※この作品はR-18です。

Re:ビルドハレム   作:たっぷり

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 エレナ達との地下探索は特に変わることなく何事も無く済みました(原作比


・012 死ぬしか無いなぁ強奪犯!!

──◆──

 

『アキラ! レイナを止めなさい!』

 

 レイナは善人だ。普段はつんけんしているが、弱っている人間を見れば手を差し伸べれる。無償の優しさを持っている。

 

 相手が犯罪者でもなければ、それはただ尊(たっと)ばれるだけで済んだだろう。

 

 ヤジマはレイナの手を掴み思い切り引き寄せる。そのままレイナの体勢を崩すのと同時に立ち上がり、レイナの背後へ回って残った左手でレイナを拘束した。

 

 ヤジマの顔に嗤(わら)いが溢れる。

 

「動くな」

 

 先ほどまで浮かべていた脅(おび)えの表情など、今のヤジマの顔には欠片(かけら)も存在していなかった。

 

──◆──

 

 アキラが迫りくる拳を弾いて蹴りを繰り出す。しかしそれを読んでいたかのように防がれ掴まれかける。即座に足を引き距離を取ろうと軸足で後ろへ跳ぶが、それを相手は許さない。

 

 アキラには逃げるという選択肢があるのだ。この場に残ったところで意味などない。ヤジマは負傷しており、逃げるアキラを後ろから狙おうにも残っているのは左腕のみ。掴んでいるレイナを放せば、即座にシオリが攻撃対象を変えるだけ。アキラへ攻撃する余裕など生まれない。

 

 逆にこの場に残るデメリットはでかい。シオリ達を除外しヤジマと一騎打ちとなったところで片手のヤジマ相手ならサポートの無いアキラだけでも勝ち切れる。しかしヤジマはこの場には1人だが、仲間がいるのだ。そしてこの場に情報収集妨害煙幕(ジャミングスモーク)を撒く前に呼んでいる可能性が非常に高い。このままこの場に留(とど)まると、その仲間たちに殺されるだけ。旨味などない。

 

 対(たい)して悲痛の表情を浮かべるシオリはアキラを逃(のが)せない。逃走を許してしまえばレイナの人質としての価値は暴落。その場で殺されるだけだ。その為ヤジマ側に味方の存在を予測していても、この場からの離脱は叶わない。

 

(お嬢様を……! あの男の隙でも作れれば……っ!

 作れるの……ッ!? アキラ様を相手に……、……グゥッ!?)

 

 内心の焦りが徐々に戦闘に漏れだしていく。今のシオリはアキラと加速剤を使用した上で全力を出している。最初はアキラの力量に合わせてヤジマに対等に殺し合っていると思わせるだけだったが、それはアキラとの戦闘が始まった瞬間崩れ去った。

 

 予想していた以上にアキラが強かったからだ。時折り散見される隙にはもう手出しは出来ない。既に片手を超える数、それを衝(つ)いて手痛い反撃を喰らったからだ。

 

 そしてアキラを見て見れば顔は真剣なものだが、どこか余裕を感じさせる。「これ以上があるのか?!」という思いと共に死を覚悟する。この状況でなお、追いすがれないとなると、シオリに打てる手は数分後には確定した死を迎える戦闘薬の服用だ。莫大な効果を発揮する代わりに、副作用にて死ぬ。

 

 だがアキラに勝てばいい状況ではない。ヤジマを殺せれば良いわけでもない。どちらかを成し遂げられようと、レイナの安全を確保できない限り、レイナは死ぬ。

 

 アキラもヤジマもレイナの命を重んじることなど無いのだから。

 

 自分が死ぬだけでは叶わない。その焦りがシオリに隙を生む。更に視界の端でヤジマがレイナを投げ捨て走り出した光景がそれを助長した。

 

 無警戒だったシオリの水月へとアキラの拳が叩き込まれ、意識が一瞬跳ぶ。加速剤の効果ですぐに意識は戻ったが、アキラの拳は内部まで浸透していた。臓器が痙攣して呼吸ができない状況が続き、更には加速剤の効果が切れ始める。

 

