カートリッジフリークへ大量の銃を買取して貰ったアキラは、そのまま鑑定を全てシズカに任せ、拡張弾倉を幾つか購入している。それをリュックサックの空いた場所へ入れていた。訓練に使うのであれば、単価の安い通常弾倉を使用すれば良いだけだからだ。
そうしてアキラはクガマヤマ都市から比較的離れた位置にて射撃訓練を繰り返していた。
迫る敵はハンター稼業を始めた日。アルファと出会ったときに襲って来たウェポンドッグ。その拡張現実の個体だった。
アキラが走って瓦礫の影へと隠れる。そこから一秒後、アキラの耳に銃弾が岩を穿つ音が響く。アキラの隠れた瓦礫へと、ウェポンドッグが攻撃した際にどのような音が響くか、その再現でもある。
その銃撃音、着弾音だけでも恐怖心を煽られ、身体が委縮してしまう。それを踏み越えてこその成長だと、笑ってアキラは銃撃音の止んだタイミングで身体を晒す。
ウェポンドッグと視線が交差する。それと同時にアキラが引き金を引く。ウェポンドッグが銃撃を再開する。
空気を斬り裂く音と共に着弾音がアキラの耳に反響し、そして結果が出る。
アキラの勝ちだった。しかしその場凌ぎの勝ちでしかない。
被弾の結果だろう。アキラの左腕が無く、数分後には間違いなく出血多量で死ぬ。専門的な医学知識など無いがそう見える。だがそれもアキラの視界上での映像でしかなく、アキラ本人が実際に怪我をしたわけではなかった。
「ハァ……、ハァ……。まだまだか……」
『まだ動き出しが鈍いわ。もっと的確に動きなさい、正確に狙いなさい。先は長いわよ』
「了解だ……。つぎっ!」
荒い呼吸を何とか元に戻したアキラは再度構えを取る。訓練は続いていた。
訓練を続けて数時間、アルファから急に訓練終了を告げられる。
「アルファ、何かあったのか?」
『……アキラ、双眼鏡を出してあっちへ向けて』
そうしてアルファが少々真剣さを感じさせる表情で指を向けた。
(クズスハラ街遺跡内ならある程度把握できるとか何とか言ってたよな……。多分それはアルファの規約的にクズスハラ街の管理システムの一部を閲覧しても問題にさせないだけの強権を持ってるからだろう……。そしてツバキの都市内にも干渉出来る所為で変に競合して嫌い合う羽目になってるんだろうけどな。
……そんで、来たか、カツラギの判断ミス)
アキラはリュックサックから取り出した双眼鏡から伸びた接続端子を情報端末に接続する。
そのままアルファの差す方向へ向けた。しかし少しばかり方向が違うのか、双眼鏡の表示装置に矢印が描かれる。その方向へ動かした直後、アキラの脳内にアルファの大声が鳴った。
『アキラ! 急いでクズスハラ街遺跡へ走りなさい!』
そうされることをアキラは知っていたが、そのただならぬ様子を実際に見ればまた別で、少し怯む。だがそれで死にたくなどない。アルファから再度叫ばれる前に双眼鏡をリュックサックに直しながら走り始めた。
『いったい何が見えたんだ? 双眼鏡には何にも映ってなかっただろ?』
全力疾走並行し始めたアキラは言葉を発して体力の低下を防ぐ為に念話での会話を開始する。基本的に口での会話の方がアキラは好きだが、念話での会話は雑音があろうと明瞭な声としてアキラに伝わるのだ。
地面を蹴った音も、そこから骨に伝わる衝撃音も無視してアルファの声が、そして映像がアキラの認識へ入る。
『良い? 何が見えても決して足を止めたらダメよ?』
そうして前置きをしたあと、アキラの視界に大量の点が現れた。それは僅かに蠢きながら徐々に、しかし確実にアキラの視界の中で大きくなっていく。
次にアキラの視界に俯瞰視点からの映像情報が出てくる。そこには、荒野の離れた位置からクズスハラ街遺跡へと向かうモンスターの群れが映っており、その集団は引き返すことなく遺跡へと近付いて来ていた。
『埋まってるなぁッ!? ところでオレは何でクズスハラに行くんだ?
