※この作品はR-18です。

学園黙示録 覚醒のモブメガネ   作:上平 英

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第3話 2回目の修羅場

 麗さんを送り届けたボクは、自宅のソファに横になっていた。

 

 現在の時刻は7時を回ったところ。冬の太陽はすでに沈んでいて、窓の外は暗くなっている。

 

 ボクは横に寝転んだまま、電源が入っていない、真っ暗なテレビを見つめて、息を吐く。

 

 ボクの頭のなかを占領しているのは、麗さん。

 

 昨日の昼まではただの同級生のクラスメイトだった女の子。

 

 そんな女の子のことばかり、今のボクは考えてる。

 

「はぁ……」

 

 冷たい雨の中、傘も差さずに立っていた麗さん。

 

 突然ボクの手を取って歩き出した麗さん。

 

 そのまま、いきなりラブホテルへと連れ込まれて……セックス、した。

 

 麗さんは処女で、痛がって……ボクは我慢できなくなって……。

 

「ううっ……」

 

 心臓の音に合わせてペニスが大きくなり始めた。

 

 鮮明に焼きついている麗さんとの行為を思い出すだけで、射精しそうになる。

 

 無言で自分の手を見つめる。

 

「……まだ、麗さんの感触が手に残ってる」

 

 柔らかくて、スベスベで、胸なんか手に吸い付くようで……。

 

「こ、これ以上思い出すのは止めとう……」

 

 でないと、このままリビングのソファでしてしまいそうだった。

 

 ボクはソファから起き上がり、煩悩を振り払うように頭を振る。

 

 ソファの前に置いた背の低いテーブルからテレビのリモコンを手に取り、電源を入れた。

 

 真っ暗な画面が鮮やかな色を映し出す。

 

 適当にバラエティ番組を映したところで、玄関のインターホンが鳴った。

 

 もしかして、麗さん!?

 

 ソファから立ち上がり、廊下に出て、玄関へ向う。

 

 私服のシワや髪型を手で直して、玄関のカギを開け……、

 

「ただいまー♪」

 

 ――る前にカギが開けられ、そんな声と共に、いつもの方が玄関から入ってきた。

 

「あら、カズくん。お出迎えしてくれたの~?」

 

 ボクをくん付けしながら、無邪気なニコニコ笑顔でそう訊ねてくる女性。

 

 キラキラしている長い金髪のストレートヘアを、お尻の位置でひとつに結んでいる。白のブラウスと紺色のスーツスカートの上から白衣を纏っている、女性。

 

 細くくびれた腰に反して、ブラウスを突き破らんばかりのJカップの巨乳の持ち主で、動く度にプルプルと大きく揺れ動くそれは男を誘惑し、

 

「遅くなってごめんね~。少しお仕事長引いちゃって」

 

 かわいらしく、美しくも見える整った顔立ちは、身に纏う柔らかな雰囲気と相まって、彼女の魅力を何倍にも引き上げていた。

 

 地味で、メガネ以外特徴という特徴のないボクとは、世界が違うといっても過言ではない、美女。

 

 そんな美女を前に、ボクはいたって冷静に対応する。

 

「おかえりなさい、静香さん」

 

 鞠川(まりかわ) 静香(しずか)。ボクが通っている高校の校医さんで、数年来の付き合いになる、

 

 2人いる『近所のお姉さん』の内のひとり。

 

「リカは今週も土日仕事なんだって。寂しいからカズくんのところに着ちゃった」

 

 もっと正確にいうと、近所のお姉さんの、お友達のお姉さん。

 

 …………。

 

 あはははは、帰ったばかりの麗さんが家に来るわけないよね。

 

「元気ないわねぇ。どうかしたの? ――あっ、そういえば今日学校、休んだでしょ?」

 

「そ、それは……」

 

「もしかして風邪? 私が診察してあげようか?」

 

「風邪なんか引いてないから、大丈夫だよ、静香さん」

 

「そう? ――じゃあっ、とりあえず今夜は飲み明かしましょ♪ 映画とか色々レンタルしてきたの♪」

 

 そう言って静香さんは手に持っている鞄とビニール袋を渡してくる。鞄を空けるとDVDが。ビニール袋からは大量の缶ビールとチューハイなどの酒が出てきた。

 

「お酒弱いんだからあんまり飲みすぎないでね、静香さん」

 

「うん、気をつける♪」

 

 まったく気をつける気ないな、この人……。

 

 何度目かわからないセリフに、ボクは肩を落として廊下を進んだ。 

 

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

 

 そして、翌朝。

 

 ボクはむせ返るようなアルコールの匂いと、息苦しさで目を覚ました。

 

