相棒の放浪騎士:氷と炎のパコられふたりたび 作:ハンノーナシ
応接間へと歩く途中。
ケイシーの頭にふっと疑問が湧く。
(……そう言えば、メギラスはわかるが……私達は仮面をしていたり、認識阻害魔法をしていたはずなのに……何故、あの女生徒は私を白光騎士団の者だと気付いたんだ?)
遅れて出た疑問をアレンに説明する間もなく……。
応接間に案内されたケイシー一行は品質の良い沈む様なソファに腰掛ける。
ミリスは五人の前でメモ帳を取り出し、喋り始めた。
「とりあえず、要点だけ伝えようか。先生になるって言ってくれた場合……ケイシー、アレン、メギラスさん。君達と、貴方には……生徒達とお互いに大将を狙う模擬試合をして貰い……」
次の一言が喉に突っかかるようで、中々言い出せず……少しの間が挟まる。
「して貰い?」
そうアレンが言うと、踏ん切りが着いたのか……ミリスは喉に突っかかった言葉を発した。
「……今の君達で、候補生に対して実力の差を思い知らさせてもらいたい。今の騎士の候補生達に……騎士への遠さを、現実を。……教えてあげたいんだ」
「……成程」
ケイシーとアレンは意図をサッと理解したようで、直ぐさま手元にあったコーヒーを飲む。
メギラスも意図を汲んだ様で……腕を組みながら、少し考え込んでいた。
ヴィズはぽけ〜っとした顔をしていた。
ケイドに関しては『先生がそんな事言って良いの……?』という顔。
「まぁ、これだけ言っても誤解が産まれるかもしれないから言うけどね……今の候補生達は、言わば……学生グループ内、部活内の権力争い……産まれの自慢などで自己満足や自尊心を高める事に躍起になって、騎士になるという目標を蔑ろにしている」
「簡単に言えば、騎士としての誉れとか……矜持とかが育ってないって事だね」
「そうだね、アレン。白光騎士団が壊滅寸前となった今、再度白光騎士団や他国の騎士団に派遣する為の騎士としては……今の候補生達は実力も、心体の成長……成り立ちも程遠い」
ミリスは深く暗い顔でそう言い放つ。
過去の学校とは、かなり変わってしまった現状を憂いているようだ。
「ミリス先生が叱れば、生徒達も自覚をするんじゃないか……?」
「私は……私が言っても、あまり真に受けてくれないからね。見た目は……まぁ、言うなればくたびれたおっさんだし、エリート騎士っぽさは無いだろう?昔からこの学校に配属されていると言っても、ただ昔から居るだけって思われるのも当たり前だからね……」
ミリスはしょんぼりした顔でツンツンと人差し指同士を突っつき合わせている。
こほん、と気を取り直し……再度口を開く。
「まぁ、先生になってからの話だから……勿論、断っても良い。と言うか、断るのが正常な判断だ……ケイシーに関しては、王に……あぁ、すまない。デリカシーが無い、教育者として恥ずべき発言だった」
「いや、良い。……その依頼、受けよう。期間はどの程度だ」
即答である。
ミリスはその発言を聞くと、胸を撫で下ろし……ほっと一息着いたようだ。
「いやぁ、助かるよ。最近は教育者志望の子達が少なくてさ……人手不足と同時に、優秀な騎士という者が年々減っていっているからね……期間は自由だ。いつ辞めても良いよ、僕が手回ししておくから。……アレンとメギラスさんには、返事を聞いていなかったね」
ミリスは微笑みながらそう告げる。
メギラスとアレンはその発言を聞くと、ぴくんっと反応する。
「我も受けよう。最近はケイシーと共に歩んで来た道じゃ、道を違えてどうする」
「もっちろん!私とケイシーは一心同体!それに……私を拾ってくれたミリス先生に、恩返ししなきゃ」
三人は決意を固めたようだ。
取り残されたのヴィズ、ケイド。
この二人であったが……疑問が浮かぶ前に、ミリスは畳み掛けるように口を開く。
「……聞いていた情報では男の子だったけど……ケイドちゃん、だったね。そして……アレンに似た君。君達を、ネリア騎士養成学校の騎士の候補生として誘いたい」
