毒親に虐げられた青年は宝籤で大金を手に入れたので母親に復讐する話 作:葛轍偲刳
大いびきをかいて豚が惰眠を貪っている。
寝酒と称して差し入れたボトルに仕込んだ睡眠薬にも気づかず、グラスすら使わず派手にラッパ飲みしやがったからだ。
周りには紙幣が散らばっている。札束を手渡してやったらブヒブヒと嗤っていやがった。上機嫌で手の指を舐めながら枚数を勘定していた。
今頃は幸せな夢でも見ていることだろう。息子の金を自分のものだと勘違いして、好きなように贅沢三昧を楽しむ夢を。
「今は好きなだけ夢を見ているがいいさ。夢から覚めるまでは、まだ時間がある」
かつて香織を閉じ込めた地下室はまだ使える。
体の自由を奪い、拘束してから車で運ぶ。
この豚は確かに香織よりも重いだろうが、今は香織も手数として勘定に入れられる。
三人がかりなら何とか運び入れられるだろう。別に壊れ物を扱うように丁寧にしてやる必要もない。ロープで引きずろうが手足を縛って棒で吊って運ぼうが、手段は何だっていいのだ。いずれ壊してやるのだから、少しばかり早いか遅いかの違いでしかない。
何より――
「美和子を傷つけたのだから、お前の体が多少傷ついたところで問題はない。価値は到底釣り合わないがな」
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数時間後。
暗く湿った地下室の空気が肌にまとわりつく。
ここは香織を閉じ込めていた部屋だ。鉄製の扉は外側からしか開かない。床には冷たいコンクリートが広がり、天井から吊り下げられた裸電球が不気味な影を作っている。
亜紀の巨体は拘束台に固定されていた。
手足はベルトで締め付けられ、口には轡が噛まされている。
目は覚めているだろうが、周囲を把握する余裕はなさそうだ。
「目が覚めたか?」
宗一郎は冷ややかな声で言った。
彼は椅子に座り、亜紀を見下ろしている。
「あ゛ーっ! あ゛ーっ!」
亜紀は必死に叫ぶが意味のある言葉にはならない。
轡のせいで口は開きっぱなしで涎が垂れている。
憎悪と憤怒に満ちた目だ。ああ、昔の自分はこういう目をした母親に怯えていた。懐かしい気分になる。両手で頭を庇い、ひたすら頭を低くして嵐が過ぎ去るのを待った。気まぐれな母親が別の方を向いてくれるのを待った。まあ、そういう時に限って母親は息子を都合よく忘れてくれたりはしなかったが。
「懐かしいね、母さん。俺を殴った時のことでも思い出しているのかい? 反抗的な、気に食わない目をした息子を殴って、思い通りに言うことを聞かせるのは楽しかっただろうね?」
優しいほどの声で囁きかける。無論、答えを聞くつもりはない。そもそも口枷をつけている時点で答えなど求めちゃいない。
「いいんだ。別に恨んでるわけじゃない。いや、昔は恨んでいたよ。実際、寝ても覚めても母さんのことを考えていた時期もあった。どうやって苦しめてやろうか。どうやって壊してやろうか。そんなことばかりをね。おかげで施設でも他の子供たちに気味悪がられたものさ。当然だけどね。子供は敏い。俺が何を考えてるかも何となくわかってたんだろうね。おかげでずっと遠巻きにされてたよ」
何気ない口調で思い出を語る。施設時代の思い出を語れるのは親友ぐらいなものだった。他に付き合いのある他人はいない。
そもそも話をする気になれなかったし、他人に関わるのが億劫だった。遠巻きにしてもらっていた方が楽だった。
「――…とはいえ、だ。昔の俺のことは別にいいが、今の俺にも許せないことがあってね」
一段階、意識して声の調子を落とす。静かだが威圧感に満ちた声。今度は明確に亜紀の反応を求める問いかけとして。
「わかるかい? 教えてあげようか。教えてほしいだろうね。何が許せないのか。ああ、わかるとも。教えてあげようか」
亜紀が息を飲む。態度を豹変させた息子に気圧される。
「お前が美和子にしたことは絶対に許さない。許すつもりもない。たったこれだけの言葉で済む話さ。美和子を傷つけたこと。これまでにしてきたこと。全てを許さない。もちろん、顔を殴ったことも含めて」
亜紀の目は恐怖に見開かれる。今まで一度も見たことがないほど怯えた顔。
だがそれこそが見たかった表情だ。
「ふふ……」
思わず笑みが漏れた。
これでようやくスタートラインに立った気分だ。
これから長い時間をかけて彼女を調教していくのだ。
肉体も精神も徹底的に壊してやる。
「今日は顔合わせと挨拶代わりに、軽く鞭を入れるだけにしてやるよ」
右手に持った鞭を軽く振って見せながら宣言する。乗馬用の短い柄の先についた平べったい革が豚の弛んだ頬に触れる。
「美和子が殴られたのは、この辺だったな」
「んーっ!!!」
宗一郎は鞭を振り上げると、無造作にそれを振り下ろした。
脂肪で弛んだ頬肉は、実に良い手応えを返してきた。バチン!という乾いた音が響く。頬に赤い線が走る。
亜紀は大きく目を見開き、全身を痙攣させた。
恐怖と痛みで声にならない悲鳴を上げる。
「まだまだ甘いよ。こんなの序の口だ」
次はもっと強く打つ。
今度は首筋に鞭が落ちる。
バチン! 再び大きな音が響く。
「ううっ……!」
苦痛に顔を歪める亜紀を見下ろしながら宗一郎は思う。
この程度ではまだ足りない。もっと痛めつけなければならない。
「さて、次はどこがいいかな?」
宗一郎は楽しげに微笑みながら亜紀の体を見回す。
彼女は必死に首を振って拒絶の意思を示すが無駄だ。
「ああ。そうだ。せっかくだし美和子にも手伝ってもらおうか。姉妹の絆を確かめる絶好の機会だ。これまで世話になってきた姉さんに『お返し』が出来るのだから、美和子も喜ぶだろう」
その言葉に亜紀の表情が凍りつく。
宗一郎は満足げに頷くと地下室の奥へと歩き出す。
「そうだな、まずは簡単なところから始めようか」
そう言いながら宗一郎は棚から別の器具を取り出す。
亜紀は恐怖に震えながら身を捩ろうとするが拘束具がそれを許さない。
彼女にできることはただただ耐えることだけだ。
「さあて……じゃあ始めようか? お楽しみタイムだよ?」