魔王化した初恋の幼馴染と、ついでに世界も救うため(棒読み)、勇者の『聖剣』と彼女の『魔剣』が激しく戦います ※ただしベッドの上で毎晩 作:黒石 直
「んっ」
メアリーさんの目の前で、震えながら白濁を吐き出す。
肩で息をしながら、まだ慣れない自分から出たそれの、雨の後に胞子を飛ばしたキノコのような不思議な匂いを嗅ぎ、様々な思いが胸をよぎる。
色々な意味で、このように他の人の前で男性としての自慰をすることになると思わなかった。
魔王だった頃、側近は私のこの体のことを知っていた。
だからこそ、抱く女性も抱かれる男性も用意してくれた。今までの魔王に対してそうしてきたように。
でも私は、カイのことだけを想い、すべて断った。
こんな体になってしまっては、もう一人の女性として愛されることはないだろうと諦めていたけれど。それでも、もし誰かに抱かれるなら、それは彼だけでなければならなかった。
自慰は毎晩した。男の子の方も、女の子の方も。
もしかしたら護衛のために監視はあったのかもしれないが。それでも、誰かに見らないようにしたつもりだ。
カイは私を救ってくれた。
子供の頃の約束のとおり、私を守ってくれた。
私は、普通の女の子に戻れた。
すぐにでも女の子として抱いて欲しかったけど、彼との距離は、手と手がふれあいそうで触れ合わない、オレンジ一個分ほどのまま変わらなかった。
毎日声を潜めて自慰をした。胸で。クリトリスで。おしりで。
知られたくなかった。八年間毎日自分で慰めておきながら、それでも。
そんなふうに、ただ欲望に溺れるだけの女の子だとは思われたくなかった。
あの日、私は魔王に戻った。
でも彼は、こんな体の私を受け入れてくれた。
男の子としても女の子としても愛してくれた。
今は結ばれる時に、男性としての自慰を見られることがある。それを受け入れてもらえてる。
こんな日が来るなんて、思ってなかった。
同時に、それ以外の人に見られるなんて思ってなかった。
しかもそれが、この血から解き放たれるためにだなんて。
本当に、私は幸せだ。
実験材料が揃って、メアリーさんは嬉々として器に入れたカイと私の精液を眺めてる。
……本人の前でそれは、恥ずかしいからやめて欲しいけど。
そんな思いをこらえつつ、どうしても気になっていたことを聞いてみた。
「ねえ?メアリーさんはカイたちと長く一緒に旅をしてたけど、カイのことは好き?」
「カイのこと?そりゃ好きよ?セシリアさんの前でこんなこと言っちゃ怒られそうだけど、バカ……愚直なくらい真っ直ぐで、信頼できるやつだもん」
何事もないように答えてから、なにかに気づいたように真剣に私に向き合う。
「Likeよ。Loveじゃないわ。多分違う出会い方をしてたら、カイとは恋人ではなく、良い友人になれたと思う。それに」
メアリーさんは、その愛らしい顔を、更に幼く愛らしさを引き立てるような笑顔をうかべる。
「私があの猪突猛進バカを好ましく思ったのは、彼があなたのことしか見えていない、その愚直なまでの一途さゆえよ。だから、そんな彼を虜にするあなたがどんな人なのか、ずっと気になっていたの。……そして今日、実際に二人を見て、あなたのことも好きになってしまったわ」
「あのね、私、侯爵家の令嬢じゃない?弟も二人いるし、私は貴族家同士の政略の駒にしかなり得なかったの。でも、持って生まれた魔力で、この国最強の魔術師になって。実家からは自由に駒にできないと疎まれ、私は私でこれだけの力があるから自由に生きたいし。だから実家……というか両親と折り合いが悪かったのよね」
旅の間のことを聞くと、メアリーさんはまず自身の過去のことから語り始めた。
「自由に生きたいからそのための力を手に入れるために、必死に勉強したのよ。これは自慢だけど、貴族が行く学院では常に首席だったからね」
冗談めかしながら、貴族らしくないニコッとした笑いをうかべる。
「同時に恋というものにも憧れたわ。令嬢はみな一度は憧れるけど、貴族ではまず報われることないから。それでも平民に出回る物語を読んだりとかして、気づけばいやらしい作品もよく読んでたわね」
笑っているが、声は少し震えている。
「さっき、初めて男女が愛し合う姿を見て、ショックだったの。こんなにお互いに、身も心もさらけ出して裸になるのかって。あ、もちろんあなた達のが普通じゃないとは分かってるけど。私もいつかこんなふうに自分をさらけ出せる相手ができるのかな?って」
目を伏せて、少し暗い表情になる。が、それを咳払いで吹き飛ばす。
