タメ回です。
たまに日間ランキングの上に載ってるけど、エロ描写少なくてすいません。
レイナ達とのヨノズカ駅遺跡での遺物収集を行なった数日後、アキラは下位区画の防壁近くでの待ち合わせ場所へと向かっていた。
クガマヤマ都市は基本的に都市中心に近いほど治安が良く経済的にも発展している。つまり都市の下位区画では防壁寄りの立地は地価が高騰するのだ。アキラが借りている一軒家の賃貸をこの地域で借りようとすれば、月に500万オーラムが最低額になりかねない程に。
そのような場所をスラム街の子供がうろつくと当然ながら警備の者に摘まみ出されることになる。やんわりと促される程度であればまだマシで、下手な抵抗をしようものなら死体に変えられて放り出される末路が時折り散見されるのだ。
しかしクガマビル周辺は少し事情が違う。その周辺に多少薄汚れた格好の者が立ち入っても、あからさまに怪しい挙動でも取らなければ見逃される。
クガマビルには都市最大のハンターオフィス支部があるからだ。
荒野から帰って来たばかりのハンターや、スラム街から抜け出したばかりの駆け出しなどもここには用がある。彼ら彼女らが今後の都市経済を回す起因になるかもしれない。多少汚れている程度で追い出す訳にはいかないのだ。
そんなクガマビルの側でシェリル達は待っていた。
(まだ待ち合わせ時間の10分前なんだけどな……)
アキラの視界に入ったのは満面の笑みを浮かべるシェリル。頬を綻ばせている最後尾のアリシア。少しだけ疲れた表情を浮かべるエリオの3人だ。
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シェリルは以前アキラが渡した旧世界製の衣類を丈などを自分で調整し見苦しくない程度に工夫し、着こなしを誤魔化している。サイズの不一致で不格好にならないよう、シェリルなりに努力した結果だ。
その近くには強化服を着たエリオがいる。強化服は駆け出しハンター程度では入手することなど不可能。それ故に周囲に相応の経験を積んだハンターなのだろうと印象付けた。
アリシアは今回、あまり着飾ってはいない。変に目立つ必要も無ければ、今回の主役はボスであるシェリルだからだ。勿論、シェリルから幾つかの衣服を与えられているので、それを使って着飾ることは出来る。それはそれとして、アリシアは我慢できる女だ。例えアキラの前であろうと、ヘマをしないように思考を回すことなど簡単だった。
その内、エリオだけは巨大な防壁と一体化しているクガマビルの外観と、その周囲にいるハンターや警備員たちの姿に圧倒され、軽い緊張を覚えて落ち着かない様子を見せている。
対してシェリルとアリシアは非常に落ち着いた様子を見せていた。下手に動揺して挙動不審になる方が不味いということを知っていることに加え、今後徒党が大きくなるにつれ、そういった武力的に自分たちを軽々凌駕する存在と交渉する機会が多くなるかもしれないという思いから、今からでも慣れておこうと表に出さないように気を付けていたのだ。
その2人の様子を見てエリオは、流石はシベアを瞬殺するようなハンターへ単身交渉しに行く存在と、そんな存在に早期に認められただけはある幹部だと思い知る。
感心を胸に、エリオは今後も努力しようと心に決めた。
そこへアキラが加わる。そのアキラの強化服は見る者が見れば一目で高級品であると気付かせる。その上でAAH突撃銃を2挺だけに抑えているおかげで警戒度を上げる必要性が無いと判断。
更にそのアキラへとシェリルが満面の笑みを浮かべながら手を絡めるように握ったことから、ハンターとその連れが2組という判断となり、警戒度を著しく低下させた。
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「2人は自由に見てて良いわよ。ただしエリオは扱いには気を付けなさい」
