※この作品はR-18です。

絶歌~destrudo~   作:柳川 秀@尾上 愛‗VTuber

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Ⅳ『DAY DREAM BELIEVER』(3)

 ボクが本当に初めて身内の死に直面することになったのは中学二年生の夏。

 

 長期休暇でだらけ切った生活を送っており、夜更かし後の深い睡眠を楽しんでいたボクは、あの時と同じように泣きじゃくる母によって叩き起こされた。

 

 本来なら昼まで眠っているつもりだったので頭は惚けていたが、それでもすぐに何が起きたのか想像することはできた。

 祖父が遂に逝ってしまったのか、と。

 

 しかし、その朝倒れて救急車で搬送されたのは祖母だった。

 

 病気による言語能力の低下に加え酷く取り乱しながら母が説明したからか、或いは祖父ではなかったからか、ボクの頭の中は一瞬にして真っ白になった。

 何故祖母が倒れるのか、その要因に心当たりもなければそのこと自体を信じられもしなかった。

 

 しかも、当時祖父母が住む町とボクたちが住む町は二つの市を間に挟むくらい離れており、家族の中で唯一運転できる兄はその時少し遠くの町に勤務していたから、既に出勤していた上の姉を除く三人には祖母が搬送された病院へ自分たちだけで向かう術が残されていなかった。

 

 その対応策としてなるべく近くに住んでいる母の友人に車を出してもらうことを思い付いたのは、意外にも家族の中で一番の問題児である下の姉だった。

 丁度上の姉の勤務先に近い所に住んでいる母の友人の都合が良かったので、上の姉を拾ってもらいそのまま家へ来てもらった。

 

 祖母が搬送された病院へ着いたのは、ボクが起こされてから二時間も経ってからだった。

 

 よろよろと足元がおぼつかない母を支えながら、看護師に案内された病室のドアをボクが開けると、そこにはベッドの上で色々な機械に繋がれている祖母と、その近くで車椅子に腰掛け祖母の手を握っている祖父がいた。

 祖父はボクたちが来たことに当然気付いていたが、それでも尚祖母のことだけを見つめていた。

 

 祖母はその時既に亡くなっていた。

 

 祖母の身体は祖母自身も気付かぬ内に肺炎に侵されていた。

 これは後から母が語ったことで、祖父やボクも同意したことだが、「長い年月苦しまずにその日の朝倒れてぽっくりと逝く」というのは理想的な死に方なのだろう。

 事実、祖母は苦しみを感じぬまま亡くなったのか、その顔はどこか安らかであった。

 

 

 

 祖母が亡くなったその日の夜から、祖父の体調は一気に悪化した。

 

 病室で祖母を看取った際にもボクたちが着いた時にも、いつも通りの落ち着いた様子で涙すら流していなかった祖父だが、やはりショックだったのだろう。

 

 前夜式──プロテスタントにおける通夜──は海外に住む叔父が帰って来てから行うことになったので、プロテスタントでない近所の人々向けに献花のみを執り行ってから、ボクたちは祖父母の家に祖母の遺体と共に泊まることになった。

 

 真夜中、それまで何の異変もなかった祖父が突然大量に嘔吐した。

 

 兄とボクと祖父が同じ部屋に寝ていたのだが、叔父が翌日の夕方に帰って来るまでの間病気である母や祖父の代わりに様々な手続きや事柄を行うのは兄の仕事になるだろうと思い、ボクは兄に他の部屋で寝るよう促し、ボク一人で祖父の世話を見ることを決意した。

 

 いや、ボクは兄や家族のことを思ってその役割を担おうとしたのではないのかも知れない。

 ボクの反抗期を押さえ付ける兄のためになるような行動をすることで、兄より上に立った気分になりたかったのではないだろうか。

 或いは、「カッコよく働く身内の大人」から更に大きく崩れてしまった祖父を、ボクにとっての祖父の醜態をせめて見届けようとでも思ったのか。

 

 嘔吐はその一度だけだったが、祖父の意識は若干朦朧としていた。

 何かボソボソと訳の分からない、聞き取れない言葉を呟いたかと思うと静かになり、眠ったのかと思うとまた身体を揺らしながら呟き出す、ということが延々と続いた。

 

 それでも救急車を呼ぶかどうか尋ねるとハッキリとした口調で「そんなもんはええ」と答えるのだから、ボクには本当に変な言動を取り続ける祖父を見守っていることしかできなかった。

 何度も何度もその流れが繰り返され、午前四時に差し掛かった頃、祖父は一つ深い溜め息を吐いて、ようやく眠りに就いた。

 

 次にボクが目を覚ましたのは昼過ぎだった。

 あれは夢だったのではないかと冷房を効かせた部屋を覗いてみると、そこには昨日と同じように祖母の遺体が寝ていて、やはり夢ではなく現実であるということを思い知らされた。

 

 兄は牧師さんと前夜式や火葬のことについて話していて、母は祖父と何か話していて、それ以外にも家の中では上の姉と近所の人や教会関係の人が色々と動き回っていて。

 ボクと下の姉の居場所は慌ただしいこの状態のどこにもないような気がした。

 

 夕方、叔父が帰って来て祖母の遺体の前で大声を上げて泣いた。

 それに連れられて母もまた大泣きし出した。

 兄も、上の姉も、下の姉も、ボクも耐え切れずに泣いた。

 

 だけど祖父は泣かなかった。

 

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