「……んぇっ?」
「ほぇ?」
話を聞いていたが、突然の宣言に頓珍漢な声が出てしまう二人。
ケイドはともかく、ヴィズは肉体年齢は流石に学生と言える年齢ではない。
「……年齢の心配はしなくていい、校舎が新設されてから……騎士を志す者はどんな年齢でも入学が可能になったんだ。幼い子も、中年も……騎士を目指すなら、受け入れる体制だ」
「アタシ、アレンと双子みたいなもんだけどぉ……剣は使った事無いんだよね〜。ちょっと学んでみたいかも?」
「僕も〜……本来なら通うはずの学校だったし、これ以上父さんに心配かけられないし〜……」
二人は決意を決めた様で、入学する事にしたようだ。
ミリスは不器用な笑みで嬉しさを表現していた。
「全部、上手く行ってしまって僕が混乱してるけど……とりあえず、ありがとう、皆。それじゃあ、早速……今は他の騎士学校から来た先生達のご挨拶中なんだ。突然だけど……お立ち台に立ってもらおうか」
「……人前に立つのは、恥ずかしいな」
──────……
『転勤してこられた先生の紹介は、以上……。……はい、ミリス先生。はい?!新しい先生がまだ居る!?』
会場の司会者であろう、先生の一人が困惑で思わず大きな声を出してしまっていた。
体育館校舎のお立ち台の隅から、ケイシーの姿が現れる。
ケイシーの姿が現れた瞬間、先生や生徒達の中で噂話が巻き起こる。
「あれって……?」
「誰?」
「綺麗な人〜……」
様々な困惑が辺りを飛び交う中、マイクを持ち……口を発する。
「私はケイシー・ラインハリゅ……」
「……噛んだ?」
「ラインハルト……」
ケイシーは顔を真っ赤にして……顔を背けた後、何事も無かったかのように語りを再開した。
「元白光騎士団の序列二位、氷雪卿。……もう無くなった肩書きだが、経歴を語れるのはこれしかない」
「知ってる……除名されたけど、すっごく強かったって……!」
「あの人に教えて貰ったら、僕の経歴に花が咲くな……」
「……次はアレンの版だろう、早く出て来てくれ……」
ケイシーはそそくさと壇上から立ち去ると、アレンにバトンを渡す。
「え〜っと、私はアレン・フレデリック!ケイシーの親友で、元はと言えど白光騎士団序列三位、炎絶卿だ。今はケイシーと二人で冒険者業をしていたんだけど、とある恩師からの提案でこの学校でしばらく君達に剣や……『騎士道』と言う物を教える事になった!」
アレンは饒舌ながら、演劇の様な動きで大々的に関係性や立場を説明する。
これで印象はバッチリだろう。
「この人、バケモンみたいに硬いし力がおかしいって言う……」
「通称『人間離れ』の人、だったよね……」
……その噂を聞いたアレンは、一瞬しゅんとしていた気がする。
壇上から降りると、次はメギラスの番。
「我は、アレクサンドリア……」
そう名乗る前に、キャー!!!!という歓声が湧き上がる。
そうだろう、ケイシーとアレンと違い……身分を隠していない、世界でも類い稀なるの強者として人気者だった彼女は、知名度も段違いである。
「……自己紹介をする必要は無さそうじゃの。……一つ、忠告しておくが」
メギラスがそう言うと、辺りの空気が冷える。
メギラスは、自らの本来の力を解放し……オーラをダダ漏れにした後、こう告げる。
「我は、この甘ったるい現状をアレンとケイシーと共に変えに来た。……容赦は一切せん、覚悟しろ」
そう言い放ち、壇上から降りる。
メギラスが裏方に行くと……ミリスが口を窄めながらぷるぷると震えていた。
「メギラスさん……うちの学生さんたちをあんまり怖がらせないであげて……」
「結局、力の差を思い知らせるのだろう?ならば、我は既に一役を買えただろう」
そう言うと、パイプ椅子にどしんと座る。
アレンとケイシーはメギラスを見て……自らのこの学校での立ち振る舞いを考えた様だった。
次の時間は……新たに来た先生達との模擬試合の授業。
ケイシー、アレン、メギラスは……鈍りかけた剣を研いでいた。