カンスト勇者のやり直しハーレム無双~異世界帰りの俺、今度はアニメの推しヒロイン達を全員幸せにします~ 作:のびすけ。
穏やかな寝息が、すぐ隣から聞こえてくる。
僕の腕の中、安心しきった顔で眠っているのは、アリサ・ミハイロヴナ・九条。
ついさっきまで、僕の愛をその身に受け、蕩けきった声で喘いでいた、僕だけの、世界で一番愛しい恋人。
その頬は、幸福な涙の跡で、微かに濡れていた。
「完璧な銀のお姫様」の仮面は、もうどこにもない。そこにあるのは、ありのままの自分を愛されることを知り、心からの安らぎを手に入れた、一人の少女の、無防備で、満ち足りた寝顔だった。
(良かった……。アーリャを、最高の形で、幸せにしてあげることができた)
その、深く、温かい満足感に全身を包まれながら、僕はそっと彼女の銀色の髪を撫でた。
僕とのセックスを通じて、彼女は自分の弱さも、淫らな欲望も、すべてを曝け出してくれた。
そして僕は、そのすべてを、心の底から「愛している」と伝えることができた。
もう、彼女が一人で、「完璧」という名の鎧を着込んで、孤独に震えることはないだろう。
僕の腕の中で、アーリャが「ん……♡ かいと、くん……すき……♡」と、幸せそうな寝言を呟いた。
その言葉が、僕の魂に、何よりの報酬として深く刻まれる。
ああ、もう十分だ。
この光景を見ることができただけで、この世界に来た価値はあった。
僕は、愛しい恋人の寝顔を目に焼き付けながら、ゆっくりと意識を手放していく。
アーリャの温もり、甘いシャンプーの香り、僕の精液で満たされた彼女の体の匂い……。そのすべてが、僕の意識に溶け込んで、だんだんと世界が光に包まれていく。
さようなら、僕だけのアーリャ。
君はもう、一人じゃない。
次に目を開けた時、僕の目に映ったのは、見慣れた自室の天井だった。
身体を預けているのは、柔らかいベッドではなく、僕の身体にフィットしたゲーミングチェア。
鼻孔をくすぐるのは、彼女の甘い香りではなく、PCのファンが吐き出す、微かな熱と埃の匂い。
目の前のトリプルディスプレイには、『時々ボッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』の配信サイトのトップページが、煌々と輝いていた。
「……帰ってきた、か」
呟いた声は、佐藤海斗のものではなく、紛れもない、現実世界の僕自身のものだった。
心地よい疲労感と、胸の奥にずっしりと残る、確かな達成感。
僕は、大きく背伸びをすると、冷蔵庫から取り出したエナジードリンクを一口煽った。
そして、高鳴る胸を抑えながら、マウスに手を伸ばす。
介入した世界が、僕の行動によってどう変わったのか。
それを確認する、運命の儀式。
僕は、『ロシデレ』のアニメのページを開いた。
最終話まで、ずらりと並んだサムネイル。そして、その一番最後に。
あった。
僕の心臓が、どくん、と大きく跳ねる。
そこには、原作には存在しないはずの、新しいエピソードが、確かに、追加されていたのだ。
『特別編:銀色の髪と隣の席の笑顔』
サムネイルには、生徒会室の窓際で、楽しそうに笑い合う、四人の男女の姿が描かれていた。
僕が転移した佐藤海斗の隣で、幸せそうに寄り添う、アーリャ。
そして、そんな二人を、呆れたような、でも、どこか温かい目で見守る、久世政近と、周防有希。
僕は、震える指で、再生ボタンをクリックした。
***
物語は、生徒会室での、ありふれた日常から始まった。
文化祭の準備だろうか。
机の上には大量の資料が広げられ、四人が和気あいあいと議論を交わしている。
「だからさ、この模擬店の予算だと、クレープのトッピングは三種類が限界だって!」
久世君が、面倒くさそうに頭を掻きながら言う。
「あら、そうですか。ですが、生徒会主催の公式カフェとして、メニューの貧弱さは学園の威信に関わりますわ」
有希さんが、冷静に、しかし的確に反論する。
原作なら、ここでアーリャが「そうよ!久世君はもっと真面目に考えなさい!」と、ピシャリと叱りつけていた場面だ。
だが、画面の中のアーリャは、違った。
彼女は、困ったように眉を下げながらも、楽しそうに、くすくすと笑ったのだ。
「ふふっ。もう、政近君ったら。有希さんの言う通りよ。でも、予算が厳しいのも事実よね……」
その声には、以前のような刺々しさはまったくない。ただ、親しい友人を、優しく諭すような、柔らかな響きがあった。
政近、と、下の名前で呼んでいる。
久世君も、驚いたように目を見開いた後、「……わーったよ。じゃあ、どうすんだよ、会長サマ」と、少しだけ照れくさそうに、でも、素直に彼女の言葉を受け入れている。
ああ、と僕は思った。
僕が介入しなくても、この二人は、いずれこういう関係になっていたのかもしれない。
