鬱蒼とした森の入り口は、ヤシが生えているエリアだった。
そこは比較的平坦で、坊主頭は難なく小走りで進む。ウォーミングアップには程良い感じだろう。木々は数メートル間隔で生えており、移動だけでなく視界の確保にも支障はなかった。
少し進むと、湿った土の匂いを含んだ空気とともに、次第に地面が砂から腐葉土へ変わってきた。歩くたびに、少しだけ足が湿った地面に沈む。景色も徐々に変化してきた。薄暗く、ところどころに岩や苔が見え、シダ植物の群生が目立つ。
それらの変化に加え、地面に傾斜も出てきた。その影響で、坊主頭の走るペースが若干落ちたようだ。
いつの間にか、陽気な雰囲気のヤシは無くなり、陰鬱なツタが巻き付いた広葉樹や大型のシダが並んでいた。坊主頭が耳を澄ますと、自分の吐く息の音と、左手の森から虫や蛙などの鳴き声が聞こえてくる。
――これは……思ったよりずっと楽そうだ。岩場に沿っていけば速い上に迷いもしないだろう。あいつ(痩せた男)が言った通り、ここは当たりかも……。
ビーチから見れば高密度の熱帯雨林に見えたため、坊主頭は激しい藪漕ぎを覚悟していた。しかし現実は拍子抜けするほど歩きやすかった。進んでいるルートは右手に岩壁が続き、岩壁の前が開けて道になっている。もし他の仮面の男たちも森を進んでいるなら、坊主頭のルートは比較的楽な道だろう。
*
彼は少し息を切らしながら端末の画面を覗いた。時間は10時01分だった。スタートから約10分。
ホー……ホー
彼は歩くスピードを落とした。自分の吐く息の音に混じり、聞き慣れない鳥の鳴き声が耳に入ってきたのだ。
ホー……ホー
恐らく数十メートルほどだろうか。鳴き声は彼の左後方から聞こえる。少し気になったが先を急いでいるため振り向かず、黙々と進んだ。
フクロウがいるのか……。
坊主頭は声が聞こえる間はなるべく音を立てずに坂を登った。森の賢者を驚かさないようにという、彼なりの配慮だ。フクロウは、可愛らしくユニークな見た目と生態から彼のお気に入りの生き物の一つだった。彼はフクロウを動画でしか見たことがないので、この状況でなければ探しに行ったかもしれない――。
*
ビーチから目的地までの中間地点に差し掛かると、左方から水の音が聞こえた。彼は音のする方へ進路を変え、薮を掻き分けると川の流れる音がより明瞭になった。
その先を見ると、地面が途切れていた。そこは幅1メートルほどの緩やかな下りになった後、崖へと続いている。恐る恐る傾斜を下り、崖の縁に近づくと、数メートル下に川が流れていた。
川はエメラルドグリーンに輝き、幅は四メートルほどか。ところどころに濃い緑の深みが見える。
そこから上流を見ると、崖は徐々に高くなっていた。坊主頭は上流の様子に気を取られたが、そこでハッとし携帯で時間を確認した。
10時18分。スタートから約25分ほど。
左上の数字は16のままだったが、第二行が0.005/0.0845になっている。ビーチで見たときから分母が増えている――それを見た彼は少し焦り、すぐに元の進路に戻りペースを上げた。
*
しばらく進むと開けたエリアに出た。そこは南向きの斜面で日が良く射している。広場の中ほどまで進み振り返ると海が見えた。ビーチ自体は見えなかったが、彼が乗っていた漁船があったと思われる周辺は辛うじて視認できる。
どうやら既に漁船は撤退したようだ。時間を確認するとスタートから約40分、10時33分。
数字は16と0.005/0.088だった。やはり分母が増えている――。
息が上がり、黒い仮面から出ている耳は真っ赤だ。服はほとんど乾いているがブーツの中はまだ濡れており、それが彼のストレスの一因になっている。
