全部のシーンを詳細に書くととうてい納期に間に合わないので、本題でない部分はかなりダイジェストです。
ご容赦ください。
「お兄さま、まだ起きていますか?」
ベッドの中でクオルデンツェ・ファニィがうとうとしながら聞いた。
長い空色の髪と白磁のような肌は、貴族の証しだ。労働をする必要がない。日に焼かれてもいない。
クオルデンツェ家は大陸最大の勢力、レヴィオス王国を構成する貴族団の一部だ。彼らは互いの家系を複雑に交わらせながら、広大な王国をそれぞれの領地として治めている。
「うん……」
同じベッドの上で返事をしたのは、オリヌス・ダヴィス。
幼さが残った顔立ちだが、徐々に少年から青年へと変わっていく入り口にいる年頃だ。
くすんだ色のプラチナブロンド。今は閉じられているが、瞳の色は右が赤、左が金の異色眼(オッドアイ)である。
キングサイズのベッドは二人で使うには大きすぎる。
年齢にしても小柄なファニィは、ベッドの中央まで進むのにも苦労し、ダヴィスの助けを求めるほどだ。
ふたりは兄妹同然の幼馴染みだった。だからといって、同じベッドに男女が寝るのは歓迎されることでもない。
なぜ一緒に寝ているのかは、おいおい話すとして……
「どうして、こっちを向いてくれないの?」
ファニィはダヴィスの寝巻きの裾をぎゅっと握った。
ダヴィスは答えに窮した。
なぜか。
勃起しているからだ。
バッキバキのギンギンであり、海綿体がみっちり膨らみすぎて痛みを訴えている。
暗闇の中、ベッドシーツの下で起きていることにはファニィは気づくまい。
だが性徴著しい健全な少年が、3つも年下とはいえ美しい少女と同じベッドにいながらその衝動をこらえることがどんなに困難か。読者には説明する必要はあるまい。
(なんていい匂いなんだ……!)
実のところ、荒くなる呼吸をコントロールするのにすら全力である。
だがここは貴族の城のど真ん中。しかも、クオルデンツェ侯爵家は王国の五大貴族に数えられる大名家である。爵位は侯爵となっているが、王国内では爵位の上下はあまり関係ない。重要なのは領地、勢力、功績。そのどれもがクオルデンツェは優れていた。
だから、静かで広い寝室にも使用人が控えている。
ダヴィスが劣情に負けて何やらゴソゴソした動きをしはじめたら、すぐに使用人が取り押さえ、家長が飛んでくるだろう。
だから、ダヴィスはここで愛しい幼馴染みに指一本触れるわけにはいかない。触れたら最後、ケダモノと化した自分の姿がありありと想像できる。
「ファニィは寂しいです……」
そんなダヴィスの心中を知る由もなく、ファニィは青い瞳に涙を湛えていた。
(そんな甘いロリ声……俺のちんぽがどうにかなってしまう!)
ありとあらゆるものがオナニーのネタに見える年頃である。至近距離からのささやき声など致命的なダメージを(性癖に)与えかねない。
将来、ロリっ子貴族に耳をなめられながらじゃないと射精できなくなったらどうしよう。貴族としては一大事である。
「お兄様、ファニィはこの頃、よく考えます」
返事がもらえないとわかって、しゃべりたいようにしゃべることにしたらしい。
「ファニィが魚になって川の中を泳いだら、どんな心地でしょうか。
もし鳥になって空を飛んだら、街はどんなふうに見えるでしょう。
蝶になって花の蜜を吸ったらどんな味がするのでしょう。
ライオンになってジャングルに寝転んだら、どんなにおいがするかしら」
「ライオンはジャングルにはいないよ」
博物学はこの頃の流行りだ。自分が収めていない領地にどんな動植物がいるのかを知りたがる貴族たちが、図鑑を高値で買うらしい。
ファニィの知識も、そうした図鑑で得たものなのだろう。
「起きているではないですか」
ダヴィスの脳裏に、ファニィが可憐な唇を薔薇のつぼみのように尖らせた姿がありありと浮かぶ。
将来、ロリっ子にイヤそうな顔をしてもらいながらじゃないと射精できなくなったら(略)
「……でも、そのあとに考えるんです。
魚になったファニィと、鳥になったファニィは本当に同じなのでしょうか。
もしファニィの体が山より大きかったら、どうやって暮らしていけばよいのでしょうか」
ファニィは聡明で、豊かな想像力を持っている。
ダヴィスには彼女が本当に言いたいことが何なのか、分かる気がした。
貴族として生まれ、貴族として生活し、貴族として一生を終えるのか……
もし別の立場だったら?