確かにここは都市からちょっと離れてるけど……!』
『群れの大半が逃げてるトレーラーを追っている訳だけど、その内の少数がアキラに気付いてそれとなくこっちに進行方向を変えてるわ。ここからだと都市に戻る前にあのモンスターの群れに追い付かれる方が速いの。
出来れば私の索敵が最大限
『ああ、それは嫌だなッ!』
アキラが可能な限り早く足を動かしながらクズスハラ街遺跡へ進む。あと一時間もせずに着く。だが一時間も全力疾走を可能とする生物はいない。
少なくとも外的要因が無ければ。
『アキラ。回復薬を一粒ずつ飲んでいきなさい』
『オレってこれを体力回復用にしか使ってないような気がするな!』
『あら? 昨日生理用品代わりに使ってたじゃない』
『今そんな冗談は要りません!』
そこへAAH突撃銃の有効射程内にモンスターが足を踏み込んできた。
それを対処していくアキラだが、やはりと言うべきかアルファが拡張現実上に出していたモンスターたちと比べれば、少し弱い。怯むし、近くで被弾した仲間がいれば躊躇も持つ。それが生物だ。
『訓練中より弱いな! それにAAHも前よりずっと威力が高い!』
拡張部品を組み込んだAAH突撃銃の性能に気分を上げながら、アキラはそのままクズスハラ街遺跡へと侵入した。
カツラギという商人が運転していたトレーラーがクズスハラ街遺跡の中を走っていた。既に過去形で、今は八つあったタイヤが沈黙している。
トレーラーの前方にはカツラギ達が所持していた簡易マップには無かったはずの倒壊した廃ビルが横たわっており、進行不可になっていた。
かと言って一度大通りまでトレーラーを戻そうとしても、既にその方向からはおびただしいまでのモンスターが列をなして迫って来ている。その双眸にカツラギ達を映し、その生命反応を食い散らかさんとばかりに。
カツラギ達は必死の抵抗を続けていた。既にトレーラーの周囲にはモンスターの死体の山が幾つも出来ている。機銃掃射で原形の大半を失った死体からは血が大量に流れ出ており、積み重なった死体の山から流れ出た血が集まって、地面に赤く広い池を作っていた。
その血臭が遺跡のモンスターを呼び寄せる前に片を付けなければならない。
火力はカツラギ達が圧倒的に上回っている。モンスターの死体の山は今も増え続けている。それでも群れは一向に減る気配を見せなかった。カツラギ達の焦燥が色濃くなっていく。
その僅かな優勢も、遺跡奥部に住むモンスターが現れれば覆る。
カツラギがあまりの敵の多さに悪態を吐く。
「クソ! 切りが無い! 俺なんかをお前らで分け合っても、分け前はソーセージ1本分にもならねえだろうが! そこらの死体でも食ってろ! 山ほど有るだろうが! ダリス! 機銃の弾が切れる! 予備の弾薬を再装填するまで、そっちは
「急げよ! ……ほんとに、急いでくれ……っ!」
ダリスだけでは火力が足りない。撃てば当たる。当たれば倒せる。それだけの火力があるが、ただ倒しても減らない。個の火力としては勝っていても、数で圧倒的に負けていた。
機銃の掃射が止まる。
弾幕の圧が減ったことを契機としモンスター達はここぞとばかりに勢いづく。
更に駆ける速度を上げてダリスたちへと襲い掛かる。
ダリスは善戦した。機銃の援護が止まっている現状、それでも
だが、ここで称賛など貰えることはない。
無理だ。目の前まで迫ってきたモンスターのキバを見て、ダリスは死を覚悟した。
そして次の瞬間、それを現実としようとしていたモンスターの身体に弾丸が着弾し、吹き飛ばす。更にその個体の後続たちも連続した銃撃により攻撃の手を止められ、ついでとばかりに仕留められていく。
足場が急に劣悪となったモンスター側の情勢を利用するかのように追加の弾幕が、トレーラーに向けて走り出していたモンスターたちへ襲い掛かり、その足を止めさせた。
ハッと我に返ったダリスが銃声のする方を見る。そこには隣接するビルの窓辺から銃撃をするアキラの姿があった。
──
────
アキラがモンスターの死体の山を見て、自分がその山を現在増大させていることに目を背けながら溜め息を吐く。
『いくらなんでも多すぎるだろう。あんな数のモンスターを連れてくるとか、こいつらは大丈夫か?』
『私たちにそれは関係ないわ。生きて帰る。その都合で助けた方が生存確率が高かったから助けた。それまででしょう?』
『それもそうか……。緊急依頼だっけ? 受けたんだよな?』
『受けたわ。でもそれに固執して、彼らの為に命を捨てるなんて言わないわよね?』
