あらすじ:暗黒戦争の最中、マケドニアの白騎士カチュアはアリティアの王子マルスに想いを寄せる。

「14章 悲しみの大地・グラ」クリア後以降のお話です。必ず前書きを読んでから本文にお進み下さい。

警告!! シーダが失恋します。ニーナが嫌な女です。

※pixivとAO3にも投稿済み

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マルカチュを書くに当たり、マリア王女がマルス王子を『素敵な人』だと思っている(公式)ため、それだとカチュアの性格から彼と恋愛関係にはならない、というネックがありましたが、その点は「(マリア王女ではなく)ミシェイル王子が父王の締結した同盟の証としてドルーアの人質になる」というif設定で解決しました。本作でディール要塞に囚われているのはミシェイル王子です。
なお、本文に「農夫の~」というくだりがありますが、FEの世界における王族・貴族に対しての一般人の例えであって、農業に携わる方を貶める意図は全くなく、また、後妻が新妻よりも価値が低いと言っているわけでもありません。

警告!! シーダが失恋します。ニーナが嫌な女です。(大事な注意書きなので二回書きました)


第1話

 

 

マルスは激しい戦いの末、ついにグラ王ジオルを討ち、父と祖国の仇を取った。しかし、祖国奪還への行軍を目前にして神剣『ファルシオン』が見当たらない、という困った事態が発生する。

 

「ファルシオンは見つかったのか?」

もう何度目になるかわからぬくらい、グラ城内の探索に向かった兵士が戻って来る度に尋ねても、答えはいつも『いえ、見つかりません。』だった。

――ファルシオンがないと到底メディウスに勝てない。

ファルシオンが見つからないという重圧が、王子の眉間に深いシワを刻み、落ち着かない時間を過ごさせていた、その時。

「王子。捕虜を尋問してみます。少々お時間を下さい。」

モロドフが申し出てマルスは頷き、ファルシオンに関する有力な手掛かりを得るまでグラ城に駐屯することにした。

 

その夜。涼みに仮初めの自室のバルコニーに出たマルスは月の明るい遠い空に二つ、動く白いものを見とめて目を凝らした。

「あれは……ペガサス?」

二頭のペガサスがこちらに向かって飛んでいた。常識的に考えて、たった二人で攻撃を仕掛けてくるわけがなかった。

――あの天馬騎士はミネルバ王女やミシェイル王子の許に馳せ参じようとしているこちらに向かっているのかもしれない。

マルスはそう思い、二頭の天馬が近付いて来るのを待った。そして…天馬騎士の一人はマルスの見知った者だった。

「マルス王子!」

近くまで来ると天馬騎士の一人が呼び掛けて手を振り、二頭のペガサスがバルコニーに降り立った。

「カチュア殿…」

彼女を見た瞬間、ふと、マルスの脳裏に過去の記憶が蘇った。

 

 

 

「マルス王子。私は、マケドニア白騎士団のカチュアと申します。」

 ペラティを制圧したとき。マルスの許を訪れた一人のペガサスナイト。紺色の髪の美しい天馬騎士はペガサスから下りると片膝をつき、そう名乗った。

「実は王子にお願いがあり、密かに参りました。我が主ミネルバ王女が率いる部隊はドルーアに対して反乱を計画しています。しかし、兄君ミシェイル王子が敵の手中にあるため身動きが取れないのです。どうかミシェイル王子を助けるため、力をお貸し下さい。」

 

 

 

そして。カチュアの要請を聞き入れた結果、今ミネルバ王女もミシェイル王子も同盟軍にいる。

「マルス様、お久しぶりです。ミネルバ様が漸くマルス様の味方になれたと聞いて、姉と共にマケドニア軍を脱走し馳せ参じました。これから、よろしくお願いしますね。」

「マルス王子、はじめまして。私は白騎士団のパオラと申します。私もミネルバ様と一緒に戦います。どうぞよろしくお願いします。」

カチュアと彼女の姉・パオラが天馬を降りてマルスに挨拶すると。

「こちらこそよろしく。」

そう言ってマルスは微笑んだ。

 

*

 

次の日も、ファルシオンの情報は得られなかった。モロドフに依ると、そもそも捕虜たちにファルシオンの存在すら知らぬ者もいるとのことで、根気よく知っている者を探すしかなかった。

