※この作品はR-18です。

ミルキー☆モーテル   作:沼の人

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第2話 『ミルキーモーテルへようこそ』

「ねぇマキナぁ、コレ読める?」

「んー、読めるっちゃ読めるけど、読みたくない」

「やっぱ汚い言葉?」

「どちゃくそ汚い」

 チハルとマキナの前には、スプレーで落書きがびっしりと書かれた自動販売機があった。

 もっとも売られているのは飲み物ではなく、モーテルの部屋利用料だった。

 それが落書きのせいでことごとく塗り潰され、ほとんど判読不能となっていた。

 せいぜい読めるのは『I want to f*ck your pussy』という落書きだったが、マキナは絶対に和訳を読み上げたくなかった。

「あ、しかもコレ現金専用じゃん」

「はぁ? マジ? あーし電子マネー主義者だから無理なんだけど」

「チハルはお財布持ってるけど、これじゃぁ幾らか分かんない……」

「もういいじゃん、車戻ろ」

「えー、でもそしたら休めないじゃーん」

「んなこと言ったって……てゆーか今日休業日なんじゃね? ほら、カウンターも閉まってるし」

 と、二人がシャッターの降りたカウンターに目を遣ったとき。

 ガシャガシャと音を立てながら、そのシャッターが開いた。

 眼鏡をかけたそばかす女がひとこと。

「あ、いますよー」

「いやいるんかい!」

 

【挿絵表示】

 

「いやいるんなら最初から開けといてほしいんっすけど」

「あーすんません、暇だったんでサボってましたー」

 清々しいほどのクズっぷりに、マキナは返す言葉がなかった。

 しかも女店員の胸元には『葛田(くずた)』という名札があり、1ミクロンも笑えなかった。

「あのぅ、今日って営業してます?」チハルが訊ねた。

「ええしてますよー。ご利用になりますかー?」

「なりまーす」

「てちょっとチハルっ」噛みつくマキナ。

「だって営業してるじゃん。いいじゃん」

「えー……でもなー」

「あ、そうだ」葛田は咳払いをした。

「銀河一の安らぎのひと時をを提供いたしますミルキーモーテルへようこそー」

 唐突に始まった堂々とした棒読みに呆然とするチハルとマキナ。

「……え、今更なんすか?」

「いや言い忘れてたんでー。一応言うのがマニュアルなんですよー」

「はぁ……そっすか」

「それじゃあ料金体系の方ご説明しまーす」

 葛田は料金表のボードを立て掛けた。

「えー、まずベーシックルーム。お財布に余裕のない人、すぐにヤリたくてどうしようもないアベックたちがよく使いまーす。次にハイパールーム。小金持ちとか連れ込み宿目的の人がよく使いまーす。最後にご紹介するのがラグジュアリールーム。いちばん高いでーす、ラグジュアリーでーす。何かご質問はありますかー?」

「いや紹介の仕方のクセが強いわ……」

「はーい」チハルが手を挙げた。「ラグジュアリーって何ですかぁ?」

「あー……とにかくスーパーウルトラデンジャラスに豪華って意味でーす」

「おー、なるほど」

「え、納得したんそれで?」目を点にするマキナ。

「とにかく良いお部屋ってことでしょ?」

「そのとおりでーす。で、どうなさいますかー? ちなみに当店のオススメはラグジュアリールームになりまーす。今ならアベック割実施中でーす」

「あ、じゃあラグジュアリーで」即決のチハル。

「はぁ? 何でよ?」困惑顔で反発するマキナ。

「えー、だって何か良さそうじゃん。しかも割引してくれるってゆーし」

「いや割引って、アベック対象なんじゃん」

「え、お客さん方アベックじゃないんですかー?」

「え、いや、その……と、ともだち」

「アベックでーす! だから割引お願いしまーす」

「ちょ、チハル!」

「まいどありー」

 気怠(けだる)げな口調とは正反対にキーボードを超早打ちする葛田。

 チンっというトースターのような小気味良い音と共に、カウンターの横に設置されていた機械からカードが発券された。

「それがルームキーになりまーす。入室したらドアの脇にある機械に挿してくださーい。じゃないと時間料金の計算出来なくなっちゃうんで」

「はぁ……」不満気ながらもルームキーを受け取るマキナ。

「え、じゃーさ、カード挿さないまま利用して、帰る前にちょっとだけ挿して料金ちょろまかす人とかいないんですかぁ?」

「あ、それはご心配なくー。入室してから5分以内にカード挿入しないと機械が検知してこっちに報せてくれるんでー。不正防止はバッチリでーす」

「あ、そうなんだ。ありがとございまーす」

「料金て現金すか? あーし電子マネーしかないんすけど」

「大丈夫でーす。電子マネー対応してまーす。ちなみに外に置いてある券売機は故障してて現在使えませーん」

 いやじゃあ『故障中』の貼り紙なり廃棄でもしろよと、マキナは心の中で愚痴った。

「何かありましたら内線電話があるのでお使いくださーい。愉しいひとときをお過ごしくださいねー」

「はーい。んじゃ行こ、マキナ」

「う、うん……」

 まぁ仕方ないかと割り切って、マキナはチハルと並んで歩き、モーテルの中へ入った。

 

 その様子をカウンタールームに設置されている監視カメラ映像で、葛田は見ていた。

「いらっしゃいませー、お・きゃ・く・さ・ま」

 口元に不敵な笑みを浮かべながら。……

 

 *

 

 ミルキー☆ハイウェイ下り方面に停まる一台のバン。

「ちくわ、ちくわ、ちくわ、ちくわ、ちくわ、ちくわ、ちくわ、ちくわ、ちくわ、ちくわ!」

「じゃあこれは?」

 助手席に座るマックスが胸元を指す。

「……乳首」

「残念ジャンパーでした~w」

「あ、え? くそっ、またこのパターンかよ……」

「やーだカート君のエッチ~w 一年中ずっと乳首のこと考えてるの~?w」

「一年中も乳首のことばっか考えてねぇよ、降ろすぞマジで」

「はぁーあ、しっかしまぁ動かないねぇこの渋滞」

「本当な、ツイてねーわ。隕石衝突とかどんなエラーだよ」

「それね。銀河道路公団もガバガバだよねー、ろくなエンジニア雇ってないんじゃない?」

「このままだと、確実に遅れるよな」

「うん遅れる」

「で、どうなる」

「むっちゃ怒られる。この前みたく髪の毛引っ張られたり?」

「あれマジでやめてほしーわ。人工毛(じんこうもう)も安くねーんだしさぁ」

「だよねー。社長俺らがサイボーグだからって一切手加減しないもんねー」

「いや普通は手加減ていうか、サイボーグ平気で打ち負かす社長が怖いんだよ」

「うん、怖い。めっちゃ怖い」

「はぁ……どうすっかなコレ」

「……」

「……」

「……また10回クイズやる?」

「しねーよ」




次回 『マキナとチハル』
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