「りょ、了解だ」
「分かりました。行きましょう、エリオ!」
荒野に赴いたり、ダリスのハンター稼業に時折り付き添うことで、エリオは強化服の扱いにだいぶ慣れてきたが、それでもまだまだ稚拙と言える。強化服を手に入れて1月と経ってないこともあり、練度が足りない。現状は足手纏いを脱却した程度。その為、店の商品を傷付けてはいけないと忠告した。
エリオもそれは流石に理解しており、最初から強化服のエネルギーパックは外している。変に起動させてしまってもいけないため、最初から起動しないようにしているのだ。
その所為で強化外骨格とも言える強化服の重さに耐えることになっているのだが、そこはアリシアの為。エリオは痩せ我慢を続けながら先を行くアリシアに続いて行った。
2人を見送ったシェリルは改めてその店、──ラファントーラの店主であるカシェアに振り返り、和やかな微笑みを浮かべ、声を掛ける。
「御案内を、よろしくお願い致します」
そのシェリルから溢れ出る雰囲気に圧されながらも、表情を変えることなくカシェアは応対した。
「畏まりました。こちらへどうぞ」
シェリルは勧められるままに椅子へと座り、カシェアが用意する靴を吟味し始めた。
「あー、500万オーラムを超えそうになったら声を掛けてください」
「ごっ、500万で御座いますか!?」
シェリルは原作通りどの程度の靴を購入するかで悩んだ。最近の徒党はカツラギの伝手や、エリオを筆頭とした武力要員をハンターとして登録したことで資金繰りが良くなってきた。それでも徒党の金とは結局のところ、アキラの金である。それを無駄に使用することは出来ない。
武力要員に武器を支給し、その纏め役に一番良い装備を渡すのには、防衛的な意味でも反抗心を育てないためにも意味がある。しかし今選んでいるのは目に見えて効果の出る物ではない。
吟味には時間が掛かるのだ。
その真剣な様子のシェリルを、カシェアは資金的に購入は難しいのだろうと判断した。ある意味では正解であるため、当然のように彼女を連れてきたハンターへ、つまりはアキラへと予算の目安を聞きに来たのだ。
しかしそこでいきなり500万オーラムと言われれば流石に驚く。それで頭の先から足の先までのコーデセットを購入するならばまだしも、今回の目的は靴だけだと最初に言われた。それもカシェアが硬直するのに一役買うこととなる。
「──……はっ。も、申しわけございません、急に大声を」
「いえ。ここはハンターオフィスの提携店ですしハンター証での支払いは可能ですよね?」
「は、はい!勿論でございます!」
「では決まるか超えそうな時に声を掛けてください」
「畏まりました!」
アキラの応対に圧されたカシェアはハンター証で払えるのかの確認をすることも出来ず、裏へと下がっていった。今まで値段を下げるように提供していた靴を新しく提示された値段相応の品へと変えるのだろう。
アキラはそう思い、再度目の前にあるマネキンへと目を移した。
そんなアキラへとアルファが声を掛ける。
『アキラ。あんなこと言ってよかったの?』
『何かダメだったか?』
『ダメとは言わないわ。でもこっちが提示した額ギリギリまで絞ってくるかもしれないわよ?』
『それが値段相応ならいいよ。違うなら店を変えるしかないな』
『ふ~ん。因みに、さっきからそのマネキンを見てるようだけど、何かあるの?』
『特に何も』
『何もってことは無いんじゃない? もう数分近く見てるじゃない』
『いや、何も感じないなって思って。これって結構高い服でコーデされてるんだろうけど、こう、なんと言うか……、ピンとこないんだよな』
『高そうだなって?』
『そう。アルファがいつも着てる服とかヨノズカ駅遺跡で見つけた立体ポスター、あとは……実体があるのだとこの前レイナが着てた防護服かな?
