白く、どこまでも白い世界に、アキラはいた。
アルファもいた。以下略で巻いて進める。
──
────
『おはよう、アキラ。よく眠れた?』
そう声を掛けられたアキラが起き上がりながら挨拶を返す。
『ああ、おはよう、アルファ。たっぷり眠ったって感じがしてちょっと良い気分だ』
『それは良かったわ』
お互い笑顔で挨拶を交わした後、アルファから現在地が病院であると教えられ、一先ずアキラは安堵した。あの場で倒れ伏した状態では弁明も何もあったものではない。都市の防衛隊から遺物強奪犯の一員だとして拘束、若しくは連れ帰る途中に死ぬ可能性が高くそのまま放置されるかも知れなかったのだ。
生き残れたことでまた運を使ったかもしれないと考えていると、部屋の扉が叩かれる。
入って来たのはキバヤシだった。
「よう、アキラ。また会ったな」
満面の笑みをありありと映した顔で、一切の躊躇なくアキラのベッドの横に椅子を置いて座ったキバヤシが、事の経緯を話し始める。
──
────
クガマヤマ都市には都市とハンターオフィス両方の息が掛かっている巨大な総合病院が存在する。生身の者や義体者、サイボーグにも対応しているため、必然的に巨大な施設になるのだ。患者の多くは荒野で活動するハンターや危険地域の警備員など、戦闘技術を必要とする者達だ。
この病院の主な役割は病気の治療ではなく戦闘で負った
その総合病院の一室で、アキラはキバヤシから話を聞いていた。
触りはアキラ視点で最も重要な自身の置かれている状況だ。話を切り出したキバヤシは持っていた鞄から資料を2セット取り出して片方をアキラに渡し説明を開始する。
アキラとネリアは都市の防衛隊員に確保された後、地下街攻略本部の医療班に引き渡され応急処置を受けた。そしてそのまま重要参考人としてクガマヤマ都市まで輸送された。
ネリアが遺物強奪犯の一員であることはすぐに露見した。他の遺物襲撃犯達が洗い
ネリアは捜査に極めて協力的に対応した。遺物強奪計画の詳細、仲間の人数や情報、隠した遺物の場所や量、輸送車両の位置など、聞かれた質問に対して正直に正確に話した。さらには聞かれていないことまでも有益な情報は全て話した。
(ネリアが超協力的に話したっていうならヤナギサワが関わったのは間違いない。今回のネリアはアルファを見た訳じゃないから、安心して
ネリアの今後について聞いた折り、キバヤシから「恨んでても都市への敵対になるから気を付けろ」とだけ言われ、それで終わりだ。
ネリアについては追加で重装強化服についても説明されたが、アキラは重装強化服の購入はしない予定でいる。高出力の
その後、ケインという男についても調査をしたが都市側は何も掴めなかった。ネリアからの情報も、今回の地下街関連の依頼で登録されていた情報も役に立たない。後者に至っては改竄済みと判明したことで状況は更に悪化。アキラが仕留めた重装強化服の解析も行なったが、身元に繋がるものは皆無。遺物強奪犯の主犯であるヤジマが連れてきた人物。これ以上のことは不明だ。
アキラが意識を失って1週間。調査が進んだことでアキラが強奪犯とは無関係であることが明らかになった時点で、防衛隊の延命処置から都市の病院へ運ばれて治療を受けた運びとなった。
そしてその後が重要になる。
アキラへの請求書が資料の最後にあった。
大半が治療代。そこへ入院費、ヤラタサソリの巣の討伐依頼のキャンセル料。請求額の合計は6000万オーラム。アキラの顔がゆっくり沈んでいくのも無理のない話だ。
「そこで、だ」
そんなアキラへキバヤシの声が掛かる。
「病院側だって支払の見込みが全くないやつに、そこまで過剰な治療をする訳じゃない。慈善事業ではないし、慈善事業だって金がないとできないんだ。取り立てられる客からはしっかり取り立てるさ。
結論から言おう。お前がこちらの要求を飲めば、その請求額を相殺した上で、1億5000万オーラム持ってここから出ていける。どうだ? 良い話だろ?」
アキラは硬直した。金額が大きいということもあるが、単純にここでも原作とのズレが起きたからだ。
