物心がついたころから、父上はときどき妙なことを私にさせた。
最初は、それが妙なことだとも思っていなかった。
父上がやれと言う。
母様たちも一緒にいる。
だからやる。
小さいころは、それだけだった。
◇
「ミオ。これ、採ってみるか?」
父上が指したのはキュピコだった。
「これ?」
「うん」
私は手を伸ばした。
一つ採る。
父上を見る。
「もう一個」
もう一つ採る。
「もう一個」
三つ目。
父上が私をじっと見た。
その横でセリー母様も私を見ている。
「どうですか?」
「まだ。まあ、村人がLv5になってないからねぇ」
「ですよねぇ」
二人で納得していた。
何の話か分からない。
「もっと採る?」
「いや。もういい」
「もういいの?」
「うん」
それだけのために畑へ来たらしい。
と思ったら、父上が鍬を持った。
「せっかく来たんだから、一日手伝っていくか」
帰れなかった。
父上とベスタ母様と一緒に畑で働いた。
草を抜いた。
水を運んだ。
土を掘った。
籠を運んだ。
ベスタ母様は大きな籠を軽々と持った。
私は両手で持っても重かった。
「重い」
「ミオにはまだ大きいですね」
ベスタ母様が笑う。
「こうやって、膝を使うんです」
真似してみた。
やっぱり重い。
「重い」
「それはそうですよ」
また笑われた。
父上も普通に鍬を振っていた。
昼には手が痛くなった。
夕方には足も痛くなった。
「つかれた」
「だろうな」
「毎日やるの?」
「農家の人はな」
「大変」
「大変だな」
父上は、それ以上のことは言わなかった。
帰りの馬車で、
「まあ、一回くらいやっとけばいいだろ」
と言っただけだ。
何を一回くらいやっておけばいいのか。
畑仕事なのか。
最初にキュピコを三つ採ったことなのか。
そのころの私には分からなかった。
◇
魚屋にも連れていかれた。
ミリア母様の店だった。
「ミオ、今日はこれを売ってみて」
魚を一匹渡された。
「お魚?」
「そう。値段はこれね」
教えてもらった。
お客が来た。
魚を指した。
「これをください」
「はい」
お金をもらう。
魚を渡す。
「ありがとう、ございました」
父上が私を見る。
まただ。
「どうですか?」
セリー母様が聞く。
「やっぱりまだ。村人がLv5になってからだな」
「でしょうね」
また二人だけで分かっている。
「もう一匹?」
「一匹でいいよ」
父上が言った。
本当に一匹だけだった。
なのに、その日は夕方まで店にいた。
ミリア母様から、水産業のことをいろいろ教えてもらった。
魚を獲るところから、港へ揚げ、運び、店に並べて売るところまで。
人を雇うこと。
品物を仕入れること。
売れ残れば損をすること。
お金を受け取り、支払い、最後にいくら残るのか。
小さい私には分からないことも多かったけれど、ミリア母様は一つずつ教えてくれた。
でも、魚を一匹売ったことより、その日のことの方をよく覚えている。
帰るとき、父上が言った。
「商売も面白いだろ」
「うん」
「ミリアはすごいんだぞ」
「知ってる」
ミリア母様が笑った。
父上も笑った。
最初の一匹以外は、普通の教育だったのだと思う。
たぶん。
◇
自爆玉を使ったことは覚えていない。
養子に来る前に済んでいたそうだ。
父上がそれを気にしたのは、私が父上の家で暮らし始めてしばらくしてからだった。
「ミオ、自爆玉は?」
「覚えてません」
「だよな」
父上がルティナ母様を見る。
「ルティナ、分かる?」
「確認してみます」
後で聞いたところでは、養子に来る前に一度使っていたらしい。
「では、問題ありませんね」
「うん」
それで終わった。
何がいいのかは、やっぱり分からなかった。
◇
剣はロクサーヌ母様から教わった。
「魔物が何をしてくるかは見ていれば分かりますから、頭がフッと動いたときに、それにあわせて、こう体をハッと引けばいいのです」
分からなかった。
