毒親に虐げられた青年は宝籤で大金を手に入れたので母親に復讐する話 作:葛轍偲刳
「動くなよ。動くと手元が狂うぞ」
宗一郎が冷酷に告げる。
手には銀色の針。垂れて下を向いた自分の乳房の先端にある乳首に、鋭く尖った針先が添えられている。
思わず息を飲む。唾を飲む。恐怖に身が竦む。
(嫌だ……)
拒絶の意志が脳裏に浮かぶ。だが口からは「ふぐっ……」という濁った呻き声しか出ない。轡が邪魔をして言葉を紡げない。轡を外されても、きっと何も言えないだろうけれど。恐怖と絶望で声が出ない。
「んぎ、いっ……!」
ツプリ、と針先が乳首に刺さる。
(痛い……!)
熱い鉄杭を打たれたような鋭い痛み。乳首の中心部を容赦なく貫かれる。
悲鳴を上げることすら許されない。歯を食いしばって耐えようとするが、全身が勝手に震えてしまう。
宗一郎は無表情に針を押し込む。赤い血が纏わりついた針先が反対側から出てくる。乳首が針に貫通される。鈍く光る金属の針が乳首を横に貫通し、左右から突き出ている。
(私の体が……)
自分の体がこんな扱いを受ける。道具のように扱われる。人間ではない。家畜だ。もう自分が人間ではないと認めざるを得ない。認めたくない。認めたくないのに。
続いて、もう一方の乳首にも同じことが繰り返される。
「ぎぃあぁ……っ!」
短い悲鳴が轡の隙間から洩れる。両方の乳首に金属の針が貫通した。
宗一郎は無感動に出血した乳首を見下ろしている。
「お前が人間の言葉を忘れる前に、家畜に相応しく名札をつけてやろうと思ってな。自分の名前を忘れても、きちんと思い出せるように」
淡々と宗一郎は告げる。
既に決まっていることを宣言するように。
「まあ、その時になっても文字が読めるほどの知能がまだ残っていればの話だが」
そして、残酷に付け足す。もう頭がおかしくなっているのではないかと馬鹿にする。
私はまだ正気だ。私は正気だ。正気だ。
「ふぐぅっ……」
否定の言葉も声にならない。
涙が溢れて止まらない。悲しいのではない。悔しいのでもない。ただ怖い。怖くて堪らない。
これから何をされるのだろう。
「香織、やれ」
「はい、御主人様」
そしてまた、膣孔のバイブが振動を始める。異物を入れられたままの膣孔はすっかり敏感になりきっている。
容赦の無い刺激に腰が跳ねる。
膣孔が蠢きながらバイブを締め付ける。痛いはずなのに。苦しいはずなのに。
なのに、気持ちいい。快感が背筋を這い上ってくる。
どうしてだ。どうしてこんなに感じる。乳首は痛いのに。なのにどうして。
「んぐぅっ! ぐうぅっ!」
喘ぎながら絶頂を迎えかける。だがそれより早くバイブのスイッチが切られる。
「ふごおぉっ!」
期待させられて寸止めを喰らった体が無様に痙攣する。
辛い。苦しい。あと少しでイケるはずだったのに。
どうして止める。どうしてイカせてくれない。
もっと欲しいのに。
(私……何を考えて……)
自分の思考に戸惑う。
バイブを動かして欲しいなどと。浅ましい。卑しい。
なのにまた体が疼く。もう一度動かして欲しいと願ってしまう。この浅ましい欲求を止められない。
それが何よりも恐ろしい。
「そんなに物欲しそうな顔をしない方がいいわよ、姉さん。まだ始まったばかりなんだから」
美和子が軽く鞭を素振りする。目の前を鞭の先端が通り抜け、風切り音が耳を掠める。
「ああっ!」
またバイブが振動する。少しだけだ。すぐにスイッチが切られる。目の前で宗一郎が自分を見下ろしている。冷酷な目は、徐々に正気を失っていく過程を冷ややかに観察している。
人間ではなく実験動物を観察するような目だ。
私はもう人間ではない。この男の実験動物に過ぎないのだ。
(嫌だ……)
拒絶の意志が再び脳裏をよぎる。だが同時に恐怖と諦観が込み上げてくる。このままでは自分は本当に壊れてしまう。もうすでに壊れかけている。これ以上壊れたら自分はどうなるのだろう。何になってしまうのだろう。
