もし、ヒロイン達が『最後の一線♡』を超えたなら 〜キスシーンで終わり? 朝チュンでごまかす? …「お約束」で守られた純潔なんて、もう、いらない♡〜 作:のびすけ。
翼センセーション①
(これは、あたし、伊吹翼が、ステージの上じゃない、たった一人の本当のお客さんを見つけるまでの、恋の物語)
ーーーーー
「……好き、でした。ずっと、前から…あなたのことが……」
手にしたドラマの台本が、なんだかすごく重たい。
あたし、伊吹翼は、今度のドラマで恋愛モノのヒロインを演じることになった。
アイドルとしては、すっごく名誉なこと。
みんなに自慢できる、最高にビビッとくるお仕事だ。
…のはず、なんだけど。
「……ダメだぁ、全然気持ちこもってない…」
ベランダの手すりに台本を置いて、あたしは大きくため息をついた。 セリフが、全然あたしのものにならない。 プロデューサーさんにも、「翼ならもっとできるはずだ」なんて言われちゃったし。
(恋する気持ち、かぁ…)
憧れは、いっぱいある。 少女漫画みたいな、キラキラした恋。
でも、いざ自分で演じるってなると、どうしたらいいのか全然わかんない。
そんなの、あたしっぽくないのに。
「おーい、つばさー。また台本とにらめっこか?」
不意に、隣の家のベランダから声がした。
声の主は、あたしが子供のころから「お兄ちゃん」って呼んでる、幼馴染の人。 あたしがアイドルになるって言った時も、一番に応援してくれた、あたしの一番のファン。
「お兄ちゃん!おかえりー!」 「おう。熱心なのはいいけど、あんまり根詰めすぎるなよ」
そう言って笑う顔が、いつもみたいに優しくて、きゅ、と胸が苦しくなる。
この気持ちがなんなのか、あたしはもう、とっくに気づいてる。
でも、言えない。
この「幼馴染」っていう、最高に居心地のいい関係を、壊すのが怖くて。
「うっさいなー。あたしはいつでも本気なんだから!見ててよね、このドラマ、絶対成功させて、お兄ちゃんを泣かせてやるんだから!」 「ははっ、そりゃ楽しみだ」
そんな他愛ない会話をしていた、その時だった。
「あ、〇〇さん(※お兄ちゃんの名前)、お疲れ様です!さっきの資料、ありがとうございました!」
家の前から、知らない女の人の声がした。
お兄ちゃんが「おう、お疲れ」ってベランダから顔を出す。
下には、すっごく綺麗な、大人っぽいお姉さんが立っていた。
たぶん、会社の同僚って感じかな。
「いえいえ、助かりました。今度、この前話してたお店、行きませんか?お礼させてください」
「ああ、いいよ。じゃあまた連絡する」
にこやかに話す二人。 なんでもない、ただの仕事の会話。 ……なのに。
あたしの心臓が、ズキッ、て嫌な音を立てた。
(…誰、あの人)
(お兄ちゃんと、すごく仲良さそう…)
("今度"って、いつ?二人で?ご飯、行くの?)
ぐるぐる、ぐるぐる、黒い気持ちが渦を巻く。
手の中の台本に、視線が落ちる。
『好き、でした。ずっと、前から…』
(…だめ)
(このセリフは、ドラマの中だけのものじゃない)
(あたしの、本当の気持ち)
(もし、お兄ちゃんがあの人と…そうなっちゃったら?あたしがこの気持ちを伝える前に、どこか遠くに行っちゃったら?)
