ルイスは砂浜に降りたことを強く後悔していた。
オスカーの警告の後、息が詰まりそうになりながら森の方を見る。あいつが潜んでいる筈のバリケードより奥は、漆黒の闇が広がっており、何も見えない。どこに潜んでいてもおかしくない。
今、あいつが暗闇から飛び出してきたら、ルイスはなす術もなく、顔面に食いつかれ、内臓を引き出されるだろう。
「おい!!見つかったか!!?」とルイス。
「いない!!早くこっちへ戻れ!!!」波の音に紛れてオスカーの叫び声が聞こえた。
ルイスはM4を強く握りしめた。彼の耳には、いつの間にか風と波の音が消え、ドクンドクンと鼓動の音が激しく響いている。
オスカーを見ると、暗闇の中ではよくわからないが、暗視スコープで必死にあいつを探しているだろう。
オスカーの方へ戻ろうとした時だった。ルイスの視界にあるものが写り、背骨に電流が走り叫んだ。
「そっちにいるぞ!!!」
オスカーの奥に広がる岩壁沿いに、彼に近づく大きな影が目に入った。
「わっ!!!」
ガガガ!!ガガガ!!
ギャー!!!
悲鳴と共に銃声、閃光、そして圧倒される迫力の生き物の咆哮が暗闇から響いてきた。
ガガガ!ガガガ!
オスカーは続けて発砲している。
ルイスはオスカーへの誤射を躊躇して、その瞬間を、暗闇の閃光をただ見ているしかなかった。
ズサッ!!と重々しい音がして、銃声が止んだ。
閃光が止むと、オスカーがいた筈の場所にあいつの影がある。怪物はこの数秒の間に彼に飛びかかったのだ。
ガガガ!ガガガ!
ルイスはリミッターが外れた様に構えていたM4を連射した。
暗くて良く見えない中、恐竜がブルッと首を振った後、体を深く沈めている。
ルイスは夜に車の前に飛び出した猫の様に、目を見開き、体が硬直した。脳裏に巨体に飛びつかれ、体中の骨が砕かれる映像が過ぎった。
ズガーン!!!
1発の銃声と同時に恐竜の動きが止まった。
暗闇の中で恐竜の頭がゆっくりと下がっていくのが見えた。
ド!!
砂浜に波の音にも負けない、重量物が落下する音が響いた。
「おい!大丈夫か!?」バリケードの方からオスカーの声が聞こえた。
ルイスは目を丸くして声の方を見た。よく見ると暗闇の中、バリケードの前でオスカーがライフルを構えていた。
「やられたと思った!」とルイスは珍しく感情的になっている。
「間一髪こっちに逃げこんだよ!!そんで脳天に1発ぶち込んでやった!!人間様に勝てるわけないだろーがよ!!!」オスカーは酷く興奮している。
「……助かった……あと数秒遅れてたら肉片になってたよ……」とルイス
「あと何匹いても全部やってやるよ!!くそが!!」
2人ともその場に座り込んだ。
「あいつどこから来やがった!?一生分ビビらせやがって!」オスカーが笑いながら言った。
「完全に甘く見てたな……」
「ちくしょう、今日は疲れた……とりあえず休もう」
「そうだな……またヤシに登るか?」とルイス。
「念の為……そうしようぜ」
ルイスは放心状態で上をむくと、そこには雲一つない夜空に不自然に丸い月が浮かんでいた。その月が放つ薄明かりが、波の音が響く砂浜を青白く照らしていた。
*
仮面の2人組が巨大な屍の側に立っている。
太陽は登り、彼らの立つ砂浜をジリジリと照らしていた。オスカーがちょうどこの浜に上陸してから4日目。時間は9時40分。
倒れている恐竜は昨晩、オスカーの銃弾に脳味噌を破壊された個体だ。
「……これは……自信が無くなるな」ルイスが恐竜を見ながら言った。
戦闘は2人掛かりでライフルを乱射し、それなりの弾数を使ったが、恐竜の体に刻まれた銃創は予想よりかなり少なかった。
頭部は致命傷となった側面からの風穴以外は、擦り傷状のものが一箇所あるのみ。この傷は前方からの銃弾が頭蓋骨に沿って弾かれて出来た。