 

そして夜。月が明るい。マルスがそろそろ寝ようとしていたとき。自室のテラスドアの向こうに白いものが降り立つのが見え、マルスはテラスドアを開けバルコニーに出た。

「カチュア殿…?」

白いものはカチュアのペガサスだった。今、彼女は鎧をつけていない。スリットの入ったタイトなノースリーブの、夜空に溶け込むような紺色のワンピース姿だ。

「マルス様…」

ペガサスから降りたカチュアが硬い表情で見つめるのに、マルスは何かあったのだろうか、と思った。

「一体…」

「その……」

カチュアが思い詰めたような顔で俯き、目を逸らす。そして何かを決意したように顔を上げる。

「マルス王子。私…貴方が好きなんです。ペラティで、初めてお会いしたときから……」

――貴方のその真摯な瞳を見たとき。信頼できる人だと直感した。そして貴方は信頼に違わず、私の要請に従ってミシェイル王子を救出してくれた……

「身分違いであることはわかっています!だからせめて……私の気持ちをし、知っていていただきたくて……」

そこまで言うとカチュアは身を翻し騎乗しようとした。――が、突然の告白に雷に打たれたように放心状態になっていたマルスがはっと我に返り、まるで今掴まなければ永遠に失ってしまうかもしれないという予感に、咄嗟に彼女の手を取った。

「待って!」

引き留められ、カチュアが驚いてマルスを振り返る。マルスは自身の大胆な行動に些か決まり悪そうにぎこちなく笑う。

「あ、えーと……」

――この後どうしたらいいんだろう?

恋愛に不慣れな王子はどうしたらいいかわからないながらも、この凛々しく美しい騎士を行かせたくなくて必死に言葉を探した。心臓の鼓動が煩い。

「……その。よかったら、少し話さない?」

結局、出てきたのはそんな言葉だったが。

「ええ、もちろん。」

カチュアは月光を映したような美しい瞳でマルスを見返し、微笑み頷いた。

 

「この部屋、ジオル王の第二夫人と彼女の娘の部屋だったんだって。」

カチュアを部屋の中に導き、窓辺の円テーブルの椅子を勧めながら、マルスは言った。今のマルスはマントも鎧も纏ってはおらず、青いチュニックのラフな姿だった。

「随分前に母娘で出奔したらしくて。ずっと空き部屋だったってことだから、グラ滞在中は僕が使わせてもらうことにしたんだ。」

マルスが部屋の中に目を遣ったのでカチュアも目を遣ると、(天蓋付きではない)二つのベッドに化粧台、チェスト、クローゼットがあった。優美なフロアシャンデリアの灯りで室内は明るく、やや色褪せた赤い絨毯に柔らかい光を投げかけている。

フロアシャンデリアの灯りを手燭に移すとマルスはそれを円テーブルに置き、カチュアの斜め前に座った。そのときの彼の僅かな衣擦れの音、ふわりと動く空気にすら、カチュアの胸が痛いほど高鳴る。一目で恋に落ちた人が今、目の前にいるのだ。

「……カチュア殿?」

少しばかり怪訝な顔で首を傾げたマルスにカチュアは初めて彼を凝視していたことに気付き、頬を染めて顔を逸らした。

「……あ。その、ええ……と、そ、その節は、私の要請を聞いて、ディール要塞からミシェイル王子を救い出して下さって、ありがとう、ございました。」

とりあえず、お礼を述べる。

「…ああ。結果的に同盟軍の戦力が増えたのだから、気にしないで。」

マルスが微笑み、彼の微笑みにまたもやカチュアが目を奪われた。――暫しの沈黙。二人の間に、静かな緊張があった。マルスが無言でカチュアを見つめると…何かを期待するような秘めた熱を彼女に感じ…そこでふいに、マルスが悟る。もう既に彼女はマルスに告白しているのだから、まどろっこしい会話など必要ないということに。自身の引き留めに応じて、彼女は留まった。

――あとは、最終的な確認だけだ。

マルスは結論づけ、自ら行動することにした。

「…カチュア殿。…君は今、この部屋に留まることの意味を、わかっている?」

カチュアをじっと見つめながら慎重に問いかける。マルスはそれでも、ちゃんと彼女に逃げ道を用意していた。彼女が『わかっていない』と答えればこのまま彼女を帰らせるつもりだった(彼女のペガサスは静かにバルコニーに待機している)。だが。

