絶歌~destrudo~ 作:柳川 秀@尾上 愛‗VTuber
一年に四回もある自分の子どもの誕生日と自身の誕生日と、自分の親や弟の誕生日、子どもの内誰かの入学式や卒業式、果ては身内の命日……。
母は事ある毎に記念だからと理由を付けては酒を呑み、出来上がっては好んで思い出や物事の経緯を語った。
身体が思い通りにならない分口の達者さだけは相変わらずだったこともあるのだろうけど、「酔っ払いと年寄りは昔話が好き」というのは本当のことだったらしい。
そんな母でも積極的に語ろうとしなかったことが一つだけある。
そしてボクがここに至るまで極力話題にするのを避けていたことが一つだけある。
父に関することだ。
父と母はボクが五才の時に離婚した。
だからボクにとっては、実は元気だった頃の母の姿よりも父そのものの姿の方が思い出し難い。
写真やホームビデオはまだ捨てられずにいくつか残されているけど、十数年も前のそれを頼りにしても、本当の父の容姿や声は分からない。感じられない。
まして父の性格を、父がどんな人だったかなど想像することもできない。
ボクの中に父はいない。
いるのは、偶然よりも低い確率で母が語ったことと、兄や上の姉から聞いた思い出によって出来上がった架空の父だけだ。
父と母が離婚してからも交流のあった父方の祖母の急な話が飛び込んで来たのは、高校三年生の時の春の終わり。
既に祖母が亡くなってから一夜明けた後、葬式前日だった。
これには流石の兄も怒りを爆発させて良いのやら悲しんで泣くが良いのやらで大いに混乱していた。
ボクはそんな兄の姿や、呆れたような声を洩らす母の姿を見て父の人物像をより現実のものに近付け、十年以上振りに会うこととなる父へ備えた。
そう、この時ボクは祖母の死よりも父との再会のことに意識が捕らわれていた。
期待感なのか恐怖心なのかは分からない。
ただただ父に直接会うという事実に兄や姉たちとは違う意味で心が大きく動かされていた。
父方の祖父母が住んでいる町はボクたちが住んでいる町からは随分と離れていた。
兄が電話で事情を説明し急遽予約を入れてもらった夜行バスに、母を除くボクたち四人は乗り込んだ。
バスの中に人は少なく、だから急にでも入れてもらえたのだろうけど、ボクたちはなんとなく一番奥の席に並んで座った。
初めて乗る夜行バスの乗り心地が気に入らなかったせいか、それとも父との再会に胸の震えが治まらなかったせいか、兄や姉たちが眠ってからもボクはずっと眠気を感じられずにいた。
目を閉じて眠ろうと試みたり心の中を整理しようとしてみたりしたけど、どうにも上手くいかなかった。
そのままボクは朝を迎えてしまった。
駅に降り立つと、ボクにとっては初めて見る親戚の人が待っていた。
兄からの話で聞いたことだけはある、伯母の息子の妻だった。
所謂オタク系の上の姉や非行少女のような下の姉とは違い、もっと明らかにギャルらしい人で、乗せてもらった車の中の装飾や匂いも年齢には合わないような物だった。
そんな「他人」の車に揺られて十分程して着いた場所では、更に沢山の「他人」が待っていた。
名前だけならいつか聞かされたことのあるような、でも顔も声もどんな人かも知らない、それでもハッキリと自分と血の繋がっている人たち。
その中に父もいた。
ホームビデオの頃よりも老いているハズなのに、何故かボクにはそれが父だとすぐに分かった。