「コホン、ごめんなさい、話がズレたわ。その後、勇者に付き従い魔王を倒せと王命を受けてね。チャンスだと思ったわ。女がこの貴族社会で好きなように生きていくための」
「チャンス、ですか?」
「ええ、メンバーで貴族は私一人。まあアドンのバカも元貴族で、貴族位に返り咲いたけど。まあいずれにしても貴族の中でも私しかできないと見込まれたことをやり遂げれば。と、そう思ったわ。旅が始まると大変だったわ。あの三人全員、半分自殺志願者みたいなものだったから」
「じっ、自殺志願者?」
「ああ、あくまで例えで、本当に死のうとしてた訳じゃないけど。そうね、例えばアドンは子爵家の嫡男だったのだけど。本人は戦士としては優秀だったわ。でも指揮官としても勉学も、弟の方が優秀だったみたい」
たしかに、貴族家の跡取りが戦士として優秀である必要は無い。彼らの役割は前線で戦うことではなく、指揮官だったり、政治家だったりだ。
「別にそれで家族仲が悪いとかそういうことではなかったみたい。弟さんはアイツを支えるつもりだったし。ただアドンが、弟が継いだ方が効率がいいと言って、出奔しちゃって」
そういってケラケラ笑う。
「で、一介の戦士として身を立てることになったんだけど。なんか貴族ぐらしは窮屈だったみたいで、生きてる実感が欲しいとかで一番命懸けな重戦士、仲間の盾になる役割を選んじゃってね。厳しそうな戦いほど喜んで突っ込んでくバトルジャンキーの出来あがりよ」
困った顔でため息を着く。今でこそ笑い話だが、当時は本当に大変だったのだろう。
「まあそれでも傭兵や冒険者としては超一流になってね。何だかんだで元貴族だから、色々知識や知恵もあったし。私から見れば脳筋レベルだけどね。でも、それで勇者パーティーに選ばれたわ」
「アドンさんって、そんな感じの人だったんですね。クラウドさんという方は?」
「あー、あいつは本当に自殺志願者だったわ」
その一言に言葉を失う。
「理想に燃えて教会に入り、出世を目指したはいいけど、上に行くほど腐ってるからねえ、教会って組織は。私らと旅に行く時、未来も見てない、絶望しかないという腐った状態で参加してきたわ」
「……正直、あの方はそんな風には見えませんでした」
「そうね。旅の中で困った人や傷ついた仲間を助けることで、本来の彼を取り戻していったわ。ただね、もともともう気力を失ってて、奥さんが教皇も見えるという所まで出世して、腐敗を一掃しようとしてたのね。そこに自分がいても弱みになるから、殉教することで援護しようとしたのよ」
「……こんなこと言ってはなんですけど、なんて愚かなことを」
「本当にそうよ。旅を終えて帰った時に奥さんにその本音を告げたら、奥さんアイツを泣きながら殴ってたわ」
多分メアリーさんが見たおふたりのラブラブというのも、もともと仲は良いのだろうが、その事があって不安を癒すためでもあるのかな?
「でも、最後まで分からないのはカイだったわ。どうせ自分が勝つからと、ひとりでただ最短距離を行こうとする。結果自分が死んでも仕方ないみたいな感じで。でもその理由がずっと分からなかったの」
カイのそんな姿が想像つかなかった。
「それで魔王国に入ったら、思いのほか平和で。そこで、街の中で金色の美しき魔王の話題を聞いたの。そのとき初めて、あいつが感情を出すのをみたわ」
あの泣き虫で弱気だったカイが、そんなに感情を見せなくなっていたことに驚いた。
「そこで初めてアイツの身の上を聞いたの。セシリアさんを守ることが出来なかったこと。守る力を得るために無茶してきたこと。そして、そのセシリアさんが今魔王になって平和のために尽力してること。それまで一切感情を出さなかったあいつが、初めて泣きながら私たちに助けを求めてきたわ。」
「……カイ」
「まあ、後はあなたも知っている通りかしら。勇者はお姫様を助け出してハッピーエンド。その後のハチャメチャぶりを考えなければ、本当に理想的な物語ね」
イタズラっぽいその声に、思わず赤面してしまう。
「そういえばね、父から何とか勇者と結婚しろという指示はあったのよ。その直後に一代限りの女侯爵に陞爵されたから、無視したけどね」
「えっ?本当に?でも、メアリーさんにとってはその方が色々と便利だったんじゃ?」
「うーん。感情的にはセシリアさんを愛してるアイツのことが好きだから無しだし。ただ仮にセシリアさんがいなかったとしても、政治的に余計に面倒になっていたからやっぱり無しね」
カイが王から、王女を娶り公爵になるよう命じられていたことや、そのほかの大貴族からもアプローチを受けていたことを初めて聞いた。
