相棒の放浪騎士:氷と炎のパコられふたりたび 作:ハンノーナシ
ケイシーとアレンとメギラスは、先に試合場で行われていた模擬戦の様子を見ていた。
先生達はボンボンである騎士候補生達をヨイショする為か、あえて負けていたり……手加減ばかりしている様だった。
メギラスはその様子に腸を煮えくり返している様で……目を鋭く尖らせていた。
「……今の学校は腐敗している。騎士としてではなく、名声や立場を求めている物ばかりだ。この光景だって、そうだよ。クレームや、援助金が無くなる事を恐れ……責任から逃れようとする、指導者としてあるまじき行為が行われている」
ミリスはまたももの憂げな表情を見せる。
ケイシーは心配そうに、その横顔を見つめ……一つ、決心した様だ。
確実に、現実を理解させる。
その覚悟を。
──────……
「さぁ、次の相手は誰ですか〜いっと!」
ケイシー、アレン、そしてメギラス……三人はボンボンの騎士候補生三人の前に立ちはだかる。
ケイシーは剣を掲げると……ゆっくりと下ろし、剣先を候補生に据え。
……横へ払う。
「……抑えていた能力を解除するぞ、アレン、メギラス」
「勿論」
「既にわかっている」
抑えていた力を、解除するや否や……今まで押さえ付けられていた力の本流が抑え切れずケイシー達から溢れ出す。
その禍々しいまでの気は、戦う前から力の差を思い知らせていた筈だが。
「……実力が足りないのか、気が見えない様だな」
「……余裕綽々って感じの態度だね」
「それとも、気が見えているにも関わらず実力の差を把握出来ていないのか」
三人は現状に呆れ果てた様で……一切の容赦をしないと決めた。
模擬戦が始まると、大将を選び……メギラスが今回の大将となった。
アレン、ケイシー、メギラスの順で戦う様だ。
「わたくしにかかれば、元白光騎士団の者と言えど楽勝でしてよ!」
髪を縦ロールに巻いた、金髪の女生徒がくるりと回りながらそう言い放つ。
はは……と呆れた笑いが飛び出るアレンだった。
「ルールは単純、お互いに設定され体力のバリアを攻撃で削り合う。その攻撃の威力や体の強さでバリアの耐久力、削れ方が決まる」
ミリスはアレンとケイシーとメギラスにそう説明していた。
ならば……結末は明白だろう。
「試合、開始!」
女生徒は勢い良く走り出すと、アレンに剣を振りかぶる。
(ふふん、先程の様に楽しょ……)
……アレンは女生徒の剣を掌で受け止めると……溶岩の様な灼熱の炎を剣に浴びせる。
剣は蕩け出し、剣先から徐々に溶け落ちていく。
「わ、わたくしの、剣……」
「剣を振るうなら、傷を負い、刃こぼれ程度する覚悟じゃなきゃ。その程度の覚悟も無くずっと、綺麗なままでいたいなら……」
溶け出した剣を見て、意気消沈している女生徒に……アレンは片手で剣を大きく振りかぶる。
片手剣の筈が……その剣は炎を纏い、特大剣の様な大きさになっていく。
「……親元で、剣の代わりにその傲慢さを振るうといい」
女生徒を叩き潰す様に剣を下に振るうと……灼熱の温度と共に、女生徒の真隣で何メートルも先まで燃え盛る跡が着く。
あえて、外した様だ。
「降参って、ルールにあるんでしたっけ?」
アレンは後ろに振り向き、ミリスに問う。
「……残念ながら、無いね」
「なら……」
アレンは剣の鞘で女生徒を頭をとん、と叩く。
すると……女生徒がいる地面に大きな穴の跡が着き、バリアが掻き消える。
「しょ、勝負あり……」
女生徒は呆けてしまい、上の空。
残りの大将と中堅に引き摺られ、自陣へと戻っていく。
「次は……私か」
ケイシーは研いでいた剣を鞘に収め、歩き始める。
ケイシーの通った道の足元には……霜が出来ていた。
「……僕様の相手になるんだから、気持ち良く勝たせろよな!」
「……先程の光景を見て、言えるその威勢と度胸は……認められるべきだろ」
試合開始の合図が鳴ると、ケイシーはその場を動かない。
鞘に手を置いたまま……一歩も。
「な、なんだよ、気持ち悪いな……クッソ、舐めるなよ!!」
ケイシーに向かい、剣を振るうと……生徒の剣は、空気に跳ね返された様な感覚に陥る。
ケイシーは何もしていない、何も動いていないのに……ケイシーに剣を振るうと、弾き返される。
