※この作品はR-18です。

毒親に虐げられた青年は宝籤で大金を手に入れたので母親に復讐する話   作:葛轍偲刳

41 / 45
C-9. 復讐への胎動 - 天野亜紀回想篇

『豚だ。お前は豚だ』

 

 昔。そんなことを言われていたような気がする。

 まだ若い頃。ホストクラブに通っていた頃。

 ホストクラブというのは、女にとっては非常に心地良いところだ。接客する男は顔立ちも良く、そして自分を褒め称えてくれる。気分を良くしてくれる。金と引き換えに。だが、金さえ払えば上客として扱ってくれる。楽しい。病み付きになる。

 私は何度も通った。通い詰めた。お気に入りのホストに貢いだ。貢げば貢ぐほどホストは私を褒め称え、時には甘え、あるいは愛の言葉を囁いた。

 

 当然、多額のツケはすぐに請求書となって家に届いた。売掛金の回収は執拗だった。それが商売の連中は家にまで押しかけてくる。両親は頭を抱えたが、一度目は肩代わりしてくれた。しかし、二度目は無かった。私は金に困り、体を売るようになった。

 

『豚が』

『もっと鳴けよ』

『もっと金を出せ。もっと俺に貢げ』

 

 私に甘く囁いていたはずのその口で、ホストは私を蔑んだ。私に命令した。それもまた快かった。男に組み伏せられるのがたまらないほど快感だった。

 避妊もせずに胎に子種を流し込まれた。その方が高く売れたからだ。そうやって稼いだ金をホストに貢ぎ、金が無くなればまた体を売った。

 

 ――そして、当然のように妊娠した。

 

 中絶したかったが、その費用さえも私には無かった。体を売っている間に勝手に流れてくれるかと思ったが、そう上手くはいかなかった。腹は勝手に大きくなり、体は重くなった。それが不快だった。こんな体では遊び歩くことすら出来ない。

 子供を認知してくれる男は、当時の私の客の中には一人もいなかった。どうしようもなくなった私に親は出産費用だけは出してくれたが、その代わりに絶縁を宣言してきた。

 

 生まれてきたのは男の子だった。もちろん愛情など感じなかった。子供が欲しくて妊娠したわけではないのだから当たり前だ。泣けば煩い。おむつを換えるのも面倒だったし、赤子の便は臭いし、その手間をわざわざ自分がしなくてはならないというのが不快だった。だから妹を呼んで雑用を押しつけた。

 

 子供が欲しかったわけではない。金を稼ぐために体を売っていたら勝手に妊娠しただけだ。

 産みたくて産んだわけではない。中絶するほどの金も無くて仕方が無かっただけだ。

 子供の食費も服やその他の金も、出したくて出したわけではない。子供が死ねばまた処理に手間がかかるし、何よりも保護責任がどうのこうのと法律や常識が煩わしい。

 

 だが、それだけの金を出してやったのだから、その分も自分に返ってくるべきだ。それだけの手間と時間を自分にかけさせたのだから、それだけ自分のために役立って当然だ。それさえも出来ないのなら、そんな存在に価値はない。

 役に立たない無駄飯ぐらいなど必要ない。施設に入れてやったのはせめてもの慈悲だ。飢え死にしないようにしてやっただけ感謝して欲しいぐらいだ。それで自分を恨むなど思い違いも甚だしい。

 

 なんで自分から好き好んで苦労しなくてはならないのか。自分はそんな物好きではない。自分は楽しいことだけ、好きなことだけ、気持ちいいことだけをして生きていけばいい。

 

「あぁ……ああぁっ……」

 

 そうだ。苦しいことなんか要らない。痛みなんて知りたくも無い。

 

 ――だから、これもキモチイイことだ。

 

 そうだ。痛いなんて感覚は忘れてしまえばいい。キモチイイで意識を塗り潰してしまえば、もう苦しくはないのだから。

 

---

 

「――あら?」

 