「わ…わかっています。…それでも、貴方の傍にいたいのです。」

とカチュアはその紺色の瞳に決意と微かな怯えを同時に宿してマルスを真っすぐに見返し、繊細な顎を微かに戦慄かせながら、はっきりと答えた。

――ああ。彼女の勇気は賞賛に値する。

初めて会ったときから勇敢だった、とマルスは懐かしく思い出す。敵だった同盟軍にたった一人で要請に来た時から。マルスはあの時の光景と重ね合わせて目の前の騎士を眩しく見遣ると、微笑み立ち上がって彼女に片方の手を差し伸べた。

――ファルシオンが見つかれば、すぐにグラを発つことになる。行軍が始まると彼女と二人きりになれる機会はほとんだないだろう。今、動くべきだ。

「…おいで。」

こうと決めたら、マルスは躊躇しない。恋愛経験の乏しさは後に彼が英雄と呼ばれる所以となる行動力と決断力でカバーできる。

そして……カチュアはマルスの手に手を重ねた。

 

時が止まったような、主を失って久しい部屋の、フロアシャンデリアの優しい灯りの中で。衝動に従い、二人は互いの唇を重ね合わせる。触れ合った瞬間、稲妻のような熱が走り、二人の乾いた心を埋め尽くした。カチュアの髪から仄かに甘い香りがする。唇は柔らかく温かく、初めてのキスはぎこちなくも情熱的で、戦場での緊張とは全く異なる生命の熱を感じさせて、二人はすぐに夢中になった。最中、マルスの指先がタイトなワンピースに沿って細い腰までなめらかに滑り降り、なぞる。次いで彼女の襟元にあったジッパーに触れ、ファスナーをゆっくりと引き下げた。その時カチュアの身体がビクッと震えたのがわかったが、構わず際まで下ろす。マルスは一旦キスを解いて離れ、その隙間から覗く双丘の谷間、両側の布地に手に掛け左右に開く。衣服を床に滑り落とすと、青い布地の下からカチュアの白くしなやかな肌が露わになって、マルスは息を呑んだ。鎧を纏い、戦場を勇ましく翔ける天馬騎士の身体は驚くほど華奢で、そして官能的だった。引き締まった腹筋のラインやキュッとくびれた腰が一際女性らしさを際立たせていたが、何よりもマルスの目を引いたのは。

「…え…っ、胸を覆うものを何もつけてないの?」

目の前に惜しげもなく晒された白く円やかな膨らみにマルスが驚いて目を瞠ると、カチュアは赤くなり慌てて両腕を交差し胸を隠した。

「え……と、その、いつも胸当てをしているので、それが普通になってしまって……。姉も妹もそうですし……」

と小さな声でカチュアが言う。

「へぇ…そ、そうなんだ。」

――鎧をつける女性は皆、そうなんだろうか?

思わず想像してしまい、慌ててすぐに頭から掻き消すと、目の前の、恥じらい胸を隠すカチュアに意識を戻した。

「あ…」

マルスはカチュアの両手首をやんわりと掴んで胸から腕を退けさせ、自身の肩へと導いた。カチュアは彼の意図を察して首に腕を廻す。そして間近で刹那、見つめ合った後に二人はキスを再開した。

腰の辺りを撫でていたマルスがするりとパンティーを脱がせたとき、カチュアがふる、と震えたのがわかった。

「…ベッドへ行こう。」

漸く口づけを解いて、マルスが囁く。カチュアの(ほぼ)裸の身体を抱き上げると、彼女は一瞬驚いたようだったが、すぐに彼の首に腕を回してしがみついた。

 

マルスはカチュアをそっとベッドに降ろすと、自身も服を脱ぎ始めた。ブーツを脱ぎ、青いチュニックとズボンを下着ごと無造作に脱ぎ捨てるとギシリ、とベッドへと片膝を乗り上げる。産まれたままの姿になった王子が傍に来るのを、カチュアは後ろ肘で上体を中途半端に起こして、食い入るように見つめていた。

