カンスト勇者のやり直しハーレム無双~異世界帰りの俺、今度はアニメの推しヒロイン達を全員幸せにします~ 作:のびすけ。
シャドウガーデンの実質的指導者であるアルファ。
私は常に完璧だった。エルフとしての美貌、卓越した知性、シャドウに次ぐ戦闘能力。
そのすべてを組織のために捧げ、彼の曖昧な言葉からその真意を汲み取り、仲間を導く。それが私の存在意義であり、彼への絶対的な忠誠の証。
しかし、その完璧な仮面の下で、私は常に重圧と孤独に苛まれていた。
本当に自分は、彼の理想に応えられているのだろうか。
彼の隣に立つにふさわしい存在なのだろうか。その不安は、誰にも打ち明けることはできない。〝完璧なアルファ〟は、弱音など吐かないのだから。
あの男、カイトに助けられてから数日、私はかつてないほどの心の乱れを感じていた。
彼に渡された通信用の魔道具を、ただじっと見つめる。
…礼は、しなければならない。
シャドウガーデンの一員として、受けた恩は返すのが道理だ。
そう、これは道理。義務。それ以上でも、それ以下でもない。
そう自分に言い聞かせれば聞かせるほど、心臓が煩く脈打つのを感じる。
お礼はしたい。
でも、何を話せばいいというの?シャドウガーデンのことは、もちろん話せない。
当たり障りのない世間話?そんなもの、したこともない。
沈黙が流れたらどうしよう。彼との間に流れた、あの少しだけ甘い雰囲気が、私の勘違いだったら?
男性と二人きりで食事に行くなんて、考えたこともなかった。
彼…シャドウを除いては。
でも、あれは違う。
彼との時間は、神聖な儀式のようなものだ。
カイトとのそれは、全く質の違う、未知の領域。
幻滅されないかしら。
いざ話してみたら、つまらない女だと思われたら…。
そこまで考えて、私は思考を停止させた。何を考えている、私としたことが。
こんな、まるで恋に悩む少女のような…。違う、これはただの任務遂行の一環。
そう、任務。
…そうだわ、着ていく服を選ばなければ。
任務にふさわしい、完璧な装いを。
クローゼットを開け、ずらりと並んだ機能的な黒のドレスを前に、私はなぜか、深いため息をついていた。
散々悩んだ末に意を決し、魔道具に連絡を入れると、彼は快く誘いに応じてくれた。
指定したのは、ミツゴシ商会が経営する最高級レストランの個室。
ここならば、万が一のことがあっても対応できる。
ーーーーー
レストランで待っていると、彼が約束の時間通りに現れた。
「やあ、待たせたかな」
あの日と同じ、穏やかな笑顔。
ラフでありながらも品のある服装が、彼のスタイルの良さを際立たせている。
私は平静を装いながらも、心臓が跳ねるのを感じた。
個室に案内され、飲み物を注文する。緊張で、喉がカラカラだった。
「その…先日は、本当に助かったわ。改めて、礼を言うわね」
「気にしないでくれ。君のような人が無事だったのなら、それが何よりだ」
まずは、当たり障りのない自己紹介。
私は、表向きの商人としての顔を使い、彼は冒険者としての日常を語った。
彼の話は、不思議と私の心を落ち着かせた。そして、一通り話し終えた、その時だった。
「いろいろとありがとう。よくわかったよ。…そして、シャドウガーデンのアルファ、だよね?」
空気が、凍った。
私の全身が、瞬時に戦闘態勢へと移行する。
魔力が練り上げられ、いつでも彼を排除できるように。
しかし、彼の瞳は、どこまでも穏やかだった。
まるで、私のことなどすべてお見通しだ、と言わんばかりに。
「…なぜ、それを」
「君ほどの気品と実力を持つ女性だ。少し調べれば、すぐにわかることさ」
…この男、底が知れない。先日の戦闘能力も、常軌を逸していた。
彼が敵ならば、シャドウガーデンにとって計り知れない脅威となる。
だが…。不思議と、彼から敵意は感じられなかった。