 鞭で豚の尻を叩く手を止めて、美和子は小首を傾げた。目の前では赤く腫れ上がった、醜く肥えた豚の尻が無様に震えている。不摂生でブヨブヨと緩んだ肉が鞭で叩かれるたびに波打つ光景は滑稽そのもので、叩くたびに悲鳴が上がるのも快かった。

 

 しかし、今は少しばかり様子が違っていた。

 

「ねえ、宗ちゃん」

「なんだ?」

「豚の腐れマンコが濡れてきてるわ」

「ほう?」

 

 赤みを帯びた尻たぶの間にある割れ目から、僅かに透明な雫が滲み出ていた。

 香織に奉仕させていたのを途中で止め、宗一郎が近付いてくる。

 

「なるほど。とうとう頭のネジが緩んできたらしい。ここまでの仕打ちをされても股を濡らすとは、いよいよ頭の中身もいい具合に壊れてきたか」

 

 靴の爪先を弛んだ腹の下に入れ、肥満した中年女の体をうつ伏せから仰向けにひっくり返す。

 

「ふぐうぅっ……!」

 

 轡を噛まされたままの口から呻き声が洩れる。頭のネジが緩んでいても生理的な反射までは止まらないらしい。

 

「香織、蝋燭を持って来い」

「はい、御主人様」

 

 宗一郎が蝋燭に火を点ける。ゆらゆらと小さく揺らめく炎がゆっくりと蝋を溶かす。宗一郎が無造作に蝋燭を傾ける。

 溶けた蝋が落ちる。亜紀の股間に滴り落ちる。

 

「ぎゃああああっっ!!」

 

 熱い蝋が敏感な粘膜に落ちた瞬間、悲鳴が響き渡った。

 

「ふむ、鞭の痛みには慣れてきても、火傷の痛みはまた別か」

 

 冷淡に批評しながら、宗一郎がさらに蝋をポタリ、ポタリと滴らせる。伸ばし放題で整えられてすらいない亜紀の陰毛の上に溶けた蝋が落ち、使い込まれて黒ずんだ大陰唇に垂れ落ちる。

 

「ふぎいいいぃぃぃっっ!!」

 

 泣き叫ぶ亜紀の表情が歪む。

 

「まだまだ楽しめそうだな」

 

 宗一郎が呟く。実際、蠟燭を保持している宗一郎の手はかなり高いところにあった。溶けた蝋は宗一郎の手元から床に横たわっている亜紀の体に届くまでの間に冷えて固まり、その熱さは多少なりとも軽減されている。

 蝋を落としている場所も、性器そのものにではなく、その周囲の陰毛に覆われている部分だ。陰毛に絡みついた蝋は固まり、そこで止まる。皮膚に触れるのは一部に過ぎない。直接皮膚に灼熱の蝋が降りかかっているわけではない。だから、この責めはまだ手加減されている。そうは見えないとしてもだ。

 

「あ゛づい゛ぃぃっ!!」

「当然だ。熱くしているんだからな。まあ、直接火で炙ってやってもいいが。もし火傷から雑菌が入ると治療が面倒臭い」

 

 皮膚が赤くなる程度の軽度の火傷ならヒリヒリ痛む程度で済むが、水膨れが出来るようだと感染症の恐れもある。死なせるわけにもいかない以上、加減はしてやらねばならない。

 

「香織、固まった蝋を引き剥がせ。その縮れ毛もろともな」

「はい、御主人様」

 

 香織の手が亜紀の股間で固まった蝋を掴む。ベリベリと剥がす。固まった蝋は亜紀の陰毛を巻き込んでいた。

 毛根ごと陰毛を引き抜かれる痛みに亜紀が絶叫する。

 

「あぎゃあぁあぁっっ!!」

「良かったわね。剃る手間が省けたじゃない」

 

 毛根ごと抜かれた毛穴から血が滲む。痛々しいほどに赤く腫れ上がった恥丘。だが、その中央の割れ目からはやはり透明な粘液が滲み出ている。

 

「――……ふぐぅっ!」

 

 亜紀は苦悶の呻きを漏らした。痛みと恐怖と屈辱で涙が溢れて止まらない。頭の中では様々な感情が渦巻いていた。怒り、憎悪、羞恥、恐怖、屈辱、混乱。

 なぜこんな目に遭わなくてはならないのか? どうして自分がこのような扱いを受けなければならないのか?

