※この作品はR-18です。

Re:ビルドハレム   作:たっぷり

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・002 崩れてるって! 崩れてねぇって!

──◆──

 

 シェリルを抱きつぶした翌日、更にその日暮れ。アキラはスラム街のある薄暗い路地へと視線を向けていた。

 

 そこはシェリルの、────先日までシベアが占拠していた徒党の拠点へ通じる路地の中でも比較的人目が少なく、結構な人数で行動しても個々の動きを阻害しない。そんな場所だった。

 

 しかし今は違う。小石や不要となった廃棄品の残る地面には大量の血液が溢れ、赤く染められていた。

 

 まるで一つの池と見違えるほどに広く、濃い赤色をしている。そして多少の厚みを持つその池は、その厚さを徐々に面積へと変換していた。その最中、尻もちをついて今も動けずにいる彼らの仲間だった数人が恐怖に顔を歪め、それを生み出した者へとたどたどしく問う。

 

「……な、なんなんだよ、おまえは……?」

 

 そう問われた少年、────アキラがさして興味を惹かれることも無く返す。

 

「ハンター。名前を聞いてるのなら、アキラだ」

 

 そう返されても納得など出来る筈もない。男たちは自分たちを差し置いて周辺一帯を縄張りとしていたシベアの徒党を実質的に乗っ取ったシェリルを襲撃すべく、30人近くの人間を集めていた。

 

 それだけの数を集めると、流石に個々人の利益は当然少なくなる。しかし、今日の昼頃からスラムを歩いていたシェリルを見て、それだけ警戒しなければならないと判断し招集を掛けていたのだ。

 

 既に他徒党への移籍について話を付けていた者たちも呼んで実行するべきとして。多少であっても縄張りの範囲を得られるのであれば、それを土産とも出来る。飛び地になってしまうとしても、それを交渉材料にして金も手に入るのだ。決して悪い話ではなかった。

 

 この瞬間までは。

 

 シェリルと対面し、先日シベアを殺し返したアキラと共に居たこと。この拠点で徒党の地位を明確に示す場所に座っている理由。荒野で稼ぐハンターがシェリルのようなスラム街の子供に助力するなどあり得ないという言葉に返って来た、余裕の態度と闇夜に照らされ異様に輝く黒百合を模した髪飾り。

 

 それらがシェリルの発言全てがブラフだと言えない材料になった。

 

 しかし、それでも、いま拠点に居るのはシェリル1人。お気に入りとしてアキラから武器を持たされていても、この人数なら決して間違いはないと突入しようとした瞬間、先頭の者から順に銃撃され、数秒でたった数人へとその数を減らされる。

 

 路地に続く階段の上に、アキラは待ち伏せていた。そこからの不意打ちだ。

 

 なぜここにいたのか。自分たちの動向を知っていたのか。シェリルの話は全て事実だったのか。それらが疑問として脳内を支配する中、アキラの口から答えが齎される。

 

「お前らは実行に移さなかった。だから見逃してやる。

 だが、次は容赦しない。シェリルはオレの女だ。手を出すなら死ぬ準備だけしとけ」

 

 アキラから発された言葉でシェリルの後ろに誰がいるのか。そしてその脅威が自分たちを一度だけ、今回だけは特例で見逃すという。

 

 男たちは全身に圧(の)し掛かる死の気配から逃れるべく、その場から離れようとする。だが、この場にはシェリル襲撃用に用意した銃器が残っていた。自分たちの物も含めて。それを回収しようと手を伸ばした瞬間、その先の銃が飛来した銃弾によって破砕された。

 

 驚愕と共にその弾丸の発射元へと顔が動く。アキラへと目を向ける。

 

 その目に宿る確かな殺意に圧(お)され、男たちは呼吸音のようなか細い悲鳴を上げながら去っていく他なかった。

 

 アキラはその様子を見送ったあと、血の池へと歩みを進める。

 

『アキラ。まだ帰らないの?』

 

『まぁまぁ、これで帰るから』

 

 先程まで周囲を圧殺するかのように放たれていた殺意はどこへ消えたのかと思える程に、今のアキラの雰囲気はほんわかとしていた。そしてゆっくりと周辺に散らばっている銃などを回収していく。

 

『それにしても、シェリルはオレの女だ、キリッ。……かっこ良かったわよ?』

 

『茶化すなよ……。言ったろ? 投資みたいなもんだって。死なれても面倒じゃないか』

 

『投資というより、性処理でしょう?』

 

『……目的ってのは大抵、主目標と副目標があるもんだ。遺跡攻略を頼んで受注者を篭絡もする。そんな感じだよ』

 

『あら酷い』

 

『誰とは言ってないけどな』

 

 アキラは念話でアルファと他愛のない会話をしつつ、その場にあった銃を全て回収した。

 

『AAHは比較的軽量化がされてるっても、こんだけ量あると重いか』

 

『本来なら1人1挺。武装としてはそれが基本だもの。それに改造品もあれば別系統の物もあるからね。持ち帰るなら良い手があるわ。早く宿に戻りましょう』

 

