ある日、電話が鳴った。ディスプレイに表示されたのは「乙骨真希」の名前。俺は覚悟を決めて、通話ボタンを押した。
「…もしもし」
『私だ。…今、家の前にいる』
「は…?」
電話の向こうから聞こえてきたのは、それだけだった。俺は驚いて玄関のドアを開ける。そこには、フォーマルな黒い服に身を包んだ真希が、静かに立っていた。10年前の治療の時とは違う、落ち着いた、しかし決然とした表情で。
「…おいおい、マジかよ」
俺は呆れながらも、彼女を家の中に招き入れた。
「どういうことだ。乙骨は…子供たちはどうした」
「禪院家の合同慰霊祭に出席する、ということにして出てきた。話は当主になった恵が合わせてくれる。一泊二日の予定だ」
用意周到。彼女がどれほどの覚悟でここに来たのかが、嫌でも伝わってくる。
「…そうか。分かった」
俺は観念して頷いた。
「なら、外のホテルじゃまずいな。…家でいいか?」
彼女が静かに頷くのを見て、俺は腹を括った。
「…じゃあ、シャワーを浴びて、身を清めてこい。俺も、準備を始める」
俺の言葉に、真希は再びこくりと頷くと、まっすぐに風呂場へと向かっていった。その背中を見送りながら、俺は大きく息を吐き、自らにも課せられた重い儀式の準備に取り掛かるのだった。
***
シャワーから流れ落ちるお湯が、やけに熱く感じる。
…フッ、と自分でも気づかないうちに、乾いた笑いが漏れた。
まさか、な。
この私が、「死にたくない」なんて、心の底から願う日が来るなんて。
昔は、いつ死んでもいいと本気で思っていた。禪院家を壊せるなら、それで本望だって。そのためだけに、私は全てを捨てて、強さを求めた。
なのに、今は。
憂太の、あの不器用で優しい笑顔が浮かぶ。あの子たちの、私の指を必死に握ってくる、あの小さな手の感触が蘇る。
失いたくない。
あいつらを置いて、私だけ先にいなくなるなんて、もう考えられないんだ。
ただ、一日でも長く、あの人たちの隣で生きていたい。そんな、昔の私が見たら鼻で笑うような、ありふれた幸せが、欲しくなってしまった。
ごめん、憂太。
お前を裏切るわけじゃない。お前の、あの子たちの未来のために、私は今夜、別の男にこの身を委ねる。
どんなに惨めで、屈辱的でも…やらなければならない。
アイツは、きっと何も聞かずに、ただ“仕事”としてこれを終わらせてくれるだろう。10年前も、そうだった。
だから、頼める。
…アイツにしか、頼めない。
…よし。
恥も、罪悪感も、迷いも。全部、このお湯で洗い流してしまおう。
全部、愛する人たちと、明日を生きるために。
***
俺がシャワーを浴び、祝詞を唱え、全ての準備を終えて寝室に戻ると、彼女は布団の横で、きちんと正座をして目を瞑っていた。その姿は、まるでこれから処刑されるのを待つ罪人のようでもあり、神に祈りを捧げる巫女のようでもあった。心の中で、最後の覚悟を決めていたのだろう。
俺は彼女の正面に座り、静かに声をかけた。
「…始めるぞ」
彼女がゆっくりと目を開ける。その瞳に、もう迷いの色はない。
「まず、前の治療の時のように、君の身体を抱きしめさせてくれ。魂の傷の深さを、もう一度正確に測りたい」
俺の言葉に、真希はこくりと頷いた。
お互いに服を脱ぎ捨て、二人で一つの布団に入る。俺は彼女の背中に腕を回し、その傷一つない、完璧に鍛え上げられた身体を抱きしめた。そして、全神経を集中させ、俺の陽の気を彼女の魂へとそっと流し込む。
「……………」
俺は、思わず息を呑んだ。魂に刻まれた傷は、俺が料亭で触れた時よりも、さらに深く、広く、彼女の生命力を蝕んでいた。
「…真希。正直に言う」
抱きしめたまま、俺は残酷な診断結果を告げた。
「この傷は、添い寝でどうにかなるレベルじゃない。最低でも、第四段階…つまり、抱く必要がある」