体にも尻尾の付け根や胴体、首等にいくつか銃創が有ったが、表皮をかすったり、浅い箇所を貫通しているものが多い。いずれも致命症にはならない傷だ。暗闇だったとはいえ、酷い命中率に2人は落胆している。
「暗がりだったからな……その上、動きが速すぎる」オスカーは仮面の下で苦笑いをした。
「真正面に立って思ったのが……結構細い……幅は人間とそんなに変わらないと感じたよ」とルイス。
「そりゃバリケードと岩壁の隙間もすり抜けるわけだ……ところで本当に食うのか?」
「ああ……もし食えたら、食料の問題が解決する」
「毒持ちだぞ?」
「毒蛇とかも肉は食える。腿とかならよっぽど問題無いだろ。毒自体も焼けば分割される可能性も高い……ほら蟹が食ってる」
傷に小さな蟹が集まっており肉を食べている様だ。 2人は周りに蟹の死骸は転がっていないことを確認した。
「あと……腹に人間が入ってるぞ……」とオスカーが呟いた。
ルイスはその言葉にピクリと一瞬止まったが、ナイフを取り出して腿の肉の一部を切り取った。切り取った肉の断面を見ると、きめ細かい赤身だった。
ルイスが肉を手に取り言った。
「それじゃ焼いてみるか」
彼は一口大にした肉片をナイフの先端に刺し、直火で炙った。肉が焼けると食欲をそそる匂いがしてきた。
焼けた肉を見ながらルイスが言った。
「……じゃあ食ってみるよ」
彼は仮面をずらして一口分の肉を口に入れた。
「どうだ?」とオスカー。
「……うまいよ……まずは、これだけにして様子を見よう」
―その後、ルイスの体調は崩れることが無かった為、2人は貴重な蛋白源の確保に成功した。食料は他にもアサイー等のベリー類、ヤシの胚乳が容易に確保できるので、当分困ることは無くなった―
2人は拠点としているヤシの木に戻って来ると、仮面を外し、ヤシの上の安全区域へ登った。そこで再び棄権の申請を試みたが、結果は昨日と同じだった何も起こらない。
「今後どうするべきか……」ルイスが携帯を見ながら呟いた。
オスカーがライフルを片手でブラブラと持ちながら言った。
「……救出されても、また捕虜に逆戻りだしな」
「そうならない可能性もあるぞ」
「え?」とオスカーがルイスの方を向いた。恐竜の毒にやられた彼の顔は、僅かに腫れている程度まで回復している。
「……南軍のやつらはこの島を放棄したかもしれんよ」
「ああ、なるほど……丸一日経っても復帰してないもんな。あり得る……俺は、奴らも恐竜に襲われたと思ってた」
「さすがにそこまで間抜けじゃ無いだろ……仮にそうだとしても、すぐに代わりが来る筈だ」ルイスが笑いながらかぶりを振った。
「だよなっ、あっ!」
その時オスカーの手からM4カービンが滑り落ちた。
ガサッ!数メートル下からM4が地面に叩きつけられた音が響いた。
「しまった!壊れてないよな!」オスカーが焦っている。彼は急いでヤシに縛ったザイルを伝って下に降りた。
一方、ルイスは携帯の画面をじっと見ていた。何かに気が付いた様だ。その後、おもむろにライフルを持ち、ガシッと音を立てて、ライフルのストックでヤシの幹を突いた。
下の砂浜で落としたライフルの様子を確認しているオスカーが見上げて言った。
「どうした?」
「こいつは陰湿だな」ルイスが神妙な面持ちをしている。
「え?」
「どうやら銃に衝撃を加えると、アプリのマップ上に位置が表示されるみたいだ」
「マジかい……気が付かなかった」
「俺もだ……オスカー、銃は大丈夫そうか?」
「手で動かす限り、問題は無さそうだ。バレルも曲がって無いと思う」
「試しに1発撃てるか?」
「そうだな、確認しておいた方が良いね」
手際よくチャージングハンドルを引き、海へ向かってM4を構えるオスカー。
ガーン!