考えただけで、目の前が真っ暗になる。
涙が、じわっと滲んできた。
怖い。
失うのが、怖い。
「じゃあ、お先に失礼しますね」
「おう、気をつけてな」
女の人が帰っていく。 お兄ちゃんが、またこっちを向いて、笑った。
「わりぃ、会社の同僚。じゃあ俺、部屋入るから」
行かないで。
そう言おうとしたのに、声が出ない。
彼の背中が、ベランダのドアの向こうに消えていく。
(…ああ、あたし、今まで何やってたんだろ)
(怖い、とか、関係が壊れる、とか…そんなことばっかり考えて)
(一番大事なことから、ずっと、逃げてた)
ビビッと、きた。 今、言わなきゃ、絶対後悔する。
あたしは台本を放り出して、ベランダから飛び降りる勢いで家を飛び出した。
ピンポーン! 隣の家のチャイムを、何度も、何度も鳴らす。
「はいはい、どしたんだよ、そんなに慌てて…」 「…お兄ちゃんっ!」
ドアが開いた瞬間、あたしは彼の胸に飛び込んでいた。
「うおっ!?つ、翼!?どうしたんだよ急に、なんかあったのか!?」
「……ううん、なんでも、ない…」
ううん、違う。 なんでもなくなんかない。
あたしは彼の胸に顔をうずめたまま、涙でぐしゃぐしゃの声で、言った。
ドラマのヒロインじゃない。 アイドルの伊吹翼でもない。
ただの、一人の女の子として。
「…あたしね、ずっと、言えないセリフがあったの…」
「…セリフ?」 「うん…でも、今なら、ちゃんと言える…聞いて、くれる…?」
驚いている彼を、あたしは潤んだ瞳で、まっすぐ見上げた。
これが、あたしの、本当の気持ち。
「好きです…!あたし、ずっと、お兄ちゃんのことが、好きでした…!」
ああ、言っちゃった。 彼の顔が、驚きで見開かれている。
ああ、困らせちゃったかな。迷惑、だったかな。
でも、後悔はなかった。 次の瞬間、彼は、あたしの頭を、ぽん、と優しく撫でた。
そして、今まで見たことがないくらい、優しくて、少しだけ困ったみたいに、笑ったんだ。
「…翼。…お前さぁ、俺が、いつからお前のこと好きだと思ってんの?」
「…………へ?」
あたしの口から、間の抜けた声が漏れる。
涙も、ドキドキしてた心臓も、一瞬で全部どこかへ行ってしまった。
いま、この人、なんて言った?
「お、お兄ちゃん…? いま、あたしのこと、好きって…」
「聞こえてたのかよ」
お兄ちゃんは、あたしの頭を撫でていた手で、今度は自分の頭をガシガシと掻いた。
その顔は、夕焼けみたいに、すっごく赤い。
「…当たり前だろ。お前が、きらきらの衣装でステージに立ちたいって、無茶なこと言い出した時からだよ」
「え…そ、それって、あたしがまだ小学生の…」
「そうだよ。毎日毎日、隣の家まで聞こえるくらい必死に歌って、踊って…眩しくて、目が離せなくなった。いつの間にか、ただの生意気な幼馴染じゃなくて、一人の女の子として、目で追ってたんだよ」
うそ。 うそ、うそ、うそ。
「じゃ、じゃあ、なんで…! なんで、今まで、なにも言ってくれなかったの!?♡」
気づいたら、あたしは彼の胸をぽかぽかと叩いていた。
もう、涙の理由も、さっきまでの不安も、全部変わっちゃった。
「あたしが…!あたしが、どんな気持ちで、ずっとお兄ちゃんのこと見てたと思ってんの!? バカ! お兄ちゃんのバカー!」
「い、痛い痛い! 悪かったって!」
彼はあたしの両手を優しく掴んで、動きを止める。
そして、まっすぐに、あたしの目を見た。
「…お前、アイドルになるって夢、叶えただろ。毎日すげぇ頑張って、どんどん輝いてる。そんなお前の邪魔、したくなかったんだよ。俺なんかが、お前の夢の足かせになるのは、嫌だった」
「…足かせなんかじゃ、ない」
「うん。でも、俺はそう思ってた。だから決めてたんだ。お前が、自分の足でしっかり立って、アイドル伊吹翼として、心の底から自信を持てるようになったら…その時は、俺からちゃんと言おうって」
彼の言葉が、ひとつひとつ、あたしの心に染み込んでいく。
なんだ。
あたしが一人で悩んでた時間、お兄ちゃんも、同じだったんだ。
あたしのことを、ずっと、見ててくれたんだ。
「…先、越されちまったけどな」
そう言って、彼は照れくさそうに笑った。
あたしは、もう、なにも言えなかった。
嬉しいとか、幸せとか、そんな言葉じゃ全然足りない。
心臓が、きらきらした音を立てて、破裂しそう。
「…お兄ちゃん」
「ん?」
「…キス、して…♡」
あたしが、人生で一番、勇気を出したお願い。
彼は一瞬だけ目を見開いて、それから、今まで見た中で一番優しい顔をして、ゆっくりと顔を近づけてきた。
