絶歌~destrudo~ 作:柳川 秀@尾上 愛‗VTuber
古びた階段を駆け上がる。一秒でも早くと急いで駆け上がる。
息が上手くできない。涙で前がよく見えない。
頭の中で色んな感情がごちゃごちゃしてる。
でも、私が彼に伝えたいことはたったひとつだけ。「キミのことが大好き」って。
昨日の夜、彼にレイプされた。
イヤだって拒み続けたのに、首を絞められて、無理矢理処女を奪われた。
すごく怖かった。すごく痛かった。
でも、一番覚えてるのは、私を犯している彼の泣き顔。
今にも壊れてしまいそうなくらい繊細な心の持ち主なんだってわかってた。
その心を、私が支えてあげられたらな、と思った。
だから付き合い始めて、彼の求めてくることにずっと応え続けた。
だけど、彼の心はもう壊れかけていた。
私はそれに気づけなくて、露わになった彼の衝動を受け入れられなかった。
覚悟がなかったとか、甘かったとか。自分を責めるつもりはないよ。
あの時、初めてのキスの前に彼に言ったことは、全部本心だったから。
嘘も偽りもない、本当の言葉だったから。
だから、私はまた彼に伝えるために走ってる。
「キミのことが大好き」って。
きっとおかしいよね。
自分をそこまで傷付けた人にそんなこと言うのって。
バカみたいだよね。信じられないよね。
でも──
「愛してるから」だけじゃダメですか?
「好きだから」だけじゃ足りませんか?
屋上のドアを開けて、飛び降りようとしている彼を後ろから抱き締める。
私に理想や欲動を押し付けてきた彼を、私は抱き締める。
キミも、押し付けたいんじゃなくて抱き締めたかったんだよね。
誰かに甘えたくて、でも傷付けちゃって、だから苦しんで自分自身も傷付けちゃう。
そんなキミを、私は抱き締めたいと思った。
だってそれは、キミの優しさそのものだから。
私がそう言っても、キミはまた自分のことを全否定するんだろうね。
だから、私がキミのこと全肯定してあげる。
キミが嫌いなキミのことを、私は大好きって言い続けてあげる。
それでね、いつかキミがキミ自身のことを好きって言える日が来たらいいなぁって、ちょっぴり思うんだ。
キミが今の自分から変わりたいこと、わかってる。
変われないでいることもわかってる。
ゆっくりでいいよ。焦らなくてもいいよ。怖がらなくてもいいよ。
いっしょに待ってあげるから。
人間はたった一つの切っ掛けで壊れるくらい単純じゃない。
それに、たった一つの言葉で立ち直れるくらい簡単でもない。
なら、少しずつ癒していこう。
真新しいスタートはまだ切れる。
だからさ、今はそれでいいんだよ。
わがままで、傷付けて、傷付いて、泣いて。
そんなキミでもこの世界にいていいんだよ。
私のすぐ隣にいてもいいんだよ。
そのキズもキミの一部だから。
そのキズを知っているキミだから、自分にも優しくなれて、他の人のキズにも気づけると思うから。
私はね、誰よりも自分と戦えるキミが大好きで、そんなキミのキズを癒してあげたいって思うくらい、キミを愛してるから。
その夜、彼は私の目の前に体育座りして歌を聴いていた。
私はずっと彼のことを見つめながら、ずっと笑顔を見せながら歌ってあげた。
その場所には他の誰もいなかったし、来なかった。
真夜中の屋上ライブは私と彼、二人だけのものだった。
そして、いつまでも彼の心に私の歌は絶えなかった。