国の狙いは、最大戦力のカイを国の戦力として留めおくこと。
確かにそれだと、メアリーさんの意思に関わらず、カイはそうあつかわれていたかもしれない。
「カイに大事なことを話されなかったなんて考えない方がいいわよ。あの時のアイツ、あなたのことで頭がいっぱいで、まともに私たち以外の人の話を聞いてもなかったから」
そう言ってメアリーさんは笑う。そうね、カイは確かにそうかもしれない。
「私の方も聞きたいことがあったのよ。歴代魔王の手記って言ってたじゃない?あれってどういう形で残されてるの?」
「えっと、本当に手記ですね。日記みたいな感じで、紙にペンで書き留めて。もちろんそれに魔法をかけて劣化しないよう保護はしてましたけど」
「内容というか、書き方は?後続に向けてのメッセージみたいな感じ?」
「うーん、最初は何代目の魔王かは分からないんですが元女性の魔王で、性欲とかそういうので苦しんだと。両性になるのは側近からの話で聞いてたので、後輩のために自分の経験も書くし、出来れば元男性の魔王からもアドバイスをくれという感じですね」
「へぇー、それで後輩の魔王たちはなんて?」
メアリーさんの目がらんらんと輝いている。本当に研究者なんだなあ。
「最初は色々アドバイスしてたんですけど、そのうち男性器の大きさについて書き出す人がいて。通常魔王になった際、自身の元の性は元々の通りだけど、そうでない部分は世間的な理想化をされる傾向があって。元女性の方が大きいのは卑怯だとか、この元男性は誇張して自己申告してるとか、そういう落書きが」
「し、死ぬほどくだらないわ」
「そのうち、そもそも各種族の平均サイズはどれだけだって、サキュバスを世界中に派遣して調査をやり出す魔王がいて。次の代の魔王は、最初に側近に『そういうのは絶対にやらないでください』と強く釘を刺されたと」
メアリーさんは頭を抱えて震えている。
「えっ?ていうかそれってもしかして200年前?魔王国が世界中にサキュバスを送って何かを調査してたけど、その理由は不明だと歴史書に。えっ?えっ?そんなくだらないことが真実?」
「あと、どうせ他の人に読まれるのは自分の死後だからと、性癖を赤裸々に書いてる魔王は多かったですね。特に魔王は最高級の戦闘力を持ち、周りを従わせるので、自信が強くなるんですが。その分、自分より弱いけど信頼できる人にバカにされて悦ぶみたいで」
「バカにされるって、具体的には?」
「話の流れから分かるかもしれないですけど、その。おちんちんが小さいとか、皮を被ってるとか」
「し……心底くだらないわ。え、でもセシリアさん、カイのおちんちんのこと、ものすごくなじって泣かせてなかった?」
「えっと、初体験で魔王の影響で激怒してついバカにしたんですけど。ちょっと気持ちよさそうにしてて。そのあとも何度かそうやって虐めたら、その、喜んでくれてるのがわかって……」
「本気で泣いていたじゃない! あれが演技だったとでも言うの? さすが魔王、容赦がないなと、少し同情したくらいよ」
私は悪戯っぽく微笑んでみせる。
「ええ、本気で泣いていましたね。……でも、メアリーさん。考えてもみて? 私がかけたあの程度の魔力による拘束なんて、
「……っ!? まさか……! ああもう、二人のこと、どういう目で見たらいいのか分からなくなるわ!」
「うふふ。でもメアリーさんこそ口裏合わせてくれてありがとうございます。男性の大半が皮かぶってるって分かってて、子供みたいって口裏合わせてくれたんですよね?」
「まあ、私は知識だけだけどね。セシリアさんから目配せがあったし」
「正直私たちからしたら大きさとか皮が被ってるとかどうでもいいんですけどね。しかも短小って言ったら喜ぶけど、過去の調査結果を見る限り、かなり大きい方なんですよね」
「それと、先にセシリアさんの方から入れたから驚いたわ!その、セシリアさんは男性じゃないけど、男同士のセックスってさすがに見る機会があると思ってなかったから」
「メアリーさん、かなり読書家だと聞いてましたから。私も魔王時代に蔵書を色々と読んでたから、もしかしてと思って。その、喜んでいただけました?」
「もう最高よ!」
そう言ってメアリーさんが抱きついてくる。
「ねえ、私のことメアリーさんじゃなくて、メアリーって呼んでくれる?」
「ええ、メアリー。私のことも、セシリアと呼んでね」
この日、主人の元仲間である現親友は、私にとっても大親友になった。
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