 目を開けても相変わらず真っ暗な視界。

 

 顔や体に感じる人肌の感触。触れ合っている部分から伝わってくる熱。

 

 はぁはぁ……く、苦し……。

 

 とりあえず、さっきから感じている息苦しさから脱するために、ボクは体を起こす。

 

「う~ん……カズく~ん」

 

 すぐ近くで聞えてくるエッチな猫なで声や、首に回される腕などの様々な誘惑を振り切り、完全に体を起す。

 

 かすみが取れ始めた視界に、リビングの惨状が映った。

 

 あちらこちらに転がった缶ビールや缶チューハイの空き缶。テーブルには夕食兼酒のツマミが食べかけ状態で残されていて、テレビにはDVDのホーム画面が映りっぱなし。

 

 そこには昨日、麗さんと過ごしていたときの甘くて切ない感じなどまったく皆無で、視線をもう少し下に向けると、全裸の静香さんがいた。

 

 静香さんは起き上がっているボクの腰に両手を回して、抱き着くような状態でスヤスヤと寝ていた。

 

「静香さん……」

 

 ボクはその場で肩を落とす。

 

 先に言っておくが、事後ではない。

 

 昨夜は静香さんが借りてきたB級映画を観ながら、いつものように静香さんのお酒に付き合い、深夜12時を回ったぐらいで完全に酔い潰れて眠ってしまった静香さんを、ボクが眠っていたソファとは別のソファに寝かせて、ボクは反対側のソファで寝た。

 

 決してボクは静香さんに手を出していない。

 

 未成年で、酒も飲んでいないので確実にだ。

 

 静香さんが全裸なのは、いつものこと。静香さんは泥酔して眠ると、寝苦しいのか、熱いのか、よく服を脱いでしまうのだ。

 

 ボクが寝ているソファに入ってきて、隣で寝たのはおそらく部屋が寒かったから。

 

 抱き合って寝ていたのは間違いないけど、エッチはしていない。

 

 そりゃあ、静香さんの体に反応はしたよ。健全な男の子として女性の裸を見て反応しないわけにはいかないから。

 

 でも、ボクは踏み止まった。

 

 十代後半の青年が秘める欲望に打ち勝ち、ボクはソファから下りて、裸体を隠すように布団もかけた。

 

 完全に無防備だった静香さんを襲わないよう、ボクはすごく頑張った。

 

 ――ピン、ポーン……。

 

 息をつく暇もなく、来客を知らせるインターホンが家に鳴り響いた。

 

 無意識に時計を見て時刻を確認すると、午前8時24分だった。

 

 こんな時間に誰だろ?

 

 玄関に向いながら考える。

 

 まず、もう1人のお姉さんではない。あの人の仕事は少し特殊で、仕事場に泊まることが多いし、あの人ならインターホンなんか押さない。たまに荷物を抱えている時なんかは押すけど、ほとんど自分の家のように勝手に入ってくる。

 

 他に単身赴任……というか、海外を拠点に音楽家として活動している父親。宅配便などが考えられるが、その可能性は低い。

 

 なら、誰だ?

 

 もしかして、今度こそ麗さん?

 

 ……いや、それはない。

 

 昨日、別れる時に「また明日学校で」と言ってしまったけど、今日は土曜日で休日だったからだ。

 

 様々な疑問を抱きながら、ボクはカギを開けてドアノブを回す。

 

「はーい、どちらさ、ま……?」

 

「おはよう、カズ」

 

「れ……麗、さん?」

 

 玄関の前に立っていたのは、麗さんだった。

 

 

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

 

 玄関には、セーラー服姿の麗さんが立っていた。

 

「え……? ほ、本当に麗さん?」

 

 思わず訊ねてしまったボクに、麗さんが照れくさそうに話し始める。

 

「あははは……。昨日別れた時に今日が土曜日だって忘れてて。家にも少し居辛かったから。――カズのとこに着ちゃった。迷惑、だったかな?」

 

「そっ、そんなことないよ! すごくうれしい!」

 

「ふふっ、ならよかったわ」

 

 うれしそうに微笑む麗さん。ボクは舞い上がってしまいそうになる気持ちを抑えつつ、

 

「とりあえず家のなかに――」

 

 そう言い掛けたところで、思い出す。リビングの惨状と裸で寝ている静香さんに。

 

 まっ、マズい! 今リビングには静香さんが……。

 

「そうね。お邪魔します」

 

 何か対策を講じる前に、麗さんが玄関のドアを潜って家のなかに入ってきた!

 

 麗さんは昨日ボクがやったようにドアのカギをキチンと閉めて、靴を脱ぐ。

 

 マズい……。本当に、マズい……ッ!