彼が苦しさとストレスに格闘していると、いつの間にか周囲は数十メートル先まで視界が効く開けた状態になっていた。進行方向の先、木々の隙間にコンクリートの壁がわずかに見えた。ペースを上げてさらに進むと、それが何か分かった。
巨大なフェンスだ。高さは六メートルはあり、坊主頭がコンクリートの壁だと思ったものはフェンスの基礎部分だった。地面から一メートル以上、場所によってはそれ以上の高さで基礎が作られており、基礎上面は平らなコンクリートになっている。まるでフェンス沿いに舗装された小道が走っているかのようだ。
フェンスの中腹には数メートルおきに黄色い三角に雷マークの高電圧標識と「危険 10000V」の古びた表示が付いている。坊主頭は基礎を軽々と登り、フェンスを見上げた。
近くで見るフェンスの迫力は圧倒的だ。フェンスには高電圧がかかっているらしく、親指ほどの太さのワイヤーが20センチほどの間隔で左右に走り、それと交差する形で5ミリほどのワイヤーが網状に張られている。コンクリートやワイヤーの状態は経年劣化を感じさせ、数十年前に作られたように見えた。
坊主頭はフェンスの奥のエリアを覗いた。鬱蒼とした森が続いていそうだが、これまでと違い地面の傾斜はほとんどなさそうだ。
次に左方向を見ると、約五十メートル先に不可解な物体があった。それを確かめようと、坊主頭は走り出した。
物体はおそらく高さ・奥行きともに一メートル、幅は二メートルほどのガンメタル色の鋼鉄箱だった。まるで戦車の一部を取り出したかのようだ。箱の上面と側面には大小の扉がいくつか設けられていた。電源も供給されているらしく、フェンス内を専用ケーブルが走り、そこから分岐して給電されている。
特に気になるのは、これらは巨大フェンスとは違い真新しいことだ。箱の表面には劣化がなく、最近設置されたらしい。箱の基礎部分もフェンスの基礎とは色が違い、やはり新しかった。どうやらこの箱とその基礎だけが後付けされたようだ。
坊主頭は携帯を開き無線機器の接続画面を表示した。接続機器の一覧に「SiteE Box16」と表記された機器が出た。それを接続してアプリ画面に戻ると、新しいウィンドウが表示された。ウィンドウはリスト形式で、項目名と数字が並んでいる。
リストには支給品と個数、対価となる費用が記されていた。費用が0の項目があり、その欄を押すと確認画面が出た。坊主頭が「YES」ボタンを押すと、ボックスのあちこちから『ガチッ』という重厚な音がした。端末の画面にはボックスの図が表示され、二枚の扉が赤く点滅している。
側面右端の長方形の扉を開けると、中には迷彩柄で丈夫そうな30リットルクラスのリュックが入っていた。彼はそれを取り出し、中身をボックスの上面左側に広げた。
携帯食料が三つ、水筒、モバイルバッテリー、ケーブルがそれぞれ一つ。
それから「ナイフ」と「5.56×45mm NATO弾の30発入りマガジン」が一つ。ナイフは全長30センチのM9銃剣だった。
もう一つ点滅している扉は上面の右上にある細長い扉だった。そこを開けると真新しい黒いアサルトライフルが置かれていた。それはノーマルのM4カービンだった。
坊主頭はライフルを手に取り、素早く各可動部の作動状態を確認した。その後、リュックへ備品をしまい、ボックスの蓋を閉めた。
端末を見ると時間は10時55分。スタートから約1時間――。
アプリのポップアップで「YES」を押すと、ボックスから再び『カチリ』と音がして扉にロックがかかった。ポップアップが消えると、画面下にタイマーが表示された。23:59:59からカウントダウンが始まっている。