 崩れるシオリを無視したアキラはヤジマへ向けて落としておいたAAH突撃銃を片手に突進する。

 

 ヤジマは手に取ったアキラのCWH対物突撃銃をアキラへと照準を定めて引き金に指を掛けた。対し、アキラはそのまま全力で駆ける。

 

 カチッっという音と共にCWH対物突撃銃の引き金が鳴るが、弾(たま)は出ない。アキラがCWH対物突撃銃を蹴り飛ばされる前に装填した弾倉の中には1発しか残っていなかった。それも蹴り飛ばされる前に撃って消費していた為、残弾は空(から)だ。

 

 驚愕と共に大きく口を開いているヤジマの口に硬質な感触が広がる。AAH突撃銃の銃口だ。

 

「キスマイアスってやつだ」

 

 アキラの声がヤジマの耳朶を叩くのと同時に、ヤジマの口の中で強装弾が荒れ狂う。体内と体表では防御力が違う。耐久力が違う。CWH対物突撃銃の専用弾でなくとも銃弾は通り、ヤジマの頭は上顎と下顎で別(わか)たれた。

 

 崩れ落ちたヤジマの身体を無視してCWH対物突撃銃を回収する。近くに落ちていたAAH突撃銃も回収し、弾倉を交換。回復薬も素早く服用すれば、アキラの準備は万端だ。

 

 そのまま振り返り、両手に持ったAAH突撃銃でシオリとレイナの頭に照準を合わせ言い放つ。

 

「動くな」

 

 昏(くら)い感情の籠った瞳がレイナとシオリを貫いた。

 

 ──

 ────

 

『何がなんだか、ね』

 

『全くだ。なんでオレがさっきの焼き直しをする羽目になるんだ……』

 

『アキラも運が無いわね』

 

『運が無いと女2人に土下座させる羽目になるのか……』

 

『アキラとしては運が良かったのかしら?』

 

『オレ、陰鬱な仲は嫌いなんだよなぁ』

 

 アキラの目の前では謝罪を繰り返すレイナとシオリ。

 

 レイナはヤジマからの解放とシオリとの抱擁、そしてアキラからの銃口という殺意の塊と状況が著しく変化したことで、先程の恐怖が再発したことで口が開かない。シオリは自分の財産でも身体でも命でも何でも支払うからレイナだけでも見逃して欲しいと懇願してくる。

 

 アキラとしては殺す気など無いが、それでも殺し合いに発展したものを予定通りだから、想定内だから、と流してしまうと今後のことも些事に変わってしまう気がして、どうすることも出来なかった。

 

 物語通りであることは構わない。しかしそれを一つでもそ(・)れ(・)は(・)そ(・)う(・)い(・)う(・)モ(・)ノ(・)だったからと流してしまうと本当にこの世界をどうでもよいモノと捉えかねない。それは駄目だ。

 

 アキラにとって、シズカもシェリルもアリシアも人間だった。アルファのことも危険視しているが、それでも味方なのだ。

 

 それをどうでもいいモノになどしたくない。

 

 だからシオリの加速剤が完全に切れた後も動けずにいた。

 

 選択が遅れた分、不幸が舞(ま)い込むことぐらい知っていたのに。

 

 そこへ微かな足音が情報収集機器に入る。

 

(本当にっ! タイミングが悪いっ!!)

 

 アキラは足音の方へと両手のAAH突撃銃を向け、引き金を引く。同時に床を蹴り付け、飛び退く。既にシオリ達へ銃口を突き付けていたアキラを見たカツヤが銃を構え、銃撃してきたからだ。それを回避する為に。

 

 交差した銃弾は誰にも当たることなく散らばった。

 

『アルファ。どうだ?』

 

『相手の銃を狙ったんだけどね。アイリって子のしか壊せなかったわ』

 

『そうか……。面倒だな』

 

 通路には定期的に出っ張りがある。カツヤ達はそこへ隠れており、そこからアキラの動向を窺い、攻撃の機会を窺っている。出てこようとした瞬間を狙い、銃撃した。

 

(ほんと、アイツに関わることはことごとく面倒だ……)

 