こう、高いんだろうなってのは分かるんだけど、だからどうしたって感じにしか見えなくて』
アルファの着ている旧世界の常識に則った露出の多いドレスのような衣服。ヨノズカ駅遺跡で見つけた全身を覆うような柴紺色のワンピース。レイナの着ていた強化服の上に着るドレスを模した防護服。
アキラはそれらが高いことに加えて、見る者を魅了するある種の芸術性を感じていた。現在アキラが着ている強化服にもそのような側面を垣間見るだけあり、今現在目の前のマネキンが着ている高いはずの衣服に対して何も感じない自分の感性が狂ったのかと、不安になっていたのだ。
『そういうこと。それはアキラの目が慣れたのよ』
『慣れ?』
『舌が肥えるとか、目が肥えるとか言うでしょ? 常日頃、私が着てる高級な生地で編まれた旧世界基準の衣服や戦闘服を見ていた影響でしょうね』
『つまりは何だ。アルファの所為か……』
『あら酷い』
そんな他愛のない会話をしていると、シェリルが近付いて来る。用件はアキラに支払いを任せてしまっても良かったのかという疑問だった。
アキラとしては今後どこから入手したのか聞かれないで済む遺物の納入先が欲しいのだ。いずれそれが数十億になる可能性がある。であれば、今のところ使用用途の無い500万オーラムは投資としては安いとさえ言える。
それを直接シェリルに言うことはしないが、問題無い旨を伝えれば、流石のシェリルでも僅かに顔を曇らせてしまう。
その状態では問題もあるだろうと考えたアキラは、頭を撫でるか頬を撫ぜるかで安心感を与えようとした。だが、髪はセットしてあるし、顔にもナチュラルメイクが施されている。
僅かな逡巡の後、シェリルの手を取って優しく握る。
「今後色々と頼むかもしれない。その為の投資でもあるんだ。
それでも心苦しいなら、そうだな……貸しているだけって考えてくれ。いずれ返してくれってことで」
アキラの微笑みを、握られている手を見てシェリルの顔が乙女のように綻んでいく。シェリルは頭が沸騰しそうなところを、ここは2人の空間ではないと必死に自分へ言い聞かせることで頬を朱に染める程度に抑えたあと、ぱぁっ、と花が咲くような笑顔で応えた。
「はい。分かりました。
アキラ。ありがとうございます」
まるでラブラブな恋仲のような空間が急に形成されたことで、入りにくくなった一空間。どう声を掛けようと悩むカシェアと、シェリルの雰囲気に不釣り合いなデザインの衣服へと視線を向けている寝起きのセレンがいた。
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シェリルが着ていた旧世界製の衣類についてセレンが言及。そしてどうせならばこの店で仕立て直してみてはどうかという提案に、シェリルは少し悩む。この衣類も言ってしまえば徒党の資産。アキラの私物という見方がシェリルの中では強いのだ。
しかしアキラは既にシェリルへと完全に譲渡したと考えている。確かにそれで着飾ったシェリルを見るのは眼福でもあり、専用の衣装でも用意されればそれを脱がせるという楽しみも生まれるのだ。特段、止める理由も無いため仕立て直しを依頼した。
既に500万オーラムを予算として提示していることもあり、仕立て代についても問題は無い。
ちょうどその時、一時的に合流していたエリオは、アキラがシェリルの衣服に軽く500万オーラムを支払ったことに驚愕を、そして自分との差を思い知ることとなった。
エリオが着ている強化服は信用で勝ち取った物ではあるが、同時に自分の私物として購入した訳でない。徒党の装備でしかないのだ。稼ぐハンターというのは稼ぎが違うという話は聞いたことがある。それでも実際に目の当たりにすれば気分も落ち込むもので、下がっていく頭をアリシアに撫でられていた。
その後、一旦衣服をセレンに預けるということでシェリルのコーデをすることになったアキラだが、前世からそう言ったものには疎い上に、ここは東部。以前までの常識など過去どころか太古のものとさえ言えるレベルで文化レベルが違う。結局、アルファに頼ることとなった。
シェリルの衣服をアキラが選んだ後も、アキラ達はラファントーラに残っていた。
既に仕立て直しを開始しており、旧世界製の衣服は裁断されてシェリル専用の衣服として仕立て直されている最中。仮縫いや丈の調整の為にもシェリルだけでも残る必要が生まれていた。
当然アキラもシェリルを置いて他の店頭へと向かうことはしないのだが、幾つかの話題を消化した後、何かを思い出したように一度家に戻ると言い残して店を後にしてしまう。
少しばかりの寂しさがシェリルの心に過ぎったが、それでも情報端末で連絡先の交換は為されている。時間が掛かりすぎるようであれば、連絡をくれるだろう。早くに終わればこちらから連絡を入れればいいと考えて、その小さな寂寥感はすぐに笑い飛ばした。
そしてアリシア達が、主にアリシアがエリオを連れて色々見ているところを見ながら、今後の交渉中に作る表情や立ち居振る舞いを確認するように、近くにある全身鏡を用いて軽くポーズを取る。
交渉ごとを優位に進める為に磨きをかけた自身の容姿の確認作業だ。鏡に映る自分を見ることで、自身の状態を客観的に把握する為でもある。
