※この作品はR-18です。

もう一度サッカー選手に生まれ変わったなら美女も世界一も掴み取りたい!   作:クズ吉

196 / 209
クラウチ里穂(母)視点です。


196話

 私は今、息子の…大雅のmoutube動画を見ている。

 

 動画タイトルは…「ご報告とお詫び」

 

 『私、クラウチ大雅は二山夕梨さんと真剣にお付き合いしています!』

 

 「はぁ…」

 

 息子が堂々と嘘をつく姿を見て私はため息をつく。

 

 本当にこれでよかったのかな。

 

 あの動画を撮ることになった経緯を、私は思い返していた。

 

 

 ・・・・・・・

 

 

 二山夕梨のご両親はまともな人たちだった。

 

 娘から事の顛末を聞くと、すぐにこちらとコンタクトを取りたいと言ってLIME電話で謝罪してきた。

 

 そして今後の対応については警察にも世間にも正直に話すべきだという考えだった。

 

 それに待ったをかけたのは大雅だ。

 

 彼はまず自分の作戦をご両親に説明した。

 

 1.警察に対しては捜査に協力しない。

 

 2.世間に対しては「弁護士に一任している」と伝え、自分の口からは説明しない。

 

 3.SNSでは推定無罪の原則を主張し、批判を抑える。

 

 4.2016年夏に大雅が海外移籍して、二山夕梨の淫行条例違反疑惑から世間の注目をずらす。

 

 私からするとなんとも卑怯な作戦だけど、大雅は完璧な作戦だと確信しているようだった。

 

 しかし大雅がご両親に協力を仰いだところで問題は起きた。

 

 ご両親はその作戦に納得しなかったのだ。

 

 大雅が娘を思ってくれる気持ちは嬉しいが、それでも娘には罪を償わせると、ご両親は大雅に言った。

 

 それに焦った大雅は弁護士と相談するから、何も言わず1週間だけ待ってほしいとご両親に伝えた。

 

 ご両親は被害者である大雅の頼みだから1週間だけならと了承。

 

 大雅は1日かけて信頼できる弁護士を見つけた。

 

 又木弁護士。40代前半でインターネットやSNSにも理解ありそうな弁護士だと大雅は言っていた。

 

 夫のトーマスが契約し、私達家族3人で相談に乗ってもらった。

 

 大雅を取り巻く環境、二山夕梨を犯罪者にしないためにはどうしたらいいか、世間の批判を抑えるためには…

 

 大雅は複雑でさまざまな事情を説明したが、又木弁護士は真摯に向き合ってくれた。

 

 まず又木弁護士が言うには大雅の当初の作戦は警察をいたずらに刺激し、捜査を苛烈なものにするだろうとのことだった。

 

 これだけ世間の注目を集めている以上、警察が二山夕梨に対する捜査に乗り出す可能性は高い。

 

 捜査に協力しないまま平穏に2016年夏まで暮らせるとは思えない。捜査機関の圧力に負けるか世間の批判に耐えられなくなるかのどちらかだろう。

 

 それに、被疑者である二山夕梨と被害者である大雅だけが結託して捜査に協力しなくても、両者の両親にも事情を聞かれる可能性がある。

 

 どこかで綻びが生じるおそれもある。

 

 だから基本的に捜査機関には逆らわない方が良いと助言を貰った。

 

 又木弁護士は自分の作戦を否定され落ち込む大雅に、代替案を提示した。

 

 それは、

 

 1.二山夕梨と示談する。

 

 2.示談書に宥恕条項(ゆうじょじょうこう)を盛り込む。

 

 3.検察に大雅が嘆願書を書く。

 

 4.世間に二山夕梨と真剣交際していることをアピールする。

 

 こんな作戦だった。

 

 まず1については、いわゆる淫行条例に違反する行為があったとしても、被害者と示談していることなどを考慮し、検察が起訴猶予とする場合があるそうだ。

 

 起訴猶予とは、犯罪の嫌疑が認められる場合でも、犯人の性格や年齢、境遇、犯罪の軽重、情状、犯罪後の状況などを考慮して、検察が起訴しないと判断すること。 

 