 アキラが溜め息を吐いていたところに、アルファによって拡張された視界の中で、ユミナが銃を手放し、アキラからの射線が通る場所へ、両手を挙げて出て来た。

 

──◆──

 

 ユミナを人質に取り、地上へ向けて地下街を幾らか戻ったところで地上にある本部との通信が回復したアキラは、その場にユミナを放置して帰還した。一応「戻っても良いこと無いから別の場所で落ち合えよ」と言い残して。訝しむような表情を向けられようと、アキラは無視した。

 

 事実、アキラが地上へ出たタイミングと時を同(おな)じくして、アキラとヤジマが交戦した現場に追加の敵戦力が到着。丁度その場に辿り着いたハンター部隊は全て返り討ちにあった。報告が遅れに遅れた後にその場へ派遣した他のハンター達によって惨殺死体が見付かってそれ以上のものは無い。遺物強奪犯は撤収していた。

 

 アキラはそっちから報告が上がって来たからそこまで事情聴取に時間を掛ける気は無いと言われ、数回の応答だけで解放される。

 

 そこからヤジマとの戦闘で肩を、シオリとの死闘で全身を痛めたアキラは、回復薬だけでは応急処置にしかならないだろうという思いと、本部には一応治療施設があるという話を聞いて、医療従事者に掛かることにした。

 

 アキラは保険になど入っていない。保険無加入者と書かれた案内板に導かれた先に居たのはアキラの予想通り、頭の先から足の先まで胡散臭さで構成された医者、ヤツバヤシという男だった。

 

 自分の作った治療薬を使わせてくれというヤツバヤシだが、緑色に光っている液体を体内に入れたい人間などいない。当然断った。「こういうのは某狩猟ゲーで充分だ」という思いと共に診察台に乗ったアキラへ、ヤツバヤシは神妙な顔と共に一つの鞄を開けアキラに見せる。

 

「良し! 分かった! 俺の薬での治療を受けるなら、俺が持ってる旧世界の遺物を売ろうじゃないか! 本来ならコロン払いでも不思議じゃない旧世界製の回復薬だ! それを思い切ってオーラムで売ろう! どうだ!」

 

 ヤツバヤシの見せてきた回復薬はアキラが以前から使用している物と同製品。旧世界製の回復薬であり、箱も未開封。アルファとの相談の後、了承した。アキラのリュックサックには同(おな)じ回復薬が残り一つしかない。それも半分程度使用済みで、この後のことを考えると心許(こころもと)無いのだ。

 

 アキラは報酬からの天引きで200万オーラム支払い、1箱手に入れた。

 

 そのあと診察と治療が為され、アキラは全身に少しずつ緑色の液体が染み込んだ包帯を巻かれ、特に負傷の大きかった箇所へとその液体を注射される。

 

 そして「1時間ぐらいは安静にしておけ。その方が薬の効果も出やすい。あと回復薬を売ったことは内緒にしてくれ」とヤツバヤシに言われ、アキラの治療は終わった。

 

(これ治験っていうけどどうやって安全確認とるんだ? 後日あった時(とき)に平然としてたから問題なしとかじゃ説得力皆無だろ)

 

 ヤツバヤシの行動に溜め息を吐いた直後、辺りが急に騒がしくなり重傷者が担ぎ込まれてきた。これ以上いたら迷惑だろうと、アキラはその場を離れる。

 

 ──

 ────

 

 地下街に遺物強奪犯が出たことを公布する訳にもいかず、かと言って低ランクのハンターが遭遇すればまず殺されてしまうことから、一定以下のハンターは地下数階まで、若(も)しくは防衛地点から外へは出ないように本部が計(はか)らった。

 

 アキラもその内の区分であり、警備で時間を消費する。じんわりと、全身にあった疲労感などが溶けるように消えていき、ヤジマやシオリとの戦闘で負った負傷が治っているのだろうと、実感できた。

 

『あの治療、かなり効果があったみたいだな』

 

『旧世界の遺物を解析して作成したって言っていたし、あれでも腕は良いようね。遺物の回復薬も手に入ったし、良いことだわ』

 

