※この作品はR-18です。

ミルキー☆モーテル   作:沼の人

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第5話 『配膳ちゃん』

『来栖(くるす)会長。先日の鉄道暴走事故は災難でしたな』

 眼鏡をかけたスーツ姿の強化人間中年男性が言った。

「法務長官、その節はお手数をお掛けしました」

 紫の和服を着たサイボーグ――来栖俊一郎(くるす しゅんいちろう)はそう返した。

『あなたからは多額の寄付を受けている。これぐらいは雑作もないことだ』

「恐れ入ります、長官」

『……で、これ以上問題は起きないでしょうな? 報道統制にも限界がありますからな』

「その点はご心配なく。長官のお助けもあって、FBIB(バルナディア連邦捜査局)がネオ町田署から証拠品を全て回収しこちらへ回してくれたので、情報漏洩はまずありません」

『そう願いたいものですな。来年には連邦大統領選挙が控えておりますから、そちらに注力したいのですよ』

「もちろんです。長官のことを資金面で全面的にお支えいたします」

『感謝申し上げる。私が大統領になった暁には、お互い我が世の春を謳歌しよう。ではまた』

 法務長官のホログラムが消え、会長執務室は俊一郎だけになった。

「ふー……」と息をついたところで、顔(四角いコンピューターボックス)を上に向けた。

「やたらバックアップなんぞ取るもんじゃなーで。そりゃ便利なもんだでよーけ使(つこ)うとるけど、こうも問題起こすんは困るわー。しかも今回はマキナまで巻き込んでしもうたし……はぁー、自己嫌悪が凄いんよ。もんの凄い……はぁ」

 今度は顔を俯(うつむ)かせ、人間で言うところの額を掻く俊一郎。

 堪(たま)らずデスクの引き出しを開け、抗鬱ドラッグデバイスを人間で言うところの口に接続した。

「はぁーーー……、気苦労が絶えん。会長職も楽でねーわ。早く引退したいわー」

 チェアに深くもたれている所へ、一本の内線電話が入る。

 俊一郎は溜息をつきながら通話ボタンを押した。

「何(なん)や」

『お疲れ様です会長、技術開発部のエディソンです。O.T.A.M.の解析結果が出たのでご報告いたします』

「あー、オータムちゃんなぁ。やっぱわてのせいか?」

『……申し上げにくいですが、やはり暴走の原因は会長のバックアップAIによる影響が見られるのは事実です』

「あーーー、やっぱそうかーーー。最悪や……」

『問題のあるバグはすべて除去したので、もう暴走することはございません。またバックアップAIに乗っ取られない限りは、ですが』

「はぁーーー……まぁええ、もう問題が起こらんならそれで」

『それと同時に回収した排除くんですが、こちらの処分はどういたしましょうか』

「んなもん、排除せぇ」

『……』

「……」

『……』

「……」

『あのう、会長。ここは笑うべきでしょうか』

「クビや君は」

 

【挿絵表示】

 

 列車暴走事故から釈放数日後

 チハルとマキナがモーテルに入って30分後

 

「お、何(なん)か見ーっけ」

 チハルはベッドサイドテーブルの上に黒いファイルが置かれていたのを見つけた。

 表紙を開くとモーテルを利用する上での注意事項がずらりと書き連ねられており、興味のないチハルはパラパラとページをめくり、「おっ」と気を引くページを見つけて手を止めた。