砂浜に銃声が響いた。
ルイスは相変わらず携帯を見ている。ルイスが言った。
「なるほど………発砲するとマップに表示される仕様だ」
オスカーはその発見より銃が壊れていなかった喜びが上回っている様だ。オスカーが言った。
「今となっては、どうでも良いけどな……」
「……いや……これは使える……むしろ他の奴らに見つかりたいからな」
ルイスが再びストックで幹を叩いている。
彼はしばらくそれを続けた後、珍しく声を張った。
「おい!!……アプリのマップを見てくれ、ここから北西3キロぐらいのところだ」
オスカーは急いでアプリを確認した。アプリのマップ上では、ルイスが幹を叩くと自分達がいる地点に点が表示された。
その直後だ。ルイスが言った地点付近にも点が現れた。
オスカーが驚き、目を丸くした。
「他のプレイヤーだ!俺たちに反応してる!―
二人は砂浜におり、しばらくライフルで交信を続けた。しかし、向こうからこちらに向かって来る気配が無かった。
「中々来ないな、向こうは動けないのかもしれない」とオスカー。
「そうかね?向こうも俺達が行くのを待ってるかもな」
「もしかして…こっちから行くのか?」
「そうするしかないかもな」
「……罠かもしれないぞ」
「そうか?」
「待ち伏せしてるかもよ」
「どうやって?」とルイスが肩をすくめ、手のひらを空に向けた。
オスカーは少し考えて答えた。
「……囮のライフルをワイヤーとかでうごかしてるかも」
「だとしたら、そいつはライフルを二つ以上持ってるよな……そんな手練れならさっさとフェンスを超えるのでは?」
「わからない、金稼ぎかもしれないぞ……俺たちは金持ちだしな」オスカーがニヤリとした。昨晩、死闘が終わると、彼らの端末には驚くべき金額が表示されていた。
「向こうは俺達が幾ら持ってるかわからないだろ……まあ、襲われたとしても……こっちは二人いるから負けないだろう」
「向こうも2人以上いるかも」とオスカー。
ルイスがニヤリとした。
「それなら尚更、敵の可能性は低いな。向こうも棄権希望者達ってことだ……それなら大歓迎だ、仲間は多いに越したことはない」
「わかった、わかった……行くよ……で、どうやっていくんだ?」
「そうだな……時間は11時20分か……余裕は無い……」
「このままビーチ沿いを西に行って、山に入れば良いだろ?」
「それが早いかもしれないが……山道が危険だ。前と左右を警戒しないといけないし、恐竜にしろプレイヤーにしろ、出会ったらこっちが下側になる可能性が高い」とルイス。
「じゃあ、昨日のルートか?」
「距離はかなり伸びるけど、そっちの方が安全だろ―
*
「あれがゲートか?」とオスカーがフェンスに取り付けられた建造物を見て言った。
「たぶん、そうだな……俺も初めて見た」
2人は昨日の岩壁沿いのルートを登り、支給箱で補給をした後、フェンス沿いを西に進んでいた。箱から少し進んだところで建造物が彼らの前に現れたのだ。
彼らが『ゲート』と呼んでいるそれは、フェンスに比べると真新しい建造物だった。支給箱の様に、はたから見てフェンスに後付けされた代物だ。
それを2人はゲートとは言うが、電気柵で囲われたハシゴである。ハシゴがフェンスの上まで伸びており、フェンスの向こう側でも同じハシゴが架けられている。ハシゴを囲っている電気柵は直径1メートルほどで、フェンスの基礎の半分を占めている。
これは、うっかり『ゲート』の電気柵にぶつかりそうで極めて危険なレイアウトである。
『ゲート』に近づく2人。こちら側に扉があり、それも電気柵の一部となっている。中にはハシゴが見える。そして扉の真ん中には縦長の溝が有った。
「ここに入れるのか……」とオスカーは自分のM4カービンをその溝に近づけている。
「そうだろうな……どうする?開けて滑走路目指すか?17時まで時間はある」
その時、フッとあの臭いが漂った。生臭く、そして本能的に危険を感じるあの臭いだ。オスカーは咄嗟にフェンスの向こうにある林に目をやった。そして、彼は凍りつき、そしてドクンと心臓が鳴った。
フェンス越しの数メートル奥の林の中、オスカー達の頭より少し低い位置に、それはあった。
こちらをじっとこちらを見ている恐竜の顔があったのだ。細い縦長の瞳孔がオスカーの視線をとらえている。
「おい、フェンスの向こうにいる」オスカーは動揺している事を相方に悟られない様、冷静を装って言った。
「ああ」ルイスにも緊張が走っている。
「……こいつ、これまでの奴らと違う」
顔の作りはこれまで遭遇した2匹とは異なり、派手なV字のトサカは無かった。何より小さい。半分程の大きさに見える。
「良く見ろ……群れだぞ」
ハッとして、周囲を隈なく見渡すオスカー。すると同じ顔が一つ、二つ、三つと林の中に見つけた。
「……何匹いるんだ?」オスカーの声が震えている。
「わからない……見えてるだけで4匹か?」
「こんなの……滑走路までどうやって行くんだ?」
「少なくとも……1人じゃどうにもならないだろうな」
ガーン!!