 軽く腕を動かしたりして戦闘に支障は無さそうだと安心する。

 

 その暢気なアキラから離れた位置で、本部の指揮者が少し苛立(いらだ)ちながら部下と話していた。

 

「仮設基地との連絡はまだ取れないのか?」

 

「定期的に連絡を試みていますが繋(つな)がりません。仮設基地周辺の色無しの霧の濃度が低下するまでは無理です。やはり地下街のハンターを地上に派遣しては?」

 

 彼らがアキラへ話し掛けるまであと少(すこ)し。

 

──◆──

 

『アキラ! 起きなさい! アキラ! 死にたくなかったら今すぐに起きなさい!』

 

 アルファに怒鳴られている。過去の窮地でアキラが状況を悲観的に捉えても、そのアキラとは正反対に余裕の微笑みを浮かべていたアルファが怒鳴りつけている。それを認識した瞬間、アキラの意識が一気に覚醒した。

 

 激痛の走る身体を無理矢理動かしたアキラを補助するように強化服も動き出す。アルファのサポートだ。苦悶(くもん)の表情も余所(よそ)に、近くに転がっているCWH対物突撃銃を手に取って、構える。それが現状の最適解だと言わんばかりに素早く、鋭く。

 

 一拍も無い時間の中、アキラは照準器に重装強化服を捉え、引き金を引いた。

 

 直後、アキラの視界を光が埋める。

 

 ──

 ────

 

 ケインが回避行動を取るよりも早くアキラが引き金を引いた。

 

 CWH対物突撃銃の専用弾がケインの重装強化服の胴体部分に直撃し、着弾の衝撃が空気を伝わり轟音(ごうおん)となって響き渡る。

 

 ケインは体勢を崩したまま4本の腕が持つ重火器でアキラに反撃するが、アキラはケインの腕が動き始めた時には回避行動を取っており、その銃弾の嵐から逃げ延(の)びた。

 

『ケイン? 何があったの? モンスターでもいたの?』

 

 ケインが慌てた声でネリアに答える。

 

『あいつだ! 生きてやがった!』

 

『そうなの? ミサイルの着弾位置を死体が残るように調整したら、殺せずに瀕死(ひんし)になっただけだったの? それで最後の足掻(あがき)でも食らったの? ちゃんと殺せた?』

 

『違う! あいつ、俺のミサイルを避けてやがった! しかも俺に一撃入れた上に、今の攻撃もしっかり躱(かわ)しやがった! 力場装甲(フォースフィールドアーマー)の耐久値をごっそり持って行かれたぞ?! あれはCWH対物突撃銃の専用弾か!? それは戦車類の機械系モンスターに使うもんだろ?! 地下街にいるモンスターはヤラタサソリぐらいだろう!? 何であいつだけ戦車を狩りに来(き)てるんだ?! おかしいだろうが!』

 

 ヤラタサソリを駆除する為に用意した火力程度であれば、ケインの重装強化服の耐久力を突破するのは非常に困難だ。しかしCWH対物突撃銃の専用弾なら話は違ってくる。

 

 相手の攻撃力では突破不可能な装甲で一方的に吹き飛ばす。楽な仕事。そう思っていたケインの意識は今の一撃で吹き飛ばされた。

 

 仮設基地へ向かうアキラをケインが雑に吹っ飛ばした所為で確認が必要になった。だから確認に行かせただけで、アキラが何を装備しているかなどネリアは知らない。しかし「ヤジマを殺した相手なんだから多少は強いはず。それぐらい分かっていたでしょ?」と言われ、ケインも黙る。

 

 ネリアの推察として、都市のエージェントの可能性があるかもしれない。ケイン達はアキラの後を先程よりもずっと慎重に追い掛け始める。逃がす気など無い。アキラを殺すだけでヤジマが設定した死後報復依頼プログラムによって動かせない輸送車両が、動かせるようになる。

 

 都市のエージェントならば相手にするのは不味いが、それでもアキラは1人だ。殺すなら今の内。仲間と合流する前に殺してさっさとズラかろうと意見が一致し、2機の重装強化服は慎重を喫(きっ)しつつ移動を早めた。