『了解』

 

 アキラは軽く笑ってその場を後にする。

 

──◆──

 

 翌日、アキラは目の前のAAH突撃銃を再点検していた。

 

 昨日の夜、一度宿まで持ち帰った襲撃者たちの持っていた銃をアルファと共に検査していたところ、AAH突撃銃にも組み込める拡張部品をいくつか発見。現在の武装強化の名目と、既に持ち手はいないのだからという理由と共に組み込んでいた。

 

「これで拡張弾倉が使えるのか?」

 

『ええ。後は威力向上、弾道制御、反動抑制といった面が強化されたわ』

 

 昨日まで使用していたAAH突撃銃とどれほど違うのか。それを明確な数字に直したアルファがアキラの視界に映す。しかし、アキラにとっては大して外観の変化などないAAH突撃銃にしか見えない。

 

 その怪訝な様子のアキラを見てアルファは少し嘆息する。

 

『まぁ、その辺は今日の訓練中に確かめれば良いだけよ』

 

「……それも、そうか…………」

 

『そんなに疑わしいのなら、分かり易いように厳しめに行こうかしら』

 

「すいませんでした !!」

 

 降伏宣言と共に急いで身支度を済ませる。

 

 朝食も朝風呂も済ませたアキラの準備は万端。

 

 置いておく理由も無いためシズカの店に寄ろうと大量の銃器が入ったリュックサックを持って借宿を出たアキラの前には、シェリルが立っていた。

 

 シェリルはアキラが来るまでは他者から好感を得られ易(やす)い、作った笑顔を浮かべていた。その愛らしい容姿にマッチしたその笑みは同年代の異性どころか同性すらも魅了する力を持つ。それを作った表情だと見抜ける者は少ない。

 

 しかし、その瞳にアキラが映った瞬間、その顔は更に明るさを増し、乙女のような可憐さに少々の色っぽさを混ぜ込んだ表情に変わった。

 

「アキラ。おはようございます!」

 

 媚びるさまは一切ない。ただ純然に、アキラと会えたことこそが幸運であるかの、その様子に少しばかり効き過ぎたか? と僅かに不安になりながらもアキラが返す。

 

「ああ、おはよう。シェリル。朝から何か用でもあったか?」

 

「いえ。ただ、私がアキラに会いたかっただけです」

 

「そ、そうか……」

 

「はい!」

 

 演技かどうかを見抜く能力など無いとアキラは自分を評価しているが、それでも眼の前で楽しそうにしているシェリルは本当に自分に会いに来たのが主目的だと気付いた。

 

 その後、シェリルが数言交わした後、少しばつが悪そうに口を開く。

 

「あっ、その、ですね……。アキラには近日中に私の徒党に顔を出して欲しいんです。

 アキラのことを知っている者もいますが少数ですし、相手がハンターであることもあり本当に交渉が出来たのか。その辺りを不安に思う者も少なくありませんので……」

 

「あー、……」

 

 いささか失礼な願いであるとシェリルも思う。しかし、今後徒党の運営を潤滑に進めるためにはアキラと顔合わせは必須だ。それを省くと、後ろ盾が無いと不安がる者、シェリルを軽んじる者、統制を無視する者と様々な面倒事が生まれる。他の徒党からも茶々が入る。

 

 それを回避する方法として、シベア達をあっさり殺し返したアキラというネームバリューは非常に効果的だ。

 

 だがその結果アキラを怒らせては意味も無い。

 

 徒党が拠点ごと吹き飛ぶだけならばまだしも、シェリルは自分も纏めて捨てられたくなどない。その思考は以前もあったが、今ある理由は同じなようで違う。

 

 恐怖だ。しかし以前のものは死ぬかもしれないというモノ。

 

 今はアキラに見限られる。見捨てられる。その事象に対しての恐怖だった。

 

 アキラと離れ離れなど絶対嫌だ。可能なら一生離れたくない。シェリルは断言出来る。

 

 初めての男だという面もある。

 

 しかし一番の理由はとても気持ち良くしてくれるからだ。

 

 とても、とっても、とっっっても。

 

 路地に転がってるヤク中など目に無いぐらい頭の中がぱちぱちする程の快楽を悦楽を与えてくれる。そんな最愛の相手。今後一生現れることはない相手に見捨てられる方が死ぬことよりも恐ろしい。

 

 ならばアキラが断るのならそれは仕方が無かったとして徒党の運営を進めよう。アキラから頼まれたのだ。ちょっと面倒ではあるが、やろう。そう思っていた。

 

「俺はハンターだからな。こう、予定で雁字搦めはちょっと困る」

 

「そ、そうですか……」

 

「だから今週以内には顔を出すことにするってことで良いか?」

 

「え……、ほ、本当ですか!?」

 

「ああ」

 

 少しばかり暗くなっていたシェリルの表情もそれがバネだったのかと言わんばかりに更に嬉しそうに喜びを表層に出す。

 

 アキラも自分の頼み事も含めた内容もある分、流石に「オレが知るかよ、勝手にやれ」と突き放すクズムーブは取らなかった。

 

