荒野に隣接するスラム街の中に建てられた一棟の居住ビル。シェリルを長とした組織が占有している縄張りの中心に建てられたその建造物の最上階の一角では、薄明かりが今も点いていた。
その階は基本的に組織内の上位に位置するものが使用する為、それぞれの部屋の間取りも広く、そして何故か頑丈に造られている。
以前ここを支配していた者もそれを理解していたが故に、この建物を更に前の持ち主から暴力を以って奪い取ったのだが、今の占有者は前任者の後継を宣言する者が出てくる前に占拠した。
つまりこの一室を私物としている人物は、この拠点どころか一帯の縄張りを支配している証拠となる。そしてそれを周囲の組織にも認知させることにより、詳細を知らない者達に対して支配力の証明を、そして詳細を知る者たちに対して更なる地盤の強化と威圧に対する抑止を。その2つを同時に図っていた。
これらの事情を部下へ、そしてそこから噂という形で広がる情報を事実だと認識させ続ける努力を支配主は、──シェリルは惜しむことなどしない。
それらの甲斐もあり、スラム街では現在シェリルという個人の名前と彼女の率いる徒党、そしてその名前の影響力は非常に強くなって来ている。
その力に
スラム街に数ある勢力の中でも圧倒的な成長速度を見せているいる事もその証拠として十分な理由となっている。
それを為しているが故に。そしてそれらを始めとした様々な計画を常に幾つも用意し、成功させて次の資金にさえ回す。
その結果としてたかがスラム街の一徒党程度の存在でありながら、低性能な品であろうと強化服という装備を手にするに至った。
例えそれが荒野に出て稼ぐには物足りない性能しか無かろうと、強化服や対モンスター用の銃器類は、スラム街に掃いて捨てるほど転がっている様な子供が手にするなど困難に過ぎる。それも物理的な意味で、だ。
信用の出来ない存在が店に入ることも嫌がる人間は多くない。商品に触られるとなれば尚のこと。
しかし装備が、実物がすでにそこにあるとなれば話は変わる。
新設徒党でありながら強化服などの高級品を扱う商売人に通じる伝手を手にして、自分たちは客であると認めさせるだけの信用を勝ち取ったのだ。加えて言えば、客として支払える金すらも用意したことになる。
シジマという中規模徒党とも一度抗争直前にまで発展しておきながら、今は衝突することなく、何なら縄張りの一部を共有しているという噂話すら流れていた。
それらを一度でも耳にしてしまえば躊躇を覚える。そして
安牌を取るならば中規模以上の徒党に入りたい。そう言った要望はあろうと、それが今もなお出来ないからこそ、どの徒党にも所属できずにいる。そんな人間はスラム街には年齢性別問わずにありふれており、既に諦めた者、まだ成り上がろうという熱を持っている者。どこにも所属出来ていない彼らは今のところ運は無い。
自分を有用だと売り込める者、若しくはアキラが連れてくればシェリルは徒党に招く。前者の場合、シェリルは教育の程によって、今後便利に使える人員が確保し易いという判断の下、無所属の者達の内から学がないだろう子供達を優先して入党させていた。
単純な常識や知識面に関しては幹部であるアリシアが教えており、当然ながらその教鞭の最中に挙げる話の中には、それとなく
味方に入れる以上無能であって欲しくはないが、それはそれとして使い易い人材でなければならない。下手に反抗心を持たれては迷惑極まる。短慮な人物もダメだ。今後手に入るはずだった大金を小金程度で台無しにしかねない。
そうして徐々に規模を巨大化させていく組織の長として、シェリルはスラム街の中で恐れられる存在の1人へと成長を続けていた。
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そしてそんなシェリルは現在、時計の短針が12を過ぎる前から無様としか言えないアヘ顔を晒し、彼女用に用意された大きなベッドの端に1時間ほど放置されている。
当然の如く全裸のままな為、最低限シーツを掛けられているのだが、頭からうつ伏せの状態で放置されている所為で、そのハリのあるお尻を突き出したままなのだ。
今の彼女を見て急成長を続ける徒党の長だと理解できる人間は非常に少ないだろう姿なのだが、彼女を見て笑う人間は誰もいない。