 

 ──

 ────

 

 ケインの攻撃から逃れたアキラがクズスハラ街遺跡を走っている。バイクは破壊された。走るしかないのだ。

 

 アキラは走りながらヤツバヤシから買った回復薬を飲み込む。アキラの全身を蝕(むしば)んでいた激痛が和らぐが、それはただの鎮痛作用であり、アキラの身体はまだズタボロなままだ。

 

 アキラは自分の意思で走っているつもりだが、アキラの四肢はアキラの意思に従えるような健全な状態ではなかった。ボロボロの体をアルファが強化服を強引に操作することで、無理矢理走らせているだけだ。

 

『ちくしょう畜生チクショウ!! こんなんばっかだ! クソがっ!!』

 

『アキラ落ち着きなさい』

 

『落ち着けるなら、落ち着きたいね!』

 

『アキラ。私に当たっても何も改善しない。あなたが一番よく分かっている筈よ?』

 

 アキラの横で飛翔するように移動するアルファに諭され、その言葉にすら怒り出しそうな感情を奥歯を嚙(か)んで止めた。アキラは大きく息を吸い、肺の中身を一旦空(から)にするように吐き出す。そして粗方の感情が動揺から来ていると整理し、頭の一部でも冷静に返した。そしてその冷静な部分を使って再度会話へ戻る。

 

『悪かった。ホントに、ごめん。……それで、あれは力場装甲(フォースフィールドアーマー)ってやつだったよな? 弱点は?』

 

『現状に適した回答なら、一つだけね』

 

『相手は2体。こっちの手札(てふだ)は一枚か……。運が無いな…………』

 

『そうね。アキラには運が無いのかもね』

 

『……あのなぁ』

 

 こんな時なんだから否定して欲しいとアルファを見れば、その顔には微笑みが乗っていた。

 

『アキラも言っていたでしょう? 私が居るわ。アキラには私が居るの。

 それでも、不安?』

 

 そう言われ、アキラも少しだけ笑った。

 

『そうか! じゃあ、勝つしかないなぁ!!』

 

 どうせ走っていても逃げれない。ならば迎え撃つ。アルファも居るのだ。それを安心感に変えて、弾に込めて、勝利し生き延(の)びてみせると心に決めて。

 

 アキラはアルファの案内の元、クズスハラ街遺跡に無数に存在している廃ビルの中に入った。そしてそのままビルの3階の外を確認できる場所まで移動する。

 

『それで、どうするんだ?』

 

『力場装甲(フォースフィールドアーマー)も無敵って訳じゃないの。それを展開するにもエネルギーを消費する』

 

『それを枯渇させれば勝てると?』

 

『一応、不安材料、聞きたい?』

 

『……聞いとく』

 

『エネルギータンクで動かしているのでしょうけれど、それの替えが無いとは限らないわ』

 

『そりゃそうか……。全部潰せばオレの勝ちか?』

 

『そこからは重装強化服から降りて来た敵と勝負よ』

 

『関門に関門を付けて難問で戸が閉じられた感じだ』

 

『諦める?』

 

『ハッ! 嫌だね! 敵を殺してオレが生きて帰る。

 ……覚悟して生きる! ……敵には死ぬ覚悟をしてもらう!』

 

『その意気よ、アキラ。来るわよ!』

 

 アキラの視界が拡張され、身を隠したビルの壁を透視したように外の光景が映る。そこにはアキラを追ってきた重装強化服が2機、立っていた。

 

 ──

 ────

 

 ケインがビルの外観を見ながらネリアに話す。

 

『あそこか。外を走って逃げると俺達に追いつかれると考えて逃げ込んだのか?』

 

『多分ね。追いかける手間が省けたわ。パッパと片付けましょう』

 

『そうだな』

 

 ケインがそう答えた瞬間、ケインの重装強化服の力場装甲(フォースフィールドアーマー)が着弾の衝撃で強い衝撃変換光を放った。アキラがビルの窓からケインを狙撃したのだ。

 

 ネリアがケインの陰に隠れながら話す。

 

『向こうもやる気みたいね』

 