「ルームサービスだってマキナ。何か色々あるよ」

「ふーん。あーしでも食えるのとかある?」

「あるある。お菓子デバイスでしょー、お菓子デバイスでしょー、あと……お菓子デバイスでしょー」

「全部お菓子デバイスじゃんよw まぁいいや、何か小腹空いたし」

「チハルも何か頼もっかなー。あっ! 液弁ある!」

「良かったじゃん。チィ好きだよねー液弁、普通のご飯ものより食ってる気がする」

「だってコレ、マキナも食べれるやつだし」

「……んぇ? あ、それが理由だったの?」目を丸くするマキナ。

「んー、まぁそうかも。チハルは普通のご飯でも食べれるけど、マキナはそうもいかないじゃん? だったら二人で食べれる物の方がいいなって」

「へ、へぇ……」少し頬を赤くするマキナ。

「ねぇどれにするー? この新神戸牛丼って気にならない?」

 チハルの無垢な笑顔にほだされながら、マキナも「んー、新横須賀海軍カレーもいいかな」と話しに乗っかった。

「え? ねぇねぇ見てこれ、注文から10秒でお届けしますだって。これマジなのかな」

「本当だ。試しに頼んでみよっか。ちゃんと10秒なのか計ってやろ」

 マキナはメニュー表を持って壁に掛かっている内線電話に向かい、受話器を手に取って呼び出しボタンを押した。

『はーい、こちらカウンターでーす』

 相変わらずやる気のない口調の葛田が出た。

「すんませんルームサービスお願いしたいんですけど」

『はーい、ご注文内容をどうぞー』

「えっと、液弁の新神戸牛丼と新横須賀海軍カレー、あとデザートで吸引式バニラアイスを二つ、一つはパックでもう一つはデバイスでお願いします」

『はーい承りましたー』

「あと、注文から10秒でお届けって書いてあるんすけど、これ本当なんすか?」

『はーい、注文のお電話が終わってから10秒でお届けいたしますー。多少1秒か2秒くらい誤差があるかもしれないですがー、まぁそこは目をつぶってくださーい』

「はぁ、そっすか……分かりました、お願いしまーす」

『はーい失礼しまーす』

 通話が終わって受話器を置くなり「何て言ってた?」とチハルが訊ねた。

「やっぱ10秒で届けるって。電話切ってから10秒でって」

「え、じゃあもう2秒か3秒ぐらい経ってる? ……7! 6! 5!」

 チハルが始めたカウントダウンにマキナも応じ、二人してドアを見ながら数を数えた。

「4! 3! 2! 1!」

 バンッ!

 開いたのはドアではなく、天井の一部。

 そこから浮遊型ロボットが降下して、部屋に入ってきた。

「いやそこからかい!」チハルとマキナは声を合わせてツッコんだ。

 部屋に入室してきたロボットはふわふわと浮きながらゆっくりと降下し、二人の前で停止した。

 ロボットの形状は全体的に縦長で、ヘッド部分は猫を模した耳にモニター顔面があり、その下の胴体部分には岡持(おかも)ちが取り付けられており、いちばん下に自立式反重力装置があった。