もし、まったく別の場所で生きていかなければならないとしたら?
もし、この世界のどこにも自分を受け入れてくれる場所がなかったら?
そんなことを考える貴族は、他にはほとんどいないだろう。
ファニィも、やがて大人になれば、少女時代の感傷を忘れてしまうかもしれない。
だけど、彼女がいま思い悩んでいることに寄り添えるのは自分だけだ。
「もしファニィが大陸より大きくなっても、俺はそれよりもっと大きな家を建ててあげるよ」
「もう。ファニィの目を見ていってください」
「あまりにかわいいから、眠れなくなってしまうよ」
「ファニィはお兄さまの顔を見ないと安心して眠れません」
愛しいと思った。
抱きしめて、安心してと言いたかった。
あまやかな唇をべっちょべちょに舐めまわして、おっぱいがもう膨らんでいるのか確かめ、下着を破いて押し倒し……
うん。抱きしめた時点でそのあとにまで発展してしまいそうだから駄目だ。
そのあともファニィは他愛もないことをいくつか話していたが、やがて疲れて眠ってしまった。
ダヴィスがパンツの中をヌルヌルのギトギトにしているとはつゆ知らず。
少年のほうはもちろんなかなか寝付けなかったのだが、ファニィの言葉がやけに胸に引っかかった。
(もし体が山より大きかったら……この世界で、どうやって生きていくんだろう?)
ダヴィスの両親の急逝が伝えられたのは、その翌日のことだった。
▶▶▶
ダヴィスはオリヌス伯爵家の嫡男だ。
伯爵領は他国との国境のほか、魔境(フィールド)と呼ばれる領域に接している。
魔境は霧に覆われ、危険な魔獣が生息する地域だ。魔獣は妖力と呼ばれる危険な力を持ち、これは人体に対して非常に有害だ。
ダヴィスの両親は、魔境から出現した成熟魔獣――きわめて高い妖力を持つ魔獣を討伐したことがある。
しかし、その際に危険な妖力を受け、以来体調を悪化させていた。
そのため、嫡男であるダヴィスは古くから付き合いのあるクオルデンツェ家に預けられて育てられることになったのである。
クオルデンツェ家は長男(つまり、ファニィの兄だ)を幼くして失っている。
クオルデンツェ家にとってはダヴィスの存在は渡りに船だった。早々にファニィとの婚約を取り付けた。二人の間に生まれた子を養子に取って家督を継がせる算段である。
先も言った通り、オリヌス伯爵領は国境に近い。そして、魔境から手に入る様々な資源――鉄、宝石、不思議な生き物たちが生み出す特殊な素材を手に入れるのに好都合な要所である。
さすがに空位にはしておけないということで、ダヴィスは本領に戻ることになった。
両親の葬儀を行い、年が明けるまで喪に服したのち、正式に伯爵位を引き継ぎ、領主となる。
さて、そんな次第でオリヌス伯爵となったダヴィスには、公私にわたり最大の問題があった。
性欲である。
この大陸において、貴族の性生活は非常に重要な問題なのだ。
人間には三つの血統階級がある。
生まれつき強大な魔力を持つ【主祖】。
主祖ほどではないが魔力を持つ【従祖】。
魔力を持たない【隷祖】。
主祖は従祖の20倍から50倍の魔力を持つ。魔力量は個人によって差があるが、従祖が10人いっぺんに魔法を放っても、主祖は自分の魔力で防ぐことができる。50人の従祖で挑めば主祖も魔力切れを起こして、最後には倒せるかもしれない。
戦力比は従祖と隷祖でも同じだ。
この世界の常識はこうだ。
主祖はおおむね隷祖1000人に相当する戦力になる。
従祖がどんなに鍛えても、まったく鍛えていない主祖より強くなることはない。