『言わないよ。オレはオレの命を先ず第一にする』
『ちょっと! 私からの依頼も忘れては駄目よ!!』
『今そんな話してないだろ!?』
アキラが念話でアルファとイチャついている間にも、カツラギが機銃の弾を再装填し、再度銃撃を開始した。
AAH突撃銃よりも高威力の銃弾が雨のようにモンスターたちへと向かい、ただ殺すだけでなく、肉を抉り、骨を粉砕し、内臓をぶちまけていく。一体倒したところではその勢いは止まらない。一発一発の銃弾が後続までの道を作り続けていた。
それを生み出しているカツラギがアキラの援護に感謝しつつ笑う。
「……緊急依頼の成果が出たか? 運が向いてきた! あと
自分達の
戦闘終了後、アキラとカツラギ達は軽い自己紹介を済ませ、もうここに用はないとしてカツラギのトレーラーで都市まで向かっていた。
そのトレーラーは非常に大きく、簡易的な家としても利用できるほど大きい。そんな車両の荷台にはこの先のクガマヤマ都市で売るための商品がずらりと並んでいた。
カツラギは自分たちを助けてくれたアキラに気前よくその商品を、調達した経緯も
「これが東部の東端で使われる最前線向け装備ってやつか……。なんと言うか、凄いな」
「だろう! 俺の商才が掴んだ一世一代の賭けの成果だ! 見ろ! この銃1挺で数百億オーラムって金が動くんだぜ?」
「それ1つでか!? 考えらんねー……」
カツラギが持ち上げた大きめの箱の中にはAAH突撃銃よりも二回りは大きい銃が梱包されていた。内部に変形機構があり、それによって親指サイズの小さな銃弾から、指よりも更に大きな弾頭も使用可能だという。
『そこそこいい銃が出て来たわね』
『数百億って話だぞ? そこそこは無いだろう』
『多少は誇張して話しているわ。それだけ嬉しいだけで、騙りや詐欺の類いでは無いでしょうけれどね。
それに、私の依頼した遺跡攻略では少々荷が重いってだけ。因みに私がアキラが将来的に持つだろうって銃を想定してるけど、聞きたい?』
『聞きとうございません。絶対腐るからな』
『あら謙虚ね』
アキラはカツラギの話を聞きながら荷台の中身をある程度見ていると、隅も隅にポツンと一つの棚が置いてあるのを見つけた。
「カツラギ、あれは何だ?」
「ん? ああ、あれは今回のとは別だ。確かー……、先月ぐらいに仕入れた強化服だったかな?」
「へー」
それで話は終わった。カツラギも嬉々として話したいモノでもなく、アキラもその話よりも最前線付近で仕入れた商品や、そこで遭遇したモンスターなどの話の方が興味があるからだ。
──
────
それから数分後、機嫌の良いカツラギとアキラが運転席へと戻る。そこには一人寂しく運転していたダリスがいた。少々不機嫌そうに見える顔をしている。
「懇親会は済んだかよ、お二人さん……」
実際不機嫌だった。その様子にカツラギが笑って答える。
「いやー仕方ないだろ? 索敵機を見てる奴が1人は必要なんだからさ」
「そりゃそうだろうけどよ……」
(索敵機を見てる必要性……ね)
意味深な言い方で会話する2人を置いて、アルファがアキラに話し掛ける。
『アキラ。今すぐ右の窓から双眼鏡で外を確認して』
『何が来た?』
『多分……、残りよ』
アルファのただ事ではない様子から、アキラがリュックサックに入れていた双眼鏡を取り出して外を確認しだす。その様子を見ていたカツラギ達が怪訝に思う。
「アキラ、どうしたんだ?」
「……カツラギ。あのモンスターはお前たちが連れてきた、それであってるな?」
「あー……、バレ、てたか……。いや、でも仕方の無かったことで──」
「そんなことはどうでも良いんだ。それは全部殺したのか? 逃げて引きちぎって来たのか? それとも……、群れの一部だったのか?」
そのアキラの様子にカツラギも事態を察し表情を険しくする。
ダリスへ指示を出して索敵機の取得範囲設定を一方向へ絞った結果、2人の顔が
「忙しそうなところ悪いけど、こっちの質問は済んでないんだ……。なぁ、あんた達、どんだけの
双眼鏡で確認した方向には、この闇夜でも視認出来るほどに濃い土煙を上げ続けるモンスターの群れが居た。更にその群れに属するモンスターの顔は常にアキラ達の乗るトレーラーへと向けられている。
大量に向けられる殺意の籠った双眸に流石のアキラでも顔を険しく変えた。
3人で話し合った結果、遺跡の中にトレーラーを置き去りにしてしまう可能性が高い、アキラのクズスハラ街遺跡内をアルファの指示をアキラが経由するという案は却下された。