ガサガサガサ!!
森に銃声が響いた。それと同時に林にいた群れは奥に消えて行った。オスカーが威嚇射撃したのだ。
「くそっ!!」とオスカーが吐き捨てた。
「……フェンス越しじゃ何もされないだろ」
オスカーが仮面の下で険しい顔をして言った。
「……まあ、ここを越える選択肢は無いな―
『ゲート』を通り過ぎて、基礎の上を少し進むと見慣れた物体が見えた。支給箱だ。彼らが先ほど補給したものとは別の箱だった。
「やっぱりフェンス沿いだったか」オスカーが小声で言った。
ルイスは先程補給出来なかった分があった為、足りない分をここで補給する。そして、その箱から西側を見ると木々の隙間から僅かに次のゲートが見えた。
「箱とゲートを交互に配置しているみたいだな。距離は3〜400メートルおきぐらいか」とルイス。
「そんなもんだな。隣の箱とこんなに近かったとは―
2つ目のゲートに近付く2人。やはり扉はこちら向きに付いている。扉を見ると何やら扉の真ん中に嵌めてある。M4カービンだ。
「向こうに進んだ奴がいるんだな」オスカーが扉を見て言った。
「恐らく、俺の目の前で恐竜を倒した奴だ。その時既に二丁持ってたよ」
扉の溝に嵌められたM4は、ロックがかかり外れない。
「ここを超えた奴はどうなったかね?」とオスカー。
「……1人じゃあ……半日も持たないだろ」ルイスはかぶりを振り、肩をすくめた。
ルイスはふと時間を確認しオスカーへ言った。
「少しペースを上げよう―
その後は箱とゲートは無視してひたすらフェンス沿いを西に進んだ。木々が遮り、基礎の周りの視界が悪い箇所は威嚇射撃を行い、恐竜の確認をした。
また、合間合間に向こうのプレイヤーとライフルでの交信を続けた。しばらく進み、5つ目のゲートを越えた時だった。
……おーい!こっちだ!
「……おい何か聞こえないか」とオスカー。
2人はライフルの交信をすると、向こうのプレイヤーの表示位置と声がしてくる方向が一致している。
ルイスが興奮気味に言った。
「みつけたな―
更に基礎を西側に進むと6個目の支給箱が見えた。ここまで来ると声は真南の森から聞こえ、何を言っているか少しわかるぐらいになった。2人はそこから基礎をおり、森に入った。森から声が響いてくる。
ゆっくり!! 来てくれ!! 恐竜が―!!
声の感じからして数十メートル先だ。
「やっぱり、恐竜がいるみたいだな」オスカーが囁いた。
ルイスは頷いて言った。
「ここから森に入って行く。並列に並んで君は右側を警戒してくれ」
オスカーはゆっくり頷いた。
2人はゆっくりと基礎から降りると、声のする広葉樹とシダ、ヤシが入り乱れた森に入っていった。
ゆっくり!!静かに来てくれー!!ここに恐竜がいる!!