――ああ。彼はなんて…美しいの。

鍛えられ引き締まった細身の体は芸術のように美しかった。カチュアが見守る中、マルスはふと気づいたように一度彼女の足元に行き、青い革靴を脱がすとベッドの下へと落とし(ニーハイは今、履いていない)、足首に引っ掛かっていたパンティーを取り去って隣のベッドに置いた(後でまた履くだろうから…)。それからカチュアに近づいてその薄い身体をそっとベッドに押し倒し、覆い被さる。硬い筋肉と柔らかい肌が触れ合った瞬間、二人の間に電流のような熱が駆け巡った。再び唇を重ねると、今度のキスは探るような初々しさはなく、深い渇望に満ちていた。

「んっ……」

彼の舌が口内に侵入し、絡み合うたびに、カチュアは甘い吐息を漏らす。漸くマルスが顔を上げると、一瞬の躊躇もなくその美しい素肌に唇を寄せた。カチュアの首筋に顔を埋め、柔らかな肌に吸い付くようにキスを落としながら、滑らかな身体のフォルムを太腿まで撫で下ろす。彼女の身体が震えたのがわかったが、マルスは構わずに彼女の身体へキスと愛撫を続ける。愛らしい蕾がついた、ふっくらとした乳房を揉みしだき、徐々に下へと辿って行く。その間も快感から気を紛らわそうとしてか、カチュアはマルスの髪をその繊細な手で掻き回し両脚を交互にシーツに滑らせたが、上手く行かないのか、その花びらのような唇から引っ切り無しに艶めいた喘ぎ声を零していた。そして……

「あっ…!ダメ、です、そんな、ところ…!」

カチュアの脚を開き、中心に顔を近づけようとしたマルスに気付き、彼女が叫ぶ。

「き、汚い、です、から…っ!」

「汚くなんてない。」

――今、僕を受け入れてくれている君のすべてが美しい。

マルスは構わず顔を寄せようとしたが……

「もう、十分、濡れて、います!どうか、来て、下さい…!」

そう乞われた途端、マルスの余裕も理性も吹き飛んでしまう。マルスは上体を起こし、

「…わかった。」

と低く熱を帯びた声で囁いた。

 

「あっ…!マルス、様…!」

マルスの怒張がカチュアの”入口”を拓いたとき。彼女は激しい痛みに息を呑んだが、すぐにそれを上回る歓喜が胸に押し寄せてきた。

「あ……あ……マル、ス、様……」

震え、痛みに依る生理的な涙を零しながら、カチュアは愛しい男の背に必死にしがみついた。彼女のいじらしい受け入れが、マルスの独占欲と愛欲を強く刺激する。が、彼女に対する気遣いを決して忘れることはなかった。

「大…丈、夫?」

「は……い。」

マルスの心配そうな問いかけに、カチュアが震える声で、答える。マルスは震えるカチュアの頬から涙を拭い、彼女の潤んだ瞳を見つめた。

――ああ。彼女の瞳はなんて美しいのだろう。

「怖がらないで。…僕に、すべてを、預けて……」

優しく囁くとマルスは決して急がずに、ゆっくりとカチュアの身体を拓いていった。

「は……あ、貴方の、…が、中、に……」

マルスが“すべて”を彼女の中に納めたとき。大きな瞳に涙を湛えながら、カチュアは微笑んだ。

「嬉…し、い……」

愛しくて堪らなくなって、マルスはカチュアを抱きしめ、その熱い涙と愛を全身で受け止める。

「…カチュア、殿…っ…」

「マルス、様。どうか、動いて、下さい……!貴方が、欲しいんです……!」

カチュアの懇願にマルスが身を起こし、熱い眼差しで見つめ合うと、律動を開始した。

「あぁ、あぁ、マル、ス、様……!」

グラ城の一室、長らく主がいない忘れられた部屋で。二人の熱い吐息が混じり合う。カチュアの頬を伝う涙は、喜びと、信じがたいほどの幸福感からくるものだった。彼女の口は感動のあまり言葉を失い、ただマルスの名だけを呼ぶ。

「ああ…マルス、マルス、あぁー……」

そして……

「う……っ、もう少しで、出そう、だ。抜く、よ。」

「いやっ、抜かないで、お願い!中に出して!」

マルスの警告にカチュアが叫び、彼は戸惑いながらも無我夢中で彼女のヴァギナに精を放ったのだった。

 