「それでは私たち一同、アキラのご来訪、心からお待ちしておきます」

 

「そ、そうか。じゃあ、またな」

 

 そうしてアキラは街路を進んでいった。

 

 シェリルはその後ろ姿を妖しい微笑みで眺め続ける。乙女としての恋心と女としての情欲と、そして何より雌としての本能を境界線を消すようにかき混ぜた内心を必死に隠しながら。

 

──◆──

 

『なんか、シェリル……。怖かったな』

 

『アキラが言うの? それ』

 

『仕方がないだろ? あんなに変わる女を見るのは流石に初めてだわ』

 

『ソッチは初めてじゃないのにね』

 

『クッ! 地雷だったか』

 

 アキラはシェリルの変化が著しすぎることにこれは良いことなのか、それとも悪いことなのか考えつつカートリッジフリークへと歩みを進めていた。

 

 店の入り口が見えた頃、そこから2人の影が出てくる。

 

 1人はショートの黒髪を緩くウェーブさせた巨乳の女性。その大きさの所為で衣服の留め具をいじめ続けている。そんな暴力性の対価と言わんばかりに周囲の男性の視線という大量の矢に射られていた。

 

 もう1人はショートボブの銀髪を綺麗にそろえた端麗なプロポーションの女性。隣にある霊峰の所為で比較されるが、形や全体的な収まりを考えればこちらの方が好きだという人も決して少なくないだろう大きさだ。少なくともシェリルでは東部が滅んでも勝てない。

 

 その2人が自分たちが後にした店に用が有ると断言出来る歩調のアキラを見て優しく微笑みかける。

 

 アキラもそれを見て軽く会釈してからその横を通り過ぎた。

 

(そういやオレの日程のせいか会って無かったな……)

 

 その程度の考え事と共に、カートリッジフリークへと入店する。

 

──◆──

 

「……珍しい子がいたものね」

 

「どしたの? 急に」

 

 車のハンドルを握るエレナが呟いた言葉にサラが反応する。

 

「あのぐらいの年頃なら視線は右へ左へとうろつくと思ってたってだけよ」

 

 楽しそうに笑うエレナが自分の視線をワザとらしく、原因であろうモノへ向ける。

 

「ちょっと~?」

 

 その視線を浴びたサラが自分の胸を隠す。

 

「良かったじゃない」

 

「良いと思うなら半分ぐらい持っていってくれても良いんじゃない?」

 

「あら、何も胸の話なんてしてないわ。回復薬の影響でも、ナノマシンの使用効率が上がったわねって話よ?」

 

「エーレーナー?」

 

 本来ならば。今までと同じならばもう少し小さい。サラの胸には待機状態になっているナノマシンがつまっている。一種の保管庫。荒野という一分一秒を争う危険地帯で生死に関わる行動など一つでも省けた方が良いに決まっている。

 

 そんな環境下でいちいちナノマシンの補充など出来ないがゆえの処置だ。

 

 これが原因で今まで溜めた貯金を泣く泣く崩す羽目になった、ということがハンター稼業を始めてから数年間、何度もあった。だが先日、見知らぬ誰かに助けられた後に投げ渡された回復薬を服用後、一段とナノマシンの消費効率が改善されたのだ。

 

 幸か不幸か、サラの胸部装甲は本来の平野など想像も出来ないほどに立派な霊峰を保ったままだった。

 

「結局私たちを助けてくれた恩人の情報は何一つ……、どうするべきかしらね」

 

「シズカだったら勘も良いし、何か分かるんじゃないかって思ったんだけどねー」

 

「それでも同じ話をもう10回はしているのよ? 当事者の1人だとしても、好い加減可哀想だわ」

 

 ブーブーと文句を言い始めたサラを無視してエレナが思考を深める。

 

 ハンター稼業を始めた頃、時期を同(おな)じくして店を構えた若すぎる女店主。

 

 職種の毛色は違う。しかしどちらも初心者かつ同年代ということもあり仲良くなるのはすぐだった。そんな相手が、苦笑いを浮かべながらサラの話を聞いている光景が最近の日課になり始めていることに、エレナは流石に申し訳なく思いつつ、その自分たちの救世主となった誰かを見付けるべきか、それとも見付けないべきかと悩んでいた。

 

(できれば会って、面と向かって感謝と少しでも良いから礼品でも受け取って欲しいわね)

 

 エレナが視線を横へずらせば、そこでは胸の谷間から取り出したペンダントを恋する乙女のような表情で見つめるサラがいる。それは恩人が残していった銃弾を加工して作った一品だ。サラはそれを幸運のお守りとして、そしてその救世主といつか会えますようにという祈りを込めて、常(つね)に身に着けていた。

 

(後はこの恋愛脳を冷ましてくれる程度にはクズだとありがたいわね……)

 

 かつて病弱だったころ。趣味といえるのは読書ぐらいだった。物語で姫を助ける王子さまや勇者さま。そういったものはありふれており、そしてサラにとってはそれが世界の大半だっただけに、エレナは自分でサラの理想を崩したくはなかった。

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