でも、僕がいたことで、その道筋は、誰も傷つかない、最高の形へと変わったのだ。
そんなやり取りを微笑ましく見ていた僕(佐藤海斗)が、すっと手を挙げた。
「その件なら、俺に考えがある。去年の決算資料を分析したところ、広報費の一部を、こちらの模擬店予算に転用できる可能性がある。少し書類仕事が増えるが、やれないことはない」
僕が、具体的な解決策を提示すると、久世君が「マジか海斗!お前、やっぱすげーな!」と、尊敬の眼差しを向けてくる。
「ありがとう、海斗君。助かるわ」
アーリヤが、僕にだけ見せる、とびきりの甘い笑顔で、そう言った。
そして、机の下で、僕の手に、自分の指を、そっと絡ませてくる。
僕がその手を優しく握り返すと、彼女は、顔を真っ赤にしながらも、嬉しそうに、はにかんだ。
その一連のやり取りを、有希さんが、すべてお見通しだという顔で、にこにこと眺めている。
エピソードの中盤、僕(海斗)と久世君が、二人で自動販売機にジュースを買いに行くシーンがあった。
「しかし、驚いたよな」
久世君が、缶コーヒーを開けながら呟く。
「最近のアーリヤの、あの変わりよう。昔の、誰にも心を開かない“孤高のお姫様”が、嘘みたいだ」
「そうか?」
「ああ。お前のおかげだよ、海斗」
彼は、僕の肩を、ぽん、と叩いた。
「正直、俺じゃ、あいつをあそこまで笑顔にしてやることは、できなかったと思う。アーリヤが、本当に心を許せる相手を見つけられて、俺も、親友として嬉しいよ」
その笑顔に、嫉妬や劣等感の色は、一切なかった。
原作の主人公は、僕の介入によって、ヒロインを奪われた敗者になったのではない。
かけがえのない親友と、心から幸せを願える、もう一人のヒロインとの絆を手に入れた、勝者になっていたのだ。
そして、エピソードの最後。
文化祭の準備がすべて終わり、四人で後夜祭のキャンプファイヤーを眺めているシーン。
燃え盛る炎が、四人の横顔を、美しく照らし出している。
有希さんと久世君は、相変わらず、漫才のようなやり取りを繰り広げている。
そして、僕の隣で。
アーリャは、僕の肩に、こてん、と頭を預けていた。
「ねぇ、海斗君」
「ん?」
「私ね、今、すごく幸せよ」
「……俺もだよ、アリサ」
「昔はね、ずっと、“完璧”じゃなきゃいけないって、思ってた。でも、違ったのね」
彼女は、僕の顔を見上げて、心の底から、幸せそうに微笑んだ。
「好きな人の隣で、素直に笑えること。それが、一番の幸せなんだって、あなたが教えてくれた」
その笑顔は、僕がこの世界で、何よりも見たかった、宝物だった。
物語は、そんな、どこまでも優しくて、温かい、最高のハッピーエンドで、幕を閉じた。
***
僕は、エンドロールが流れる画面を、ただ、呆然と眺めていた。
目から、温かいものが、一筋、こぼれ落ちる。
良かった。本当に、良かった。
佐天さんも、ラムちゃんも、そして、アーリャも。
僕が愛したヒロインたちは、僕の介入によって、確かに、原作以上に幸せな結末を迎えていた。
「物語の登場人物だからって、幸せになっちゃいけないなんて、ルールはないよな」
誰に言うでもなく、そう呟く。
心の奥底から、経験したことのないほどのやる気が、情熱が、マグマのように湧き上がってくる。
僕のこの力は、物語を自分の欲望のために捻じ曲げるためのものではない。
原作では救われなかった、幸せになるべきヒロインたちを、最高の形で救い出すための、祝福(ギフト)なのだ。
そうだ。僕の戦いは、まだ終わらない。
救いを待っているヒロインは、この世に、まだたくさんいるはずだ。
僕は、エナジードリンクの残りを一気に飲み干すと、新たなターゲットを求め、ブラウザの検索窓に、ある作品名を入力した。
ーーーーー
『陰の実力者になりたくて!』
画面に表示されたのは、漆黒のドレスに身を包んだ、美しく、そしてどこか影のある、七人の少女たちのイラスト。
アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、イプシロン、ゼータ、そしてイータ。
通称、「七陰(シャドウガーデン)」。
絶対的な実力と、類稀なる美貌を持ちながら、そのすべてを、一人の、とんでもない勘違い男に捧げてしまっている、悲劇のヒロインたち。
「……なるほどな」
僕は、不敵な笑みを浮かべた。
彼女たちの忠誠心は、本物だ。
だが、その愛は、あまりにも一方通行で、報われていない。
彼女たちこそ、本当の愛を知り、一人の女性としての幸せを手に入れるべき存在ではないのか。
「待っていろ、七陰。君たちの、本当の主人が、今、会いに行く」
僕は、ヘッドホンを装着し、意識を集中させる。
次なる戦場へ、最高のヒロインたちを救い出すため。
僕の指が、エンターキーを、力強く、叩きつけた。