*

 

「途中から薄々そうじゃないかな、とは思っていたのだけど……」

マルスがチェストの上の水差しからグラスに注いだ水の一つをカチュアに手渡しながら、言った。

「初めて、だったの?」

行為の後に残った、シーツに染みる純潔の証。

「…………はい。」

ベッドの上に膝を抱えて座るカチュアは小さく答え、膝に掛けた上掛けに顎を埋めた。

「……その。僕に捧げてしまって、後悔していない?」

下だけ身に着けたマルスがベッドに上がり、カチュアの隣に座る。この世界で“純潔”というのはとても価値があった。農夫の後添いでさえ、それを譲れない条件にする者もいるほどだ。マルスは時間を掛けて親密さを育まずに彼女と行為に及んだことを些か後悔した。……が。

「全く後悔していません。」

カチュアがはっきりと答える。

「……子供が、欲しいのです。」

マルスは内心、少なからず驚きながらカチュアを見た。彼女は前を向いたまま、続ける。

「貴方の妻になれるなんて、思っていません。……でも。”結婚”という将来を考えられなくても、思い出だけでも欲しいと思えるほど、私は貴方が好きなんです。今こうして貴方と過ごせることがどんなに幸せか……。…生涯、私は貴方以外の人を愛せるとは思わない。だからもし…貴方の子を身籠ることができたら。私は戦争後、軍を辞して故郷の小さな村に帰り、今は空き家になっている生家で貴方の子を産み……退役軍人の退職金で慎ましく暮らして……長ずるほどに貴方に似て来る愛し子を見ながら……貴方との思い出と共に満ち足りて生きることができるでしょう……」

――一介の騎士でしかない私は、到底” 王子の妃”になどなれはしない。とりわけ……シーダ王女のような、身分も美貌も、亡命の時からマルス王子を助けたという事実も共に過ごした時間も、何もかも敵わない存在がいるからには。

「カチュア……」

マルスは信じられない思いで白騎士を見た。彼女の想いも、将来のビジョンも、彼を驚かせるに十分だったが、何よりも驚いたのは。

――なぜ彼女は僕の妻になれないと思っているのだろう?

ということだった。

「何故、君は僕の妻になれないと思っているの?」

不思議に思ってつい、訊いてみた。今度はカチュアが驚く番だった。

「……え?そんなの……身分違い、だから……」

「カチュア。少なくとも今の僕は何者でもない。強いて言えば”亡国の王子”かな?そんな僕でも君は『好き』と言ってくれた。」

「マル…」

「もし仮に。このまま祖国を取り戻すことができず、戦争にも勝つことができなかったら……君の故郷で一緒に暮らす僕を想像すらしてくれないの?」

「…………え。」

カチュアが目を瞠る。マルスは可笑し気に笑った。

「人生で愛を見つけられるのは奇跡にも等しいことだよ。見つけたからには僕は決して手放さない。」

「マルス…様…」

「マルスと、呼んでくれ。」

マルスはカチュアの肩を優しく抱いた。

「…一緒にいよう。この戦いの行方がどうなろうとも……」

「マル…ス……」

カチュアの頬に涙が伝った。

 

その後は。寄り添い、微笑み合って、他愛のない話をして幾ばくかの時を過ごした。……そして夜半を過ぎた頃。

「そろそろ兵舎に帰らなくては。ここで朝を迎えるわけには参りません。」

カチュアが毅然と言い、ベッドから下りて身支度を整え始める。

「カチュア……どうして……」

朝まで一緒に同じベッドで寝ようと思っていたマルスには、カチュアがなぜ兵舎に帰ろうとするのかわからなかった。そんなマルスにカチュアが哀し気な貌を向ける。

「……その。先ほどの言葉はとても嬉しかったです。私も、貴方とずっと一緒にいられたらいいのにと思います。……でも。」

「でも?」

「シーダ王女という、私よりも遥かに貴方に相応しい方が同盟軍にいらっしゃる以上、貴方に縁談話が持ちかけられる可能性は十分にあります。その時は一時の感情ではなく、国益を見越した決断をすることになるでしょう。だから……私とのことは秘密に。いざとなったら”なかったこと”にできるように。私は貴方の決意の妨げにはなりたくはないのです。」

