謝ったら何をしても許される世界で俺は 作:奥野細道
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二限目の教授がなにを喋ってるのかまったく頭に入ってこない。
いや、入ってこないというか、入れる気がない。
俺の脳内ではもう既に「カラオケ個室」というステージが組まれていて、そこで何をするか、どの順番で何を試すか、ぼんやりした手順書みたいなものが繰り返し再生されている。
寧の太もも、寧の肩、寧の首筋──試すといってもまあ、そら、ガッと胸を揉むとかそんな乱暴な事はしない。
あくまで穏便に、軽く触れて向こうが「えっ」となったところで「ごめん!」──作戦はそんなところだ。
良心につけこんでいる様で嫌になるが、まあ実際つけこんでいるんだが、寧ならまさか警察沙汰には……いや、わからん。
とにかくいきなりハードな事はやめておこう……。
まあさぐりさぐりって感じにするか。
どっちに転んでも、得るものはある。
あるよな?
うーん。
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と、言う事で駅前のチェーン系のカラオケに到着。
『激カラ館』という全国チェーン店で、値段は普通。でも内装は総じて暖色系というか──まあその辺は店の
「さて、じゃあ奢ってくれるって約束だったよね? ポテトとからあげと、あとドリンクバーで!」
「うん、奢る奢る」
寧は慣れた手つきでデンモクをいじって、いきなり一曲目を入れた。最近のアニソンで、わりと高音の曲。前奏が流れるあいだ、寧はマイクを軽く叩いて音量を確かめている。
俺は隣のソファで、ドリンクバーから持ってきたコーラを舐めながら寧の横顔を見ていた。
……うん、まあ、可愛いっちゃ可愛いんだよなあ。
歌はまあ普通に上手い。
一曲終わって、寧がマイクを置いて言った。
「次良介の番でしょ。なんの曲なの、その気になってるってやつ」
「あ、ああ。えーと」
俺は咄嗟にデンモクをいじる振りをして、適当に最近のアニソンを入れた。実のところ、特に練習したい曲なんてない。ぜんぶ口実だ。
前奏が始まる。スピーカーから、聞いたことあるようなないような、平均値の高そうなメロディが流れ出す。
今だ、と俺は思った。
◆
歌う気はなかった。
俺はソファの上で、さも自然に寧の方へ少しだけ身体を寄せた。寧は「ん?」という顔で俺を見る。視線が合う。
──さあいくぞっ
内心で鼓舞して俺は右手をそっと、寧の太ももの上に置いた。
体温がてのひらに伝わる。
寧は──ぴたっと固まった。
マイクを持ったまま唇を半開きにして、俺の手を見て、それから俺の顔を見て、また俺の手を見ている。室内にはまだアニソンの前奏が流れていて、それがやたらと長く感じる。
──これは。
書店のときと同じ気配がする。
叫ばれる前に謝ろう。許してくれたらこの先にいく。許してくれなかったら──只管謝る!
「ご、ごめ……」
「……そういうことがしたかったんだ?」
謝ろうとした瞬間、寧に遮られた。
口元がふっと崩れて、悪戯っぽい笑みになっている。
なんだその顔。
なんだその、やけに可愛い顔は。
一瞬、本当にほんの一瞬、俺は自分がさっき何をしようとしていたのかわからなくなった。ルールがどうとか、検証がどうとか──
この小悪魔みたいな笑みが俺の思考を上書きしてしまったように思える。
寧は笑みを残したまま、すこしだけ顔を傾けて続けた。
「私もさあ、その、初めてはやっぱりちゃんとしたいし」
「……は?」
「今はこれだけで許してね」
寧の顔がふっと近づき──。
俺の右の頬に湿った何かが触れた感触があって、すぐに離れた。