途中からその衣服がアキラに選んで貰った物だという意識が強く成っていることに気付いたシェリルは、鏡の中でニヤニヤしている自分を隠すため、少々慌てて椅子に座り表情を戻した。
(……デートに誘ったら、……アキラは応じてくれるのかなぁ。……今は今後の交渉のことを考えなくちゃ……)
徒党の長としての思考を最優先にしようと表情を整えようとしても、いつの間にか恋人から贈られた衣服を楽しむような行為になり始める。それを認識した瞬間、シェリルは急いで意図的な笑みへと戻す。
それが演技には決して見え無くなるぐらい、高級な生地を使用した高い衣服を身に纏える権力者だと交渉相手を勘違いさせられるようにと。
シェリルが努力を続けている最中、店のドアベルが鳴る。
シェリルの脳内はここからアキラの自宅がある位置までの距離とそこから徒歩での移動速度を割って、アキラではないと即座に理解した。
その上で一応確認のために視線をそちらへ向ければ、3人の少年少女が入店している。
それはカツヤ達だった。
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シェリルは見つめて少し微笑むだけで面白いほどの反応を示すカツヤを見て、内心笑う。
(聞いたところこの人はハンター。それもこの店に来ても数着程度は余裕で買えるほどの。
…………試してみますか)
今後、徒党が大きく成ればスラム街を居住地とするハンターからのちょっかいも増えてくる。それを上手く躱したり、逆に利用したりも必要となるのだ。成り上がり始めたハンターを相手に交渉術の練習をしようとシェリルは決めた。
「私はシェリルと言います。あなたのお名前も教えて頂いても構いませんか?」
「お、俺は、カツヤです」
「カツヤさんですか。良い名前ですね」
顔を赤くして軽い動揺すら見せながら照れくさそうに笑うカツヤを見て、シェリルは上品に楽し気に微笑んでいた。
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カツヤはシェリルとの談笑の中で、会話というものにも楽しさというものが有るのだと驚いていた。
2人の談笑の話題は主にカツヤのハンター稼業についてだ。初めはこのあたりの商店街や下位区画で良く訪れる場所の話題だった。だがシェリルがゆっくりとカツヤのハンター稼業へと焦点を変えるように促し、そこへ変わった瞬間に反応を僅かに大袈裟なものへと変える。
楽しいことには自分もそこに居たかったと残念そうに、悲しそうな事には胸を締め付けられたように、怒りを覚えたことにはそれは正当なものだと同調してくれた。
そのシェリルとの会話は非常に楽しいのだ。
カツヤはそのどこまでも心地好い会話にのめり込んで自身の情報を吐き出し続ける。
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対してシェリルはカツヤとの会話の中で違和感を抱いていた。
ただの接待の類いを繰り返しているにも拘らず、相手の褒めて欲しいところ、同意して欲しいところ、同調の欲しいところが、何故かいつもよりも分かる。まるで手の内にあるように。
相手の本心や望み、そしてその対応策を即座に取捨選択できる術を、シェリルは長いスラム街での生活で磨いてきた。だからこそ余りに上手くいっている現状に違和感を抱く。
知らず知らずの内に違和感が正常と溶け合う。
目の前のハンターと、カツヤのような将来有望な人物と縁を繋いでおくのは有益だ。
過程の抜け落ちた結論だけが思考を占領していく。
(カツヤと、……私が、……一緒に……?
………………………………アキラの方が凄くない?)
カツヤは確かに現時点でも成果を上げて名を上げ始めたハンターだ。将来有望だろう。ドランカムもカツヤを旗印に飛躍していくことだろう。
だが言ってしまえばその程度だとシェリルの冷静な部分は分析を遂げた。
自分との交渉後、数千万の強化服を手に入れたハンターがいる。大怪我をしたが治療も問題無く、さらに高性能な装備を即座に整えたハンターがいる。
その上、自分に対して既に良くし続けてくれる最愛でどこまでも尽くしたい
(やっぱりアキラってすごいのね♡)
カツヤの凄さを理解したことで、シェリルはアキラの有能さを再確認して少しばかり鼓動を早めていた。
そこを突かれても少し微笑んで誤魔化せばカツヤはコロっと騙される。
更にその場にカツヤの連れであるユミナやアイリが現れて、青い顔をしたカツヤを連れて退店していった。
(今頃カツヤがシェリルに毒電波送信してる頃なんだろうなぁ~)
アキラはアルファから、ラファントーラで不要な男物の旧世界製の衣類を売ってみないかというの提案をされて一度自宅まで戻った。確かに旧世界製の衣類でアキラが求めるのは強化服との間に着る用のインナー類か、アキラの大きすぎる男性器を仕舞える機能を持ったメンズサポーターぐらい。外行きの衣服を着るぐらいなら強化服でも着ていればいいという、原作同様の無頓着具合になっている。
(シャツとかのデザインとか旧世界の時代センスで今は合わないしな。強化服が壊れた時用に、丈の長いズボンとフード付きのジャケットぐらいは残すけど)
そう思いながらアルファの案内の下、結構な遠回りの後にラファントーラに辿り着いた。
(さて、原作とはシェリルはちょっと違うけどどうなったかな?)
