ゴミ捨て場に捨てられていたエッチなフィギュア直したら、女神様にチート能力もろた 作:パコール・レオンハート
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光が収まり、俺の意識が現実へと引き戻される。
目を開けると、そこはいつもの見慣れた六畳一間。もはや実家のような安心感すら覚える光景だ。
「はぁ……」
深い深いため息が漏れる。えっちな異世界巡りもこれで何度目になるだろうか。フェラチオ、クンニ、レイプ、業務セックス、強制ハーレム……。思い出すだけで吐き気がする。
俺が望んだのはただ好きな子とイチャイチャするだけの、甘くて平和な世界だったはずだ。それなのに、どうしてこうも地獄ばかり巡る羽目になるのか。
体を起こすと、頭の中に新しい世界の名前が浮かび上がってきた。
──『ここは異世界、クラシック』
「クラシック……?」
音楽か? それとも古典的な、という意味か? これまでのふざけた名前に比べれば、随分とまともな響きだ。不穏な感じはしない。
だが、油断は禁物だ。俺は何度も裏切られてきた。名前がまともだからといって、世界がまともである保証はどこにもない。
「……まずは調査だ」
俺はベッドから這い出すと、すぐさまパソコンの電源を入れた。この世界にどんな狂った法律や常識が待ち受けているか、徹底的に調べてやる。
検索エンジンにあらゆるキーワードを打ち込んでいく。「法律」「条例」「変わった風習」「男女関係」「常識」……。
しかし。
「……あれ?」
いくら調べてもおかしな法律は見つからなかった。公衆の面前での性行為を推奨するような条例もなければ、特定の性行為を義務付ける法律もない。純愛が罪になるなんて馬鹿げた話も感謝を暴力で示すなんていう狂った慣習もどこにも書かれていなかった。
「おかしい……何もない」
俺は混乱した。これまで転移した世界はどれも検索すればすぐにおかしな点がボロボロ出てきた。だが、この『クラシック』という世界は俺が元いた世界と何ら変わらない、ごく普通の日本社会のように見える。
「まさか……ついに来たのか……?」
淡い、本当に淡い期待が胸に芽生える。
もしかしたらここは本当に「当たり」の世界なのかもしれない。
俺は半信半半疑のまま、数日間を過ごしてみることにした。
朝起きて、会社に行く。デスクでパソコンに向かい、時々上司に怒鳴られる。昼は同僚と食堂で当たり障りのない話をし、夜はスーパーで買った惣菜で夕食を済ませる。
それはあまりにも普通で、退屈で、そして……何よりも平和な日常だった。
誰も俺に精液をねだったりしない。クンニを強要してくる女もいない。感謝の印にレイプしなければならないわけでもない。会社の同僚とセックスする必要も複数の女を平等に愛する義務もない。
一週間が経つ頃には俺の心は完全に決まっていた。
「最高だ……! この世界、最高だ!」
俺は自室で一人、ガッツポーズをした。ついに辿り着いたのだ。俺が求め続けた、ただの日常に。えっちな要素は何もないが、そんなものはもうどうでもよかった。あの地獄の日々に比べれば、この退屈な日常こそが天国だ。
俺はもう二度と転移しない。この世界で骨を埋める。そう固く心に誓った。
そんなある日の、穏やかな休日の昼下がりだった。俺がTシャツとスウェットというだらしない格好でテレビを見ていると、アパートのドアのインターホンが鳴った。
ピンポーン。
「ん? 誰だ……?」
宅急便の予定はない。訝しみながらドアを開けると、そこには一人の女性が立っていた。
明るい茶色のショートカット。ぱっちりとした大きな瞳。モデルのようにすらりとした手足。Tシャツにショートパンツというラフな格好だが、それでもわかる抜群のスタイル。とんでもない美人だった。
「えーっと……どちら様で?」
俺が尋ねると、彼女は少しむっとした顔で口を尖らせた。
「なによ、その反応! 私だよ、私! 奈々未!」
「奈々未……?」
知らない名前だ。俺が首を傾げていると、奈々未と名乗る彼女は呆れたようにため息をついた。
「もう! 何年経ったと思ってんのよ! あなたの幼馴染の、桜井奈々未! これでわかった!?」
「お、幼馴染……!?」
全く記憶にない。だが、この異世界では俺の知らないところで勝手に設定が追加されていることがよくある。どうやらこの世界での俺には桜井奈々未という美人の幼馴染がいたらしい。
「ご、ごめん! 久しぶりだからちょっとわからなかった!」
「まったく……。まあいいわ。それより、今日から私、ここの隣に引っ越してきたから。これ、引っ越しの挨拶」
そう言って彼女が差し出してきたのは有名洋菓子店のクッキーの詰め合わせだった。
「え、隣に!? マジで!?」
「そうよ。偶然ね。これからまた、よろしくね」
奈々未はにかっと笑った。その笑顔は太陽のように眩しかった。
(美人でスタイルのいい幼馴染が、隣に引っ越してくる……だと……?)