「フッと?」
「はい」
「ハッと?」
「はい」
ロクサーヌ母様がやってみせた。
速すぎて分からない。
もう一度やってもらった。
やっぱり分からない。
父上を見る。
父上は私から目をそらした。
「父上」
「俺も昔、同じようなことを言われた」
「分かった?」
「分からなかった」
安心した。
「ミオ。少しゆっくりやりましょう」
ベスタ母様が助けてくれた。
「相手が剣を振る前には、肩や腕が先に動きます。そこを見てください」
ゆっくり剣を振ってくれる。
今度は見えた。
「見えた」
「では、剣が来るところから体を外します」
やってみる。
「そうです」
何度か繰り返した。
「これを速くやれば、ロクサーヌさんの言う『ハッと』になります」
なるほど。
ロクサーヌ母様を見る。
「そうです。ハッとです」
とても満足そうだった。
「セリー母様は分かっていたの?」
「いいえ。私も昔、同じように教えていただきました」
「どうでした?」
「ご主人様を見ました」
父上が何も言わずに横を向いた。
◇
少し大きくなると、父上が何か企んでいるのが分かるようになった。
何を企んでいるのかまでは、まだ分からなかった。
「父上」
「何?」
「村人にもレベルがあるんですか?」
父上とセリー母様が止まった。
「どうして?」
「父上、私を見て『まだLv3』って言ってた」
「聞いてた?」
「聞こえました」
セリー母様が少し困った顔をした。
父上は頭をかいた。
「探索者にはレベルがあるだろ」
「はい」
「村人にもある」
「商人にも?」
「ある」
「農夫にも?」
「ある」
「どうして父上には分かるの?」
そこで父上は黙った。
セリー母様も何も言わない。
「秘密?」
「秘密」
「私にも?」
「まだ」
まだ、らしい。
その日から、父上とセリー母様が何を話しているのか、少しだけ分かるようになった。
全部ではない。
でも、私に何かをやらせたあとに二人が数字の話をしているなら、たぶんジョブの話だ。
それだけは分かった。
◇
滝にも打たれた。
白い服を着せられた。
水が冷たかった。
「ちゃんと集中するんだぞ」
父上が言う。
「どうやって?」
「何も考えない」
「寒い」
「それを考えない」
無理だと思った。
滝の下に入る。
冷たい。
痛い。
うるさい。
何も考えないどころではない。
寒い。
冷たい。
痛い。
寒い。
冷たい。
痛い。
そのうち、本当に何も考えられなくなった。
滝から出た。
体が震える。
「ミオ」
ロクサーヌ母様がすぐに大きな布で包んでくれた。
「冷えましたね」
髪を拭かれる。
そのまま抱き寄せられた。
暖かい。
ロクサーヌ母様はとても暖かい。
ただ、顔が大きな胸に押しつけられるのは、少し困る。
もっと小さいころなら、何とも思わなかった。
今は少し恥ずかしい。
でも、離れると寒い。
黙っていた。
「どうですか?」
セリー母様が父上に聞く。
父上が私を見る。
「出た。神官Lv1」
「確認できましたね」
セリー母様は紙に書く。
ロクサーヌ母様は私の髪を拭く。
「よく頑張りましたね、ミオ」
頭を撫でられた。
やっぱり少し恥ずかしい。
でも、悪くなかった。
◇
迷宮には、なかなか連れていってもらえなかった。
これは不思議だった。
剣を習わせる。
体も鍛えさせる。
滝行までさせる。
なのに魔物は倒させない。
「父上。迷宮に行きたい」
「まだ駄目」
「なんで?」
「まだ」
「いつ?」
「そのうち」
ずっと、そのうちだった。
母様たちは迷宮へ行く。
父上も行く。
私は留守番だ。
貴族なら、いずれ迷宮へ入る。
領内の迷宮を討伐するのは貴族の責務だ。
それなのに、父上は私に魔物だけは倒させなかった。
理由が分かったのは、初陣の日だった。
◇
「ミオ。今度の盗賊討伐に行くぞ」
父上が言った。
「私も?」
「うん」
耳を疑った。
迷宮は駄目なのに、盗賊はいいらしい。