彼女の身体が、かすかに強張るのが分かった。
「それだけじゃない。もしかしたら…最悪の場合、妊娠させることでしか、魂の傷を完全に塞げない可能性もある」
その言葉を口にした瞬間、俺自身の脳裏に、冥さんと娘の顔が浮かんだ。
「…もちろん、そこまでやるくらいなら、俺はこの儀式をやめる。あんたの人生を、そこまで捻じ曲げる権利は俺にはない。だが…」
俺は一度言葉を切り、彼女の目を見て、はっきりと告げた。
「抱くことは、必要だ。それで寿命が元通りになる保証はない。だが、やらなければ、あんたは確実に数年で死ぬ」
俺の言葉を聞き終えても、真希の覚悟は揺らがなかった。彼女は、静かに、しかし力強く、一度だけ頷いた。その瞳が「やれ」と、そう命じていた。
「……分かった」
俺は、彼女の覚悟に応えるように、その唇を奪った。最初は軽く触れるだけ。やがて、彼女がそれを受け入れたのを確かめると、俺はさらに深く、その口内に舌を絡め始めていた。
最後の儀式が、静かに始まった。
唇を重ねたまま、俺は彼女をゆっくりと布団の上へ押し倒した。これは、命を繋ぐための儀式だ。中途半端な覚悟や手加減は、むしろ彼女の魂を危険に晒すことになる。やるなら、徹底的に。俺の持つ陽の気の全てを、彼女の魂に刻まれた古い傷痕へと注ぎ込む。そのための、入念な準備が必要だった。
絡め合わせた舌は、単なる口づけの道具ではなかった。それは、魂の味を確かめるための、最初の触診だった。彼女の唾液と共に流れ込んでくる情報。その奥に感じる、深い絶望と、それでもなお消えない生の渇望。そして、魂にこびりついた、微かな死の匂い。俺はそれらを全て受け止めながら、自らの陽の気を、清流のように彼女の口内へと流し込んでいく。最初は驚きに強張っていた彼女の身体から、少しずつ力が抜けていくのが分かった。俺の気が、拒絶されていない証拠だ。
唇を離し、その軌跡を首筋へと移す。鍛え上げられた、しなやかな筋肉。その肌に吸い付くと、彼女の喉から「ぅ…っ」と、押し殺したような声が漏れた。全身の火傷を癒した時とは違う。意識がはっきりしている分、彼女が感じる羞恥心は比較にならないはずだ。だが、それ以上に、俺の唇が触れた場所から、じわりと温かい何かが身体の芯へと染み渡っていく感覚に、彼女は抗えないでいた。俺は彼女の鎖骨をなぞり、その起伏を確かめながら、陽の気を送り込み続ける。緊張で張り詰めていた肩の力が、ゆっくりと解けていく。
次に、その豊かな双丘へと顔を埋めた。それは、女としての柔らかさと、鍛え抜かれた武人としての大胸筋の張りが同居する、彼女だけのものだった。頂点に舌を這わせると、彼女の身体がビクンと大きく跳ねた。
「…ひぅ…っ」
その反応は、拒絶ではない。むしろ、彼女の身体が、俺の陽の気を、生命のエネルギーを、本能的に求めている証拠だった。俺はさらに深く、執拗に、その頂きを口に含み、吸い上げた。片手はもう一方の乳房を、慈しむように揉みしだく。快楽のためではない。生命力を司るその場所を刺激し、彼女自身の内なる「生」の力を呼び覚ますための儀式だ。俺の刺激に呼応するように、彼女の身体が熱を帯びていく。魂の傷によって滞っていた気の流れが、少しずつ、だが確実に取り戻されていくのが分かった。
俺の手は、さらに下腹部へと滑っていく。鋼のように引き締まった腹筋。その奥にある、女の神秘。俺は、へその周りを指でゆっくりと撫で、彼女の生命力の中心である丹田に、気を集中させた。魂の傷は、彼女の存在そのものを根底から揺るがしている。まずは、その中心を安定させなければならない。
「…ん、ぁ…」
彼女の呼吸が、だんだんと乱れていく。羞恥心と、身体の奥から湧き上がってくる抗いがたい感覚。そのせめぎ合いに、彼女の理性が揺さぶられていた。