 

「? どうしたの、すごい汗だけど?」

 

 心配した様子で、麗さんが下からボクの顔を覗き込んでくる。

 

 それは物凄くドキドキするシチュエーションなのだが、今のボクは別の意味でドキドキしていた。

 

 絶対に、い、今の静香さんに麗さんを会わせられないッ!

 

 普段の静香さんならともかく、今の静香さんは何を仕出かすか、何を言うかわかったものじゃないし、そもそも全裸という時点でマズすぎだ。

 

「べっ、別になんでもなくて……」

 

 ボクはなるべく平静を装い、リビングではなく2階へ誘導しようとするが――。

 

 ――ヌルリ。

 

 背中のほうから首を伝って胸へと回される2本の腕。背中に広がる……というか、背中を挟むという表現が近い2つの巨大な球体。肩を通って、ゆっくりと顔がでてくる。

 

「カズくん、誰か来たの~?」

 

 ボクの肩から出てきた顔を見て、麗さんの目が大きく開いた。信じられないと指を指しながらつぶやく。

 

「ま、鞠川……先生……? は、裸なの?」

 

「は~い♪ 鞠川静香ちゃんで~す♪」

 

 まだアルコールが残っているのか、ハイテンションで返事をする静香さん。

 

 麗さんはボクと静香さんを無言で、交互に見つめて、目を閉じる。

 

 数秒息を整えて目を開き、昨日2階で見たあの笑顔を浮べて、

 

「これはいったいどういうことなのかしら? もちろん説明してもらえるわよね、カ・ズ・く・ん」

 

「……は、はぃ」

 

「あはははは~、怯えてるカズくんもかわいい~♪ ん~……ちゅ。ふふっ」

 

 お願いですから止めて下さい静香さん。麗さんの雰囲気が昨日よりも物凄いことになってます。

 

「カズ~?」

 

 ……ボクの恋は、3日も経たない内に終わったかもしれない。

 

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

 

「つまり、エッチはしてないのね?」

 

「はい。していません」

 

「お酒の空き缶が落ちてるけど、カズもお酒飲んだの?」

 

「いいえ。一応まだ未成年なので、飲まないようにしてます」

 

「鞠川先生が裸なのは、自分で脱いだからで、カズが脱がせたんじゃないのね?」

 

「はい。静香さんは酔っ払うと、よく服を脱ぐんです」

 

「鞠川先生が、カズが言ってた『近所のお姉さん』なの?」

 

「はい。……もっと正確に言うと、『近所のお姉さん』のお友達です」

 

「『近所のお姉さん』繋がりで鞠川先生と知り合ったってこと?」

 

「はい。5年ほど前に。『近所のお姉さん』と知り合って間もなくして、知り合いました」

 

「へえ、そうなの。先生になる前からね……」

 

 麗さんは部屋の中央で腕を組み、ソファの上で気持ち良さそうに眠っている静香さんへ視線を向けた。

 

 ちなみにボクは床に正座をしている。今から少し前に時間を戻せば、ボクの人生の初の土下座と、冷たい視線でボクを見下ろす麗さんが拝めたことだろう。

 

 麗さんは静香さんをしばらく見つめたあと、再び視線をボクに戻した。

 

「カズ」

 

「……はい」

 

「カズは……私が好きだったんじゃないの?」

 

「はい。ボクは麗さんが好きです」

 

「じゃあ……じゃあなんで鞠川先生を家なんかに上げたのよ?」

 

「そ、それは……」

 

 弁解しようと麗さんの顔を見上げて、言葉を失う。

 

「私……カズに好きって言われて、うれしかったのに……ッ」

 

 涙が溜まった瞳。嗚咽混じりの言葉と一緒に、ポタポタと麗さんの顔からカーペットへ向って水滴が落ちる。

 

「麗さん……」

 

「すごくうれしかったのよ……ッ!」

 

 麗さんはボクの胸ぐらを掴みながら、その勢いのまま倒れ込んで来る。

 

 完全に倒れてしまわないようボクが支えると、麗さんはボクの胸に顔を埋めて泣き始めた。

 

「麗さん……ゴメン」

 

 恋に浮かれていた頭を冷静にして思い出してみれば、麗さんは大変な目に遭っている最中だったのだ。

 

 ボクと深く知り合うことになった理由も、麗さんが深く悩み、傷ついていたからであって。知り合ったのも、昨日今日の話だ。

 

 そんな大変な状況にある彼女を、さらに追い詰めるような、混乱させてしまうマネをボクはしてしまった。

 

「本当にゴメン、麗さん。ボクが無神経だった」

 

 ゴメン。本当に、ゴメン。

 

 ボクは麗さんを抱きしめ、何度も謝った。

 

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

 

 麗さんに謝りながら抱きしめ続けて、数十分ぐらいだろうか?