バリアの硬度の問題でも無さそうだが。
──
「ケイシー、あの頃から技術を磨いたみたいだね……」
「あえて攻撃しないのは、情けなのかな……」
「抜刀の瞬間さえ、見えぬ速度か。……やはり、諸々の速度だけで言えば我を遥かに上回っておるな、ケイシーは」
──
「クソッ、クソッ……!な、なんで当たんないんだよっ……!」
「……」
ケイシーは何も発さない、ただ黙っているだけ。
生徒は段々と息を切らし始め……剣を振る速度も段々と落ちて来た。
底の見えぬ恐怖、絶望……近い筈なのに剣の届かない、無意識の遠さ。
生徒は諦め、剣を下ろす……その瞬間。
ケイシーは剣を抜く、研ぎ澄まされた刃が閃光の星の様に煌めくと。
──一閃。
ケイシーは生徒をすり抜けた様に、向こう側に立っていた。
生徒とケイシーの間に、一本の……細い銀色の線が切られていた。
生徒が呼吸をした、瞬間。
バリアはとてつもない音を立て、割れる。
生徒はその衝撃で倒れ、気絶する。
「……これで理解しただろう」
ケイシーはその一言を残すと、試合場から姿を消した。
────……
「さて、我の番か」
メギラスは高みの見物の様に座っていた椅子から降りると……紫の雷で形作られた薙刀を手に。
「俺の相手にゃ不足しねぇな……けっ、アイツら……ろくに役にも立たねぇで」
生徒は悪態を着きながら、剣を構える。
その構え方は口調とは程遠く、整っており……右足を軸に、左足を支えに。
剣を相手へと傾け、メギラスを見つめる。
その頬には汗が伝っていた。
「……貴様、気が見れる程度の才覚があるな。……けれど、まだ原石か」
試合開始の合図が鳴ると、お互い動かない。
お互いに、相手の行動を見てから動くタイプの様だった。
「……埒が明かねぇな、おい、アンタ。その薙刀、魔法で作ってんだろ?なら……俺も使っていいよな?」
生徒は人差し指の上で鋭利な水球を形作ると、メギラスに勢い良く投げつける。
メギラスはその動きを見た瞬間、生徒の目の前から姿を消す。
「……わぁってんだよ、そんくらい」
メギラスの動作を予測したのか、右腕と左腕の両腕でしっかりと剣を抑え……攻撃を抑える動作をする。
その予想は当たっていた様で、ぴたりとメギラスが現れた。
「……飛び出してくるのを殴る機械じゃねんだぞ、オイ」
「この程度は、予測出来るか。だが……受け切れまい」
メギラスの薙刀は、剣を伝い……雷を迸らせる。
生徒のバリアに直接雷の力が伝わり……徐々に削れていく。
「消耗戦術かよ……ダリィ。これがトップのやることか?」
「……手加減をしてやっていると言うに、生意気な童じゃ」
メギラスは……思わぬ原石の発掘に、心踊っていた。
生徒はバリアが徐々に削れていく状況に、僅かな焦りを覚えていた。
「なら……一発でかち割ってやる」
「ほう?我と正面から殴り合うと言うか」
生徒は先程のスタイルから一変し、堂々と正面から攻め込んでいく。
右から左に、斜め右から斜め左に振り下ろす。
メギラスは軽々とその攻撃を受け止めるが、生徒は諦める様子を見せない。
「温室育ちの童だと思っておったが……ふ、面白いの」
「余裕綽々かよ、ムカつくな……」
しかし、生徒のバリアはもはや薄く……消えかけていた。
伝達した雷がじわじわとバリアを蝕んでいたのを、無視出来なかった様だ。
生徒は膝をつき、染み渡る麻痺雷に抵抗する術を見いだせない。
「……まだ、本気の一割も出していないのに、終わりか?」
「テメェが手加減してるのは、理解してる……オーラ?みてぇなのがあの紹介の時より遥かにうっすいからな……」
……生徒はもう立ち上がれない、ただバリアが削れるのを待つのみ……そう思っていた時。
生徒の剣が、動く。
生徒の水の魔法が、剣を動かしていた。
「……ッ!」
バリアに、剣が触れ……メギラスのバリアが少し削られた。
「へっ……余裕こいてるから、こんな雑魚に一矢報いられんだよ……テメェは、調子こきすぎだ……」
メギラスの雷にバリアが削り切られ、生徒は倒れる。
メギラスは……自分を負かす事が出来るかもしれない、新たな強者の卵の登場に。
無意識に身を捩らせ、ゾクゾクとした感覚が体を支配していた。