俺は彼女の身体を反転させ、うつ伏せにする。背骨に沿って、首の付け根から尾てい骨まで、指でゆっくりと線を引いていく。人体の気の通り道である経絡。その中心をなぞりながら、俺は彼女の魂の傷がどこにあるのかを、より正確に探っていた。腰の辺りに差し掛かった時、指先に微かな「澱み」を感じた。ここだ。昔、彼女が負った致命傷の記憶が、今も亡霊のようにここに巣食っている。俺はそこに、掌を当て、集中的に陽の気を注ぎ込んだ。
「…っ、あ…!?」
これまでとは違う、直接的な治療。彼女の身体が、拒絶反応のように大きくしなった。だが、それは一瞬のこと。すぐに、澱みが溶けていくような心地よさに、彼女はほう、と深く長い息を吐いた。
そして、いよいよ儀式は前戯の最終段階へと移行する。
再び彼女を仰向けにし、その両脚の間に、俺は身を滑り込ませた。彼女は、固く目を閉じ、これから訪れるであろう屈辱と快楽に、ただ耐えるように唇を噛み締めている。
俺は、その禁断の秘蕾に、指をそっと這わせた。そこは、乙骨との間に子をなした証でもある、聖域。それを、夫以外の男が、今、まさぐっている。その事実に、彼女の身体は羞恥心で震えていた。
だが、俺の指先から流れ込む陽の気は、そんな彼女の心を無視するように、魂の傷を癒すための準備を始める。硬く閉ざされていた肉核を優しく撫でると、彼女の腰が意思とは無関係に、ぴくりと跳ねた。
「…う…ぁ…っ」
その声は、もはや誰にも止められない。俺はさらに指を加え、内壁をなぞり、魂の傷に最も近い場所を直接的に刺激していく。それは、ただの愛撫ではない。魂にこびりついた死の残滓を、陽の気の奔流で洗い流すための、荒療治だった。
「あぁっ、ん、ぅ…っ!」
彼女の抵抗は、もはや快感に濡れた喘ぎ声にしか聞こえない。彼女自身、分かっているのだ。この行為が、どれほど屈辱的であっても、生きるために必要だということを。そして、その身体が、魂が、この陽の気を、快楽を、心の底から求めているということを。
やがて、彼女の身体が大きく、何度も痙攣を繰り返した。
「い…っ、ぁあああっ!」
甲高い絶叫と共に、彼女は一度、その頂へと達した。魂の傷を覆っていた硬い殻が、その快感によって一時的に剥がれ落ちる。
今だ。準備は、整った。
俺は、自らの滾りを、その開かれた入り口へと導いた。
準備が整った彼女の身体に、俺はゆっくりと自らを受け入れてもらう。それは、二つの肉体が一つになるという、単純な行為ではなかった。俺の陽の気、その生命力の全てを、彼女の魂に刻まれた傷へと届けるための、最終段階の始まりだった。
一体となった瞬間、彼女の身体が小さく震える。俺はすぐには動かず、まずは深く結合したまま、陽の気の奔流を彼女の最も奥深く、魂の傷が存在する場所へと直接送り込んだ。
「…っ…!」
真希の喉から、鋭い息を呑む音が漏れる。それは、先程までの前戯とは比較にならない、濃密で、強力な生命エネルギーの奔流だった。冷え切っていた魂が、灼熱の奔流で満たされていく感覚。死の影が、その熱によって焼かれていく。
俺は、ゆっくりと腰を動かし始めた。
一突き、一突きが、ハンマーで鉄を鍛えるように、彼女の魂の傷を打ち、整え、そして癒していく。その衝撃は、彼女の肉体にも、快感という形でダイレクトに伝わっていた。
「くっ…ぅ…、んんっ…!」
真希は、シーツを固く、爪が白くなるほど握りしめ、必死に声を殺していた。唇を強く噛み締め、その表情は苦痛と快楽が入り混じった、凄絶なものに歪んでいる。誇り高い彼女にとって、夫以外の男の身体を受け入れ、快楽に溺れる自分の姿を認めることは、耐えがたい屈辱なのだろう。
だが、俺の腰の動きは止まらない。儀式に私情は不要だ。俺はただ、彼女の魂を癒すことだけに集中し、淡々と、しかし力強く、その身を穿ち続ける。
