※この作品はR-18です。

敗北の証明   作:モノクロさん

9 / 10
衰弱

 シャーレの先生と空崎 ヒナが失踪して一週間が経過した。

 

 捜索隊が各地を巡ったものの、行方知れずのまま消息はつかめない。

 

 風紀委員会も総力を挙げて探し回るものの、有力な情報を入手する事が出来ずにいた。

 

 そんなある日の事、ネット上に匿名投稿サイトに一本の動画データがアップロードされた。その動画に映っていた人物を見て、各学園の生徒達は騒然とした。

 

 映像の中で苦痛に歪む表情を晒していたのは紛れもなくヒナ本人だったからだ。

 

 様々な陵辱を受けているヒナの姿が克明に記録されている。暴行され、輪姦され、薬漬けにされ、拷問同然の責め苦を科せられている。

 

 窓の無い部屋。唯一の出入り口は鉄製の扉のみ。そして、四方を囲む壁の内、唯一分厚いガラスで覆われた一角。そこには、恥辱の限りを尽くされるヒナを見守る事しか出来ないでいる先生の姿があった。

 

 見るに堪えない惨い映像が続き、最終的にはヘイローの消失と共に気を失った彼女がそのまま放置される場面で締め括られている。

 

 アングルを考えると、犯人達が撮影したものと考えるのが妥当であろう。恐らく最初期の動画とあってまだ技術面が拙く一部画像劣化もあり解像度は高くないものの間違いなく本物であり、加工等で捏造されたものではないと判別する事ができた。

 

 また、編集の際に使用されたソフトウェアに関しても一般的に流通しているものを使用しているらしく、そこから特定する事も難しいと専門家が分析結果を報告しているそうだ。

 

 先生とヒナは生きている。しかし、楽観視出来る状況ではないだろう。

 

 今尚、監禁され、凌辱を受けていれば、生存していても、廃人に近い状態である可能性が高い。

 

「……ヒナ先輩が、捕まって、酷い事をされている」

 

「……嫌だ。信じたくない」

 

「でも、フェイク動画の可能性だって……」

 

「違う、あれは本当なんだって!」

 

 皆が口々に不安を口にし、否定しながらも受け止めざるを得ない現実に戸惑いと困惑が隠せなくなっている様子が見て取れる。中には泣き出す者もおりパニック寸前の状態と言ってよかった。

 

 無論それは、風紀委員会も例外ではない。

 

 イオリとチナツもショックを受けていたが、それ以上に動揺したのはアコの方だった。ヒナを慕う彼女からすればとてもじゃないが平静を保つなど出来そうもない精神的ダメージであったといえるだろう。

 

 動画の中のヒナの惨状を目の当たりにし、アコの顔色は真っ青になっており、震えが止まらない様子だった。視線は一点に集中したまま固定されてしまっていて瞬きすら忘れてしまっている。

 

 他のメンバーたちもそれぞれ異なる表現方法ながら同様の心情を共有していたようだが全員共通して言えることは誰もが動揺し狼狽しているということだった。

 

 一刻も早く救出を行わなければと思い立つのだが現在地さえ分からない以上無理がある。仮に敵陣に乗り込むとしたら万全な体制が必要不可欠なのである。

 

 まして相手がどんな戦法を採りどのような罠が待ち構えているかなど未知数の部分が多くリスク管理能力を求められる局面において慎重さを欠けば却って窮地に陥る危険性が大きいので注意しなくてはならない所だ。

 

 いずれにしても、今はとにかく落ち着くべきであり、冷静に対処しなければ、解決するどころか混乱を招く事になり兼ねない。

 

 今、この瞬間も、囚われの身となったヒナが苦しんでいると考えれば急いで行動を起こすべき状況ともいえるわけなのだが、逆に言えば焦って裏目に出ればすべて水泡に帰するという事にも繋がりかねない点も考慮に入れるとやはりここは焦らずじっくり腰を据えて取り組んでゆくしかないのである。

 

 結局、決定的な進展は得られぬまま会議は終了となる。

 

 その後、不安の芽を抱えたまま、皆が皆、先生とヒナの両名を救出すべく動くしかなかったのだった。

 

 ガラス越しで向かい合い、先生とヒナは顔を合わせていた。

 

 疲弊した表情のヒナと、憔悴した表情の先生。

 

 コンコースの言う通り、先生に危害を加えられることはなかった。しかし、目の前で大事な生徒が辱めを受けているのに手を出せず、叫ぶ事しか出来ない自分に対して自己嫌悪に苛まれていた。どうして助けれないのかと自問自答したところで答えなど出てくるはずもない問い掛けに懊悩し続けていたのである。

 

 ヒナはもう歩けなくなっており、床を這って何とかこの場まで辿り着いていたようだ。

 

 凌辱に次ぐ凌辱。そして絶え間ない暴力。幾度も薬物を投与され、身体を無理矢理覚醒されては、また慰み者となる。その繰り返しで心身共に摩耗し切ったヒナは最早限界を迎えていた。

 

「せ…ん……せ……」

 

 掠れた弱々しい声で呼ばれて先生はハッとして思考の海から戻る。そしてすぐに、自分の名を呼ぶヒナに耳を貸す。

 

「せ……ん……せぃ……」

 

「ヒナ……ヒナっ!」

 

「……せ……せ……っ」

 

 先生はガラスに張り付くように顔を近づけて必死に声を掛けるが、ヒナは言葉を上手く紡ぐ事ができず苦しげな呼吸音を漏らすだけだった。

 

 コンコースの計らいだろう。少し前までは声が聞こえなかったが、今はヒナの言葉がはっきりと聞こえてくる。

 

 音を遮断する事でヒナの声が聞こえなかったのだろう。それが解除され、スピーカー越しにハッキリと耳に届いていた。

 

「ひ……な……」

 

 絶望の色が浮かんでしまうのは仕方のない事だろう。目の焦点も合っておらず、いつ完全に心が崩壊してしまってもおかしくはない様子なのだ。

 

 目の下の隈が酷い。散々乱暴された結果、白く透き通っていた肌は赤黒く変色しており、所々青痣が出来ている部分も見受けられる。

 

「せ……ん……っ、せ……」

 

「ヒナっ! もう喋らないでいいから!」

 

 喋る事すら体力を消費する。今のヒナは、意識を繋ぐだけで精一杯なのだ。なのに、何故、ヒナはここまで必死になっているのか?