そもそもシェリルへと目を向けるよりも、ベッドの縁に座る少年と、その股座にそびえる大きな陰茎に成長期にしっかりと大きくなった乳房で奉仕する影が2つ。彼ら彼女らが再度シェリルのことを視界に入れるのはもう少し後の時間になるだろう。
翌日、シェリルやアリシア、ナーシャよりも先に起きたアキラはボス用の部屋に用意されている個人用の風呂場でシャワーを浴びていた。
パイズリをさせるのは良いのだが、やはり全ての精液を舐め取ることは出来かねる。その後にそれ以上に
非常に自分勝手な思いではあるが、アキラの情欲を向けられている少女らがソレに忌避感を感じることはない。むしろ積極的になる程だ。
それだけ自分たちが求められていると感じるからであり、アキラから肉欲を中心としたモノであっても愛情を注がれていることに違いはないからだ。
そもそもこの徒党はボスであるシェリルが支配していることとなっているが、実際はアキラの所有物である。
シェリルは部下達に明かしていないその実情を基準とした政策を取っており、金銭のやり取りが徐々に大きくなっていくことに関しても、アキラが数億オーラムという大金を稼ぐようになったのであれば、自分たちもそれに準じれるようにならなければならないという、半ば強迫観念に駆られながら徒党の管理を行なっていた。
博打である側面も否めないが、成功させるだけの下準備は常にしているし、困った際にはアキラへと一度報告をする。アキラの協力が必須な場合は迷うことなくアキラへと連絡を入れることも含めて、全てシェリルは1人で思考し、様々な案を多角的に捉えて修正案を出し続けているのだ。
それを苦だとは思わない。
最後には結局アキラの喜ぶ顔が見れるのだから。
今のシェリルにとってそれが何よりも重要なこと。
自らの苦悩など些事とすら考えていない。
狂気の域に入っている。しかしそれを表に出すことなど決してしない。アキラには常に綺麗な自分を、汚して楽しい色彩を見ていてほしい。弄んで欲しい。死ぬまで、ずっと。
それが今のシェリルだ。
アキラの為なら。それを理由にすれば何でもできる。
アキラに被害が波及する可能性のあることは決してしないが。
今の自分はアキラの所有物。
ペンが勝手にものを書くだろうか。紙が勝手に文章を写し出すだろうか。
”所有者の望む形を成してこそ”。それを第一に、シェリルは動いているのだから。
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シャワーの温度をゆっくりと下げていきながら、アキラは昨日のことを思い出す。
『昨日のアレなんだけどさ。どうなると思う?』
『避妊はしっかりしてるから問題は無いと思うわ。万が一がおきてもおろしてもらえばいい────』
『待て待て待て。シェリル達のことじゃなくてヨノズカ駅遺跡から出て来た巨大な……、えぇと合食系再構築類の蛇のことだ』
『あぁ、そっちのことね』
『……しっかり念話に絵図も乗せたのに何を言ってんだ』
『さぁね。
……あの蛇ならさっき丁度どうこうなったみたいよ?』
『どういうことだ?』
『視界に出すわね』
風呂場に居るからという理由だけで一糸纏わぬ姿のアルファが手の平を上へと向けると、その上に載るようにしてアキラにだけ視認可能な拡張現実上の視界にネットの掲載記事が現れる。
それはハンターオフィスのホームページであり、アキラが持つハンター用の情報端末から接続したことで大半の情報は取得可能。そしてそこにはクガマヤマ都市周辺の現状についての事も載せられていた。遺跡や徘徊するモンスターの種類、流通している装備や消耗品などもそこには含まれている。
常であれば情報量も発生しない程度の情報しか載っていないはずなのだが、今日は違った。
ページのトップを埋め尽くすように大々的に特定のサイトへの移動用アドレスが追加されており、アキラが念話の応用でそのアドレスを押すと、アルファが発した先程の発言内容についての詳細が映る。
『…………賞金首、か』
『えぇ。それもあの蛇、……過合成スネークを含めて計4体の、ね』