かと言ってこのまま進んでも都市からすればモンスターを引き連れてきた犯罪者として捕縛が精々で、今後は借金返済のために実質ただ働きの一生を送ることになる。それは取れない。
車両の燃料となるエネルギーも既に枯渇気味であり、モンスターを引き離すのに使える量はない。
「迎え撃つしかない……か」
アキラの諦念の籠った声にカツラギ達も顔を下に向ける。それ以外の選択肢は実質無いのだ。アキラも2人を今から見捨ててもモンスターと競争して勝てる訳もない。
「荷台にあった最前線向けの装備、使えないのか?」
「無理だ。強化服は個人仕様設定に書き換えるとしても最短で4時間は掛かる。銃を使うにも弾薬系の運搬は別ルートでこの車両には無いんだ。クソッ……!」
この場での迎撃が最善策。それが共通認識となった。理解と把握の精度に差異はあれど、根底にあるのはそれだ。楽観視する者はアキラだけだが。
「カツラギ。あの隅にあった強化服を前報酬として寄越せ」
「はっ、ハァ!? お前、何言って」
「カツラギ。一か八かの状況だろう。
少しでも勝率を上げる。それが今俺たちに取れる選択肢だ。全額免除が出来ないならオレの口座にある金で多少は差額を埋める。お前の態度から馬鹿みたいに高い訳でも、無いんだろう。違うか?」
「あ、いや、でもなぁ……」
言い淀むカツラギにアキラが情報端末で自分の口座を開く。そこには800万オーラムと少しが収められていた。今までのハンター稼業で地道に溜めたものと、今日シズカの店に売った銃器類の査定が済んだ
それでもカツラギは頷けない。安価ではある。しかしそれはいまこの車両に積まれている商品らと比較して塵芥というだけであり、本来ならばカツラギが扱うに足る商品なのだ。売れ残っていただけで、販売額は本来なら2000万オーラム。アキラの提示する額ではダブルスコアで足りていない。
そんな悩みを長い付き合いから見抜いたダリスが怒鳴る。
「カツラギ! そんなみみっちい計算してる場合じゃないだろうが!
それに、俺たちはさっきアキラから助けられた。その報酬も支払ってないんだぞ!? 今からぶっ殺すモンスター達の前報酬と合わせりゃ十分だろうが!」
カツラギと組む前までは地道にハンター稼業で食い繋いでいたダリスは比較的アキラ側にも立てる。その上で、先程みせたアキラの銃撃の腕、モンスターを殺す際の優先順位の判断能力、提示された子供で稼いだにしては結構な大金。これらを材料にすればアキラの援護は容易だった。
カツラギがアキラとダリスを交互に見やる。数秒の沈黙の後、カツラギが顔を上げた。
「アキラ、
そうしてアキラとカツラギはトレーラーの荷台へと移動した。
商品名、ジャッカルセンス。
それが、カツラギが
それを着用後、防御力向上のために用意されている外套を羽織る。これはこの強化服のオプション品であるため、可動域を狭めたり動作の阻害には繋がらない。
アキラはカツラギから手渡されたあと、すぐに着込んだ。
「アキラ、頼む。本当に頼むからな?」
カツラギに念を押されつつ、アキラはその後に続いた。
強化服の付属品としてお試し用のエネルギーパックが入っており、今はそれを強化服に付けている。厳密にはそれ以外のエネルギーパックは無く、節約は必須。少ないエネルギーは全て戦闘に振るため、強化服の電源はまだ付けていなかった。それ以外にも理由はあるが。
『アルファ。アルファが強化服の設定をするって言ってたけど、どうなんだ?』
『時間が足りないからね。仕方が無いから、本当に不本意だけれど、著しく精度の劣る制御プログラムで我慢しましょう』
ふくれっ面のアルファを少し面白く思いながらアキラが内心で笑う。
『それ、我慢するのオレの方じゃないか?』
『さぁ、どうかしらね?』
アルファの微笑みを見つつ、アキラが進んでいく。
既にトレーラーは迎撃の為の位置へ着いており、ダリスはトレーラーから離れた位置へと着いた。アキラもそれにならってダリスとは逆方向かつ、援護し易く受けやすい場所へと立つ。
視界の中ではアルファによって拡張された先に大量のモンスターの姿が映り込む。
(オレの行動の結果、エレナ達と真面に交流してないけどどうなるか……。
いや、助けられることを前提に戦ったら終わりだな。どっちにしろ、頑張らないって選択肢はねぇか……)
アキラは自分たちを殺さんと向かってくるモンスターを見て、恐怖を抱く。それでも勝つために強気に笑って銃を構える。
数秒後、モンスターの群れは一切の容赦なく、アキラ達へと殺到した。