相棒の放浪騎士:氷と炎のパコられふたりたび 作:ハンノーナシ
ミリスは模擬試合試験を終わらせた三人に頭を抱えながらも……何処か満足げに微笑んでいた。
「いや〜、僕の後処理の力量次第だね!あはは!」
「……少々、やり過ぎたか……」
ケイシーは素直に反省した様で、しょん……とした顔を見せていた。
どうやら、ミリスの前では感情がある程度豊かに出るらしい。
アレンは頭を掻きながらミリスと同じく『あはは……』と笑っていた。
アレンの口調は、ミリスから学んだ処世術であり。
喋り方や笑い方も、かなりコピーしていた。
「それでも……生徒のプライドをへし折るには十分だったろうね」
微笑みながら、容赦ない事実を言うミリス。
メギラスは先程の者との戦いで、自分の悪癖に気付いた様だった。
「……生徒との戦いは、良い経験になった物よ。感謝するぞ、ミリス」
「いやぁ、こちらこそ有難いよ。この経過を見ていた生徒達も、気を取り直す事だろうね。きっと……君達を怖がっているだろうから、これからは実戦以外は優しくしてあげてね」
ミリスはくたびれた笑顔を見せながら、他の先生に呼ばれとたとたと校舎内に走っていく。
「あっ、そうだ!授業は明日から行ってもらうから!授業の様子を参観して学んでおいで!5限と4現、3現に一気にお願いね!授業内容は……自由で良いよ!」
……ミリスは言い方は悪いが、放任主義的な面が多いかもしれない。
ケイシー達はミリスに言われた通り、現在行われている3現の授業を後ろで見学しに行く事にしたようだった。
──────……
「クラスが、多いな……」
「とりあえず、1のAにでも行こうか」
「ふむ、授業参観など……親御のする事だと思っておった」
ガラリ、と扉を開けると……生徒達の視線が一気に三人の方に向く。
そして一瞬で目線を外し……先程までだらけていた生徒達は真面目に机に向かい始めた。
先生は困惑で一瞬本気で突然の来訪者に戸惑ったようだが『真面目にやってくれるなら……』と授業を再開し始めた。
後ろの、圧倒的な気の威圧感。
気を感じられる者で無くとも把握出来る、根源的な能力差。
恐怖心に駆られ、生徒達は真面目に授業に取り組んでいた。
……発表の機会では、誰も手を挙げなかったが。
──────……
「なんとなく把握出来たのう、授業の流れが」
「あぁ、明日が楽しみだ……」
「緊張はちゃんと解してから行かないとなぁ……」
各々、自分の授業の内容を決めた様で……ゆったりと用意された寮室に歩き始めた。
そして、翌日。
──────……
三限、アレンの時間。
アレンは教壇に立つと、黒板に文字を書き始めた。
『騎士の美徳、とは』
そう書くと、口を開く。
「皆は、騎士の美徳は何だと思う?……様々な意見があるだろう、聞かせて欲しい。聞かせてくれた人には……そうだね、ハグでもしてあげようか?」
……教室内はしんと静かになる。
アレンは冷や汗をかきながら……何かを思いついた様で、メモ帳を取り出す。
「……勇気もなし、と」
そう書き込むと、何事も無かったかの様にもう一度話し始める。
その言葉を聞いた生徒達の間に『評価』と言う一種の自分の未来を決める物が確かに下がったことを予感させ……意欲を無理矢理押し上げる。
「さぁ、気を取り直して。騎士の美徳は様々だ、誇り?守る力?それと……結束力とか決断力?様々あるね」
アレンは『誇り、守る力、結束力、決断力』と書かれた黒板をとんとん、と叩くと……チョークでその文字をぐちゃぐちゃにかき消した。
「……最近の騎士達は、この前提である『美徳』……内に籠る熱血、情熱が足りない。根性論だと思うだろう?違うね……僕は『芯』が無いと言っている」
「なっ……」
「酷いですよ、先生!」