視線を動かすことでゆっくりスワイプさせていきながら記された情報を追っていけば、過合成スネーク、多連装砲マイマイ、タンクランチュラ、ビッグウォーカー。この4体の賞金首としての固有名と現在の懸賞金額、出現地域などが大雑把にだが載っている。
『あんな巨大なのが4体か……』
『全部が全部そうって訳じゃないと思うけどね。それにしても良かったわ』
『何がだ?』
『アキラが先日シズカの店で取り寄せにしていた商品があるでしょう? あれ、クガマヤマ都市で活動するハンター達にとってちょっと役不足でね。そうなると必然的に他所から運送することになるのよ』
『オチが見えた』
『残念ね』
『ああ、最悪だ』
『さっき届いたらしいわよ。アキラの予測を良い意味で裏切ったわね』
『……俺は喜べばいいのか? それとも項垂れればいいのか?』
『好きにすればいいと思うわ』
その後、アルファを介してシズカへの返答をメッセージで送信したのち、溜めておいた湯船へと身を浸からせる。賞金首に関しては色々と考えるべきことがあるのだが、今アレコレと頭を捻る意味はあまりない。
朝風呂を楽しもうとしていれば、シェリル達も起きてくる。
一番最初に起きたのはアリシアであり、同じ浴室にアキラが居ること気にすることなく、いやむしろ煽情的に見えるように身体をしならせながら全身を隈なく洗った後、湯船へ入った。ここはシェリルの私室に備えられた個人用の浴室。そこまで広くはない。
2人も入れば結構窮屈な思いをする。それを理解した上での行動であり、彼女はそのままアキラへ身を寄せる。
エリオのこともあるだろうとアリシアに言ってみれば、愛情だけは変わらず向けているので問題はないと返って来た。
最近は
最近は玉揉みで50秒までは我慢できたのだと嬉しそうに話すのだが、もうアリシアの愛情表現の内容に少々ドン引きのアキラは取り敢えず聞き流すことに決めた。
玉の大きさが小指の第一関節分程度しかないとか、太さが小指程度で長さが親指程度とか聞いてもどうすればいいのかという情報だけが右から左へと流れていく。
ただ、アリシアが幸せそうにしていることだけは確かである。半ば事故のような始まりではあったが、彼女もまたアキラの女の1人なのだ。それも同年代かつ乳房の大きな少女という最近まで1人だけの立ち位置を築いていた彼女は、それを抜いたとて無視出来ないほどに献身的な人格をしている。
そんな彼女を捨てるという選択肢は、アキラには無かった。
ヨノズカ駅遺跡での一件から十数日。あれからアキラは基本的に訓練と遭遇確率の低い方面の荒野へ足を伸ばす程度のことしかしていない。急激に上昇した装備の性能に慣れるためにも、そして荒野という危険地帯の感覚を忘れない為にも必要なルーティンだろう。
その期間アルファに呆れられながらもあちらこちらに足を向けたことには無視をした。いや、それで文句が降ってこない程、訓練に身を入れたのだが。
現在アキラはクガマヤマ都市の下位区画にある多くの酒場、その内の1つへと向かっていた。自主的なことではなく、呼び出されたという形の方が近いが相手が相手であるし、同時に原作の流れでもある今回のことは今後の布石にもなる。少なくとも最悪の事態へ発展した際のリカバリーにも使えるだろうとして。
『アキラってシェリルやシオリ達には容赦なくそういった目を向けるのに、あっちには興味ありますって視線を向けないわよね?』
そんな最中アルファがアキラの前へと躍り出て指を向ける。その先にあるのは時間的に営業を開始し始めた娼館。そしてその店前で客引きをしている娼婦など。
男の情欲を誘う煽情的な衣装に身を包んで女性的な柔らかさを視覚的に伝えてくる仕草は、成程確かにその道のプロなのだろうと察せられる。
『金で買うのは違くないか……?
というのは置いといて、視覚的に欲しければアルファに頼めばいいし、実際に出来る相手が数人いるのにわざわざ金銭を使う必要性が分からない』
『ふぅん? でもそうよね、シオリとカナエは元からそういった教育も施されてたんでしょうけど、レイナはその2人から、シェリル達はお互いの独学から反応を見て性技の実力あげてるものね?』
『なんで俺は女性と他の女の床技術について談義してるんだ……?』
『あら、男女の仲がオーソドックスなだけで同性同士の場合も多いのよ?
