ご主人様とロクサーヌさんの葬儀が終わった。弔問客の対応に追われ、悲しむ暇もないほどの慌ただしい十日間がようやく過ぎ去った。突然できたこの暇な時間に、私は自分の半生と、ご主人様との日々を思い返していた。
ご主人様の身体の変化を究明するための記録作成と分析、それが研究者としての私の始まりだったな。あのときは本当に慌てた。私たちはまだ若く、未熟だった。ご主人様のアソコが大きくなっているかもと騒いだ。ロクサーヌさんはさておき、体の大きなベスタにはたしかにそれが嬉しかったのかもしれない、なんて思い返す。でも、判明するまでは大きくなったんだしそれで良いじゃないかと笑い飛ばせる、今となっては。
「モノのついで」から始まったことだが、アソコのサイズの他にもさまざまな記録をとり分析してきた。ご主人様の特殊な能力、とくに「鑑定」は公にできないから、論文を書くのは本当に苦労したよ。鍛冶師として、隻眼として、スキル結晶融合のことも後進に伝えたいから、どうしたらいいかすっごく悩んだよ。
結局、ロクサーヌさんは奴隷のままでいたいと強く望み、ご主人様はそれに根負けし、表向きには独身者のままハルツ公爵家から養子を迎え入れ「ミオ」と改名させ、二人で立派に育て上げた。もちろん彼の初陣は盗賊討伐。
ロクサーヌさんは、もしもの時には殉死するために奴隷解放を望まなかったんだと思う。一番奴隷ロクサーヌはそういう人だ。それが彼女流の忠義だ。
5年前、ご主人様が病で伏せてから、副領主格としての私の仕事すべてを当時は領主代行だったミオ様とその家臣団に受け渡し、ロクサーヌさんと共にご主人様の介護と、研究者としての生活をしてきた。
ミリアは商会のすべての権限を近いうちにミオ様に譲り、釣り三昧の生活をすると言っている。
ご主人様は遺言で、当初の約束通り旧セルマー伯領をルティナの実家アンセルム家にお返しするとしていたので、ルティナはそちらで隠居生活を送るつもりらしい。
ベスタは既に10年前「団長」を退き、それからは騎士団員相手に木剣を振ったり、若手団員を引き連れて迷宮低層に入る毎日だ。
さて、私はこれからどうしようか。ご主人様が亡くなった今、隠していた論文を世に出してもいいかもしれない。ジョブのこと、レベルのこと、スキルスロットのこと…… 内密にしていたことがいっぱいある。ははは、どうしよう、涙が溢れて止まらない。
「セリー姉様、いらっしゃいます!?」ノックもなく扉が開く。
「ルティナ、ノックくらいしなさい」と私は涙を拭きながら彼女をたしなめる。
「お姉様、ご主人様の本を書いてらしたでしょ、あれを出版しましょう」とルティナ。
「えっ? 帝国解放会の資料室にいれるような内容じゃないよ。ご主人様が主人公の、子供向け物語だよ」
「だからこそ出版するのです。ご主人様の偉業を世に知らしめ、ミチオ・カガの名を歴史に残すのです」
「出版社と交渉するのは面倒だし、カガ家に伝わればいいよ」
「ミリア姉様に指示を出して下さい。ミリア水産には魚料理のレシピを印刷発行する部署があります。そこで作らせましょう」
「ルティナよ、隠居すると言ってたあの言葉はどうした?」と私は独りごちる。
なんだかんだで話は進み、毎日堤防で餌もつけずに釣り糸をボーっと垂らしていたミリアも元気になった。
「ルティナ! 良い考えです! お姉ちゃんに任せなさい!」と張り切っている。実は隠れて「海釣り入門」を書いていたらしい。それも一緒に出版するつもりだとか。
ばたばたと仕事をしていると、悲しい気持ちが少し紛れる。そしてついに「英雄ミチオの迷宮討伐物語」が刊行。ブラヒム語の教材になるようにも整えてあるので、手習所や領内の子どものいる家庭に無料で配布した。
ベスタが「私も本を出したい」とミリアにねだるけれど、ミリア水産はもう既にミオ様に譲渡済み。
するとルティナが「わたくしがセルマー商会を立ち上げます。お姉様方、出したい本があればわたくしが引き受けますわ」と宣言し、「今回ミリア水産から出版したのはあくまでも物語。ですから別に公式記録として『ミチオ・カガ活動記録』を編纂して後の世に残しましょう。セリー姉様が長年まとめたご主人様の記録を元に、編纂するのです」と続けた。私は「その話、乗った!」と即答。そして「スキルスロットに関する一考察」もルティナに出版してもらうことにした。論文と言えるほどのものではないし、仮に帝国解放会に収めても多くの鍛冶師には届かないだろう。あれは皆の目にとまってこそのものだ。渾身の一作「ジョブ獲得法」はルティナに製本までをしてもらい、帝国解放会に収めよう。
ベスタは家庭菜園の本を書きたいと言っている。騎士団に入ってからも、暇を見つけては庭で畑仕事をしていたからね。
「わたくしはご主人様から教えていただいたお料理をまとめます。名付けて『食い道楽のレシピ集』!」とルティナ。
ご主人様、素晴らしい人生と仲間を与えてくださり、ありがとうございました。
ロクサーヌさん、私たちは新しいことを始めました。私たちの誰かがそちらに参りますその時まで、ご主人様を独り占めにしていていいですからね。
(完)
読んでいただきありがとうございました。
私は蘇我捨恥先生による「異世界迷宮で奴隷ハーレムを」 https://ncode.syosetu.com/n4259s/ という作品が大好きです。
そして、この作品の二次小説も好きで、なかでも続きません先生による「私の名はセリー」 https://syosetu.org/novel/252636/ と、龍いち先生による「ロクサーヌの想い」https://syosetu.org/novel/281004/ が大好きです。
私も「異世界迷宮で奴隷ハーレムを」の世界観と登場人物を使い二次小説を書いてみたいと、ずっと頭の中で妄想していました。
また、蘇我先生の原作ではまだ出てきていない「最終回」や「登場人物達のその後」についても勝手に妄想を膨らませていました。
で、エイヤッと一気に書き上げたのがコレです。
他者の着想や形式を借用してばかりで恥ずかしいのですが、書いたからには見てもらいたいという欲求もあるので、ここに投稿させていただきました。
原作と整合性が取れていない箇所もあるかと思います。誤字脱字もあることでしょう。大目に見ていただければ幸いです。
決定的に「駄目」な所があれば、速やかに全文を削除いたします。