列車暴走事故から釈放数日後
チハルとマキナがモーテルに入って40分後
「……怒られる、よな?」
「たぶん。いや絶対」
「だよなー。あー入りたくねー」
「いきなりレーザー銃で撃たれたりして」
「まったくあり得ない話でもないから笑えねーわ」
「あ、カーとマックじゃん」
扉の前で佇む二人に声を掛けたのは、同じドーズ&スミス防衛サービスの社員・アリスだった。
その後ろには筋肉モリモリマッチョマンのジェイソンもいた。
「久しぶりー」小柄なアリスは二人を見上げながら言った。
「おう、久しぶり」
「ジェイソンも元気にしてたー?」
「ん……」(訳:うん、元気だよ)
「聞いたよ、鉄道事故のこと。無事で良かったじゃん」
「なんとかな。色々あったけど」
「もうあんな目に遭うのはこりごりだよ」
「ん……」(訳:災難だったね)
「早く社長に会ってきたら? 二人のことかなり心配してた感じだから」
「え、マジ?」
「本当かなぁ」
「……ん」(訳:嘘だよ二人とも、嘘だ)
「じゃ、ワタシらこれから仕事だから。じゃねー」
「おう、いってら」
「ジェイソンもいってらっしゃい」
「ん……」(訳:うん。二人とも、殺されないことを祈ってるよ)
アリスとジェイソンを見送った後、カートとマックスは再び扉の前で立ち尽くした。
「しゃーねぇ、入るしかねぇか」
「まぁそれ以外に選択肢ないしね」
「ていうかいつも思うんだけど、アリスって俺らの名前省略すんの何なんだろうな」
「そこはツッコまない方が良いと思うよ。彼女
「あー、前に男からナンパされたのにブチ切れて店一軒吹き飛ばしたもんな。回収した爆弾で」
「あれヤバいよねw まぁ犯罪多発地域だったから社長が上手く揉み消したみたいだけど」
「あとジェイソン、〝ん〟しか言わないでよく仕事出来るよな」
「まぁ一人は必要でしょ、筋肉キャラは。ゲームのパーティでもいてくれたら心強いし」
「あ、そういやエイハン新作出るらしいな」
「え、それ本当? うーわやりたい、今度はどんなエイリアン出て来るのか楽し」
マックスが「み」と言いかけたところで、扉の奥から怒号が
「ごちゃごちゃ言ってないでとっとと入れっ!!!」
「はいっ」
「すんませんっ」
「ずいぶんな社長出勤じゃない。良いご身分ね二人とも」
机の上で手を組みながら、ドーズ&スミス防衛サービス社長のジェーンはあからさまに嫌味を口にした。
「すんません、道路で隕石衝突があって交通整理に引っ掛かりました」
「不可抗力ってやつです」
「あらまぁそれは可哀想に……って言うとでも思った? 遅れるなら遅れるで電話の一本ぐらい寄越しなさいよ。常識でしょ?」
「……すんません、忘れてました」
「……ごめんなさい」
頭を垂れる二人に対し、「はぁ」と溜息をつくジェーン。
「今回の騒動のことは警察内部の協力者から聞いたわ。ずいぶんヤバい列車に乗ってたのねアンタたち」
「ええまぁ、かなりヤバかったです」
「まぁでもヤバい状況には慣れてたんで、何とかなりました」
「まぁそれはそうよね。たかがイカれたロボット一台で
「え、それって……」
「オータムちゃんのこと知ってるんですか」
「だーかーらー、警察の協力者から聞いたって言ったでしょ。おおっぴらにはされてないけど、要はタイタンのロボットがヤバい自我を持って列車を暴走させてたんでしょ? しかも今回以前から」
ジェーンは煙草を口に咥え、宝石のあしらわれたライターで火を点けた。
「ふー……殺人鬼ロボットを造ってたなんて知れたら、そりゃ天下のタイタンもヤバいって思ったんでしょうね。警察が押収した鉄道車両の残骸とかロボットとか一切合切回収したみたいだし」
「情報が漏れないようにってことっすか」
「うわー、汚いお金のにおいしかしないです」
「金に綺麗も汚いもないわよ、金は金よ。そういえばマックス、アンタの口座に入金された40円は綺麗なの汚いの?」
「えっ⁉」動揺するマックス。「どうしてそれを……」
「社員が不正に会社の金使ってないかどうか、勝手に仕事受けて会社に金入れないつもりなのかどうか、適宜調査してるのよコッチは。で? その40円の
「えっとぉ……」