これはラノベやギャルゲーで百万回は見たことのある、王道中の王道展開ではないか。
俺の心臓が、これまでとは全く違う意味で高鳴った。
狂った性癖の世界はもう終わったのだ。これからはこんな風に甘酸っぱいラブコメが始まるのかもしれない。
「ああ! よろしくな、奈々未!」
俺は最高の笑顔で彼女の手を握り返した。
◆
奈々未との新しい日常は想像以上に素晴らしいものだった。
「ちょっと! いつまで寝てんのよ! 朝ごはん作ったんだからさっさと食べに来なさい!」
朝は奈々未が合鍵を使って部屋に乗り込んできて、俺を起こしてくれる。そして、食卓には美味しい朝食が並んでいるのだ。
「うまっ! 奈々未、料理上手いんだな!」
「そ、そう……? まあ、当たり前でしょ……」
褒めると顔を赤くしてそっぽを向く。いわゆるツンデレというやつだ。可愛すぎる。
会社から帰れば、部屋の電気がついている。
「おかえり。夕飯できてるわよ」
「ただいま! え、毎日作ってくれるのか!?」
「べ、別にいいでしょ!? 食材が余るんだから!」
なんだこの天国は。
休日には一緒に買い物に出かけたり、家で映画を見たりした。距離が縮まるのに、そう時間はかからなかった。
そして、ある日の夜。二人で映画を見ている時だった。俺はごく自然に、彼女の肩に手を回した。奈々未の体がピクリと跳ねる。
「……なんだか、夢みたいだな」
俺はぽつりと呟いた。
「何がよ」
「いや、奈々未みたいな可愛い子が隣に引っ越してきて、毎日手料理作ってくれて……。こんな幸せでいいのかなって」
「……っ」
奈々未は黙って俯いている。その耳が真っ赤に染まっているのが、部屋の明かりでもわかった。
これはいける。
俺は意を決して、彼女の顎に手を添え、顔をこちらに向けさせた。潤んだ瞳が、俺をじっと見つめている。
「奈々未……」
俺はゆっくりと顔を近づけて──
その瞬間だった。
ゴッ!!!
とてつもない衝撃が、俺の側頭部を襲った。
「ぐふっ!?」
視界に星が散る。何が起こったのかわからなかった。俺はソファから転げ落ち、床をのたうち回った。
痛い。痛い痛い痛い! 頭蓋骨が砕けたかと思った。
「……な、に……?」
涙目で奈々未を見上げると、彼女は拳をぷるぷると震わせながら顔を真っ赤にして俺を睨みつけていた。
「……いきなり、なによ……。ムードも何もないじゃない……。馬鹿」
「え……?」
「こういうのは……もっと、こう……段階ってものがあるでしょ……!」
そう言って、彼女は俺の腹に思い切り膝蹴りを叩き込んだ。
「ごぼっ!?」
息ができない。内臓が口から飛び出しそうだ。
「だ、男女交際に関する貴重なご意見、ありがとうございます……」
俺が途切れ途切れに言うと、奈々未は「ふん!」と鼻を鳴らして部屋から出て行ってしまった。
残された俺はしばらく床の上で動くことができなかった。
(……今の、は……?)
側頭部と腹部が燃えるように熱い。これはツンデレの照れ隠しのレベルを遥かに超えている。完全に殺傷能力のある暴力だ。
だが、まあ、あれだ。ラノベのヒロインもたまにやりすぎなくらいのツッコミを入れたりする。きっとそういうことだろう。俺のやり方が、少し強引すぎたのかもしれない。
そう、俺は無理やり自分を納得させた。
しかし、その考えが甘かったことを、俺はすぐに思い知らされることになる。
翌日、俺が会社から帰ると、奈々未が仁王立ちで待ち構えていた。
「あんた、昨日私が貸したDVD、どこにやったのよ」
「え? ああ、あれならテレビ台の……」
「ないわよ! ちゃんと元の場所に戻しなさいって言ったでしょ!」
「あ、ごめん。多分、あっちの棚に……」
俺が指さした瞬間、奈々未の回し蹴りが俺の顎を捉えた。
「ぐはっ!」
意識が一瞬飛んだ。受け身も取れずに床に倒れ込む。
「探す人の身にもなりなさいよ! このポンコツ!」
奈々未は倒れた俺の背中を、思い切り踏みつけた。
「ぎゃああああ!」
背骨が折れる!