主祖は社会にも強い影響力を持つ。
少なくともレヴィオス王国の貴族は、すべて主祖に占められている。
そして貴族にとって、何よりも重要なのが血筋だ。
主祖は主祖の両親からしか生まれない。
このため、どの貴族も互いの子どもの結婚相手を探すことに躍起になっている。
ちなみに、主祖が従祖や隷祖との間に子供を成した場合、従祖が生まれてくる。
このため、主祖はできるだけ多くの相手と子どもを作ることが誉れと言われる。
簡単に言えば、中出しをすればするほど褒められるのが貴族の男子なのである。
反対に、主祖女性の貴重な10ヶ月を隷祖や従祖の子のために使うことは忌み嫌われる。
と、いうわけで……
貴族であるダヴィスがいかに性欲でパンパンになっていても、その貴重な資源をゴミ箱に捨てることは貴族にとっては禁忌なのだった。
喪が明ければファニィと正式に結婚することになる。
だが、それまでは何とか乗り切らなければならない!
そこでダヴィスは、奴隷市に向かった。
レヴィオス王国では奴隷は合法だ。もちろん、貴族が「有り余る体力」を解消するための相手として買うことも、許容されている。
奴隷市でダヴィスの目にとまったのは、マナという少女だった。
濃い茶色の髪、艶のある褐色の肌。ぱっちりした目もとは王国でよく見かける人種とは違った魅力があった。
彼女は王国が成立するよりはるかな古代に栄えた「古王国」と呼ばれる文明の末裔だった。
しかも、彼女は古王国の時代に生きていた神官の生まれ変わりを自称していた。
いにしえの景色を夢の中で見たというのだ。
興味をひかれたダヴィスは彼女を買った。
彼女の記憶への興味が半分、年の割に立派なバストへの興味が半分だった。
ダヴィスはすっかりマナの話に夢中になった。
ベッドで相手をさせる道具として買ったはずが、彼女が語る光景に魅了されてしまったのだ。まるで伝説に語られる、千一夜の間、奴隷の語る物語を聞き続けた王のようだった。
ダヴィスは古王国の遺跡を求めて砂漠へ旅立った。
何日も砂漠を探し回るのは過酷な旅だったが、主祖の魔力があれば熱や日射に耐えられる。マナは隷祖だったが、ダヴィスの魔法で守った。この数日で、他人に魔法をかけるときの制御が格段に向上した。
巨像が守っていた神殿は朽ちて崩れていたが、砂の下にまだ形を保っていた。
様々な罠をかいくぐり……というより、崩れる床をジャンプで飛び越え、揺れる刃をへし折り、崩れる天上を押し返して遺跡の奥へとたどり着いた。
そこには三つの宝があった。神官の帽子、杖、そして石板。
マナが神官の帽子をかぶると、夢の中で見ていた景色が頭の中で鮮明によみがえった。
古王国を生きた女神官は、いつか自分が再び生を受けたときのためにその記憶を封じたのだ。
杖と石板は彼女が仕えたファラオからの贈り物だった。マナが石板に触れるとそれは手のひらほどの大きさになった。
そして、マナは石板から精霊を呼び出して召喚する術を使ってみせた。
呼び出された精霊は空を飛び、砂漠の砂の中から宝石を見つけ出すことができた。
こんな魔法は、主祖にだって使えない。
そもそも、マナは隷祖なのだ!
血筋ではなく、魂の力で発動する魔法。
隷祖にも使える魔法がある――それは、大陸を席捲している貴族制や血統主義を揺るがしかねない事実だった。
こうして、冒険を通じてダヴィスは古王国の失われた秘術と知識に触れ、大きな秘密を抱えることになった。
そしてますますマナのことが好きになっていた。