「…あなたに、実害が及ばない保証はないわよ」
「はは、それは怖いな。でも、僕は君たちの敵になるつもりはないよ。
むしろ、君たちが戦っている相手には、僕も思うところがある」
私は、ひとまず剣を収めることにした。
彼が何者であれ、今ここで敵対するのは得策ではない。
彼の真意を、見極めなければ。
そこからの時間は、驚きの連続だった。
私の警戒心を解くように、彼の話は驚くほど弾んだ。
彼は聞き上手だった。
私がシャドウ様と出会った時のこと、シャドウガーデンを立ち上げた時の苦労、仲間たちのこと…。
話すつもりのなかったことまで、私はごく自然に、彼に語ってしまっていた。
それどころか、彼はディアボロス教団に関する、私ですら知らないような機密情報を、「これは内緒だけどね」と、こともなげに教えてくれる。
その情報網は、シャドウガーデン以上かもしれない。
そして、会話の合間に、彼は時折、私を〝女〟として見る言葉を挟んでくる。
「リーダーとしての君も素敵だが、こうして話している時の、君の素顔はもっと魅力的だ」
「その瞳は、宝石のようだね。ずっと見ていたくなる」
そのたびに、私の心臓がきゅっと甘く締め付けられた。
シャドウ様に褒められるのとは違う。
これは、雄が雌に向ける、明確な賛辞。
生まれて初めて、私は〝女〟として認められているのだと、実感していた。
嬉しくて、恥ずかしくて、どうにかなりそうだった。
話に夢中になるうち、私はつい、日々の愚痴をこぼしてしまった。
「…組織が大きくなるにつれて、事務処理がどうしても追いつかなくて。私が、全部抱え込むしかないのだけど…」
「なんだ、そんなことか。僕でよければ、手伝うよ」
「え?」
「僕は、こういう分析や書類整理は得意なんだ。君の負担が、少しでも軽くなるなら」
その提案は、あまりにも魅力的で、私は断ることができなかった。
こうして、とんとん拍子に、彼がミツゴゴシ商会の事務所を手伝いに来てくれることが決まった。
ーーーーー
後日、彼は約束通りにやってきた。
山のように積まれた資料を見るなり、彼は「なるほどな」と一つ頷くと、驚異的な速さで仕事を片付け始めた。
複雑なデータ分析、予算の再配分、人員配置の最適化…。
私が何日もかかって処理するはずだった仕事が、彼の手に掛かると、数時間でみるみるうちに形になっていく。
「すごい…あなた、一体何者なの…」
「君の役に立てて、嬉しいよ」
彼は、仕事の合間に、私に労いの言葉をかけてくれる。
「いつも、こんな膨大な量を一人でこなしていたのか。本当に、君はすごいな。頑張りすぎだよ」
「少し休んだらどうだ?僕が、とびきり美味しいお茶を淹れてあげる」
リーダーだから、アルファだから、完璧で当たり前。
誰かに褒められることも、労われることもなかった。
その、私の心の渇いた部分を、彼の優しい言葉が、温かいお茶が、じんわりと満たしていく。
満たされていく。私の承認欲求が。
この感情は、なんなのだろう。
彼が、シャドウガーデンにとって有益な存在だから?違う。
そうじゃない。これは、シャドウガーデンのアルファとして感じているのではない。
一人の女として、彼に…。
仕事が一段落し、二人でソファに並んでお茶を飲む。
特に会話はなかった。
でも、その沈黙は、少しも気まずくなかった。
むしろ、心地よい安らぎが、そこにはあった。
ーーーーー
彼を見送った後、私は一人、静まり返った事務所で立ち尽くしていた。
私の心に芽生えた、この温かい気持ちを、どうすればいいのかわからない。
シャドウ様への忠誠とは違う、甘くて、少しだけ切ない、この感情。
でも、決して嫌じゃない。むしろ…。
もっと、彼に会いたい。もっと、話したい。もっと、彼に…褒めてほしい♡
完璧だったはずの私の心は、カイトという存在によって、もうぐちゃぐちゃにかき乱されていた。