とある雨の日
俺は傘もささずに立っていた。
雨に濡れて、身体は冷えているはずなのに、精神は高揚している。
この日を待ち侘びた。
生まれ変わって、高校生になり、ここが物語の世界だということを認識した。
そう、天使様の世界だ。
ファンタジーではなく、ただの現代日本
今まで、前世とほとんど変わりなく、変わったところと言えば、学校の成績が良いくらいだろう。
転生したはいいものの、別に楽しかったわけじゃなかった。
周りの精神年齢は年齢通りだが、俺は違う。
そのため、自然と溶け込むことはできない。
前世の記憶から成績がいい?
そんなことをしたって心は満たされない。
だけど、高校に入って天使様、椎名真昼を見つけた。
それから俺のやりたいことが明確になった。
天使様を自分のモノにする。
そんな目標ができてから、色褪せていた世界も色付くようになっていた。
それからと言うもの天使様との接触は何度かしてみた。
下心を持っていると悟られないように交流を交わした。
だが、愛想はいいのだが、警戒心が強く、プライベートで交流を持つことは難しいと結論付けた。
じゃあ原作の周くんみたいな感じに少しずつ信頼を勝ち取っていくのも考えたが、きっかけがない。
だが、今日は恐らく原作の開始日。
原作の開始は椎名真昼が母親に吐かれた言葉で傷ついている。
真昼は『天使様』ではなく『椎名真昼』として頼る人がいない。
傷に寄り添ってあげてもいいのだが、それでは完全に自分のモノにはできない。
原作通りの椎名真昼ができるだけだ。
だから、天使様を壊す。
自分勝手に他人の気持ちなんて考えずに俺は行動する。
俺はとある公園に入る。
ブランコには雨に濡れながら下を向いた天使様。
原作通りだ。
原作ではここで周くんが現れて、傘を渡していく。
だが、それよりも先に俺が話しかければその機会はなくなる。
「よっ。傘もささずに何してるんだ」
「・・・如月さん」
真昼が顔を上げた。
如月さんとは俺のことだ。
如月湊
これが今世の俺の名前だ。
かっこいいから結構気に入っている。
「何かご用で?」
真昼の目には光がなかった。
俺の前世を思い出すような目だな。
全てのことに絶望している目。
「雨の中傘もささずにこんなところにいるのは気になるだろ?」
「それなら如月さんも傘をさしていないじゃないですか。それに、私はここに居たいから居るのでお気になさらず」
警戒しているような拒絶しているような声。
まあここまでは想定内。
「親と喧嘩でもしたか?」
ここから原作の知識もフル活用していく。
「どうしてそれを」
真昼は驚いたように目を開ける。
流石に落ち込んでいる理由を当てられたら驚くか。
「どっか濡れないとこ行かね?」
「ほっといてくださいよ」
「そっか。じゃあ俺は椎名さんが濡れないところに行くまでここに居るわ。あーあ。風邪ひいちゃうかもなぁ〜」
彼女の本質は優しさだ。
他者が自分が原因で風邪をひくと責任を感じてしまうような人だ。
俺が自分勝手に真昼を巻き込もうとも、少しでも関わっていたら、自分に責任があると思ってしまう。
真昼は俺を少しジトっと見て、考えている。
このまま居座るか、自分の家に帰るか。
だから俺はここで提案してみる。
「じゃあ俺の家行かないか?ここからすぐだし。家に帰りたくないんだろ?」
普段なら絶対に受け入れられないで断る選択肢。
だけど、考えているところに急に別の選択肢が提示されていて、尚且つ雨に濡れていて、仕方がないような提案。
そして、
「ほら、風邪ひく前に行くぞ」
俺は真昼の手を強引に掴み、立ち上がらせる。
そして、手を引きながら俺の家へと向かう。
ここまで来れば、断るという選択肢はない。
まあ断ったとしても何かと理由をつけて連れ込むんだけどね。
ちなみに俺の家が公園から近いのは本当だ。
完全に偶然ではあるが、神様からのプレゼントだったのかもしれないな。