『随分遠かったな?』
『アキラの安全の為なのよ。おかげで何事も無く辿り着けたでしょう?』
『都市の下位区画だぞ? いつからそんな危険地帯になったんだ……?』
『本当、不思議ね~』
アルファに訝しむ視線を送ろうにも周囲には人がいる。アキラは諦めて店内に足を入れ、シェリルに笑顔で出迎えられることにした。
だがその時、アルファの表情が非常に面倒臭そうな顔になる。
(書籍の方かー……)
アキラの予想も正しく、アルファの念話が指示となった。
『アキラ。何があってもまず落ち着いて。絶対に騒ぎを起こさないで』
『急だな。何だよ』
『良いから。アキラはとにかく冷静さを保って。それと、シェリルの適当に話を合わせるように頼んで』
アルファからの指示に、「なんでオレがいちいちあっちの顔色を窺わなきゃならんのか」という思いと共に、一応指示に従う。
「シェリル。今からちょっと適当に口裏を合わせてくれ。疑問もあるだろうけど飲み込んでくれ」
「え? まぁ、はい。構いません。任せてください」
シェリルも妙なことを言い出したアキラを不思議に思った。だが、アキラからの頼みを断る理由などシェリルにはない。
例え今から此処で裸になれと言われても、その指示に従う。アキラ以外の人間に裸体を見られることは非常に腹立たしいが、シェリルからすれば塵芥と同列。アキラが楽しむ事が最優先なのだ。少し演じろ、程度笑って承諾できる。
そこに再びカツヤ達が来店した。カツヤの瞳がアキラを捉えた瞬間、剣呑とした雰囲気を纏い始める。
「なんで、お前がここに…………」
その呟きに、アキラもカツヤの方へと顔を向けた。面倒だという思いと、よくよく出くわすものだと少しばかりの関心を持ちつつ嘆息を飲み込んでシェリルへと視線を戻す。反応しなければしないで腹を立て、反応すれば逆上しかねないのだ。面倒事を避けるためにも、無視が安定だった。
ついでに言えばカツヤの後ろでは、また面倒事が起こりそうな予感を感じてユミナが頭を抱えている。カツヤが喧嘩を売るのに近い声音で言葉を発したのだ。買われても仕方ない状況。更に言えばアキラも今度は強化服に改造済みの銃を持っている。1対3でも充分勝てるのだ。
だがアキラも、以前ユミナがカツヤを殴り飛ばしてまで収めた殺し合いを再燃させるつもりは無い。演技へと入る。
「注文の品だ。確認を頼む」
シェリルはアキラからの言葉、アキラとカツヤのお互いへ向ける視線から抱える内心を踏まえて推察を深めた後、アキラの言葉の意図を読み取った。
アキラからリュックサックを受け取り、そのまま自分だけに見えるように中身を確認し、少しの時間を空け、閉じる。そのまま自らの立場を権力者かのように振る舞いつつ、アキラへ楽しげに笑う。
「確認致しました。今後ともいい関係を築けると良いですね」
「……そう願っておこう」
どこか吐き捨てるような言葉を残し、アキラは別のテーブルへと移っていった。
カツヤは困惑のさ中に居た。初めはルシアの時のようにアキラが騒動を起こすのではと警戒していたのだが、アキラとシェリルは何かしらの関係を築いており、その力関係はシェリルの方が上のように感じたのだ。
自分がその関係を崩してしまえば、感じた力関係が逆転してしまうかもしれないという思いから足を止めていたカツヤは動けずにいた。
そこへシェリルから促されたことで、カツヤとアイリがシェリルと同じテーブルに座る。ただ1人、ユミナだけは少しの逡巡の後、アキラの向かったテーブルへと足を向けた。
アリシアは徒党での仕事を認められており、結構給金が出ている。この店の衣服でも1着ぐらいなら買えるぐらいには。その為、滅多にない機会だからとエリオを連れ回し続けているおかげで、アキラの座るテーブルは3席空いている。
「……こっちはここでやり合う気なんか無いからな」
アキラは体面に座ったユミナへとそう告げる。
「こっちも騒ぎを起こす気は無いって言っておこうと思ったの」
「そうか。分かった」
それで会話は終わり。ユミナも戻るだろうと思ったアキラだったが、どうにも戻る様子に無い。訝しむような視線を向けると、ユミナが困ったように笑う。