ロクサーヌ母様も行く。
セリー母様も行く。
ベスタ母様も行く。
父上もいる。
出発前、父上が一本の剣を渡してきた。
大きな剣だった。
父上が使っているのを見たことがある。
「これ使え」
「父上の?」
「今日はな」
持ってみる。
大きいのに、妙に扱いやすかった。
「軽い」
「そうだろ」
父上が少し笑った。
その剣の名前を、私はまだ知らなかった。
「一人は自分で倒せ」
父上が言った。
「分かりました」
「危なくなったら俺たちが助ける。でも、とどめは自分で」
いつもより念を押された。
戦いになった。
怖かった。
ロクサーヌ母様みたいに、フッと来たらハッと、などと考える余裕はなかった。
ベスタ母様に言われたとおり、肩を見る。
相手が振る。
外へ動く。
剣を振る。
手応えがあった。
盗賊が倒れた。
人だった。
動かなくなった。
手が震えた。
父上がすぐに来た。
「ミオ」
「……はい」
「大丈夫か?」
「はい」
答えたけれど、手の震えは止まらない。
ロクサーヌ母様もそばへ来た。
「ミオ」
頭に手を置かれた。
「よく頑張りましたね」
「……はい」
それから父上が、いつものように私を見た。
「……よし!」
父上が声を上げた。
セリー母様がすぐに振り向いた。
「ご主人様?」
「英雄。Lv1」
セリー母様が目を見開いた。
「本当に?」
「うん」
父上がすごくうれしそうだった。
私はまだ、少し震えている。
「父上」
「何?」
「どうして喜んでるの?」
「ああ」
父上が少し困った顔をした。
そして、ようやく教えてくれた。
父上も、最初に倒した相手は盗賊だった。
そのあと、英雄というジョブを取得した。
初代皇帝にも、初陣で盗賊を討ったという伝説がある。
だから私にも、最初に盗賊を倒させた。
「それで迷宮に連れていってくれなかったの?」
「先に魔物を倒したら、取り返しつかないかもしれないだろ」
「ずっとこれを待ってたの?」
「まあな」
父上は、何年も前から私の初陣を決めていたらしい。
「ご主人様」
セリー母様が言う。
「これで、ご主人様とミオ。少なくとも二例になりましたね」
「初代皇帝も入れれば三つ」
「そちらは伝承です」
「そうだった」
二人とも、もういつもの調子に戻っている。
セリー母様が私を見る。
「ミオ。英雄のことは、人には話さないでください」
「どうして?」
「英雄は初代皇帝が就いたとされるジョブです。持っていることが知られれば、謀反の意思があるのではないかと疑われる可能性があります」
「謀反?」
「皇帝に背くことです」
私は父上を見る。
「父上も秘密なの?」
「ジョブはな」
「でも、父上は英雄って呼ばれてるよ?」
「そっちは別」
セリー母様が少し笑った。
「ご主人様は陛下とも親しくしておられますし、師兄とまで呼ばれる間柄です。御親征でも、陛下の露払いを務めておられます。ご主人様を『英雄』と称すること自体は、今さら問題にはならないでしょう」
「でも、ジョブが英雄なのは?」
「秘密です」
「ややこしい」
「ややこしいな」
父上もそう思うらしい。
父上と同じ秘密が一つ増えた。
それは少しだけ、うれしかった。
◇
次の日。
「迷宮行くか」
父上が言った。
「行く!」
即答した。
今度は止められなかった。
◇
初めての迷宮は、思っていたより暗かった。
もっと特別な場所だと思っていた。
普通に壁がある。
普通に床がある。
そこに魔物が出る。
セリー母様が剣を持っていた。
普段見るものとは少し違う。
「その剣、何?」
「スキルを融合してあります」
セリー母様が言った。
「今日は、ミオが倒しやすいように加減します」
コボルトが出た。
セリー母様が斬る。
倒さない。
私を見る。
「ミオ」
「はい」
剣を振った。
倒した。
父上が私を見る。
「Lv4」
「もう?」
セリー母様が言った。
「早いな」
そのまま進んだ。