真昼は俺の手を振り払うなどの抵抗は一切せずについてきた。
弱っている時こそ救いの手を握りたくなるものだからな。
まあ、手に取ったのは救いではなく、地獄への導きだけどな。
そして、1分も経たないで俺の家に到着した。
家に両親はいない。
俺の両親は仕事で世界各地を飛び回っているため、基本的に日本にいない。
今の俺には都合が良い。
俺は真昼を家に上げ、タオルを渡す。
「ありがとうございます」
「お茶でも出すからそこの部屋に入っといてくれ」
真昼は俺の言った通りに部屋に入った。
俺はそれを確認してから自分も部屋に入る。
「椎名」
俺は真昼を呼び、真昼はこちらを向く。
そして、こちらを向いた真昼の両腕を掴み、部屋の中にあるベッドに押し倒した。
「なんですか!」
真昼は驚いたような顔を一瞬する。
だが、すぐに冷たい顔になり言った。
「やめてください。犯罪ですよ」
犯罪?別につまらない2回目の人生だ。
失敗するなら2度の人生で初の刑務所生活も悪くないかもしれない。
まあ今世の両親には申し訳ないがな。
というか、いきなり襲われてここまでしっかりと拒絶できるのはすごいなと思った。
彼女はやはり強い。
真昼は必死に抵抗するが、男と女の力の差もあり、動くことはできていない。
「別にいいじゃないか。天使様って言っても男は知らないんだろ?」
そう言っても真昼は睨みながら抵抗を続ける。
残念ながら受け入れてもらうのは無理らしい。
まあレイプみたいなものだしな。
「やめてほしいのか?」
「やめてください」
はっきりと拒絶される。
悲しいなぁ。じゃあ、壊すとするか。
「じゃあお前は一生『天使様』だな」
「え?」
ここからは原作知識フル活用していく。
「自分の本当の性格を隠して、誰にでもいい顔をする」
まずは彼女の弱点を突いていく。
「自分で天使様として見られるようにしたのに、それで苦しんでるバカなやつ」
「どうしてそれを」
少しだけ真昼が唖然とし、力も弱まる。
何故自分しか知らないようなことを知っているのか。
そして、この事実は椎名真昼の弱点になり得る。
「椎名真昼は誰にも見てもらえず、結局心の中では孤独に過ごす」
真昼は襲われている状況にもかかわらず、俺の話しに聞き入っている。
先ほどまでしていた冷たい軽蔑の表情ではなく、驚き、そして少し辛そうな表情を見せる。
「親も学友も誰も『椎名真昼』は必要としていない。必要なのは『天使様』だからな。ああ『天使様』も親には必要とされてないんだっけ?」
ついさっき親にキツイことを言われたばかりの真昼は俺の言葉が刺さったのか、目に少し涙が見える。
普段ならそんなことを言われてもこんなことにならなかったかもしれない。
だからこそ、俺は今日を狙ったのだ。
先ほど親につくられた傷を言葉にしてさらに深く抉っていく。
「なんなんですか…あなたはなんなんですか!」
真昼が涙声で叫ぶ。
「こう言われたんだろ?要らない子って」
「なんで、なんでその、ことを…」
先ほど自暴自棄になっていた理由を言葉にする。
その状況が思い出され、真昼を追い詰めていく。
一瞬俺の言葉を疑問に思ったかもしれないが、心は傷が深くなっていき、精神が耐えられない。
俺の押さえつけている手へ抵抗する力はもうない。
「家族も信頼できる友人も恋人もいない。さて、お前はこれからどうするんだろうな」
真昼は力無く俺に押し倒された状態で目から小さな涙を流す。
「一生誰にも見てもらえず、見せようとせず、最後まで孤独に生きていくんだろ?」
もはや目に光はなくなっている。
表情は全てがどうでもいいと感じさせる。
椎名真昼は強いけど、弱い。
ダイヤモンドだって硬いと言われるが、割れやすくもある。
それと同じだ。
元々傷ついていたのもあるが、完全に割れるまでは早かった。
椎名真昼は俺の手で完全に折れたのだった。
次回 天使様の初めて