ほらあそこで15歳ぐらいの女の子ハンターが娼婦を買ってるわ』
『あの衣服に偽装用の造りがあることは流石に俺でも分かる……、というかそれならアイツは所謂男の娘とか言う奴か? 騙し打ちにもほどがあるだろ』
『アングラな場所では基本的に騙された方が悪いが横行するものよ』
『……さっさと行くか』
同性趣味であっただろうハンターの少女がこのような方法で金を巻き上げられるのかと思いながら、アキラは先に進む。その装備などから声を掛けようとしたキャッチを躱しながら。
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酒場に付いたアキラは、原作通りの流れでシカラベに賞金首討伐の依頼をされる。しかしシカラベ側の都合により両者の間にハンターオフィスを挟まないことを前提条件としているせいで、依頼達成時における報酬の支払い義務が存在しない。つまるところ依頼主であるシカラベの裁量で報酬未払いもあり得る状況だ。
その上で受けて欲しいという懇願でもあるが。
ハンター歴の長いシカラベから暗黙の了解についてもある程度聞き終えたアキラは本題である賞金首討伐について、依頼として出したこの案件を何故相手側に不利を押し付けるような形としたのかを聞いていた。
ハンターオフィスを介在しない依頼は詐欺だと思え。時にはそう言われるほど信用に雲泥の差があるのだ。たとえ成功報酬にてハンター稼業における功績が残らない分を含めて満足できるほどの額であっても、そもそも支払われないのであれば意味も無いからだ。
数度の確認の後、シカラベは溜め息を深く吐いて唇を動かした。
「言いふらすなよ? 一応、ドランカム内部の話だ。外部の人間に話すことじゃないんだ」
「わかった」
「……要はまあ、ドランカム内部の勢力争いの一環、その都合だ」
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肩を落としながら、そして心底面倒くさそうにシカラベは続ける。
クガマヤマ都市に拠点を置く民間軍事会社──ドランカム。
ハンター稼業を主な業務とする組織であり、多数のハンターが所属している。発足当初は小規模な組織だった。それは元は仲の良いハンターチーム同士で起ち上げたからに他ならない。しかし近年組織が急成長を見せるようになり、純粋な事務仕事要員を入れるようになってから、ハンターとして荒野へ行き現場で活動する者との軋轢が生まれるようになってしまった。
危険な荒野での経験が少ない、若しくは全くない人間では『なぜそこでそのような行動に出たのか』という疑問が生まれ、それは大抵その場に居た者たちが持つ勘のような非合理的な行動であることが多いためだ。
しかしその行動を同じ場所に居た者達は責められない。なぜならその選択を取らなければ味方が、或いは自分が死ぬこととなるから。ハンター達にとって稼ぎは重要だ。しかし同時に命あっての物種ともいう。何を捨てでも生き残る。再起の芽を残すために。
だが現場に赴いた者たちから報告書を受け取り精査するだけの事務員たちでは、その場で感じた危険性など分からない。無駄な消費をしただけ。そう取るものも多く、旨味の多い仕事を回さなくなったりなどの陰湿さを見せる者まで現在出てきている。
お互いが自分たちの主張を貫き通す為、成果を上げる必要があり、今回の賞金首討伐はとても魅力的に見えた。
ドランカム内で構成された大きな2つの派閥──古参派と若手派。
「……そんで、俺たちはその古参派。つまりはドランカム起ち上げ時期からハンターをやってる連中で、俺たちの中から事務業へ移動したやつらもコッチ側だ。精神的に荒野に出れなくなろうと荒野の恐ろしさを知ってるからこその行動ってやつを理解してくれる。
が、若手派の後ろにはその荒野に出たこともねぇような甘い考えしてる奴らが居やがる。そんな奴に俺の命もダチの命も、ドランカムの命運も握らせたくねぇ……。
こんな所か」
「大変そうだな」
「ああ……本当にな…………」
同情を誘うようにガックリと肩を落とすシカラベだが、アキラはそれに取り合うつもりなどない。彼らが自分を利用して何をしたいのかを知っているからだ。でなければ出自も性格も不明瞭な子供のハンターを、シカラベというベテランが好むはず無いと知っているから。