「カ、カチュア!僕は――」

「!」

マルスは早々に身支度を終え立ち去ろうとする恋人を追いかけ、背中から抱き締めた。

「カチュア…愛しい人……愛し愛される喜びを知ってしまったら、もう愛のない結婚なんて考えられない。君の言う通り縁談があったとしても――」

「マルス。」

カチュアはマルスの言葉を遮り、言った。

「貴方が考えているほど、簡単なことではありません。」

きっぱりと言われ、今はどんなに言葉を尽くしても無駄だと、マルスは悟った。だからせめて。

「……また、会える?」

と訊いた。

「ええ。子供が、欲しいですから。……おやすみなさい。」

白騎士は王子の腕を優しく解き、向き直ると儚く微笑い、伸び上がって触れるだけのキスをした。

 

*

 

翌日。モロドフからファルシオンはガーネフが持ち去ったらしい、という報告があり、それにより同盟軍は魔道の国カダインを目指すべくグラを発った。

 

だがしかし、カダインへの進軍は徒労に終わった。マルスは態勢を立て直してアリティアへと歩を進め、ついに祖国を取り戻す。アリティアをドルーアの圧政から解放したマルスを民衆は「スターロード・マルス」と讃えた。

 

国内の状況把握と対応のため、数日間アリティア城に留まることになったアカネイア同盟軍だったが、ある夜のこと。

「カチュア?何処へ行くのですか?」

厩舎から自身の愛馬を連れ出すカチュアを、偶然通りかかったミネルバ王女が見とめて声を掛けた。カチュアは驚いて肩を揺らし、やや硬い表情で振り返る。

「ミネルバ様……。た、ただの散歩、です。」

「散歩?こんな時間に?」

「はい。ちょっと……眠れなくて。」

「そうですか。まあ、私もそうなのだけれど。」

ミネルバ王女が微笑む。カチュアも自然に見えることを祈りながら笑みを返した。

「……では。私はもう行くことにします。おやすみなさい。」

「おやすみなさいませ。」

主従は挨拶し、別れた。

 

「あそこは確か……マルス王子の部屋、だっただろうか?」

結局。気になって引き返し、カチュアが向かった先を確かめたミネルバは、そこがマルス王子の部屋のバルコニーだと知る。

「もしかして……」

一つの可能性に思い至ったミネルバ王女の足は、自然と兵舎の兄の居室へと向かっていた。まだ兄が就寝していなければ、すぐに今見たことを話すつもりだった。

 

ミネルバがミシェイルの部屋に近づくと、中から話し声が聞こえてきたため、彼女は暫時ドアの前で待たねばならなかった。会話が聞こえる……

――あの声は……マチス?

ミネルバは耳を攲てた。

 

「レナも殿下のことを案じておりました。」

「俺が囚われている間、手紙の一通さえ来なかったぞ?」

呆れたようなミシェイルの声が返す。

「そ…それはおかしいですね。何か手違いがあって届かなかったのでしょうか。」

冷や汗でもかいているかのようなマチスの声が答える。盛大な溜息がして。

「お前の魂胆はわかっている。あの盗賊上がりとお前の妹が一緒にいるのが気にいらないのだろう?だが俺を焚きつけようとしても無駄だ。俺とレナはもうとっくに終わっている。……くだらん。お前もそんなことに心を砕く暇があるなら、同盟軍のために働け。」

完膚なきまでに一蹴され、マチスの「元鞘」復縁工作は見事失敗した。

 

ややあって。肩を落としたマチスがドアを開けた。真ん前にミネルバがいるのを見てぎょっとした様子だったが。

「おやおや、これは姫君。ご機嫌麗しく。私はこれで失礼します。……おやすみなさいませ。」

(一応)貴族らしく礼儀正しい挨拶をして去って行った。

「聞いていたのか?」

「……はい。ですが盗み聞きをするために来たのではありません。実は……」

ミネルバが部屋の中に入りドアを閉めると、ミシェイルが手振りで椅子を勧めたので座り、先ほどのカチュアの一部始終を語った。

「ほう?」

聞き終えるとミシェイルは興味を引かれたような顔をして刹那、目を伏せ、何か考えているようだったが、目を上げると。

「……俺に考えがある。親父に手紙を書こう。」

ニヤリと笑って、言った。

 

