絶歌~destrudo~ 作:柳川 秀@尾上 愛‗VTuber
下の姉だけはいつまで経っても兄に抗い続けて見せた。
ボクが生まれるまでの六年間ずっと末っ子だった下の姉はとても我が儘で自己中心的な性格で、同時に男勝りでもあった。
母が事故に遭って自分の甘えを許してくれる存在でなくなった頃から荒れ始め、返り血を浴び自らも血を流しながら警察に連れられて帰って来ることが何度もあった。
もちろんそんな行動を兄が許しておく訳もなく、下の姉が警察と一緒に帰って来た日の夜の家の中は文字通り戦場と化していた。
兄が一方的に下の姉を殴り続けて、かと思えば偶に反撃を喰らって、物を壊し、叫びや悲鳴を上げ、血を流し流させ……下の姉が泣く気力すら残らない程痛め付けられるとやっとそれは鎮まった。
それまでの間、ボクはずっと母をなだめる上の姉に抱かれて震えていた。
下の姉は母の死の直前から行方を暗ましている。
どこで何をしているのか、生きているのか死んでいるのかも分からない。
もしかすると、そうして兄に反抗することで心配を掛け続けたことについて母に負い目を感じていて、逃げ出したのかも知れない。
或いは母がいなくなることで完全に家を仕切る役に回る兄に対して反抗する意志を見せ続けているのかも知れない。
今となっては、ボクも下の姉のように抵抗し続けるべきだったのかなど分からない。
それでも確実に言えることは、ボクは気持ちでも力でも、その後警官になった兄に勝てたことが一度もないということだ。
母が邦楽のアイドルの歌やバラードを好んでいたのに対し、兄は根っから洋楽のロックが好きな人間だった。
特に大音量の演奏の中激しく歌い上げるハードロックは力強く生きる兄によく似合っていた。
自らも子どもでありつつ頼りにならない親の代わりとしてその責務に駆られる。
そんな自己の中に潜む矛盾を、兄は荒々しい歌に乗せることで吐き出していたのかも知れない。
叫びに近い歌を歌っていたのかも知れない。
「これがオレの人生だ」と主張して、だからこそ同情を求める者を、人の優しさや甘さを利用する者を嫌っていた。
誰にも頼らず自らの足で立って今この時を歩む。
やはり兄は歴とした親であった。
そして兄にそうなるよう仕向けた、強制したのは父の不在と母の病気と、何よりも十も歳の離れたボクの存在なのだろう。
だから、ボクから反抗期を奪った、同時にそうすることをボクが強要してしまった兄をボクは恨むことも憎むこともできなかった。
ただそこには哀しみだけが残った。
ボクは兄の強さを確かに覚えている。
でも、兄のように「これがオレの人生だ」と胸を張って生きられず、自らに歯向かうものを圧倒的に否定することもできず、自分を甘やかし包容してくれる「マザー」に泣きつき同情を得ようとしているボクを見れば、兄はどんな顔をするのだろうか?
ボクには分からない。