※この作品はR-18です。

少年伯爵ハーレム物語   作:五十貝ボタン

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16、たたかうハーレム

「見えた!」

 津名魅の艦橋モニターにアクエリアの姿が映し出された。

 霧の中でもその巨体はくっきりと分かる。

 

「やっぱり拠点を目指して移動していたんだな。仮説が正しいかどうか、確かめてみよう」

 ダヴィスは婚約者たちとともに艦内でその様子を見ていた。

「射程は、こっちが有利のはずだよ! てーっ!」

 津名魅の船体から砲塔が突き出す。魔力の光弾を、巨人に向けてはなった。

 

「命中だ。でも……やっぱり、効いていないようだ」

 光弾は巨人の体に命中し、骨を弾き飛ばす。だが、全身を包む水がすぐにまた骨を包み、同じ場所に組みなおした。

「水の精霊の力は無尽蔵よ。すくなくとも、人間の魔力量に比べればね」

 アクエリアのうつろな眼孔が津名魅を見据えた。

 歩幅が大きくなる。巨体が走り始めた。

 

「こっちに反応してる」

「やっぱりそうか。砂沙美ちゃん、旋回を」

「とーりかーじ!」

 陸上戦艦が向きを変える。霧をたなびかせながら、魔境の中を進んでいく。

 

「あっちのほうが早いみたい!」

「間に合え!」

 片や50メートルを超える船。片や20メートル近い巨人。魔境の中でもひときわ大きな影が猛スピードで追い、追われる。

 距離は徐々に狭まっていく。アクエリアの表面を覆う水がざわめいた。

 

「撃ってくるよー!」

「近くの大きなものにつかまって!」

 ダヴィスはマナの胸を掴もうとして、ルイズと凛々蝶から両脛を蹴られた。

 

 ぱしゅっ!

 アクエリアの表面から放たれる水の刃。津名魅は光の壁のようなバリアを展開するが、純粋な魔力弾には強靭な盾となるこの壁も、水を介した攻撃には完全な防御策にはならない。ざっくりとした切り傷が船体に走る。

 

「っう……!」

「ほんの少しの我慢よ……ほら、見なさい!」

 ある場所で、アクエリアが姿勢を崩した。明らかに動きが鈍っている。

「精霊の力は無尽蔵でも、水が無限にあるわけじゃない。水がない場所に誘い込めば、思い通りには動けないわ!」

 その一帯は砂漠だった。魔境の環境はおよそメチャクチャであり、湿地と砂漠が隣り合うことさえあった。

 砂漠の乾燥した砂に体表の水を奪われたのだ。

 

「よし、行くぞ!」

 環境から船外へつながる射出口(カタパルト)が現れる。

「ほ、本当にやるのね……」

「大丈夫、僕を信じて」

「別に、怖いわけじゃないわ!」

 ルイズと凛々蝶が射出口に体を乗せる。

 

「発射っ!」

 ふたりの主祖が空中へと打ち出された。猛烈な風を切りながら、手をつないで飛ぶ。

 ストロベリーブロンドと濡れ羽髪が吹き散らされながら空中へ。主祖の強靭な魔力と肉体で、落下の衝撃には耐えることができるはずだ。

 

「……あの二人で盛り上がってないか?」

 どっちも俺が落としたはず……とぼやくダヴィスに、マナはあっけらかんと、

「被害者の会だって言ってたよ」

 と言った。

 

 

 ▶

 

 

「~~~~~!!!」

 飛んでいる。

 ものすごい速度で撃ちだされ、ルイズは風の中で悶えていた。

(風の魔法が使えれば、どうってことないのに!)

 だけど、いま悔やんでも仕方ない。合成魔獣アクエリアの不気味な姿と、それから広々とした砂漠の地面がぐんぐんと迫ってくる。

 

「普通に着地すると全身が衝撃を受けるぞ。地面を転がって衝撃を逃がすんだ」

「そ、そんな器用なことできないわよ! 練習したこともないし!」

「仕方ない。それじゃあ……!」

 ぐ、っと引き寄せられた。体格はそれほど変わらないはずなのに、凛々蝶の手は力強かった。

 

「どうするの!?」

「飛んでる速度と同じ速さで走る!」

 変化。

 先祖返りとしての力を解放し、凛々蝶は鬼の姿へと変じた。

 魔力を足に込める。柔らかい砂の上にまともに着地したら、下半身ごと突き刺さってしまう。着地と同時に、脚から魔力を放出して小規模な爆発を起こすイメージだ。

 

 ぼんっ! ぼんっ!