敵の強弱、物量、後方からの支援。それらアキラに不条理を齎すだけではないという結果を生み出している。それをどう受けとめるか。思考がそちらへと引っ張られ続けていた。
──
────
アルファやキバヤシの呼びかけで意識を交渉中の場に戻したアキラは、その上がった金額の理由や経緯を聞く為に、色々と質問をして未だ疑問を抱える自身への納得を得ようとした。
原作では治療費を除き1億オーラムだったところが、1億5000万オーラムである理由を聞けば、重装強化服を実質2機撃破したこと。主犯格であるネリアを戦闘不能状態まで追い込んだこと。そして何より個人で活動するハンターでありながら、ハンター歴たったの半年程度で
それぞれがランク21程度のハンターでは成し遂げられない功績の数々。都市はこれを認めた上で、その功績を無かったことにしなければならない。
将来有望なハンターの可能性が高いため、今後アキラが急激な成長を遂げた後、今回の一件について不満を
本人からの一定の納得は必要不可欠であるがゆえに、その額になったとアキラはキバヤシから聞かされた。
そしてそれを加味した上で、アキラは少しばかり交渉の真似事をする。今後の練習でもあり、キバヤシもそれに気付いて乗ったことで退院手続きが少々遅れてしまった。
しかしその結果、アキラの今見ている情報端末には2億オーラムが入金されている。何度目を瞑って開いてを繰り返して再確認しようと、2億オーラムだ。最初の2という数字へ単純に0を追加していくだけでなく、後ろに1つ2つとくっ付いている。分かり易いように小さく単位も書かれている親切設計に感謝しながら、アキラは情報端末を仕舞った。
このアキラはネリアのナイフによる壁を数枚挟んだ先からの攻撃を受けていない。階下からの斬撃を躱す際に、AAH突撃銃を2挺ともダメにしてしまったが、途中で
原作とは違い、以前から使用している情報端末にハンター証がアキラの手元にある。愛着など特にないが、「これも原作乖離の1つだなー」と考えつつ、カートリッジフリークへと向かった。
──
────
店のドアを開けた先には少しだけ暗い表情を浮かべたシズカがいた。客が来た時には無理やり明るさを表に出すのだろう。だが、それでもアキラを視界に入れた瞬間から暗い雰囲気はそのままに目を見開き始めたのだ。あながち間違っていない。
その表情と雰囲気のまま、シズカがカウンターから出てくる。アキラも申し訳なさで足を止める訳にもいかず、ゆっくり近付いて大人しく抱きしめられた。
少しばかり力が入った抱擁だったが、今のアキラは全身治療済みで健康状態に限り中位区画の人間並み。シズカが満足するまで大人しく待っていた。時折り来る質問にも
退院後の深夜、情事によって疲労困憊のシェリルをベッドにそっと寝かせたアキラが寝室用に用意された小型の冷蔵庫へと手を伸ばす。中からひんやりと冷えた水の入ったペットボトルを取り出し、水分補給をしていると、アルファが話しかけてきた。
『1人に向ける精力じゃなかったわね。いつもならあと1時間は耐えるのに』
『1週間も眠ってた所為だな。めちゃくちゃ溜まってた。流石に何の誤魔化しも無しにアリシアを連れてくると怪しまれる。
というよりこっちに旧世界製の衣類を持ち込んでて良かった。危うく
『また危うくどこかの女性の前でお披露目……なんてね?』
『やめてくれ』
安堵の溜め息を吐きながらベッドまで戻り、裸体を晒しているシェリルの慎ましやかな乳房を軽く持ち上げる。以前よりもキメ細やかな肌になっているおかげか、しっとりと手にくっ付いて揉み心地が良い。山頂の果実もピンと張ってて可愛らしく思う。食生活やケアを怠っていない証拠だ。
『アキラは装備についてどうするの? キバヤシに頼むって手段も取らなかったし』
『実際どうしようかなってのが悩みだ。2憶をポンと急に渡されても……少しな』
『私は良いと思うけど? アキラが死後報復依頼の対象になったおかげ……、というのも変だけど、そのアキラが頑張ったおかげでネリアたちに、逃げるという選択肢を最後まで取らせなかった訳だからね』