またある時は二人で買い物に出かけた時のことだ。俺が少しだけ他の女性に目を奪われた。本当に、ほんの一瞬だった。
「……今の、見てたでしょ」
「え? 何を?」
「あの足の綺麗な女の人!」
「い、いや、見てな……」
俺の言葉を最後まで聞く前に、奈々未は俺の腕を掴むと、そのまま一本背負いをかけた。
「ぎゃあああああ!」
アスファルトに叩きつけられ、肩が外れそうになる。
「私の前で他の女を見るなんて、万死に値するわよ!」
「ごめんなさい! もう二度としません!」
俺は地面に這いつくばって謝った。周りの人々が遠巻きに見ているが、助けてくれる者は誰もいない。この世界ではこれが日常の痴話喧嘩レベルの出来事なのだろうか。
俺の体は日に日に生傷と痣で埋め尽くされていった。
頭部への打撃、腹部への蹴り、関節技、投げ技……。奈々未の暴力は種類も威力も本格的すぎた。彼女は一体どこでこんな技術を習得したんだ。
そして、俺は気づいてしまった。
この『クラシック』という世界の名前の本当の意味に。
これは古典的なラノベやギャルゲーの「お約束」を煮詰めた世界なのだ。そして、その中には「暴力系ヒロイン」というお約束も含まれている。
ただし、その暴力のレベルが、現実の物理法則に則った、リアルで致死的なものに設定されているだけで。
この世界もまた、別の形の地獄だった。
ある日、俺は些細なことで奈々未と口論になった。テレビのチャンネル争いという、本当にどうでもいいことだ。
「私が先に見たいって言ったでしょ!」
「俺だってこのドラマを毎週楽しみにしてるんだよ!」
その瞬間、俺は言ってはいけない一言を口にしてしまった。
「奈々未は少し、わがままが過ぎるんじゃないか?」
言ってからしまった、と思った。
奈々未の顔からすっと表情が消えた。
「……今、なんて言った?」
「あ、いや……」
空気が凍りつく。これはまずい。本能が最大級の警報を鳴らしている。
「私のこと、わがままだって言ったの?」
「ご、ごめん! そんなつもりじゃ……!」
「……そう」
奈々未は静かに呟くと、近くにあった鉄アレイ(なぜそんなものが部屋にあるのかは不明だ)を手に取った。
「ひっ……!」
「あんたに私の何がわかるって言うのよおおおおお!」
奈々未は雄叫びを上げると、鉄アレイを俺に向かってフルスイングした。
俺は咄嗟に腕でガードした。
ゴギィッ!!!!
鈍い音と共に、左腕に激痛が走る。
「ああああああああああああああ!」
折れた。完全に折れた。ありえない方向に腕が曲がっている。
俺は激痛に悶えながら部屋を転げ回った。
「う、腕が! 俺の腕が!」
「うるさい! 自業自得よ!」
奈々未はなおも鉄アレイを振りかぶっている。
もう無理だ。殺される。このままでは俺は本当にこの女に殺されてしまう。
俺は折れた腕の痛みを堪え、最後の力を振り絞って立ち上がると、窓から飛び降りた。幸い、部屋は二階だ。
「きゃっ!」
奈々未の驚く声が聞こえる。
俺は受け身も取れずに地面に叩きつけられたが、そんな痛みはどうでもよかった。
(逃げないと……! 逃げないと死ぬ!)
俺は満身創痍の体を引きずり、必死で路地裏へと逃げ込んだ。
もうたくさんだ。ラブコメなんてこりごりだ。暴力ヒロインなんて、二次元の中だから許されるんだ。
俺は壁に寄りかかり、荒い息をつきながら心の中で叫んだ。
「転移だ! 今すぐ……! 今すぐこの地獄から出してくれえええええ!」
視界がぐにゃりと歪む。
意識が遠のく中、俺の脳裏に浮かんだのは鉄アレイを振りかぶる奈々未の姿だった。
(もう……女はこりごりだ……)
俺の心は完全に折れていた。