次に左上の数字が目に入った。上段は16、下段は0.0065/0.0927となっており、分子・分母ともに増えていた。
坊主頭は支給ボックスの上に登り、周囲を見渡した。手前数十メートルと、100メートル以上のレンジでいくつかのポイントを確認した。
彼の視線はあるポイントで止まった。
彼は箱を降りるとリュックを背負い、ライフルを掴んだ。基礎の上を元来た道とは逆、つまり西側へ約20メートル移動した後、基礎から飛び降りた。腐葉土の道を歩き、基礎に沿って元のルートへ戻る。彼はこれ以上基礎に足跡を残さないよう細心の注意を払っていた。
基礎沿いに歩き、ボックスから東側へ約50メートル進むと、岩場の斜面がそびえ立ち、まるで壁のようになっていた。フェンスは東西に伸びていると考えられ、ここが東側の終点だろう。
フェンスはそこから数メートル岩の斜面を上がり、その後90度曲がって北側へ伸びていた。彼はそびえる岩の斜面を見渡した。
彼の視線が止まった先は、基礎から約10メートルほど南へ下った岩の斜面だった。地面から約4メートルの高さに窪みがあり、そこにシダ類が群生している。さらに高台には広葉樹が生えており、窪みは日陰になっていた。
彼は窪みの下まで駆け寄ると荷物を置き、ブーツを脱ぎ始めた。裸足で斜面を登る。木の根と岩の割れ目がちょうど良く配置されており、目的のポイント――窪み――まで登ることができた。
窪みは岩の割れ目に土が溜まり、シダが群生してできた場所だった。広さは1平方メートルにも満たない。シダをかき分けて中に身をかがめると、外から体を隠すことができた。
周囲を見渡すと支給品ボックスや、ボックス上から確認したいくつかのポイントが視認できた。確認を終えると彼は窪みから出て、岩の縁を掴んでぶら下がり、地面へ飛び降りた。
地面に着くと時間を確認した。11時02分。急いで荷物とライフルを掴み、来た道を下り始めた。
彼が辿り着いた先には、岩の斜面に乾燥気味の細いツタが大量に生えていた。リュックからナイフを取り出し、乾いたツタを切り取る。剥ぎ取られたツタはいつの間にか人の大きさになり、マットレスのような塊になった。
次に彼は細めのツタを一本取り、別の場所へ向かった。
到着した先は、行きで見つけたエメラルドグリーンの川だった。しかし川は彼の立っている崖の下、約5メートルのところを流れている。彼は持ってきたツタを水筒のストラップに手際よく縛り、強度を確認した。水筒を川へ垂らして水を満たす。坊主頭は水の匂いを嗅いだ。
満タンになった水筒とマットレス状のツタの塊を抱え、先ほどの窪みに戻った。再びブーツを脱ぎ、ツタの塊をリュックに詰めて窪みの中へ運び入れた。数回に分けて運び終えると、窪みの前面に土ごとシダを寄せて、岩肌が露出した場所へリュックを敷き、その上に腰を下ろした。
左膝を立て、左膝の上に左腕を置き、その上にライフルのバンドガードを載せる。座ったままの狙撃姿勢だ。体の前面はツタで覆い、一番外側には先ほど寄せたシダがある。外から彼の姿は見えない。赤外線スコープならかろうじて見つかるかもしれない。
ライフルを構えながら携帯を見ると時間は11時18分。上陸してから約1.5時間が経過していた。画面の数字は上段が16のまま、下段が0.0075/0.1025と、また増えている。
彼は周囲を見渡しつつ、M4のバレルに切り取ってきたツタを巻きつけた。再度ライフルを構え、携帯食料のチョコレートを数粒口に入れた。そのときだった。
ガーン!!
遠くで銃声が聞こえた。
始まった――。
*
ザザ!! ザザザザ!!