「下でのこととか、その色々とこっちの勘違いとかで厄介事を生み出しちゃったのはごめんなさい。そっちが穏便に済ませる方法をとってくれた上で失礼なことをしたことを含めて、ね」
「そうか……。分かった、その謝罪は受け取っておくよ。
でも、そうした原因をどうにかしておいた方が後々問題は少なくなると思うんだけどな」
「うっ……痛い所を……。
……そ、そう言えばこの間の子はどうしたの? やっぱり、えーっと……」
「言いたいことは分かるが殺してはいない。スラムの方では有名なスリ師だったみたいでな。放逐すると面倒になると思ったから知り合いのところに面倒を任せた。
今頃は汗水流して働いてるんじゃないか? あそこなら他のちょっかいも入らないだろうしな。
まぁ、そこでまた何か下手な真似をして殺されてたとしても知らないが」
「そうなの? なんだか意外ね」
「金は取り返したんだ。その前提としてアイツが逃げるから追ってただけで、殺すのは手段でしかないんだから態々取り返した後まで殺そうとは思わない」
その後もアキラとユミナは他愛のない会話を続けていた。話題は色々。出せない話題もあるが、それでもお互い年齢の近いハンターである。付き合いはそこまでないが、それでも出せる話題は結構あった。
その2人の様子を、他のテーブルに座る3人の視線が見つめている。
1人は揉め事があった相手に何故か近付いていったことへの困惑を。
1人は揉め事がこれ以上の厄介事にならないだろうという安堵を。
そして最後の1人はアキラの表情から理解した。自分の役目を。
アキラに心酔している少女はこれから起こる可能性を思案しつつ、カツヤ達に断りを入れ席を立った。
アキラから渡されたリュックサックの中身を売るために、カシェア達に口止めをする為に、今は情報を隠蔽しておく為に。
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アキラとの会話を終えたユミナはカツヤ達の下へ戻り、アキラに戦意はないことを伝え、この店に来た目的として服選びを開始した。
アルファのコーディネートに刺激されたカシェアが全力を出したこともあり、カツヤからの反応も良い服を買えたとユミナ達も喜び店を出る。
そしてカツヤに聞こえないようにアイリへ近付いたユミナが所感を聞く。
なんのか。それはカツヤに近付く女性にありがちな不可解なほどの好感の上昇について。ただでさえドランカム内にカツヤへ言い寄る女性は多く、年齢幅も広い。
競合相手が出来ないに越したことはないのだ。
そしてシェリルの纏う雰囲気は、これまでユミナのあったことの無い独特なものだった。また別方向からの矢印が来るのではと戦々恐々としている。
「美人で、高そうな服を着て、話がとても上手かった。
それと……」
「それと?」
「彼女は多分、カツヤに好意は持ってない」
「……珍しい」
「勘。だから確証はない」
そんな僅かな安心感を覚えている少女の先を1人、ゆっくり歩いているカツヤは少しだけ上の空だった。
(そう言えば俺、シェリルとたくさん話したはずなのに、シェリルのこと何も知らないな……。名前と、高そうな服を着てることと、専用に仕立て直しを頼めるってことぐらいか……?
あんな高い服を揃える店でそれだけ出来るってことは裕福な出なんだろうな……)
どこに住んでいるのか。どのような生活をしているのか。自分たちを褒めていたことからハンター稼業に婉曲的にでも関わっているのかもしれない。結局分からない事ばかりで、ユミナ達から声を掛けられるまでカツヤはシェリルのことで頭がいっぱいだった。
(また、会えるかな……)
カツヤの脳内では、歳相応の愛くるしさを持ちながら、清楚な雰囲気の中に少々背伸びした色気を見せる綺麗な衣服で身を包んだシェリルが微笑んでいた。
エリオ(500万の強化服とか壊したらやばいな…)
アキラ「戦闘用でもない服に500万ポン」
エリオを通じて徒党内でしっかり広めてくれるでしょう…
こっちでお気に入りが1000超えててちょっと複雑な気分ありますね。需要の問題でしょうが。