「納得できて、他に質問も無いのなら、そろそろ返答を聞こうか」
「条件が3つ。
1つ、俺は基本的に好き勝手に戦う。そっちの大まかな作戦には従うけど、部隊行動の細かい連携とかは期待しないでくれ」
「だろうな、俺も即興のチームで高度な連携を取れるとは思わん」
「2つ、勝ち目が無いと思ったら俺は俺の判断で撤退する。一応撤退する前に声を掛けるけど、そっちの判断でいつまでも残って戦ってやる気はない」
「随分都合の良い条件じゃないか?」
「今からハンターオフィスを介した依頼に変えてくれてもいいぞ?」
「オーケーだ……。……たくっ」
「そして最後に……、俺の貢献度に応じて報酬の上限を引き上げてくれ」
そのアキラの発言にシカラベだけでなく楽し気に両名を眺めていたパルガとヤマノベも目を細める。見定めるどころか射殺さんばかりの視線に変えて。
「大した自信だな? その新しい強化服のおかげか?」
皮肉、そして嘲笑も込められた問い。
「ああ、否定はしない」
強化服の性能を自身の実力と勘違いしている馬鹿。それがシカラベ達が若手派のハンター達に抱いている感想だ。ハンターとなって1年弱程度の彼らが総額5000万オーラムに届きかねない装備で身を固め、高威力の銃を分不相応にも振り回している。
彼らのハンターランクを上げるために御守りをさせられたシカラベ達にとってはただ時間を奪われただけでなく、そんな若手共から『この程度なのか』という荒野の危険性と古参派の実力を軽んじる視線向けられるのだ。
心情的にはガキ相手にムキになるな、と思うも、荒野へ稼ぎに出ている時点で子供であってもプロである。お遊び感覚で舐めた態度を取ってくる奴らを好きになれる訳などない。
だからこそアキラという同年代のハンターに対しても確認作業を行った。
そして……。
「ぷっ! あははははっ!! どうだ、ヤマノベ? パルガ?」
「確かに……こりゃ、うちに居ねぇタイプだわ」
「ああ、装備の性能と自分の実力を分けた上で理解してるやつだ……なぁ、ドランカムに来ないか?」
「無理」
「「フラれたな」」
「うるせぇ!」
少なくとも馬鹿なガキではない。シカラベが呼んだ訳だと、アキラに対して初見だった2人も納得した。
「それで、3つ目の条件はどうする?」
アキラの本題へ戻す一言にシカラベが逡巡する。アキラを呼び出したのはシカラベである以上、この交渉の責任はシカラベにあるのだ。下手な契約は出来ない。
充分な思案を続けた後、不敵に笑って答える。
「良いだろう。契約成立だ」
これでアキラは賞金首討伐に参加することが決定した。
シカラベとの交渉を終わらせたあと、彼からの要望によりその場に残るアキラ。交渉の席が酒場であることと奢りであるという発言を信じて色々と注文して腹を満たしていれば、その場に現れたのは原作通りの4人。金融業者であるトメジマと彼が雇ったコルベという監視役、そして借金持ちハンターの男が2人。
コルベとの関係が無かったことから原作とは違いこの場での初顔合わせとなるので後ろ手を組んでいるような会話は無かった。だが、やはりと言うべきか借金持ちハンターの1人──カドルという名の男がアキラを見て背格好から見縊ると同時に賞金首討伐から外せと言い出す。
確かにアキラの着ている強化服は基本的に外部の目に触れないような商品であるため、その価格を調べる事さえカドル程度のハンターでは不可能。それでもシカラベ達もコルベもアキラの着ている強化服が自分たちの装備と似ている感覚、つまりは一着で桁が億に届いていてもおかしくないと推察している。
たとえ本人の技量が想定よりも低かろうと装備の性能で補うことも出来るだろう、と。そしてそれは最低限の戦力想定。そもそも義体の概念がある東部に於いて見た目で侮るのは愚の骨頂。それも仕方ないことなのかもしれないが。
アキラの着ている装備には内部情報──要はアキラの身体データを情報収集機器で取得されにくくなるようなジャミング機能が搭載されているのだから。高額の強化服になるにつれ、相応に情報収集機器の性能も飛躍的に向上し、相対した人間の筋肉の伸縮で次の動作を予想することが可能になる。その対策もまたされるのだ。
借金持ちのカドルが今のアキラの装備を越える性能の情報収集機器を購入するのは不可能だろう。
それを分かった上でシカラベ達もコルベも笑って流そうとした。