 

 砂をまき散らしながら、凛々蝶は砂漠の上を跳ねる。腕にはルイズを横抱きにしている。

「あいつがこっちを見てるわ!」

 抱かれたまま、ルイズが叫ぶ。

「やっぱり魔力に反応しているんだ」

 

 アクエリアの動きについて、ダヴィスはある仮説を立てていた。それは、より強い魔力を持つものを標的にするということだ。

 合成魔獣が作られた目的は、主祖を殺すことだ――『解放軍』の女は、そう言っていた。

 そして、起動したアクエリアは命令された様子もないのにダヴィスを狙ってきた。強い魔力に反応しているのだ。

 

「となれば……」

 凛々蝶が着地の速度を弱めていく。

 放出する魔力の量が減ると、アクエリアはすぐに興味を津名魅に戻した。戦艦じたいが芳醇な魔力をたたえており、始祖と主祖が乗っているのだ。

 ずん、ずん、と巨人が動き出した。津名魅を射程に収めようとしているのだ。

 

「津名魅はすごいな。狙い通り、敵の射程のギリギリ外まで飛ばしてくれた」

 どの程度の距離なら合成魔獣が攻撃してくるのか、津名魅に搭載された感知器はきっちり測ってくれていた。

 砂に水を吸われ、アクエリアは一回り小さくなっている。今は突き出した骨を砂に当て、水が触れないようにすることで奪われることを防いでいるようだ。

 その分、射程も力も弱まっているはずだ。だが、その水の中には魔法使いを殺す毒、妖力が含まれている。

 ダヴィスの腕を使い物にならなくするほどの妖力。主祖であるルイズがまともに浴びれば、二度と起き上がれないかもしれない。

 

「やるわよ」

 ルイズがマントの裏からワンドを抜き、掲げた。

「発射!」

 それを目印に、再び津名魅のカタパルトが動いた。

 ダヴィスの体が空中に射出される。みるみるアクエリアの射程圏に近づいていく。

 

 合成魔獣のうつろな眼窩はそれを見据えていた。

 始祖であるダヴィスの魔力は、その場にいる誰をも上回っていた。

 すでに射程内にいるにもかかわらず、ルイズと凛々蝶にかまうつもりはないようだった。

 

(私を……見なさい!)

 ルイズはその時、自分の最も恥ずべき特性……怒りっぽさを、あえて自ら解き放った。

 高く掲げたワンドを振り下ろす。

「ファイヤーボール!」

 魔法は発動しない。

 

 もちろん、発動しないことはわかっていた。

 魔法が使えない主祖……だが使われない魔力はルイズの体内にため込まれ続けていた。

 その魔力が一瞬にして行き場を失い、周囲の空間に吹き荒れる。

 

 その瞬間だけは、ルイズが放つ魔力はダヴィスを上回っていた。

 

 ばしゅっ!

 

 半ば自動的に、アクエリアが水刃を放った。

「させるかっ!」

 一瞬。高圧の水刃が届く直前に、ルイズの前に凛々蝶が立ちはだかる。

 先祖返り。それは人と魔獣の混交だ。

 凛々蝶が鬼に変じている間、その体は妖力を帯びる。すなわち、妖力に耐えることもできる。

 ルイズへと放たれた刃を受ける。妖力で織り上げられた衣が肩から腰まで切り裂かれ、その下の肌がはらりと覗いた。

 

「くっ……!」

 それでも、猛烈な妖力が体をむしばむ。めまいを感じながら、凛々蝶は叫んだ。

「何発も耐えられないぞ!」

 すぐに次の刃が放たれる。だがそれよりも早く、ダヴィスは空中で魔力を広げ、加速していた。

 

「思ったより……怖いな!」

 自力で走るときよりもはるかに速度が出ている。しかも、射程内に放たれたルイズや凛々蝶とは違う。

 直撃コースだ。

 ルイズと凛々蝶がアクエリアの標的となり、攻撃を受けている隙にダヴィスが接近する。そして直接、スレッタを引きはがす作戦だ。

 