「わー、可愛いじゃーん。にゃんにゃんだー」ヘッド部分を撫でるチハル。

「あーこれ、配膳ちゃんだよ。ウチの会社で造ってたロボット。飲食業界に売り込もうとしたんだけど、ウェイトレス連合から猛反発受けてあんま普及しなかったんだよね」

「へー、こんな可愛いのに。にゃー、にゃー」

「何で猫語になるしw つーか本当に運んで来たの?」

 マキナが近づくと、配膳ちゃんは「ニャー」と鳴き声を発し、「え、鳴くんだ⁉」と二人を驚かせた。

 すると岡持ちが少し前に移動し、蓋(ふた)が自動で開いた。

「あ、入ってる入ってる。ちゃんと入ってるよマキナ」

「本当だ。へー、本当にこうやって10秒で届けられるのすごいね」

「優秀なにゃんこだにゃー」

 二人が中の物を取り出すと、配膳ちゃんは蓋を閉じて岡持ちを収容し、再び上昇して天井の方へ向かった。

「じゃあねー配膳ちゃん」チハルは小さく手を振った。

 ガンッガンッガンッ

 何度もヘッドを天井にぶつけ、諦めたのか二人の方へ向き直り「ニャー」と鳴く配膳ちゃん。

「え、戻れなくなっちゃったの? なんで?」

「何かエラーでも起きた? とりあえずまた電話だわ」

 再び内線電話の受話器を手に取るマキナ。

『はーいカウンターでーす』

「あ、すんません。ルームサービスはちゃんと10秒で届いたんですけど、配膳ロボットが天井ガンガンやってて戻れなくなってるみたいなんすけど」

『あーそうですかー、申し訳ございませーん。すぐに原因特定するのでー、それまでお邪魔にならない所に置いておいてくださいませー』

「え、回収に来てくれないんですか?」

『申し訳ございませーん。今ちょっと立て込んでおりましてー』

「え? さっきまで暇でサボってたのに?」

『申し訳ございませーん、急に忙しくなってしまったものでー』

「はぁ、そっすか……まぁとにかく早めに回収お願いします」

『かしこまりましたー、失礼しまーす』

 受話器を置いたマキナは「いや絶対忙しくないだろ」と呟き、チハルの方へ向き直った。

 チハルはベッドの端に座りながら、配膳ちゃんの頭を優しく撫でていた。

「にゃー、にゃー、可愛いにゃー」

「ちょ、チハル……」

 その光景を見たマキナは、電子神経回路が異常に疼(うず)くのを感じた。

「お家に帰れなくなっちゃったのー? じゃあチハルの家に来るー?」

「……」

 体内に在るファンが急速回転するのを感じ取るマキナ。

 と、その時だった。

 チハルが、配膳ちゃんの顔面モニターに唇を近づけた。

 脳内に危険警報が発令され、『速やかに阻止しろ』という命令に従い、マキナは「ちょっ、待った!」とチハルの肩を引っ張り配膳ちゃんから引き離した。

「えー、何すんのー?」

「そりゃこっちのセリフだわ! 何しようとしてたんだよチハル!」

「ンフフw 何すると思ったー?」

 チハルがいつもと違う雰囲気を醸しだしていることに、長年の付き合いであるマキナはすぐに察した。

 酔っているようにも見えたが、酒は飲んでいない。

 だが、目が明らかに蕩(とろ)けていた。

 どうにも様子がおかしい。

「チハル、大丈夫?」

「んー? どうだと思うー?」

 チハルはマキナに抱きつき、胸に顔を埋(うず)めた。

「ちょっ、何してんの」

「んー? ンフフw 前より柔らかくなってるー♪」

「いや、まぁ、確かにシリコン入れて生身を意識したけど……ってちょっと⁉」

 チハルはおもむろに胸を揉み始めて、マキナは性感電子神経が刺激されるのを全身で感じた。

「ねぇー、キスしよー?」

「はぁ⁉ や、やっぱ様子変だってチハルっ。チハ……」

 動揺するマキナに対し、「んー」と唇を近づけてくるチハル。

 マキナは抗うことなく、ただ静止してしまった。

 唇があと数ミリでモニターに触れかけた時。

 ぐぅ~~~。

「うわ恥っずw すっごいお腹鳴っちゃったんだけどw アハハw」

 チハルはキスをやめて腹を抱えて笑い、マキナはまだ放心状態のまま静止していた。

「ちょっとご飯食べてからにするねー」

「う、うん……」

 液弁を食べ始めるチハル。まだドキドキの収まらないマキナ。

「……あの、チハル、本当大丈夫?」

「あっ! 間違えた、こっちカレーだった。ごめんマキナ」

「え、あ、いやそれは別に良いんだけど……」

「チハルのでもいい? はい」

 新神戸牛丼の液弁を渡され、マキナは静かに蓋を開けた。

 ベッド脇には浮遊して佇む配膳ちゃん。

「……なに見てんだよ、向こう行け向こう」

 マキナがガンを飛ばすと、配膳ちゃんはゆっくりと部屋の隅へ移動していった。

「美味しいよカレー」

「そう、なら良かった」

「そっちはぁ?」

「……うん、まぁまぁかな」

「食べ終わったら続きしよーね」

「うん……ん? え、続きって? き、キスの⁉」

「ンフフフw」




次回 『マックスとカート』
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