俺の動きが熱を帯びるにつれて、彼女の抵抗は限界に近づいていた。
「…ふっ、ぅ…っ、ぁ…!」
噛み締めた唇の隙間から、熱い吐息が漏れ始める。俺が、彼女の魂の傷のちょうど真芯を突いた瞬間だった。
「―――ッ!!」
声にならない絶叫と共に、彼女の身体が大きく弓なりにしなる。一度目の頂点。全身を駆け巡る痙攣は、快感によるものだけではない。魂の傷にこびりついていた死の残滓が、陽の気の熱によって剥がれ落ちた瞬間の、浄化の衝撃だった。
だが、俺は休ませない。痙攣の余韻が残る身体を、さらに深く、強く突き上げる。一度剥き出しになった魂の傷に、間髪入れず、新たな陽の気を叩き込むためだ。
「ま…っ、待て…っ、ぁ、んんっ…!」
彼女の懇願は、もはや意味をなさない。俺の腰の動きに合わせ、彼女の身体は再び激しく揺さぶられ、快感の波に翻弄される。一度目の絶頂で敏感になった身体は、もはや俺の動きの一つ一つに、過剰なまでに反応していた。
「く…っ、ぅ、あ、あ…っ!」
二度目、三度目。俺が腰を振る中で、彼女は何度も、何度も、その頂を迎えさせられた。声を出さないようにと必死に耐える彼女の目からは、生理的な涙が止めどなく溢れ、枕を濡らしていく。それは、屈辱か、快感か、あるいは、失われかけていた生命が再びその身に満ちていくことへの、魂の歓喜だったのかもしれない。
俺は、ただひたすらに、彼女の魂が完全に癒されるその瞬間まで、腰を振り続けた。
俺の陽の気の全てを、その魂の傷へと叩きつけるように、一番奥で果てた。儀式の終わりを告げる、生命力の奔流。真希の身体が、最後の大きな痙攣を起こし、そして、ふっと力を抜いた。
俺はゆっくりと、自分のモノを引き抜く。二人の身体を繋いでいたものがなくなり、部屋には静寂と、荒い呼吸の音だけが残された。
「…このまま、一晩眠ってくれ」
俺は、汗だくのまま彼女の隣に横たわりながら、囁くように言った。
「明日になるまでに、あんたの身体に注ぎ込んだ俺の陽の気を、魂に馴染むように整えておく」
彼女は、まだ快感の余韻に溺れているのか、あるいは疲労困憊なのか、こくりと小さく頷くだけだった。その強張っていた表情が、少しだけ和らいで見える。
彼女の気をほぐすように、俺は、ぽつりぽつりと、自分の話を始めた。
「…俺にも、娘がいるんだ。冥さんとの間の、な」
「……」
「儀式の後、あの女、わざと避妊しなかったんだよ。してやられたよ。ある日突然、『できた』って連絡が来た時は、マジで天変地異でも起きたかと思ったね。今じゃ、あの金の亡者に、娘の養育費って名目で、稼ぎの半分以上をむしり取られてる」
俺の自嘲気味な話に、真希は何も言わなかったが、その視線は穏やかだった。やがて、彼女も、自分の家族の話を少しだけしてくれた。乙骨のこと、二人の子供たちのこと。その声は、愛おしさに満ちていた。
最後に、俺はずっと考えていたことを口にした。
「…なあ、真希。今になって、あんたの魂があの世に惹かれていた理由、なんとなく分かる気がするんだ」
「……」
「きっと、お前の双子の片割れが、つい最近、あの世からいなくなったんだ。真依…あいつは、輪廻の輪に導かれて、きっともう、どこか別の場所に生まれ変わったんだよ。だから、あんたの魂は、あの世から現世にとどめようとする力がなくなって、こっちの世界から離れようとしていたんじゃないか」
俺の勝手な推測。だが、それは、真希の心にすとんと落ちたようだった。彼女の目から、一筋、涙がこぼれた。だが、その表情は、悲しみではなく、安堵に満ちていた。
やがて、彼女は穏やかな寝息を立て始めた。
その寝顔を見届け、俺はそっと目を閉じる。
さて、ここからが本当の仕事だ。
彼女の魂の中で荒れ狂う俺の陽の気を、一晩かけて、丁寧に、彼女自身の生命力と調和させていかなければならない。気の遠くなるような、繊細な作業が、始まった。