唇に、柔らかくて、あたたかいものが触れる。
(…あ…)
頭が、真っ白になった。 これが、キス。
ううん、違う。
これが、大好きな人と、気持ちが通じ合った人とする、本当のキス。
長い、長いキスが終わって、唇が離れる。
お互い、顔は真っ赤だ。
沈黙が、恥ずかしいけど、でも、すっごく幸せ。
「…翼」
「…はい」
「俺と、付き合ってください」
真剣な声。
まっすぐな瞳。
ドラマなんかじゃない、現実の、あたしだけの王子様。
「…はいっ!喜んで!」
あたしは、満開の花みたいに、最高の笑顔で頷いた。
そして、思い出したように、もう一度彼に向き直る。
今なら、言える。 世界一、気持ちを込めて。
「好きです。あたし、伊吹翼は、世界で一番、あなたのことが、大好きです!」
もう、このセリフに、迷いはない。
あたしの、本当の言葉になったから。
こうして、あたしの初恋は、最高のハッピーエンドを迎えた。
…ううん、違う。 最高のハッピーエンド、なんかじゃない。
これが、あたしと、あたしだけのお兄ちゃんの、甘くて、とろけるような恋の物語の、本当の始まりなんだから。
ーーーーー
翌日のドラマ撮影は、まるで魔法みたいだった。
昨日まで、あんなに悩んで、何度も何度もやり直した告白シーン。
監督の「よーい、スタート」の声で、あたしはすっと目を閉じた。
(…お兄ちゃん)
思い浮かべたのは、撮影セットの相手役じゃない。
たった一人。
あたしの「好き」を、全部受け止めてくれた、優しい笑顔。
『好き、でした。ずっと、前から…』
セリフを言った、っていう感覚はなかった。
ただ、心から溢れてきた気持ちが、自然に言葉になって、涙になって、頬を伝っていっただけ。
カットがかかった瞬間、スタジオは一瞬だけ静まり返って、そのあと、監督やスタッフさん達から、わっ、て拍手が起こった。
「素晴らしいよ、伊吹くん!完璧だ!」
最高の褒め言葉。 でも、あたしが一番に伝えたかったのは、監督じゃない。
撮影が終わるやいなや、あたしは全力疾走で家に帰った。
自分の家のドアも開けずに、そのまま隣のチャイムを鳴らす。
「お兄ちゃん!ただいまーっ!」
ドアが開いた瞬間、あたしは彼の胸に、思いっきり飛び込んだ。
ぎゅーっと、ありったけの力で抱きつく。
「うおっ!? おかえり、翼。…すごいな、なんか良いことでもあったのか?」
「あった!あったよー!今日の撮影、すっごく上手くいったの!監督に、めちゃくちゃ褒められたんだから!」
彼の胸に顔をうずめたまま、興奮気味に報告する。
「全部、お兄ちゃんのおかげだよ。昨日、お兄ちゃんがあたしのこと好きだって言ってくれたから…そう思ったら、自然にできちゃった…♡」
大好き。
ありがとう。
言葉にしたい気持ちがいっぱいありすぎて、どれから言ったらいいかわからない。
だから、あたしは顔を上げて、彼の唇に、自分からキスをした。
最初は、ありがとうの気持ちを込めた、触れるだけのキス。
でも、一度触れたら、もう止まらなくなっちゃった。
「…ん…♡」
唇が離れた瞬間、あたしは彼の瞳を見つめて、ささやいた。
「…もっと…♡」
その一言が、スイッチだった。
お兄ちゃんは少しだけ目を見開いて、次の瞬間には、あたしの後頭部に手を回して、さっきよりもずっと深く、唇を奪ってきた。
「んむっ…ちゅ…♡」
舌が、入ってくる。
あたしの舌に絡みついて、角度を変えながら、隅々まで味わわれる。
息が、苦しい。
頭が、くらくらする。
でも、それ以上に、とろけるみたいに、気持ちいい。
(あ…なに、これ…)
長い、長いキスをしながら、あたしはお腹の奥が、きゅーっと熱くなるのを感じた。
今まで感じたことのない、甘くて、疼くような熱。
その熱は、どんどん下に、下に降りていって…。
じゅわ…。
パンツの内側が、濡れていく感覚があった。
え、なに?これ、あたしの? びっくりしたけど、嫌じゃなかった。
むしろ、お兄ちゃんのキスが深くなるたびに、もっと溢れてくるみたい。
好き。 好き、好き、好き。 大好き。 好きで、好きで、たまらない。
キスだけじゃ、もう足りない。
この身体の熱を、どうしたらいいのか、あたしにはもう、わからなかった。
あたしは、そっと唇を離して、潤んだ瞳でお兄ちゃんを見上げた。
もう、恥ずかしさなんてなかった。
溢れ出しそうなこの気持ちを、全部、彼にぶつけたかった。
「…ねぇ、お兄ちゃん…。あたし、もう、我慢できないや…。好きで、好きで、どうにかなりそう…」
彼の腕を、ぎゅっと掴む。 あたしの、生まれて初めての、精一杯のおねだり。
「セックス…して、ほしいな…♡」