「うまくいってくれよ……!」

 観察によれば、アクエリアの水刃は数秒ごとに放つことができる。一回分、ルイズと凛々蝶が引き受けてくれた。

 次の一撃が放たれる前に、決着をつけなければ。

 

 ダヴィスの体にロープで縛り付けた石板が光を放った。

 マナと一緒に、遺跡の中で見つけたあの石板だ。

 津名魅にいるマナが石板を通じて古代の秘術を解き放った。その光が何体もの精霊の姿となって、アクエリアの体にぶつかっていく。

 

 小さな毛玉のようなその精霊たちは、しかし自分よりもはるかに巨大な合成魔獣の全身の骨に取りついた。そして、その中に埋め込まれた金属片を引きはがしていく。

 精霊の魔力と魔獣の妖力を結ぶ繋がりが断たれていく。

 アクエリアのシルエットが歪んだように見えた。精霊の扱う水と、魔獣の骨とが人の形を保てなくなっているのだ。

 そして……

 

「うおおおおおおおおっ!」

 裂帛の気合い――半分は恐怖の叫びをあげながら、ダヴィスはアクエリアの体の中に飛び込んだ。

 

 ぼちゃんっ!

 

 勢いのあまり反対側に突き抜けるのではないかと思ったが、そうはならなかった。

 水は重く圧縮されていた。見た目のさらに何倍もの水量がアクエリアの体を形作っていたのだ。

 押しつぶされそうな水圧を感じながら、ダヴィスは周囲を探った。

 スレッタは隷祖だ。魔力はない。だから、魔力を探知することはできない。

 

 水の中に満ちていた魔獣の妖力は今や消えかけている。マナの秘術が精霊と魔獣のつながりを消し去ったのだ。

 だが、水圧で眼球が押される。頭が内側から破裂しそうだ。

 

(……いた!)

 スレッタは水の中にゆらゆらと揺蕩っていた。

 ダヴィスとちがって、水圧から守られているようだった。それどころか、安らかにさえ見えた。

 

 ダヴィスは必至に手足で水をかき、彼女に近づいて行った。ほんのわずかな距離なのに、大海を泳いでいるかのようだった。

 水の中でスレッタの腕をつかむ。体を引き寄せる。

 だが、反応はない。朱色の髪をゆらめかせ、眠るように目をつぶっている。

 

(魔獣と精霊を引き離したけど、スレッタはまだ精霊に支配されている……)

 この水の中から、泳いで脱出するのは不可能だ。すでに精霊の体の中にいるのだから。

(目を覚まさせないと!)

 

(うまくいってくれよ……!)

 スレッタの頭を抱き寄せ……。

 唇を重ねる。

 

 そして、肺に残ったひと息をスレッタの胸の奥に吹き込んだ。

 古典的な解決法、人工呼吸である。

 

 

 ▶

 

 

 ぱしゃぁああああああんっ!

 

 砂漠のど真ん中で、アクエリアの巨体がはじけた。

「どうなったのっ!?」

 環境で固唾をのんで見守っていた砂沙美は思わず身を乗り出した。あたりに水と骨の破片が降りしきり、よく見えない。

 

「……!」

 同じくモニターを見つめていたマナが、ふと笑みを浮かべた。

「大丈夫。……うまく、いったよ」

 徐々に視界が晴れていく。

 

 水濡れた砂の上でダヴィスとスレッタ、二人が折り重なっていた。

「こんな時まで女の子の下敷きなんて……おにいちゃんらしいや」

「けほっ! ごぼっ……おえぇええええ……」

 スレッタが大量の水を吐き出し、ダヴィスの顔に浴びせる。

 ダヴィスにはそれをかわす余力もないようだった。




 このパートはどう考えても書きすぎなんですが、せっかく強い設定のキャラクターたちがそろっているので、みんなで協力して事件を解決するところを書きたいと思いました。
 エアリアルの代わりでアクエリアと名付けたのは、「水精の魔女」って言いたかったからです。
 ラストの展開が気に入ってます(解決法もオチも)

13~16話で気に入ったところを教えてください

  • (13話)スレッタとの会話
  • (13話)砂沙美との会話
  • (14話)アクエリアの描写
  • (15話)ブリーフィング
  • (15話)スレッタの描写
  • (16話)津名魅の描写
  • (16話)ルイズと凛々蝶の共闘
  • (16話)スレッタ救出
  • エロシーンがねーじゃねーか!
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