次の魔物も倒す。
もう一匹。
何匹目だったかは覚えていない。
コボルトを倒したところで、父上が止まった。
「Lv5」
セリー母様が父上を見る。
「では?」
父上が私を見たまま、笑った。
「いっぱい出た」
「何が?」
父上が指を折る。
「農夫。商人。魔法使い。森林保護官……」
セリー母様が紙に書く。
父上が読む。
セリー母様が書く。
二人とも楽しそうだ。
「小さいころにやったこと、まだ残ってたんだな」
父上が言った。
「やはり、条件を満たしてから時間が経っても問題ないようですね」
セリー母様が書き足す。
そこで、やっと分かった。
キュピコ。
魚屋。
自爆玉。
あれは全部、このためだったのだ。
「父上」
「何?」
「最初から?」
「うん」
何年も前からだった。
「まだある?」
聞いてみた。
「ある」
父上が言った。
「じゃあ、次は?」
「それは帰ってから」
父上が楽しそうに笑った。
その顔を見て、私は初めて思った。
父上は、これを楽しんでいる。
私も少し楽しくなってきた。
◇
迷宮へ入るようになってから、ジョブはさらに増えた。
戦士。
剣士。
父上が私を見る。
「出た」
セリー母様が書く。
また父上が見る。
「こっちも出た」
セリー母様が書く。
何をすれば何になるのか、私にも分かるものが増えてきた。
「次は素手で」
「僧侶ですね!」
思わず声が出た。
父上が残念そうな顔をした。
「知ってた?」
「知ってます」
「そうか」
「もう私も小さくありません」
「そうなんだよな」
魔物をぎりぎりまで弱らせてもらった。
殴った。
一発で倒れた。
拳は痛かった。
「僧侶Lv1」
父上が言う。
「やった」
今度は私もうれしかった。
◇
「今日は石鹸を作る」
「錬金術師」
「……もう分かる?」
「分かります」
父上がまた残念そうな顔をした。
材料を量る。
混ぜる。
火加減を見る。
父上が横から口を出す。
セリー母様が記録する。
出来上がったところで、父上が私を見る。
「錬金術師Lv1」
「やっぱり」
「つまらないな」
「何がですか?」
「先に当てるから」
父上は本当に残念そうだった。
「父上」
「何?」
「これ、楽しいんですか?」
父上が黙った。
セリー母様が笑った。
「ご主人様は、ご自分だけでなく、私たちにも取れるジョブをずいぶん取らせておられますから」
「取れるものは取っといた方がいいだろ」
「私、一つしか使えませんよ」
「取るだけならいい」
それで分かった。
実験だけではない。
父上は集めたいのだ。
私のジョブも。
◇
それからは、何かをやらされるたびに、何のジョブなのか考えるようになった。
当たることもあった。
外れることもあった。
父上しか知らない条件もあった。
セリー母様が、
「ご主人様。今度はこれをミオに試していただけませんか」
と言うことも増えた。
父上は私を見る。
「出た」
セリー母様が書く。
「出ない」
セリー母様が書く。
「まだLvが足りないかな」
セリー母様が書く。
このころには、私も何をされているのか分かっていた。
嫌ではなかった。
むしろ、
「次は何?」
と聞くこともあった。
◇
勉強もした。
これはジョブとは関係なかった。
たぶん。
家庭教師から算術を習った。
土地の広さを測る。
建物の高さを求める。
直角を作る。
測量もする。
父上は、それとは少し違うことを教えた。
分からない数を文字にする。
二つの式から二つの数を求める。
数字を並べて表にする。
点を打って線で結ぶ。
「これは?」
「グラフ」
「何に使うんですか?」
「いろいろ」
父上の説明は、こういうところだけ雑だった。
セリー母様は横で、
「その方法はどこの学問ですか?」
と聞いた。
「師匠のところ」
父上が答える。
また師匠だ。
父上の師匠は、剣も教え、算術も教え、どうやら何でも知っている人だったらしい。
便利な人だと思う。
