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ダヴィスはルイズと凜々蝶、二人との婚約を取り付けた。
まだ両親の喪に服しているから正式には発表していないが、根回しはする必要がある。
白鬼院家からは一通目の手紙で許可が下りた。
凜々蝶いわく、「厄介払いできてせいせいしているだろう」とのことだ。彼女は家系図には載っているものの、先祖返りであることから家の継承権はない。皇族と顔を合わせたこともないらしい。
ラ・ヴァリエール公爵家は多少の複雑なやり取りが必要だったが、最終的には婚姻の前にトリステインを訪れることを条件に許可された。
こちらはさすがに公爵家のメンツというものがあるのだろう。手紙の中には、幅広い教養を試すような複雑な仕掛けがされていた。できる限りの応答をしたつもりだが、公爵が――あるいは女王が――どれだけ満足したのかは想像するしかない。
ダヴィスの意向はあくまでファニィを第一夫人とすることだ。本来であれば公爵令嬢であるルイズを第一夫人とするのが序列というものだが、それではトリステインとの結びつきが強くなりすぎる。ましてや、女王アンリエッタの狙いは始祖の血をトリステイン王家に取り込むことだ。慎重にバランスをとらないと、ダヴィスが伯爵領をトリステインに差し出そうとしているように見えかねない。
高貴なお嫁さんを何人ももらってハーレム暮らし、という状況を楽しむためには、誰からも文句をつけられないようにしなければならない。
そのためには強さが必要だった。
始祖であるダヴィスと戦って勝てるものはほとんどいないだろう。だが伯爵領は決して強い土地とは言えなかった。
他国と国境を接する重要拠点ではあるが、その分王国の中心とは距離が遠い。地方の中心地はクオルデンツェ侯爵領であり、その前にある盾のような役割である。
もしクオルデンツェ侯爵と敵対すればそのまま王国と敵対することに等しい。王国が敵に回れば、交易はストップし領民は大いに苦しむことになるだろう。
いかにダヴィスが強くても、世界すべてを敵に回すことはできない。
隷祖が主祖による支配を受け入れているのは強さからして自然なことだが、主祖が隷祖をわざわざ支配するのはなぜか。
それは、主祖が万能ではないからだ。魔力は大砲の代わりになるが、畑の代わりにはならない。時間をかけて作物や動物を育てる農業や、精密さが求められる工業は、魔法では代替できない。
貴族が守ってくれると信じられるから、酪農家や職人はその土地にいられるのだ。つまるところ、魔力の強さは貴族の強さとイコールではない。領民を守ることこそが領主の強さなのだ。
さて、オリヌス伯爵領には特産が一つだけある。
魔境だ。
魔境は過酷な環境だが、その分見返りも多い。鉱石や金属、不思議な植物、そして魔獣の体から取れる物質が様々な用途で役に立つのだ。
そこで、ダヴィスは魔境に目を付けた。
魔境をより詳細に調査し、活用できる資源を探す。その資源の採取を安定的に行えば、人を増やし、国力をたくわえることができる。
自ら魔境に赴き、従祖冒険者たちが探索できない奥地に探索の網を広げるのである。
ここでも根回しが必要だ。魔境の東端は樹雷に接している。魔境はどちらの国のものでもない、という約束を樹雷とは取り交わしているが、逆に言えば魔境での活動方針を変えるなら、樹雷へ話を通しておかなければならない。
いい鉱脈を見つけたが、すでに樹雷が採掘の準備をしていた、というようなことになったら目も当てられない。
そこで凜々蝶を通じて樹雷皇家に伺いを立てた。
樹雷は成熟魔獣を討伐したダヴィスの功績を高く評価しており、調査の結果を隠さず樹雷にも報告すること、そのため監督者を同行させることを条件に了承した。
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ダヴィスが統治するオリヌス領の戦力の半分は魔境の監視のために使われている。
広大な魔境の内外を監視するための監視所が複数。そして、魔境の内部には冒険拠点となる町がある。
誰が魔境に出入りし、どれぐらい資源を採集しているかを拠点で管理しているのだ。
当然、ダヴィスもまずは拠点に向かった。
拠点は川に隣接している。成熟魔獣が出現したあの川だ。
対岸には樹雷の拠点がある。その対岸から、一隻の船が向かってくる……互いの拠点で情報や物資の交換を行う定期船ではない。それよりももっと大きい。
軍船だ。
ダヴィスが調査を行うにあたって、樹雷から派遣された監督官が乗っているはずだ。
河港でその船を迎える。
なめらかな船体の中腹にとつぜん穴が開き、そこから一人の少女が現れた。
少女の年頃は、ファニィと変わらないように思えた。ダヴィスから見れば3つか4つほど下。
青みがかった髪は長く艶がある。額に描かれている紋章は、樹雷貴族が立場を示すためのものだろうか。そばかすが見える、あどけない顔立ち。
「こんにちは!」
少女は岸に降りるなり、朗らかにあいさつした。
ダヴィスはすぐに答えられなかった。彼女のことを、監督官の身の回りの世話をする近侍だと思ったのだ。だとしたら、監督官より先に従者に挨拶を返すわけにはいかない。
が、待っていても他の乗組員は現れない。
戸惑っているダヴィスの表情を、少女は上目遣いに楽しげに見つめていた。
「他には誰も乗ってないよ。この船、津名魅って言うんだけど、砂沙美が一人で動かせるんだ」
「つまり……君が樹雷の監督官なのか? いや、なのですか?」
砂沙美と名乗った少女は、満足げに胸を張った。ダヴィスの反応がよほどお気に召したらしい。
「そのとーり。よろしくね、おにいちゃん!」