それでも何かが変わるかもしれないという期待が心の片隅に残っているのも確かだ。
現実逃避と破滅願望。相反する感情が入り混じりながら心の中でせめぎ合う。
しかし結局どちらを選んでも地獄しかないという事実に変わりはない。
いずれにしても絶望しかないのだ。
ならばもう何もかも諦めて楽になれればいい。楽になりたい。楽になりたい。
「ぶごぉおっ!」
再びバイブが動き始める。今度は長く続く。膣孔が痙攣しながらバイブを締め付ける。
痛いはずなのに。苦しいはずなのに。快感が背筋を這い上ってくる。また登り詰める。
あと少しでイケるはずなのに。
「―――」
視界が真っ白に染まる。
声にならない悲鳴を上げて全身を大きく痙攣させる。
涙が溢れ出して止まらない。
頭がおかしくなりそうだ。いやもうなっているのかもしれない。
もう何も考えたくない。
考えるということすら煩わしくなってくる。
「まだ終わりじゃないわよ、姉さん」
美和子が微笑む。その笑顔にはどこか嗜虐的な愉悦が滲んでいるように見えるのは気のせいだろうか。
「宗ちゃんがあなたみたいなゴミクズに遠慮してあげる訳がないでしょう? 私達二人でしっかり調教してあげるから覚悟なさいね」
その言葉通り、二人は交互に責めを続ける。乳首への針やバイブによる刺激だけではない。
時には鞭で打たれる。
時には溶けた蝋燭の蝋で肌を焼かれる。
時には大量の水を飲まされる水責めを受ける。
時には電気ショックを与えられる。
何度も何度も繰り返し行われる拷問じみた行為。だがそれらすべてを受ける度に感じてしまう自分自身の身体への嫌悪感と共に湧き上がる新たな欲求。
もっとしてほしい。
もっと酷くしてください。
もっと私を苦しめてください。
(いや……違う……)
私は望んでいない。誰もこんなこと望んでなんかいない!
強烈な自己矛盾に苛まれながらも肉体的には反応してしまう自分が憎らしい。恥ずかしいと思う反面、どこかで快感を感じてしまっているという事実は否定できない事実として目の前に突きつけられる。
「ぐぅっ……」
口枷越しに嗚咽のような喘ぎ声が出る。同時に涙も流れる。感情が抑えきれず溢れ出す感覚はあるものの、それが本当に悲しみなのか恐怖なのか喜びなのかよく分からない。
嫌だ。やめろ。やめて。
「なんだ、やめて欲しいのか」
当たり前だ。誰がこんな扱いを望むものか。
「いいのか? 放っておかれて本当にいいのか?」
宗一郎の声が嘲り笑う。
「お前はここで、ずっと独りで放置される。誰も来ない。誰もお前を相手にしない。水と食料は補充してやろう。汚物の掃除くらいはしてやろう。だが、それだけだ。そうやって数週間、数か月。ずっと独りで放っておかれる。――…なあ、今の状況とどっちがマシだ?」
「――!?」
延々と続くこの苦痛と、延々と放置される孤独感に苛まれる未来と。どちらがより耐え難いのか。
「答えは簡単だ。どっちも地獄だ。でも、俺は優しいからな。まだ楽しませてやる」
「ふぐぅ……!」
「お前が壊れるまでな」
宗一郎は笑う。美和子も笑う。二人共が楽しそうに嗤っている。それがまた腹立たしいはずなのに、何故か安心してしまう自分自身に戸惑う。
だって、まだ自分には相手をしてもらえるだけの価値があるから。無視されないと言うだけで嬉しい。
(馬鹿みたい)
涙が止まらない。
笑いすぎて。
哀れすぎて。
――……天野亜紀の精神は、すでに人間の形を留めていなかった。ただ肉体だけが存在していた。そしてそれすらも失われつつあった。
ただ一つだけ確かなことがあるとすればそれはこの行為の先に待ち受けているものが更なる苦難であることだろう。それは誰にとっても平等に訪れる終わりなのかもしれない。