなたの体から出てくるものなら何でも飲み干します。お願いします。なんでもしますから」
「なんでも?」
「はい、なんでも。あれほど美味しいものは生まれて初めてでした。また飲みたいです。何度でも飲みたいです」
思い出しただけでも口の中に唾が湧いてくる。あの味。あの快感。あそこで私は死んで、再び生まれ変わった。そう思うほどに衝撃的だった。
あれこそが私にとっての再誕だった。他の全てがどうでもいい。この男の精液と尿の味に比べれば。
他の全ては路傍の石ころ以下の価値しか持たない。ただあの味と感触だけが私を生かしている。他には何もない。
「なるほど」
宗一郎は私の顔を見て頷いた。納得したようだ。
「いいだろう。お前がそうしたいというなら、これからもくれてやる。だが、まずは娘の結婚を――」
「認めます」
私は即座に答えた。心は無くしたが、記憶がなくなったわけではない。どうして自分がここに来たか、来るように誘い込まれたかは覚えている。
「河原誠二と――」
「認めます。彼との交際、結婚、出産。全ては娘の自由意思に任せます」
初めて。本当に初めて。天野宗一郎という青年の唖然とした表情を見た。こんな時でなければ、思わず笑ってしまっていたかもしれない。
「あれほど反対していたのは?」
「自分のためです。娘を使って自分が楽な生活をするためです」
正直に答える。嘘をついて取り繕う必要は、もう私にはない。
「なるほど。それ自体は、まあ予想の範囲ではあるが」
彼は頷いた。
「夫は?」
「金のために結婚しました。妊娠も、結婚するための手段に過ぎませんでした」
「今は?」
「どうでもいいです。あの男とセックスしろと言うならします。殺せと言うなら殺します」
「それはしなくていい。だが、余計な人間は関係者から除外しておきたい。離婚しろ」
「はい、わかりました」
一瞬も躊躇わずに答える。離婚? 面倒な手続きはあるが問題はない。あの男に未練は欠片もない。むしろ感謝すらしている。あの男が外国へ行かなければこんな機会は訪れなかっただろう。
「真由さんには二度と近づくな。顔も見せるな。電話もメールも、その他一切の連絡を禁じる」
「はい、わかりました」
即答する。娘には心から感謝している。むしろ礼を言いたいぐらいだ。しかし、禁じられるのであればそれに従うだけだ。
娘との関係は終わった。終わったのだ。私はこれからこの男に仕えるのだから。
「よし」
宗一郎は私の体を離した。ベッドから立ち上がる。
私は茫然と天井を見つめた。
天井の模様を眺めながら考える。
私は解放されたのだろうか?
「安心しろ。今日はもう遅い。明日にでも解放する」
彼の声が聞こえた。
「――ただし条件がある」
宗一郎が私の顔を覗き込む。冷たい視線だ。
「解放する代わりに、お前の体をもらう。これから俺の奴隷になれ。俺の性奴隷になって奉仕しろ」
「はい」
私は即座に答えた。
「もちろんです。何でもいたします」
「よろしい。では」
彼の手が私の股間に伸びる。私は股を開いて彼の指を迎え入れた。