坊主頭はビクリとし、フェンスの方を見た。出し抜けにフェンス奥の森で葉を掻き分ける音がした。何か動物が走り去った気配だった。最初の銃声からしばらく時間が経ったのだろうか。
ふと携帯を確認すると、坊主頭の動きが止まった。左上の数字が16から15に減っていたのだ。下段は0.0075/0.314となり、母数が大幅に、約三倍に増えている。
数字を見た坊主頭は少し焦った様子だったが、引き続き待ち伏せを続けた。端末上の時計は14時33分を示している。
彼はその調子で昼から夜にかけて見張りを続けた。定期的に端末を確認していると、日が暮れてから様子が変わり始めた。アプリ上の左上の数字が徐々に減っていったのだ。昼は15だったが、20時に14、21時に13、そして23時に12となった。その日はそれ以降、数字の変化は起きなかった。
最後にアプリの数字が変化してからどれほどの時間が経っただろうか。真夜中になり、坊主頭は眠気に負けてうつらうつらしていた。
ホー……ホー
前方の森から、昼間に聞いたあの声が聞こえてきた。彼はその声で一瞬目を覚ましたが、また強い眠気に襲われる。声はだんだんと遠ざかっていった。
*
ふと気がつくと周囲は少し明るくなっていた。うっかりしたと反省した直後、その考えは消し飛んだ。何かの気配で目が覚めたのだ。
ツタの下から外を見渡すと、彼は何かを見つけて体をビクリとさせた。
人が大きなフェンスに沿ってコンクリート基礎を走って来たのだ。
坊主頭は、せっかくの狙撃のチャンスをみすみす逃してしまった。
そいつはゼイゼイと息を切らしながら近づいてくる。狙いを定めようとしたとき、彼は異変に気付いた。M4で狙いを定めたそいつは仮面を付けておらず、顔は赤く腫れ上がり酷く膨れていて、恐らく泣いているのだ。その顔を見て、坊主頭は撃つことができなかった。ただ、ツタの陰からそいつを観察するだけだった。
その男は端の岩壁まで来ると焦った様子で基礎を降り、こちらへ歩き出した。その直後、男はビクリと止まった。赤く腫れた顔でライフルを構えている。男はガタガタと震えながら、自分が来たフェンス沿いを見ていた。坊主頭も男の視線の先が気になって視線を向けると、異変が起きた。
ドドドド!
重く速い足音とともに、視界の下を大きな黒い影が駆け抜けていく。男が大声を上げた。
「ワッ!!」
タタタン!
影は男に飛びつき、左腕に喰らいついた。男は反射的にライフルのトリガーを引いたのか、見当違いの方向へバースト射撃を行った。大きな影が旋回したかと思うと、ドシャーという音とともに男が前方へ数メートル投げ飛ばされた。坊主頭のわずか10メートル先に男が前のめりで倒れている。左腕はぐにゃりと曲がり血まみれだった。
「ウッウ」
うめき声を上げ、男はよろよろと立ち上がろうとする。そこへドッドッドッと影が寄ってきた。
それは小舟ほどもありそうな鱗に覆われた生き物だった。まるで巨大な爬虫類だ。大きさにも驚いたが、それ以上に動きの速さに驚いた。異様な速さだ。坊主頭はこれほど素早く動く生き物を見たのは初めてだった。
背後から男に近づいた化け物は、大きな三本指の足で男の背中をドスンと踏みつけた。
「グアアア!!」
その拍子に男の叫び声が絞り出される。最初は爬虫類に見えたそれが、次第に鳥のようにも見えてきた。頭をキョロキョロと高速に動かし、踏みつけている足も鳥の足に似ている。ただし大きさは圧倒的に違う。そいつの足は大人の男の背中を覆うほど大きい。
「アア!!」
男の声はどんどん小さくなる。そいつの足には太く頑丈そうな鉤爪があり、男の背中に食い込んでいるのが見えた。
化け物は男から巨大な足を放すと、フンフンと鼻息を鳴らした。そして鼻先で男の後頭部を何度かつつき、グワッと口を開いて後ろから頭に噛みついた。
「ワー!!」
断末魔の叫びだった。男はまだ生きており、手足をバタバタと動かしている。そいつは男を地面に押さえつけながら、布切れのように何度も振り回す。
ブォン!と大きな体を勢いよく旋回させ、男の体を数メートル先の岩壁に投げ付けた。
ドチャ! ドサ!