一方、ミネルバと別れた後カチュアはマルスの部屋のバルコニーに降り立っていた。ペガサスから降りていつもしているように、テラスドアをコツコツ、と軽く指の関節で叩く。ほどなくして、テラスドアがゆっくりと開かれた。

「カチュア……」

「マルス様。」

二人はお互いを見てほっとしたような笑みを浮かべ、マルスはすぐにカチュアを室内に引き入れた。三年ぶりに祖国に戻ったものの、母の死を知らされてマルスはここ数日、元気がなく物憂げな様子だった。部屋の主がそうであるためか、フロアシャンデリアの灯りもメランコリックな情緒を醸し出しているように思える。

「……やっと還ってきたと思ったら、母上は……」

「…マルス様。」

ベッドヘッドに寄り掛かって並んで座り、そっと手を繋いで静かに言葉を交わす。今はただ、傍にいてくれるだけでよかった。二人でいると、悲しみも少しずつ溶けていく気がする。

「……君が居てくれて、よかった。」

マルスが微笑み、カチュアも優しい笑みを返した。

 

*

 

それから。マルスはラーマン神殿で光と星のオーブを手に入れ、グルニアを討ち、マケドニアへ。野心のなかったオズモンド王は同盟軍に無血開城。ガトーからスターライトの魔道書を得、古代都市テーベで神剣ファルシオンと姉・エリス王女を取り戻す。その後、アカネイア同盟軍はドルーアで最終決戦を迎える……

 

そして。メディウスを討ち滅ぼし、すべてが終わった後。休息と戦後処理のために留まったドルーア城で。

「…カチュア。」

マルスは芝生しかない殺風景な外庭で愛馬を散歩させていたカチュアを見つけ、声を掛けた。

「マルス様。…漸く終わりましたね。」

「うん。やっと、この日が来たね。…長かった……」

二人で見つめ合い、顔を綻ばせる。

「え……っと、それで……」

マルスが緊張した面持ちで何か言い掛けるが。

「実は、お伝えしたいことが、ありまして。」

俯きがちに頬を染めたカチュアが先に切り出した。

「え?」

「その……ふた月ほど、月のものが来ていなくて。……だからもしかして、み、身籠ったのではないかと……」

「!! 本当に!?」

「ま、まだはっきりとはわかりませんが……」

カチュアが耳まで赤くなる。マルスは晴れやかな笑みを浮かべ、軽く咳ばらいをしてから、真剣な貌で向き直った。

「……カチュア。僕の思いを伝えておきたいんだ。君さえよければ…その…一緒にアリティアへ来てくれないか?」

「!!」

「グラでのあの夜から、君の存在がどれだけ僕の心を支えてくれたことか。母が亡くなったと知ったときも、君の優しさと愛情と温もりにどれだけ救われたか。だから、これからもずっと傍にいてほしい。…カチュア。僕の妻になってくれる?」

「マルス様……。もちろん、喜んで……」

カチュアが微笑み、その澄んだ紺色の瞳からツ、と涙が零れた。マルスに縁談話が来なかったことと、恋人同士になってから今まで、十分過ぎるほどの愛情を示してくれたことがカチュアの頑なな心を動かし、ついに今、彼のプロポーズを受けることを決意させた。……のだが――

カツッ。

硬いものが当たる音がして二人がそちらを見ると、涙を堪えるように唇を噛み締め、震える手で外回廊の柱に掴まるシーダ王女が、今にも頽れそうな様子で二人を見ていた。

「シーダ?一体どうしたの?気分でも悪いの?」

顔色が悪く、足元も覚束ない感じから、心配してマルスが近寄ろうとするが。

「…いえ。…何でもありません。あなたに”だけ”は心配していただかなくて結構です。…失礼します……」

そう言って建物へと入ってしまった。少しして彼女と入れ違いに、しきりに後ろ(恐らくシーダを)気にしながらニーナ王女が外庭へとやってきた。

「どうしたのです、マルス。シーダが、悲しそうな顔をして出て行きましたけど。」

「いえ、その、実は……」

マルスは今の経緯をニーナ王女に話した。

「……なるほど。事情はわかりました。マルス、本当にそれでいいのですか?」

「それでいい、とは?」

「シーダではなく、カチュアを妻としても。」

「はい。僕とカチュアはお互いを深く愛し合っています。ニーナ様は何か誤解しているかもしれませんが、僕とシーダの間には何もありません。」

「……!!」

マルスの応えに、ニーナの心に理不尽な苛立ちが湧き起こった。

――わたくしが身分と立場からカミュを諦めざるを得なかったというのに、あなたはそれらをいとも簡単に乗り越えて愛する者と結ばれると言うの!?