少しづつ声の方に向かうと森の声が鮮明に聞こえてきた。声の種類からして2人いる様だ。
ここに2人いる!!岩の間に隠れてる!!
恐竜に出口を塞がれた!!
声を聞きながらジリジリと少しずつ前に進むオスカーとルイス。
弾持って無いかー!!?今ならコイツをやれる!!
オスカー達の目の前の林の密度が高くなった為、そこからは匍匐前進で進んだ。地面を這っていると目線の先が崖になっていた。崖の下から声が聞こえる。
「おい!!弾持ってないかー!!?」
声と一緒に巨大な動物が激しく動く音がする。間違いなく恐竜がいる。オスカーは恐る恐る崖に近づいた。
崖に差し掛かり、ゆっくりと下を覗く。まず目に入ったのは恐竜の尻尾だった。恐竜はブンブンと音を立てて尻尾を振っている。興奮している様だ。
崖は地面まで5メートル程の高さだ。そして崖に隣接する形で巨石がある。巨石の大きさは高さ3メートル。恐竜は巨石と崖の間に首を突っ込んでいる状態である。
「おっ!!助かった!!弾くれ!!」
真下から声が聞こえた。巨石と崖の間、恐竜の首の先に仮面が二つ見えた。隙間は人1人がギリギリ入れる程のサイズだ。仮面の男が叫んだ。
「今ならやれる!!」
もう1人の仮面の男も叫んだ。
「そっちで撃っても良いが!!やれるか!!?ここから抜けられると厄介だぞ!!」
オスカーは顔を引っ込めルイスに目を向けた。するとルイスが頷いた。オスカーはリュックからマガジンを取り出すと、再び崖から下を覗き、マガジンを巨石の隙間にスッと落とした。
「ありがとよ!!」
ジャキッとチャージングハンドルを引く音が聞こえた。
ガガガ!!ガガガ!!ガガガ!!
*
「すまんな!助かった!!」
隙間に入っていた男の一人がオスカー達が投げたザイルを伝って巨石の上に上がってきた。仮面を被っているが髪型はオスカー達と同じく坊主頭だ。ガッチリした体型で身長は190センチ程か。隙間はさぞ狭かっただろう。
もう1人の男も上がって来た。頭はやはり坊主に仮面だ。身長はオスカーぐらいで170センチ半ば。体型は痩せ型だ。4人の中で一番軽そうだ。彼がボソッと喋った。
「……助かった。礼を言う」
ガッチリした方が張りのある声で言った。
「悪いが、一旦カメラ切らないか?」
ルイスが返した。
「そうだな―
カメラを切り4人は仮面を外した。ガッチリした方は体の通り、厳つい顔をしているがどこか人懐っこい感じが漂っている。呼び名はバルと名乗った。年齢はルイスと同じぐらいで30前後に見える。
細い方は、やはりほっそりした顔をしており、ルイスより神経質そうだ。見た目の通り寡黙だが年齢はオスカーと同年代で二十代半ばだろうか。彼はアールと呼んでくれと、オスカー達に言ってきた。
アールは巨石の外にライフルを落としていたらしく、岩の隙間から出ると走り出し、真っ先にそれを回収した。
ルイスがふと時間を確認すると16時を過ぎていた。少し焦った彼が皆に言った。
「日が傾いて来た。もう北の滑走路はどう考えても間に合わない……」
「まあ、そうだな」とバル。
「速やかに下山しよう……最適なルートはわかるか?」ルイスがバルとアールに聞いた。
バルがアールの方に向くと「わかる……」とアールが小さい声で頷いた。
4人はアールを先頭に固まり、足早にその場を離れた。南側に斜面を下りビーチに向かう。流石に4人いると森の真ん中を突っ切っても、十分に周り警戒する事が出来た。
彼らは順調に下山し、1時間もかからないうちに波の音が聞こえて来た。
森を抜けた場所はビーチの西端付近。西側は岩場が海まで続いている。オスカー達が入山したビーチの東端は遥か遠くだ。背景の空は、薄暗くなりはじめ、オレンジ色の雲が広がっていた。