口を濁したマックスを見かねて、カートが代わりに答えた。
「……しました、仕事」
「正直でよろしい。で、どんな仕事?」
「車両の中にいた対人制圧ロボットを動作不能にしました。タイタン工業のキルロイ後期型だったんで、まぁ対処可能でした」
「ふーん。にしては報酬が少なくない? せめて80円は取るべきじゃない?」
「いや、先に前金でもらったんで……」
「あらそう。じゃあ残りは後払い? それとも分割?」
「……もらってないです、残りは。こっちから辞退したんで」
「は? 何で?」眉間に
「それは……その」
「……〝ありがとう〟って、言ってもらえたんで」マックスが言った。
「はぁ? あの、ますます意味が分からないんだけど。ありがとう? それが40円の価値があるっての?」
半笑いするジェーンの問いかけに、カートとマックスは無言を貫いた。
「……まぁいいわ、とにかく仕事はしたってわけね。発注書は?」
「すんません、もらってないです」
「まぁ車内ヤバい状況だったんで、いちいち発注書用意してもらう時間もなかったってゆーか」
マックスが上手く取り繕うとしたが、ジェーンの目は鋭かった。
「本当に? そんな切羽詰まった状況だったの?」
「……」
「……」
何も言おうとしない二人にジェーンは「はぁー……」と溜息をつき、煙草を長めに吸って盛大に紫煙を吐いた。
「振り込んだ相手の名前はマキナ・クルス。身元を調べたわ、タイタンのご令嬢じゃない。発注書の書き方くらい分かってそうだけどね」
「……」
「……」
「そうやっていつまでもだんまり決め込むつもり? あのねぇ、ウチは会社なのよ? 商売なの。金を稼がなきゃいけない。スラム地区の子供でも分かることが分からないわけじゃないわよね? グレーな仕事だってウチは引き受けてる。じゃないと経営がもたないから。アンタたちがしくじった砂糖の密輸、アレが上手くいってたらどれだけの利益になってたと思う? 300円よ300円。大口案件だったのに、アンタたちったらドジってさぁ。少しは責任を感じないわけ?」
「……」
「……」
「黙ってないで何とか言ったらどうなの。謝罪はタダよ、坊やたち」
「……辞めますわ、俺」カート。
「は?」
「あ、俺も」マックス。
「はぁ?」ジェーンは目を点にして二人を交互に見遣った。「え、何でそうなるのよ」
「前から思ってたんすよね、辞めるかって」
「そもそもあの砂糖の密輸、グレーどころかバリバリ違法じゃないですか。なのに何の支援もなく二人でやれってのが無茶だったんですよ」
「だよな。全部の責任俺らに求められても困る」
「だよねー。プラン立てるならもっとマシなのにしてほしかった」
「え、何? 自分たちのミスを棚上げしてトンズラしようっての? 社会はそんな甘くないわよ」
「んなこと分かってますよ。どーせ俺たちサイボーグは差別と偏見の目で見られてる、クソな社会だってことぐらい。それに社長さっき言いましたよね、〝不良品〟って。それって俺らを人間扱いしてない証拠じゃないすか」
「ただの道具にしか思ってないんでしょ? 自分に都合よく動いてくれるお人形だって。もうそういうの飽きちゃったんで俺ら」
「いや、それは……言葉のあやよ」
「とにかく辞めさせてもらいますわ。退職届用意しますけど、別に解雇でもいいっす」
「こっちには40円あるしね、退職金も別にいいでーす」
「二人で20円ずつか、まぁしばらくは生活困らないべ」
「パーッとどこかで遊びたいよねー。あ、みんなに連絡取ろうか。都合の良い日に遊ぼーって」
「いいじゃん。じゃあ行くか」
そう言って二人はジェーンに背を向け、扉の方へ歩き始めた。
「え、ちょっと? 勝手に話進めないでくれる? ねぇ!」
「無視無視」
「聞こえませーんw」
ジェーンの言葉を意に介さず扉の前まで迫る二人。
「ちょ、ちょい待ちちょい待ち!」
ジェーンは机の下に設置していた緊急用のボタンを押した。
ガチャンッという重々しい音が響き、扉が完全にロックされた。
「んだよめんどくせーなぁ。これ防弾プレート製だろ? 力づくってなるとバッテリー消費ハンパないんだよな」
「まぁでもロックシステムはハッキング可能だから、強引に開ける必要ないよ。コレ使えばお茶の子さいさい」