その思いはほとんど八つ当たりじみた形でマルスにぶつけられた。

「たとえそうだとしても。カチュアと結婚して、貴国の国益になるとでも?シーダはタリスの王女なのですよ?彼女はあなたが亡命したときからあなたを支えてきて、ずっとあなたを想い続けています。我が軍に加わって日が浅いカチュアよりもシーダの方があなたには相応しいわ。」

「ニーナ様、ですが…」

「マルス様。私は一人で田舎に帰ります。」

「カチュア!」

ニーナの言葉にいたたまれず、その場を去ろうとしたカチュアをマルスが慌てて引き留めようとした、その時。

ドーン! ドーン!

カチュアの前に何か大きいものが降ってきて、地面に勢いよくぶつかった。

「え…」

「立ち去ることはありません、カチュア。」

大きな何かは、二頭の飛竜だった。

「ミネルバ様、王子……」

「ニーナ王女。話は聞きました。」

赤い竜騎士が飛竜の上から険しい顔で宗主国の王女に相対する。

「同盟軍に加わったのが遅かったとは言え、我らとて命懸けで戦ったのです。そもそもドルーアが戦争を起こしたとき、アカネイアが速やかに援軍を出していれば、我が国もドルーアにつくことはなかったでしょう。民たちを守るための苦渋の決断でした。かの国に誓約の証として兄を人質に取られたが故、救出するまで動けなかったのです。」

「そ、それは……」

ニーナ王女が言葉に詰まる。次にミシェイル王子が口を開いた。

「シーダ王女がずっとマルス王子を想っていたというが、三年以上も共にいてなぜ伝えなかったのか?考えられぬ。何も行動に移さなかった者の肩を持ち、期待した通りに動けとでもいうかの如くマルス王子を責め立てるのは筋違いではないのか?」

ミシェイルの正論に二の句を継げず、ニーナがわなわなと震えたが、ミネルバ王女は構わず畳み掛けた。

「カチュアとマルス王子のことは少し前から気づいていました。私は父に手紙を送り、彼女の此度の戦争での戦功による爵位の授与を打診したところ、承認を得ました。これでカチュアはマケドニアの貴族。マルス王子の伴侶として遜色はないはず。」

ミネルバの言葉にニーナは呆然とする。そして自身の発言した”カチュアとの結婚を反対する理由”が悉く覆されたことに気づき、彼女は顔を怒りと羞恥で真っ赤にして、もう聞きたくない、とばかりに頭を振ると外庭を急ぎ足で去って行った。

マケドニア王族の兄妹が現れてから呆気に取られて成行きを見守っていたマルスは、ニーナ王女が去ると改めて彼らを見た。

「まさか二人がここまで用意周到に準備してくれていたなんて……心から感謝するよ。」

「過分なお心遣い……ありがとうございます。」

カチュアが頭を下げる。兄妹は何でもないことのように微笑った。

「ひと悶着ありそうだと思ったのです。それとなく見守っていて正解でした。」

ミネルバ王女は飛竜を降りカチュアの手を取って。

「アリティアと縁ができるのはマケドニアにとっても歓迎すべきことです。何よりも、あなたに幸せになって欲しい。」

「ミネルバ、様……」

カチュアの瞳から涙が溢れた。

 

 

 

こうして、神剣ファルシオンとそれにまつわる一つの伝説が幕を閉じた。アリティアの王子マルスは、己の愛を貫き、マケドニアの白騎士カチュアを王妃として迎え、祖国の平和な未来を築いたのだった。

 

 

-fin-

 

 




Geminiに感想や改善点を相談しながら書きました。構成は全て自分、文章もほとんど(9割以上は)自分が書いたものなのでAI生成タグはつけていません。でも問題があるなら知らせていただけるとありがたいです。
最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

※天馬騎士のノーブラ、タイトなノースリワンピのファスナーが前というのは作者の創作です。

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