◇
父上がいる間、私のジョブはよく変わった。
今日はこれ。
迷宮ではこれ。
今度はこっち。
父上は簡単に変える。
私にはできない。
父上のように、いくつものジョブを一度に使うこともできない。
私が使えるのは一つだ。
ある日、聞いてみた。
「父上」
「何?」
「最後は何にするんですか?」
「何が?」
「私のジョブ」
父上が考えた。
「英雄でいいんじゃないか?」
「秘密なんですよね?」
「あ」
忘れていたらしい。
セリー母様がため息をついた。
「領主になるのでしたら、騎士系がよろしいのではありませんか」
「聖騎士とか?」
父上が言った。
「ハルツ公も聖騎士だったし」
「ハルツ公と同じ?」
「強いぞ」
理由はそれだけらしい。
でも、悪くないと思った。
領主になれば迷宮にも行く。
領民を守ることもある。
「じゃあ、それでいい」
その場では、そんなふうに決まった。
本当に最後まで聖騎士にするかどうかは分からない。
父上がまた珍しいジョブを見つけたら、きっと試したがる。
「でも、それまでに取れるのは取るぞ」
やっぱり言った。
◇
何年か後。
セリー母様が書いている原稿を見せてもらった。
『ジョブ獲得法』
まだ完成していない。
読んでいると、知っている話がたくさん出てきた。
私がやったことも出てきた。
名前は書いていない。
父上のことも書いていない。
父上がどうやって分かったのかも書いていない。
英雄のことも、もちろん書いていない。
でも、私には分かる。
「あ。これ、私ですね」
「どれです?」
「これ」
「さあ」
セリー母様は知らないふりをした。
「こっちも」
「似た例はほかにもあります」
「これは絶対に私です」
「証拠はありますか?」
ない。
ずるい。
ページをめくる。
父上が私にやらせたことが、立派な文章になっていた。
不思議だった。
私はただ、父上に言われてキュピコを採っただけだ。
魚を一匹売っただけだ。
滝に打たれた。
石鹸を作った。
料理も作った。
魔物を殴った。
毒針を投げた。
魔物のドロップ品を拾った。
父上はそのたびに私を見ていた。
私には見えないものを見ていた。
セリー母様は、それを全部書いていた。
「父上」
「ん?」
「すごいですね」
「何が?」
父上が本当に分からない顔をした。
「父上には、人のジョブとレベルが見えるんでしょう?」
「ああ」
「私は見えません」
「そうだな」
「セリー母様も見えない」
「はい」
セリー母様が答えた。
「父上は、神殿に行かなくてもジョブを変えられる」
「うん」
「私にはできない」
「そうだな」
「なのに、こうやって本にできるくらい分かったんですね」
父上がセリー母様を見る。
「セリーがすごいんじゃないか?」
「父上もすごいです」
「そう?」
「はい」
父上が少し照れた。
珍しい。
「ただし」
セリー母様が原稿を閉じた。
「この本に書けるのは、普通の人でも利用できることまでです。ご主人様と同じことができるようになる本ではありません」
「それはそうだな」
父上が言う。
普通の人は、父上のようにジョブを見ることはできない。
自由に変えることもできない。
神殿で転職して、そこで新しいジョブを授かる。
それでも、何をすればどんなジョブを取れるのか分かっていれば、できることは増える。
父上にしか見えなかったものが、セリー母様の文字になって残っていく。
「父上」
「ん?」
「ほかにもありますか?」
「何が?」
「私が取ってないジョブ」
父上の顔が変わった。
「ある」
即答だった。
セリー母様が新しい紙を出した。
やっぱり。
これは教育で。
実験で。
父上の収集でもある。
私は一つしか使えない。
いつかは一つに決める。
たぶん聖騎士。
でも、その日までは。
「次は何をするんですか?」
父上が笑った。
私も少し笑った。
もうしばらく、父上の収集癖に付き合ってもいいと思う。