『ケインとかいうのには逃げられてるらしいけどな』
『そっちは都市の仕事。アキラに指名依頼でも来ない限りどうでもいいモノよ。
私個人としてはアキラには性能の高い強化服を買って欲しいわ』
アキラが手をシェリルの下腹部へと移動させる。そのまま
『なんで高性能だと良いんだ?』
『強化服の機能の一部で、触覚フィードバックっていうものがあるの。手で持った銃の質感や硬さ、熱なんかを強化服のグローブ越しに着用者へ伝えて感じさせる機能のことよ。
高額の製品はこれの性能も比例するように高くなるの。それも手だけじゃなくて全身に適応させて、吹いてる風すら同じに感じるほどにね。エレナが着ていた強化服があるでしょう? あれ、1億ともう少しぐらい掛けてる筈よ。それぐらいになるとまるで全裸の時みたいに風を感じるらしいわ。
その影響で外に居る時にきちんと服を着ているか確認する人が結構いるらしいけど』
『それがあるとアルファの訓練の精度も向上するってことか……』
『理解が早くて助かるわ』
『銃に取り敢えず5000万払った。回復薬を後日分合わせて2000万、それに車両で3000万。シズカさんとカツラギで丁度1億オーラム使ったな』
『残りは1億。生活費やキバヤシの伝手で手に入る予定の家賃分を考慮して8000万ぐらい?』
『そうなるかな? ……うん、多分。取り敢えず今週中には決断しようか』
口座残高の使用先を決めたアキラがこれで一応悩みはないとして、シェリルの横へと滑り込む。
自分よりも小柄な少女を慈しみながらも少々強く抱きしめてしまい、シェリルが苦しそうな声を上げた。しかしどこか艶めかしい嬌声の類いであったことから、アキラはそのままアルファへ『おやすみ』と告げて眠りに就く。
──
────
アルファは眠るアキラを見ていた。シェリルを大事そうに抱えて眠っているが、実際は心底大事にしている訳ではないことを知っている。でなければその後にアリシアを手籠めにすることもなければ、半ば事故で手を出してしまったシズカに誘われても断るだろう。
しかしアキラはその両名ともに関係を続けている。
アキラも男だ。それに加え、生来のものか、スラムの配給による副作用の所為か不明だが、生殖機能が著しく高い。常人なら常に性欲に負けて暴走している可能性が高いほどに。それを考えれば手を出している相手がたった3人なのは少々意外だ。アルファも現代のスラムにおける倫理観は既に把握した。それ
まぁ、今後どこかのタイミングでメスが増えるだろうなと予想している。どのタイミングになるかまでは予測出来ていないが。
取り敢えず自分との戦闘訓練や勉学については重要視してくれていると分かった。これは嬉しい結果だ。ネリアたち強奪犯との戦闘も決して悪いことばかりではなかった。手に入れた金額も含め。
そして何よりも、アキラは意識的な体感時間の操作を習得した。これが一番大きい。今後の訓練にも熱が入る思いだ。
『期待しているわ、アキラ。ええ、本当に』
まだまだ謎の多い少年ではあるが、いずれ全て掌握して適切に誘導してみせる。その結果を自分の最良にするために、アルファは今後の展開を推測する為に演算を開始した。
早朝から、「数日前、エリオとの情事中に前戯で短銃を指で1分ほどトントンしてあげたら数滴飛ばして
ベッドに沈む少女たちを放置してシャワーを浴びたあと、情報端末に入っていたキバヤシからの通知をアキラが確認する。
通知の内容は2つ。1つは原作通り賃貸についてだ。ハンター向けに頑丈さと広さを売りにしている賃貸住宅は下位区画に結構多く建てられている。しかしアキラのハンターランクでは取り合ってもらえるかはまた別。そこでキバヤシという都市の職員でありながらハンターオフィスの職員でもある人物からの紹介を頼んだのだ。これでランクだけで見下されることはなくなった。