 何度も何度も自問する。しかし答えはどうしても見つからない。自分は何も悪いことなどしていないのに。結局のところ、亜紀の答えはそこに行き着く。

 自分は悪くない。悪いのは他人だけ。その思考回路は40年にも及ぶ天野亜紀という人格の根幹を成している。

 

 亜紀が過去に経験した数少ない挫折や苦難など大した意味を持たなかった。なぜなら彼女はそうした苦悩を乗り越えることで成長するのではなく、全てを他者や環境のせいにして逃げていたからだ。

 彼女にとって最も大切なのは自分自身であり、そのためには他人の犠牲や不幸は些細なことだった。自分が傷つかないことだけを考えてきた。そうやって生きてきた。

 だからこそ今の状況が理解できない。理解できないからこそ混乱する。

 

「美和子、見てみろ。これが俺が生まれてきた場所だ」

「まあ」

「この醜い肉袋から出てきたのが俺だ」

 

 宗一郎の視線は冷ややかだ。そこには一片の情もない。憎悪も嫌悪も超越した無関心と蔑視だけが満ちている。そしてその言葉には事実を述べているに過ぎないという意味しかない。

 ただ単純に事実を確認しているだけなのだ。

 

 亜紀はその無慈悲さに打ちのめされそうになる。これまでずっと自分が世界の中心だと信じて疑わなかった彼女にとってこれは致命的だった。

 だがまだ完全に折れてはいない。いくら頭の中身がいい具合に壊れてきていると言っても、彼女の心にはまだ自分が特別な存在であるという思い込みが深く刻み込まれている。

 

 その思い込みこそが彼女を今日まで生かしてきた。彼女を支えてきた唯一の柱だった。

 だが今はその支柱すら揺らいでいる。いや、既に折れているのかもしれない。しかし亜紀はそれに気づいていない。

 もはや彼女の精神は正常に機能していない。彼女は自分の認識している現実と本当の現実の乖離に耐えられなくなっているのだ。

 

(私は特別な存在なのだ)

 

 亜紀の思考は堂々巡りを続ける。彼女にとってこの考えこそが最大の防衛策であり拠り所だ。

 それが崩れてしまったら、彼女は何者でもなくなる。それは彼女にとって死よりも恐ろしいことだ。

 

「……まだ壊れきっていないか」

 

 宗一郎が呟く。復讐者にとってはむしろ望ましいことである。まだまだ楽しめる。このアバズレが壊れきるまで延々と責め続けてやるだけのことだ。

 

「美和子。鞭の次は蝋燭だ。豚の体の毛を全て蝋で固めてやれ。腋も、腕も、脛も、全部だ。香織は固まったそれを引き剥がせ。豚のムダ毛を処理してやろう。美容というよりは食材の下ごしらえのようなものだが」

「はい、宗ちゃん」

「はい、御主人様」

「ふぐぅぅっ……!」

 

 悲鳴が響く。亜紀はこれから何をされるのかはわかっていた。これまで何度も繰り返されてきたことだ。しかしわかっていながら抗うことができない。ただ怯えながら待つだけしかできない。

 

(私は特別な存在だ)

 

 何度も何度も繰り返す。それだけが彼女にとって唯一の希望であり支えだった。それさえあれば乗り越えられると思っていた。だがその希望も今やすべて幻に過ぎない。

 彼女は既に壊れかけている。そしてこれからさらに壊れていく。

 

 それはもう決定事項のようなものだ。亜紀にはそれがわかる。わかっていても何もできない。何も変えられない。何も変えようともしない。彼女の頭の中では現実と妄想の区別すら曖昧になってきている。もうすぐ完全に壊れてしまう。そう感じている。

 

(私は特別な存在なの。私が特別な存在ではないとすれば……)

 

 亜紀の意識が朦朧としてくる。

 

(私って、一体何なの……?)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。