言い返した生徒達を『ほぉ……』と言った顔で見つめると、メモ帳に書き込みながら『高い評価の為に名前を聞かないとな……』と呟く。
勇気の行動で示す、評価。
「騎士という物は……時折目上の者を守る為に、街を守るために。愛する者に『反論』をしなければならない時がある。君は、その片鱗を見せている。愛する物が自身のプライドだとしても……プライドを守ると言う事は、立派な事だ」
アレンは笑顔でそう告げると、気を取り直して黒板の文字を消し、書き直す。
お次は……黒板に『芯とは?』と書き込む。
「人の心に潜む、行動原理。それが芯だ。それは様々で……自己保身、自らを切り裂く程の利他的な心。……誰かに流されぬ、強靭な意思」
「流されるまま生きていれば、いつか自分を見失う。騎士とは、愛する街や家族、仲間を守る存在だ。他人に流されるまま騎士となれば……その脆弱さを突かれてしまう」
アレンは思い浮かぶ出来事があったようで、少し顔を暗くしたが……気を取り直し、もう一度話す。
「そこで質問だ、君達は自分に芯があると思うかい?」
「あ、ありますっ!」
……アレンは一人目に口を発した物に指を刺す。
「それでは……君に眠るその芯とは何だ?」
「……その……」
アレンは目を閉じ、言葉を紡ぐのを待つ。
しばらくして、静寂が辺りを支配すると。
「……自分でもわからないんだろう、担架を切ったとしても思い浮かばない。そうだ、騎士と言うのは『自覚』であり『自認』だ」
「自認……?」
「騎士たる者、自分は騎士だと誇りを持っていれば……いつの間にか、自己保身でも何でも、自分の芯が出来上がる。……自分は騎士の卵だと、自信を持っていいんだよ、君。他の子達もそうだ」
アレンは生徒達に優しく優しく微笑む。
『はい!』という声が教室内に少し響く。
アレンはその言葉に満足した様で、授業の〆を始める。
「まぁ、結論を纏めよう。……自我を強く持って、自己認識を強く。さすれば、自我の殻が硬く強固になって行く。その殻は自分を守る事に適しているが、他人を守る為に使える筈だ」
「……自分を褒めてあげて。自分を、認めてあげて。上に立とうとしなくても良いんだ、自分は自分なりに頑張っていると」
「自尊心や、自己肯定感を高める事は難しくて……『自分は誰かの上に立っている』という事実がなければ、自分を認められない子達も多いだろう」
アレンはそう言うと、黒板に大々的に文字を書き込む。
『自分を愛せ』と。
「さぁ、授業は終わりだ!……実はね、こっそり持ち込んだ物があるんだ」
アレンは購買で買ったパンやお菓子類を机に纏めて取り出すと、パンッと手を叩く。
「今から三限の終わりまで、満足するまで食べて良いよ!私の奢りだ!」
生徒達は恐る恐る机から降りると、教壇の机に置かれたお菓子を手を取る。
最初に手を取った生徒に続き、様々な生徒がお菓子やパンを取り……机で隣の友達と共に頬張っている。
「美味しい物を食べれば、次第に心も元気付く。心の健康が無ければ、自分を認めてあげる事なんで出来ないからね!」
そうして、時間は流れていく。
アレンの授業は……厳しくも、優しい時間であった。
生徒達にも中々好評であった様で……再履修を望む声も多かった。
……大半は、アレンに餌付けされた生徒であろうが。
──────……
「さ、次はケイシーの番だよ!生徒達に何を教えてあげるの?」
アレンはケイシーの顔を覗く。
「お前が『心』を教えたとすれば……私は『身体』を教える。簡単に言えば武器の、扱い方だ。……この授業は、私一人では行わない。適任が……いる」
ケイシーがそう言うと、階段から一人の人影が上がってくる。
「ごめんね、ケイシー!遅れてしまって……それで、僕も授業に参入するんだよね?」
……アレンも成程、と納得したようだ。
授業はどうやら体育館で行うようだ。