 

「せん……せ…せんせ……」

 

 ヒナはガラスに寄りかかり、ガラスの表面に掌を乗せて呟いた。

 

「せん……せぇ……せん……せぇ……」

 

 力無く愛称を呼び続ける。何度も何度も何度も。

 

「よか………た……せ……せ………ぶ………じ………っ」

 

「ヒナ……なんで……? 自分の方が、こんなに辛い思いしてるのに、どうして私の心配をしてくれるんだ……!?」

 

「せ……ん……せ……わた……しっ、つよ……ぃ……か…………っ」

 

 だから大丈夫。そう伝えたいのだろう。

 

 だが、今なら分かる。

 

 幾度となく薬を投与され、その度に身体が弱っていく。服薬による効果なのか、それとも蓄積された副作用の影響なのか定かではないものの日に日に衰弱していく事だけは明らかだ。

 

 以前より小柄だった身体がさらに縮んでしまい小さく見えるほど痩せ細っているように思える。

 

 今の彼女はキヴォトスの外の世界の……それこそ、自分と同じ程度の身体能力しか持っていないのではないだろうか。もし本当にそうだとすれば、この拷問染みた辱めは普通の人よりも遥かに過酷なものとなり、肉体への負担も相当大きいものだったのではないかと推測することができよう。

 

 そしてその予想が正しければ、ヒナの身に降り掛かる凌辱の数々は……いや、例えヒナの身体がキヴォトスを基準としていたとしても耐えられるものではない。

 

 このままでは、本当にヒナが壊れてしまう。

 

 どうにかしなければ。

 

「せ……せ…」

 

 ヒナの目は虚ろだった。もう、ほとんど見えないのかもしれない。聴覚も麻痺しかけているのか、言葉を認識できておらず、発音も怪しい。それでもなお懸命に先生との接触を試みており、声だけはしっかりと聞き取れているのか時折嬉しそうな表情を見せてくれるものの、すぐさま痛ましさに満ちた表情に戻ってしまうというのが印象的だった。

 

「せ……せ……まも…………っ」

 

 守る。おそらくはそう言ったつもりなのだろう。

 

 その願いは、希望は、儚く脆く。簡単に崩れ去るものなのに。

 

「ヒナ……私はいいから、君が生きててくれたら、それでいいんだ」

 

「……っ」

 

「お願いだから、そんな顔しないでくれ。君が笑ってくれるだけで、私は幸せになれる。だから、どうか……」

 

「せ……っ……」

 

 途切れ途切れになりつつも健気に微笑みかけてくれようとするヒナだが、やはり憔悴しきった様子で瞼を開けるのもやっとといった感じである。しかしそれでも不規則な周期で瞬きを行いながら微かな意思表示を続けているあたり諦めずに奮闘してくれているようだ。

 

 そんな彼女の姿を見ると胸が締め付けられるような苦痛を感じ、同時にやりきれなさが募ってくる。

 

「せ……っ…せ……ん……せ……い……っ」

 

 ヒナは必死に両腕を伸ばし、ガラスの上を滑らせながら、先生の手を探しているようだった。

 

 先生も同じように手を伸ばし、ガラス越しに手を重ね合わせた。

 

 体温が伝わらない。だけど、触れた感触だけは確かにあった。

 

「ひ……な…っ!」

 

「……………せ……っ」

 

 触れ合う手の温もり。しかしそれは冷たいガラス越しであるが故に実際的な温もりを得られない。それは互いに承知しているはずなのに、二人とも手を引っ込めようとはしなかった。

 

 二人の目から涙が溢れ出し、止まらない。

 

「せ……ん…せ……ぇ…っ」

 

「ヒナ……ヒナ……っ!」

 

 決して触れることの出来ない温もりを求め合う。決して届かない祈りを込めて叫ぶ。

 

 そして、そんな二人をあざ笑うかのように、鉄の扉が開き、傭兵が姿を現す。

 

 一人じゃない。二人…三人…いや、もっと沢山の、沢山の傭兵達が入室する。

 

 数十人にも及ぶ傭兵達が入室し、そしてその中の二人がヒナに近付く。二人の手がヒナに伸び、強引に身体を床へと押し倒す。

 

「ヒナ!?」

 

 ガラス一枚隔てた向こう側で繰り広げられる悲劇。

 

 傭兵達が囲むように、しかし、先生に見えるようにして、ヒナを取り囲んでいる。

 

 その中心で、ヒナの首筋や腕、太腿に針の無い注射器を押し当てられ、薬を投与される。投与される毎にヒナの身体が震え、全身に脂汗が滲み出る。

 

「あ゛……ぁ゛……っ!?」

 

 苦痛に喘ぐヒナの姿を、傭兵達は見下ろしながら、弱り切った彼女に、更なる地獄を味わわせる事になる。

 

 数十人の傭兵達が、一斉にヒナの身体に群がった。




評価いただきありがとうございます。
モチベに繋がるので感謝です。
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