翌日、千里は昨日の出来事を振り返りながら、台所でお茶を淹れていた。
隆司の突然の告白と大胆な行動に、まだ動揺が収まらない。
しかし、彼の若さ溢れる情熱が、彼女の心に小さな波紋を広げていたのも事実だった。
「もう来ないでしょう……」
そう呟いた瞬間、ドアベルが鳴った。千里は眉をひそめながらドアを開けると、そこには再び隆司が立っていた。
「隆司くん……また来たの?」
「千里さん、昨日はごめんなさい。でも、僕の気持ちは本物です。どうかもう一度だけ話を聞いてください。」
彼の目は真剣で、昨日のような狂気は感じられなかった。
千里は戸惑いながらも、ドアを開けたまま立ち尽くした。
「隆司くん、あなたはまだ若いのよ。私みたいなおばさんを好きになるなんて……」
「おばさんなんかじゃないです。千里さんはとても美しいし、僕には手が届かないくらい素敵な人です。でも、だからこそ、どうしても伝えたかったんです。」
隆司の言葉に、千里の胸が再びドキドキと高鳴った。
彼女は彼の真剣な眼差しに吸い込まれそうになり、思わず一歩下がった。
「隆司くん、そんなこと言わないで……」
「千里さん、僕はただ、あなたと話がしたいだけなんです。少しだけ時間をください。お茶でも飲みながら……」
彼の穏やかな口調に、千里は抵抗できずにいた。彼女はため息をつきながら、ドアを開け放った。
「わかったわ。でも、長くはダメよ。」
隆司は笑顔で家に入り、千里は彼をお茶の間に導いた。
隆司は千里の前に座り、ポツリポツリと自分の生い立ちを語り始めた。
彼の母親が離婚していないこと、父親がいないこと、そして孤独な少年時代を送ってきたことを、静かな声で話した。千里は彼の言葉に胸を痛め、不憫に思わずにはいられなかった。
「そんなに辛い思いをしていたのね……隆司くんは強い子だわ。」
彼女は優しく微笑み、彼の手をそっと握った。その温もりが、隆司の心に染み渡る。
「千里さん……ありがとう。誰かに聞いてもらえるだけで、楽になる気がする。」
「しょうがないわね。私みたいなおばさんで良ければ、いつでも話を聞くわ。これからも、いつでも遊びに来ていいから。」
隆司の目が輝いた。
「ほんとに? 千里さん、いいの?」
「ええ、もちろん。あなたは良夫の大切な友達なんだもの。」
しかし、千里は知らなかった。隆司が語った生い立ちは、すべて嘘だったということを。
彼は千里の同情を引き、彼女の心に近づくための策略だった。
その日から、隆司は頻繁に千里の家を訪れるようになった。最初はただ話をするだけだったが、次第に彼の態度に変化が現れた。彼は千里の言葉に耳を傾けながら、時折、意味深な視線を投げかけるようになった。