マックスはジャンパーのポケットからハッキングアイテムを取り出し、吸盤部分を扉にくっつけた。
「あのさぁ、今ウチ人手不足なの知ってるでしょ? 同業連中も人材の横取りし放題で参ってんのよ。ねぇ!」
「ロック解除までどんくらい?」
「待ってねー、いま24パーセント」
マックスは右腕に着けたキーボードをリズミカルに叩いた。
「アンタたちの腕は認めてるわよ、だから雇ったんじゃない。この前の砂糖の密輸だって、二人なら上手くやってくれると踏んで引き受けたんだから」
「順調?」
「56パーセント、半分切った」
「あーもう、どーしろって言うのよ? 謝れば良いの? ねぇそうなの? そりゃこれまで手荒なことしてきたけど……謝れって言うならいくらでも謝るわよもう」
「別に謝罪とかいらねーし」カートは横顔でジェーンを睨んだ。「〝不良品〟なんだろ? 俺らは」
「所詮はサイボーグ差別ってことだよねー、元は人間なのにさ。あ、78パー」
「……悪かったわよ。その発言は撤回する」
「いまさら
「86パー」
「……二人に抜けられたら困るのよ、本当に。絶対他社に業績追い抜かれるし」
「んなこと知らねーよ、社長なら自分で何とかしろよ」
「ていうか俺らがそんな会社の業績に貢献してるんなら、感謝の言葉のひとつぐらいあってもいいよね」
「それな。毎度毎度嫌味聞かされるこっちの身にもなれってんだよ。あと暴力な」
「そのうえサイボーグを見下してるっていうね。残り8パー」
「……」
「次の職場どうする? もう防衛サービス関連はなしだわ。どのみち道具としてこき使われるだけだし」
「何かさー、人に感謝される仕事がしたいよね。老サイホームとかは?」
「あー、まぁ悪くねーかな。俺らまだまだ若いしいけるべ」
「残り2パー」
「ごめん」
ジェーンの言葉に二人は反応し、横顔でチラリと見遣った。
頭を垂れるジェーンの姿。
「その……今までのこと、ごめん」
「……」
「……あ、100いった」
カートはハッキングアイテムのボタンを押し、ガチャンッと扉が開錠する音が響いた。
あとは扉を押して開けるだけだったが、カートとマックスはアイコンタクトを取り合い、再びジェーンに視線を向けた。
「俺らしばらく有休で休みますわ。これまで申請しても却下されてだいぶ溜まってるんで。その間に労働環境改善計画書作っといてください。無理ってんなら辞めるんで」
「あ、ちなみに今までの暴言とか暴力、全部録画録音してありますんでー。労働局に持ってったらヤバいことになるでしょうねー」
「……分かったわよ、ちゃんとやっておくから」ジェーンは渋々といった様子で承知した。
「じゃ、お願いします」
「お願いしまーす」
二人はドアを開け、部屋を退室した。
「どう思う? アレで改心するかな社長」
バンに戻ったマックスはカートに訊ねた。
「どうだかな、最初のうちは大人しくするかもしんねーけど、日が経つうちに元どおりになる可能性もゼロじゃねーし」
「そうなったら転職すればいいだけだもんね。まぁでも少しスカッとした」
「確かに。さーて、休みになったことだしどうする? 帰るか、それともどっか寄ってくか」
「チハルちゃんたちはもうバルカンに着いたのかな。ちょっと連絡してみよ」
マックスは電話回線をつなぎ、顔面のモニターに『TEL…』の文字が映し出された。
「……あれ?」
「どした?」
「いや、ワンコールしてからブチって切られた」
「ん? 着拒されたってこと?」
「いや違う。最初は普通にコールしたのに、急に『相手が圏外』みたいなガイダンス流れた」
「バルカンだろ? んで圏外とかありえねーべ。惑星の半分が機械都市でパラボラアンテナばっかなんだし」
「でも実際そうなったし、どういうことなんだろ。……あ」
「なに?」
「いや、車の中で変なモーテルの話したじゃん? そこの噂にさ、電波が途切れ途切れになって宿泊客が外部と連絡が取れなくなるっていうの思い出して……」
「……」
「……」
「マックス」
カートは車のエンジンを掛けた。
「そのモーテルの名前教えろ。あと場所」
次回 『おせっせしないと出られない部屋』