そして翌日。
俺が目を覚ますと、隣で眠る真希の寝息は、驚くほど穏やかだった。魂を苛んでいた死の気配は、完全に消え失せている。俺は静かに布団から抜け出し、服を着て、身支度を整えた。その物音で、彼女も目を覚ましたようだった。
俺は彼女が服を着替え終わるのを待ってから、部屋に入る。
「…これでもう大丈夫だ。あんたの魂の傷は、完全に塞がった。普通の寿命になったはずだ。…まあ、80までは生きていけるだろう。大往生だぞ」
俺の言葉に、彼女はただ一言、「…感謝する」とだけ呟き、そして静かに帰っていった。その背中には、もう何の憂いもなかった。
***
…アイツの家を出て、朝の冷たい空気を吸い込む。身体が、軽い。昨日まで、魂にまとわりついていた、死へと向かう重しが、嘘のように消え失せている。
これで、帰れる。憂太と、あの子たちが待っている、私の家に。
その事実が、何よりも、どうしようもなく、幸せだった。
…昨日の夜は、我ながら酷いもんだったな。
声を殺すのに必死で、何度も意識が飛びかけた。あの男の、儀式と称する行為は、魂の傷を癒すと同時に、私の理性を容赦なく剥ぎ取っていった。
…アイツの“本業”の腕が、良すぎたせいだ。あれはもう、抗うとか、耐えるとか、そういう次元の話じゃない。
でも…。
相手が、昔から知っている馴染みのアイツで、良かったのかもしれない。
知らない男だったら、きっと、ただの屈辱と痛みだけで終わっていた。だけど、アイツだったから。私の過去も、弱さも、覚悟も、全部知っているあの男だったから。
だから、全てを預けられた。
…感謝、か。
柄じゃないが、今は、素直にそう思う。
さあ、帰ろう。
言い訳を考えるのは、少し面倒だが。
私が生きるべき場所は、ここじゃない。憂太と、あの子たちが待っている、あの暖かい家に。
その未来を、あの男が繋いでくれた。…一生、忘れないだろう。
***
さて、実はここからが、本当に大変だった。
俺は命を救うという大仕事をした。にも関わらず、ギャラを一銭も受け取らなかったことを、冥冥がどこからか嗅ぎつけたのだ。
結果、俺は「他の女と一夜を共にした」という理由で、浮気の慰謝料という名目で、さらに莫大な金をむしり取られる羽目になった。
「あの金の亡者め…!」と、何度悪態をついたか分からない。
そんなある日。俺は、娘の
まだ幼い娘の手を握り、お互いの陽の気を流し合う。それが、俺たち親子にできる唯一の、しかし最も重要な訓練だった。
その時だった。
「……」
真央が、ふと、その歳には見合わない、別人のような顔つきになった。そして、俺の手をぎゅっと握りしめ、少女の声ではない、どこか懐かしい響きを持った声で、はっきりとこう言ったのだ。
「アンタ、お姉ちゃんのことを治してくれて、ありがとう」
「…………え?」
俺は、絶句した。
言葉を失った俺の脳裏に、不意に、禪院真依の姿が鮮明に浮かび上がる。そういえば、真央の顔立ちは、どことなく彼女に似ている。そして、この魂の気配…かつて京都校で握手した時に感じたあの感覚と、よく似ていた。
まさか。俺が彼女に語った、輪廻転生の物語。それが、こんな形で…
「おとーさん、どうしたの?」
真央の、いつもの子供らしい声で、俺はハッと我に返った。目の前の娘は、不思議そうに俺の顔を覗き込んでいる。
「…真央、今のは…?」
「んー?なんかね、声が、勝手に出てきたの。ふしぎー」
彼女は、けろりとしてそう言った。
俺は、その言葉の持つとてつもない意味を一人で抱え込みながら、ただ娘の顔を見つめ返すことしかできなかった
これにて完結です。読んでいただきありがとうございました。R18を投稿するのは初めてでしたのでタグ付け等まちがっていたならご指摘ください。