坊主頭の耳に、男の体が岩壁にぶつかりずり落ちる鈍い音が聞こえた。音の出所は彼のわずか数メートル先の壁だ。
フンフン! フンフン!!
そいつの鼻息と、ドッ、ドッという重厚な足音が近づき、坊主頭のほうへやって来た。そいつは壁に叩きつけられた男に近づいている。
ホー……ホー
坊主頭は聞き覚えのあるその鳴き声に凍りついた。『それ』は見かけによらず穏やかな鳴き声を持っていた。
鳴き声と同時に、酷く生臭い匂いが坊主頭の嗅覚を刺激した――まるで何十匹もの鯉を陸に放置したような匂いだ。その臭気が、目の前の出来事が紛れもない現実であることを改めて彼に知らしめた。
坊主頭は心拍数が上がり、視界がどんどん狭くなっていった。息を殺していると、怪物はさらに近づいてきた。坊主頭は近くにいるそいつを凝視した。
そいつの体表は黄色で、黒い斑点が点在し、所々に羽毛のようなものが生えていた。頭にはV字の赤いトサカが付いている。頭の大きさは支給されたリュックよりも大きく、ここは約4メートルほどの高台だが、そいつが起き上がれば容易に届きそうな大きさだった。
坊主頭は鼓動と呼吸がさらに速くなり、バレないよう必死に息を殺している。今撃てばもしかしたらこいつを倒せるかもしれない。しかし、それ以上に見つかることが怖くて体が硬直している。
ドサッ!!
坊主頭の視界に再び男の体が現れた。怪物に投げられたのだろう。怪物は男の一部を咥えて引きずり、仰向けにしながらバリバリと男の腹部を服ごと食い破った。
その凄惨な光景を見ながら、腹部の食い破る咀嚼音を聞いていたら、坊主頭の腹の底から酸っぱい物が噴き上がってきた。
すると、怪物の動きがピタリと止まった。
そいつの鋭く線状の瞳孔が大きく開き、円形に変形しているのが見えた。
ヒュッと素早く頭を起こし、こちらへ視線を向けてきた。
坊主頭はギクリとし、心臓を鷲掴みにされた。
「ワッ!!!」
彼の体は反射的に声をあげ、立ち上がった。怪物と向き合う形になった。
そいつはじっと、こちらを見つめている。
坊主頭は動けなくなった。
血だらけの口がゆっくり開いた。無数の尖った牙が覗いている。
坊主頭は息も出来なくなった。
そして、そいつの首周りの毒々しい色の襟巻きが大きな花のように開いた。それはまるで、地獄に咲いている花が現実世界に現れた様だ。
恐らく瞬間的な出来事だが、非常に長く見つめられているように感じた。このまま飛びかかられれば、トリガーを引くこともできず食い殺されるだろう。
しかし、そいつはすぐに襟巻きを畳んだ。
坊主頭を見ながら、男の亡骸を咥えて少しずつ後退を始める。こちらを向いたまま林へゆっくり移動し、ザザザと大きな音を立てて奥へ消えていった。その速度は、大人の男を引きずっているとは思えないほど速かった。
坊主頭はライフルを構えたまま動けずにいた。数十秒が経ち、呼吸のペースが徐々に落ち着いてくると、本能が彼に命じた。
ここから逃げろ!
体が思うように動かないため、目だけを動かしてあいつを探した。
――行った
少し気が緩んだ瞬間、違和感に気付いた。股間が濡れている。彼は失禁していた。生まれて初めてのことだった。戦場でも失禁する仲間はいたが、彼自身はこれまで失禁しなかった。
とても情けない気持ちになったが、そんなことを気にしている余裕はない。今は逃げなければ――。