もう1つは、荒野仕様の大型二輪をどこかで手に入れておきたいという要望に対する通知。既にカツラギへ3000万オーラム程度の荒野仕様の車両を頼んでいるが、それとはまた別で入手しておきたいというのがアキラの希望だ。
今日明日必要になるわけでもないが、今後必要になる機会がある。アキラの欲の解消のために。アルファも遺跡内の機動力の確保は願ったりであるため、特段気にしない方針だ。
ただ現在の所持金から払うと、強化服の方に掛けれる金が消える可能性もある為、今は保留となる。このキバヤシからの紹介分も数か月は効力を持つ。車両専門店の方も、キバヤシが紹介してきただけあってそれなりの高級品を取り扱っており、客層も厚い。アキラが行かないからと潰れるようなことなど無いのだ。
アキラはシェリル達を一応起こした後、拠点から出ていった。
──
────
下位区画の中でもスラム街から結構離れた位置にある住宅を紹介されたアキラは、どうしようかと迷っていた。
(ここ、月に100万オーラムって話だし、外観も漫画の奴とはちょっと違うよな……? でも寝室も広いし風呂も大きい。風呂には前回の住人が水質調整機を仕込んでいた、と。
車庫も中々に広いから大型車両の1台や2台は余裕だ。隣接する倉庫が家とは別で建ってるのが高額な理由かな?)
アキラは不動産業の担当者に色々な質問を繰り返して、疑問を解消していく。アルファからも聞いておいた方が良いことはあるか? と聞いて、もしあればそれについても聞く。
担当者はアキラがこの家の家賃を払えるのかどうかと最初疑っていた。しかし、ハンターとして長年荒野や遺物に触れ合わなければ、得られないような知識を挙げつつの質疑が来るため、見た目通りではないと知る。そもそもがキバヤシというハンターオフィスの職員かつ都市の職員を兼業するような人物からの紹介だ。彼と伝手を結べる将来有望なハンターなのだろうと判断して、担当者はアキラの疑問の解消に付き合っていた。
結果として、5番目に紹介された家を借りることとなった。内装としては大した違いなど無いのだが、アルファからこの家の方が造りが頑強で、「たとえ襲撃されても多少は
襲撃される
アキラは支払いを済ませ、シェリルのところに置いていた下着などを直したあとに日用品などの購入に出掛ける。
食事などを済ませて家に帰る頃には日も暮れており、アルファから「明日から訓練だ」と言われ、早めに就寝する運びとなった。
アキラは既に体感時間の操作を可能としている。練度が低いだけではあるが、0と1では隔絶した差があるのは周知の事実。
卵で戦える
そしてやはり出来るとなれば、次に目指すべきは更なる熟達だろう。
アキラは自分の視界上の存在でしかないアルファからの猛攻により、車庫を
それでもめげずに、そして
『ハンターオフィスのサイトを経由してアキラ宛ての依頼が来たわね。差出人はシオリみたいよ?』
その言葉で、アキラはとうとう来たかと大の字だった身体を起こしてその依頼を確認する。
それは、原作と変わることなくシュテリアーナでの食事のお誘いだった。
『行くの?』
『クガマビルの最上階レストランだしな。向こうも殺しに来るわけでもなさそうだし、問題も無いだろ』
『アキラ。拭きなさい、ヨダレ。汚いわよ?』
情報端末を操作して、アキラは了承を返すと即座に返答が返ってくる。幾つかの候補日が乗ったカレンダーであり、そのいずれかの日に空きがあればというこちらへの配慮が見え、シオリへの好印象が再度積もった。
──
────
シオリはアキラに深々と頭を下げる。
「先日はアキラ様に
アキラ様が私とお嬢様に思うことは多々有りましょうが、全ての責は私に有ります。アキラ様が望まれるならば、私の財産でも体でも命でも差し出させていただきます。
ですから、どうか、レイナお嬢様に責を問うことは、止めていただきたく、お願いいたします」
シオリは誠心誠意アキラに懇願する。
アキラの恨みの矛先をレイナに向けさせないために、シオリは差し出せるものを全てアキラに差し出してレイナを救おうとしている。
そのシオリの言葉が口先だけのものでは無いことを理解したアキラが口を開いた。