『舐(な)めやがって!』

 

 ケインの重装強化服の制御装置が着弾の衝撃から狙撃位置を割り出した。頭部のカメラがビルの窓からCWH対物突撃銃を構えているアキラの姿を捉える。

 

 ケインが4本の腕の重火器を素早(すばや)くアキラへ向けて反撃する。大口径の銃口から放たれた大量の銃弾が派手な音を立ててビルの側面に激突する。

 

 大型の重装強化服や人型兵器でなければ扱えない大型の銃から放たれた弾丸は、並の鉄板など紙切れのように貫く威力を持っている。その威力にも拘わらず、ビルの壁は多少削れた程度の損傷しか受けなかった。

 

 ケインのその高い攻撃力であっても、ビルの外壁を破壊し尽くすのは現実的ではない。少なくともケイン達には時間制限がある。一帯を覆う色無しの霧が晴れるまでだ。今は色無しの霧がこの攻撃による衝撃を外部へ漏らさない、伝えない。しかし晴れてしまえば、都市の防衛隊が持っている情報収集機器ならば余裕で捉える。

 

 それは許容できない。都市の防衛隊とやり合える戦力などケイン達は持っていないのだ。早急に、速やかに、さっさと済ませなければならない。

 

 だが、アキラは殺せない。

 

 3度を超え、5度を超え、10を、30を超える。回数は積み上がっていく。何度も何度も攻撃しているが、窓から身を乗り出したアキラは自分たちが照準を定めた先には出てこない。自分たちの重装強化服に搭載した索敵機器でも捉えられない時点でアキラ側にも自分たちの動きは捉えられていないと考えていた。しかし、それは前提から違ったのかもしれない。そうネリアが切り出す。

 

 クガマヤマ都市が以前、クズスハラ街遺跡の全体マップを詳細にリアルタイムで表示する装置を持ち帰った。そしてそれを解析した製品か、それその物か。どちらにせよこちら側の動きは手に取るように把握されているかもしれない。重装強化服の挙動どころか、銃弾の1発1発までも。

 

 ネリアの推察でしかないが、実際アルファのサポートはそれを実現している。クズスハラ街遺跡全体ではないが、この一箇所程度なら余裕で全てを把握可能。それを考慮しアキラに最適な狙撃位置を指定して移動させる。それを繰り返していた。

 

 正解などネリアたちには分からない。しかしケインは苛立ちを最大限に高め、その高ぶった感情のまま、重装強化服に取り付けたミサイルポッドの発射口を全て開ける。

 

『ちょ、ちょっとなにを──』

 

『くたばれやぁ!』

 

 ネリアの静止も無視した一斉砲火がビルの窓、全てに殺到した。

 

──◆──

 

 アルファの指示でビルの奥へと急いで走ったアキラは、強化服の性能もありミサイルの一斉砲火による衝撃を受けずに済む場所まで移動出来た。アルファによって完全に計算され尽くした移動経路によって、爆風同士が相殺させ合うような移動経路だ。アキラの下まで届いたのは微風程度だった。

 

『派手な奴らだ……』

 

『一応回復薬を飲んでおいて。少し休んでおきなさい』

 

『了解。……あいつらは帰りそうか?』

 

『そんな気配はないわね』

 

『どうしてもオレを殺したいって訳だ。ふざけてるな』

 

 アキラが深呼吸を繰り返しながら前進に溜まっていた疲労を癒していく。狙撃だけでも集中力が、精神が徐々に削られる。アルファのおかげで正解の窓を選べるが、それでも敵が自分に銃口を向けていたらと考えると、やはり怖いのだ。

 

 そして休憩の時間は無くなった。

 

『アキラ。敵がビルの中に入って来たわ』

 

『了解。……………………?』

 

『どうしたの?』

 

『……いや、何でもない』

 

 不思議そうにするアルファに意地だけの笑顔を返す。この状況を鑑(かんが)みればおかしいところなどない。アルファも今は気にせず流した。

 

 しかしアキラは流せない。

 

 ────アキラの視界の中にいるアルファは、いつもの姿だった。




 ふふっ
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