 今回のケースでは大雅本人が淫行を問題に思っていなくても、彼は未成年なので親権者である私達夫婦が示談書で二山夕梨を許していることを示すのが大切だ。

 

 私達夫婦は最初は示談なんてしないつもりだった。

 

 LIME電話で聞いた二山夕梨が避妊しなかった理由は身勝手なものだったし、どう考えても淫行条例は今回の大雅のような未熟な子供を守るためにある法だと思うから。

 

 だけど大雅が「示談してくれずに夕梨さんが裁判で有罪になったら、それこそ精神がおかしくなる!」と言うので、仕方なく示談することにした。  

 

 絶対にこんな事言う子じゃなかったのにな。

 

 「ズルい人間」か…やっぱり病気が大雅をおかしくしてしまったのかな。

 

 作戦の2について、まず宥恕とは許すという意味で、宥恕条項を盛り込むことは、被害者が被疑者に対して刑事罰を望まない意思を示すことにつながるのだそう。

 

 検察の判断にも大きく影響するらしい。

 

 3の嘆願書も、2と目的は似たようなもの。

 

 検察に対して、二山夕梨に寛大な処分を求めたり、不起訴を求めたりするために提出する書面のこと。

 

 効力は宥恕条項ほどではないかもしれないけど、書かないよりはマシのようだ。

 

 4の真剣交際のアピールに関しては捜査機関よりも世間への対応の面が大きいと又木弁護士は言った。

 

 過去の判例ではいわゆる淫行条例の「淫行」の定義がされた最高裁判決があったらしい。

 

 又木弁護士が簡潔に説明してくれたのは、青少年との性行為がすべて「淫行」に当たるわけではなく、婚約中、あるいはそれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との性行為などは、処罰の対象として考えにくいものとされている、ということだった。

 

 ただし、真剣に交際していると主張すれば、それだけで処罰を免れるわけではない。年齢や性行為に至る経緯、交際の実態など、さまざまな事情を踏まえて判断されるそうだ。

 

 そして今回の件が裁判になった場合、大雅と二山夕梨が真摯な交際をしていたと認められる可能性は低いだろう、と又木弁護士は見ていた。

 

 ではなぜ真剣交際をアピールする必要があるのか。

 

 それは少しでも世間の二山夕梨への批判を抑えるためだそう。

 

 又木弁護士は1、2、3を実行すれば二山夕梨が不起訴になる可能性は十分あると言った。

 

 ただ不起訴になった時に検察は大抵理由を述べないらしい。

 

 だから世間にあらかじめ二山夕梨との真剣交際をアピールしておけば、それを考慮して検察が不起訴にしたのかもしれないと、世間に思わせることができるのではないか。

 

 又木弁護士はそんな考えを私たちに伝えた。

 

 大雅は又木弁護士の話を聞いて、しばらく当初の作戦とどちらを選ぶか葛藤していた。

 

 そもそも二山夕梨のご両親と私達両親の協力を得られなければ、当初の作戦は実行できない。

 

 又木弁護士の案で二山夕梨が不起訴処分になれば裁判も受けずに済み、前科がつくこともない。

 

 捜査機関をはぐらかし続けて結局裁判にかけられるよりはよっぽどいい結果だと私は思う。

 

 大雅は又木弁護士と相談したその日のうちに私達夫婦を示談に応じるよう説得し、次の日にはmoutubeで動画を撮りはじめた。

 

 又木弁護士の案を採用したらしい。

 

 そこで私は大雅にストップをかける。

 

 「大雅、動画を撮るのはいいけど、あなたは4股してるんじゃないの?二山さんと真剣交際してるとはとても言えない気がするけど」

 

 「何を『真剣』と定義するかは人それぞれだよお母さん。少なくとも俺は4人全員と真剣交際してる。あっ、凛華ちゃんは友達だけど。

それに夕梨さん以外の3人は皆同年代だから性行為をしても問題にはならない。夕梨さんを恋人にして他の3人は友達ってことにすれば丸く収まる」

 

 それは丸く収まっているのだろうか?

 

 私は屁理屈を言う息子を見て不安になるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。