絶歌~destrudo~ 作:柳川 秀@尾上 愛‗VTuber
父方の祖母の葬式の日、初めて実際に会った父にボクはどう接すれば良いのか分からなかった。
兄や姉たちは明らかな嫌悪感を示しているけど、ボクは父を父としてではなく「赤の他人」として見ていた。
それは父の方も同じだったのか、それとも幼いボクを傷付けたことへの罪悪感があるのか、父も父でボクに対しては恐ろしくたどたどしかった。
母の死ぬ少し前、父は唐突にこの世を去った。
投身自殺だった。
もう慣れてしまいそうな何回目かの身内の葬式。
父を最も憎んでいた兄、父を追い出した上の姉、最後まで父に関し何も語らなかった下の姉、父のことを知らないボク。
誰も泣いていなかった。
ただただ淡々とその事実を噛み締めていた。
そして、父の遺書は今この瞬間もボクが持っている。
葬式の後、実家から大学近くの自分の家に帰る前、上の姉から不意に手渡されたそれは、母の白血病のことを知った今になってやっと真意が垣間見える内容だった。
いや、正しくは遺書などと呼べるようなものではなかった。
詩、それも父と上の姉が好きだったアニメの未使用曲の歌詞を、監督が日本語で書き起こし自ら英訳した歌詞を再翻訳したようなものだった。
第三者から『彼女』を傷付けた『君』のことを、責めると言うには余りにも冷静に、咎めると言うには異常な程無感情に指摘する。
事実だけを突き付けて否定の余地を生み出させず、しかしそれ以上悲しみや苦しみに付け入って来ない。
「『君』は『彼女』に本物の愛を求めた。『彼女』は『君』に偽物の愛を見せた」
「『彼女』が『君』の心を壊したのは、『君』が『彼女』にキスしたから。それを『君』が楽しんだから」
「『君』は百万年経って遂に見つけられるよ。『君』が永遠に誰からも愛されず、永遠に誰も愛せないことを」
「『彼女』は『君』を許さないし、『君』は『君』を赦せない」
「なら何故生きてるの? 何故まだ生きてるの?」
「……答えられないんだね」
そう、父が自らを殺したのは、今のボクと同じ理由なのだろう。
ボクも兄や姉たちのように父に対しての記憶があればハッキリと父を嫌い憎むことができたのだろうけど、他者から聞かされた思い出しかないからそうすることもできない。
父がボクに暴力を振るうようになった原因を知っているし理解もできるけど、かと言ってそんな父のことを簡単に許せる訳もない。
それでいてボクと父の終わりは不思議で不気味にも似通っている。
だから、ボクは父に対し憎悪も哀しみも抱けなかった。
ただ絆とも呪いとも言い難い奇妙な繋がりだけ二人の間には遺る。
祖母の葬式から母の待つ家へと帰る前、なんとなく背比べをしてみた時、知らぬ内に父の背を越していたという事実を把握したことをボクは覚えている。
自分のことが大事だけれど、誰にも嫌われたくないから誰かを傷付けることもできない、ハズなのに……結局誰かを傷付けずには生きていられない。
そうする生き方しか知らないしできない。
そんなボクを見れば、ボクが図らずしも似てしまった父はどんな顔をするのだろうか?
ボクにはやっぱり分からない。
だけど、これから確かめることはできるのかもしれない。