 

 麗さんがゆっくりとボクの胸から顔を出した。

 

 この3日で何度も見た、麗さんの泣きはらした顔。麗さんは鼻を啜りながら、片手で涙を拭う。

 

「大丈夫?」

 

「……うん。少しは落ち着いたわ。取り乱して、ゴメン……」

 

「いや、今回は完全にボクが悪かったよ。ゴメンね」

 

 謝りながら背中に回している手で、麗さんの頭を撫でる。

 

 麗さんは無言でボクの胸に額をつける。胸に置いていた手をゆっくりと背中に回して――、

 

「――っ」

 

 突然麗さんが固まった。

 

「? 麗さん?」

 

 麗さんが心配になり、視線を下へ向けようとして、ある存在に気づく。

 

 ギギギギ……と、脂が切れたロボットのように存在のほうへ顔を向けて見ると、

 

「んふふふふ~♪」

 

 そこには無邪気な笑みを浮かべた静香さんがいた。

 

 全裸でニコニコした笑みを浮かべている静香さんは、そのまま床に両膝をつくと、麗さんの顔を両手で挟み込んだ。

 

 静香さんの突然で意味不明な行動に、逃げることも忘れて硬直する麗さん。

 

 数年来の付き合いになるボクは、静香さんの両頬が膨らんでいることに気づき、その理由ややろうとしていることまで理解するが……、

 

「むぐぐっ!? むぐぐぐぅ~~~!?」

 

「んふっ……♪」

 

 一歩、遅かった……。

 

「ううっ!? うぐぐぅぅ……くっ……んくっ……んくっ……」

 

 頬を固定され、静香さんの唇によって、完全にふさがれた麗さんの唇。麗さんの喉が数度大きく動いたのを確認して、静香さんは麗さんから離れる。

 

「うふふふふ♪」

 

 後に残ったのは、ご機嫌で微笑む静香さんと、力尽きた様子でボクの胸に顔を埋める麗さん。

 

「静香さん、麗さんに何飲ませたんですか?」

 

「すこーし素直になっちゃうジュースかしら?」

 

「ジュース?」

 

 まさか酒か? でもさすがに酒は……。

 

「これよ、これ」

 

 静香さんが見せてきたものは栄養ドリンクサイズの瓶で……。

 

「そ、それって、リカさんが前に言ってたヤツなんじゃ……?」

 

 ボクの問いに、静香さんは笑顔でうなずく。

 

「ええ。海外の、ちょこっと強めのね♪」

 

 訂正。酒よりもマズい。この巨乳校医、麗さんに媚薬飲ませやがった!

 

「これってぇ、男女用で別になっててねぇ……」

 

 静香さんはそう言って手に持っていた空き瓶を捨て、さっきのとは文字は一緒だけど、ラベルの色が違う瓶を取り出し、キャップを開けて、一気に口に含んだ。

 

 飲み込まずに、口いっぱいに瓶の中身を溜めたまま、静香さんが顔を近づけてくる。

 

「しっ、静香、さん……!?」

 

「ん~ふ~……♪」

 

 麗さんがいるからにっ、逃げられない!

 

 頬っぺたに両手を添えられ、固定される。

 

 ゆっくりと静香さんの顔が近づいてきて――、

 

「――っ!?」

 

 瑞々しくて柔らかい唇が押し付けられ、そのまま口内を舐めまわされながら、液体を流し込まれた……。

 

「ふふっ♪」

 

 満足気に唇を離す静香さん。指先で唇をなぞり、無邪気な笑顔を浮べて微笑んだ。

 

「シリアスって、苦手なの♪」

 

「……し、静香さん……」

 

「だからね、ここは皆でエッチしましょ♪」

 

 蕩けた顔でつぶやいた静香さん。まだ酔ってるよ、この人。

 

 普段は無害で、天然の入ったおっとり系お姉さんなのに。酒が入り過ぎると、酔ったリカさん並みに性質が悪くなるんだよなぁ……。

 

「はぁはぁっ……んっ……ッ! はぁはぁっ、はぁはぁっ……か、ず……わっ、私……ッ!」

 

「はぁ……はぁ……。うふふ、さすが外国製ね。かなり……効いてるわ♪」

 

 ……とりあえず。

 

 さっき飲まされた媚薬が原因だろう。

 

 この場を冷静に収める方法よりも、どう2人と楽しむかで頭がいっぱいになっていた。

 

 ボクの理性も、2人と同じく、崩壊したんだ。

 

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