だがそれを嘲笑と受け取ったカドルは徐々に理性を怒気で掻き消していく。そしてトメジマと彼を呼んだヤマノベとの間で交わされる交渉が続くにつれて鎮静化……することなく高まっていき、報酬の分配方法についての擦り合わせに入った時、「アキラの貢献度次第ではなくなるかもな」というシカラベの失言により臨界を越えた。
激情に任せてカドルが銃を抜き、アキラの後頭部目掛けて照準を定める。殺すつもりなのか、それとも銃を突き付けてアキラの怯える様を見たいのか、それはカドル自身にさえ分からない。ただ激情の開放先を求めただけの暴挙なのだから。
次の瞬間、カドルの意識はいつの間にか暗転していた。成人男性の体重に加えて強化服や銃の重量が酒場の床を叩き、階下の者たちを一瞬不快にさせる。
当の被害者未遂であるアキラは皿に残っていた最後のミートボールを口に入れると席を立つ。
「これ以上いたら面倒事に発展しそうだし、俺は帰る。予定に関しては正確なモノを送ってくれ。
……それと、今のも含めておいてくれよ、シカラベ」
「分かった。それと悪かった」
シカラベに胡乱気な視線を向けた後、アキラは溜め息を1つ吐いてから酒場を出ていく。
そんなアキラの背を見ながら今の一連の流れを過程から結果まで把握できていた者たちが結構な驚きと共に口笛を吹いていた。
(やるねぇ……、椅子の背もたれを掴んでの回し蹴り……しかも的確に顎を打ち抜いての強制的な脳震盪。挙句に手放した皿もそのままキャッチして食事を続ける余裕……これシカラベ大丈夫か?)
1人まだ交渉相手が来てないことから未だ酒を呷っているパルガがアキラの動作を評価しつつ、そんなハンターを雇った際の報酬は幾らになるだろうかと試算する。チラリと同僚であるシカラベを見れば、そちらもそちらでアキラの反応速度と動作について称賛を。同時にアキラの装備が最後に見てから変更されていること、そしてそこから1ヶ月程度しか経っていないにも拘らず生身である顎を砕くことなく脳震盪まで持っていける精度で動かしていることに違和感も抱いていた。
強化服とは一括りにされているが、物が変われば全てが変わる程に扱いに難の有る装備なのだ。何らかの、自分では計り切れない力が働いているような気がする、掴み切れない。それがシカラベの結論だった。
その後、連れて来たハンターが既に契約済みの、言ってしまえばシカラベ達の仲間でもある者へ銃を向けたといっても差し支えの無い行動をしたとして、トメジマは酷く劣勢な状態から交渉を纏めるしかなくなる。
唯一役に立つと思えるコルベも、流石に今の状況で援護するのは不可能なのだ。
家に帰ったアキラは強化服を脱ぐ前に数日前に手に入れた銃をもう一度手に取った。既にアルファによる書き換えどころか荒野での試し打ちも済ませている。十全に使用できる状態ではあるのだが、やはり今までとは桁の違う銃であるため、心配半分興奮半分な状態を抜け出せていないのだ。
『それを使った訓練も良いけれど、流石に今日は寝ましょう。自覚してない疲労が溜まってるわよ?』
「いやまぁそうなんだろうけどさ……、ほら、この銃ぐらいの重量になると強化服でも着てないと持てないからな」
『複合銃ともなればね。いろんな機能を搭載する為の機構がある分重量武器になるのは仕方ないわ。それを欠陥だと感じる人もいれば万能だと評価する人も多々いる者よ』
「……効くかな?」
『効くわ』
「貢献度稼いでシカラベ達の財布からも金出させるか」
『名案ね! その為にも訓練、しておきましょうか。討伐に出る日までまだ猶予はあるでしょうし』
「あぁ、頼んだ」
そうしてアキラは持っていた銃を専用の格納棚の中へと戻す。購入時に付いてくる直方体の箱へ入れれば、その大きさで可能な点検を行ってくれる。その格納棚の制御装置もアルファによって改造を受けていることで、精度は非常に高い。
そうしてアキラは原作以上の稼ぎを、実入りを実現するべくその日へと備えるのだった。
SSB複合銃。Web版、書籍版ともにもっと後に手にするその銃を、アキラは購入できるからと手に入れていた。
1挺、1億オーラム。拡張部品を組み込めば更に高額になるその銃の通常版を。威力に全振りすると恐らく今の強化服が悲鳴を上げるだろうという想定と共に。
ミハゾノ時の戦力がハーレムになりそう…。