※この作品はR-18です。

TSゆりフタ令嬢侍女メイド!   作:min(みならい)R18

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女侯爵ツクノー

◆♀◆ 12、女侯爵ツクノー ◆♀◆

 

「我が名はツクノー! 『南海の女侯爵』とは、身共のこと!」

 女騎士は、道を塞いで、そう名乗りました。

 栗毛の戦馬から、私たちを見下ろして、

 黒い槍を真っ直ぐに立てて。

「そちら、ダンゼイズの戦士じゃな? 名を名乗るがよい!」

 

 侯爵?

 お嬢さまの父上と同格ですが。

 そんな御方が、自分で馬に乗って出てきた? ホンマかいな。

 

 女侯爵ツクノー(自称)さま。

 歳はモリーヌと同じぐらい。20代後半ですね。

 目は茶色。髪は赤く焼けた金髪。ちょっとユリに似てるかな。

 日焼けした肌。ふっくらした頬っぺ。なんか・・・可愛らしい雰囲気です。子供っぽい。

 

 彼女の後ろには、騎兵が10騎。

 こちらは凄味があります。鬼気・・・とでも、申しましょうか。

 全員、同じ紋章の入った長い盾をぶら下げています。紋章は、槍を持つ黒ネコ(?)です。

 

「・・・取り巻きは強そうですね」と、私。

「・・・どっちにする?」と、お嬢さま。

「フにゃーリアで」

「ネコでいいの?」

「脱ぐヒマないですし」

 話していると、

(待て)

 勇者さまが、無言で合図してきました。

 剣の柄頭に手を置いて、前に出ていきます。

「王都以来ですな! コノマーズの女侯爵、ツクノーよ!」

 と、呼びかけました。

 

 本物の女侯爵だったようですね・・・。

 

「・・・おや? 勇者ではないか」

「いかにも! アスカリアの勇者、ユリ!」

 ユリは高らかに名乗りました。

 ラッパみたいに響く声です。

 相手の騎兵が『ほう』と、呟くのが見えました。

「南洋の女侯爵よ! 北の国まではるばると、何の御用でお出でかな?」

「なんと、これは、白々しい。──殿下のために決まっておる!」

「あなたも王女を。そうですか」

 ユリはうなずいて、

「それは、無駄足でしたなぁw」

「なにっ!?」

「ネムリタロッカ王女を救うのは、この、アスカリアの剣だ!」

 宣言しました。

「侯爵。御身は、明るく温かな、南の領地に帰りなさい」

「フン」

 女侯爵は、鼻で笑いました。

「そのちっぽけな剣に出番はないし、身共が手ブラで帰ることもない」

 手にした黒槍を、高々と掲げます。

「竜を屠ったこの槍が──“コノマーズの黒”こそが、王女殿下をお救いするのじゃ!」

 

 ドラゴンスレイヤー(槍)ですか。

 たしかに、いかつい槍ですね。

 柄は黒木。太く、堅く、重たげで、冬の日差しにツヤツヤと、蛇のように輝いて。

 穂先は長く幅広く、両刃もギラギラ反射する。

 

「・・・すごい槍ね」と、お嬢さま。「あの本の『ドラゴン』なら、殺せそうだわ」

「・・・ワニならね」と、私。

「フタゴンなら?」

「ブレス一発ッスね」

(待てって言ってんだろ!)

 勇者さまが合図してきました。

 そして、女侯爵に言い返します。

「あっぱれ! 戦場知らぬ侯爵も、勇気だけは一人前でいらっしゃる!」

「ヌッ!」女侯爵は気色ばみました。

「満月は、明後日ですが。それまでに、森に着くおつもりでしょうな?」

「無論!」

「では、駆けくらべをしませんか?」

「駆けくらべ・・・?」

「どちらが先に森に着くか。ちょっとしたものを賭けて、競うのです」

「ほう?」

 女侯爵ツクノーは、私たちを眺めました。

「・・・ロバに乗って来るのかな? 孤児院育ちの勇者には、似合いの馬かも知れんのう!」

 女侯爵は、笑いました。

 彼女の手勢も、ユリに笑いを浴びせました。

 私はキレそうになりました。

 ユリは平気でした。「おや、怖じ気づいたので?」

「──貴様!!」

 キレたのは女侯爵のほうでした。

 しかし、彼女の怒りは、すぐに溶けました。

 ユリがこう言ったら・・・

「私が負けたら、おなごのドレスで、あなたと夜会に行きましょう」

「ほほう・・・?」

 ・・・と、ニヤケた目になって。

 ユリに流し目を送ったのです。

「そちが、おなごのドレスで・・・? それは、見ものじゃな」

 

 あー。

 コイツ、アレだわ。

「・・・女色家ね」と、お嬢さま。

「・・・私もそう考えていたところです」

 

「よし。受けた!」

「そう来なくては。それで、ツクノー。御身は何を賭けるのです?」

「そうさな・・・」

 女侯爵は、私たちをグルッと見て。

 私に目を留めました。

「そこの。エルフの令嬢の後ろに乗っておる、メイド」

「・・・。」

 私は無言で礼をしました。

「そう。そち、私が負けたら、その服を寄越せ」

 

 は?

 

「・・・フタゴン行っときますか」

「・・・私もそう考えていたところよ」

(ヤメロ)

「はて、負けたら服を寄越せとは? 頭がおかしくなられたか?」

「一時的にじゃ!! ──そのメイド服で、ユリよ。そちに丸一日、仕えてやろう」

「なんと、御冗談を! 侯爵閣下が、そんなこと!」

 ユリは叫びました。

 すごく、白々しかったです。

 内心「やったぁ!」と喜んでるのがバレバレでした。浮気者・・・!

「やると言うたら、やるのじゃ」

 女侯爵は、馬首を返しました。

「とは言え、身共が負けるハズはない。夜会を楽しみにしておるぞ、ユリ! ハイヤー!」

 あっと言う間に、駆け去ります。

 コノマーズの騎兵が、主君に続き・・・

 さらに、騎兵に帯同する槍持ちども、下男どもが、徒歩で続き・・・

 長い列となって、街道を駆けてゆきました。

 

「さ~て、行くとしますか」

 ユリは、のんびりと言いました。

「急がなくていいのですか?」と訊くと。

 女侯爵の長~い列を指差して・・・

 

「アレじゃ、長持ちはしないさ」

 と、笑ったのでした。

 

◆♀◆ 13、『眠りの城』と、日差さぬ森 ◆♀◆

 

 パカ、ポコ、パカ。

 私たちは、街道を進みます。

 

 女侯爵の列は、もう見えません。

 モターズ伯爵領は、山脈と山脈に挟まれた、長細い国です。

 森が多く、起伏もあって、まったく見通しが利かないんですよね。

 

 ユリは焦る様子もなく、私たちを先導しました。

 

「・・・ところで、ユリさま」

 余裕があったので、お嬢さまが質問を始めました。

「明後日が満月、と仰っていましたが、今回の探索と何の関係があるのです?」

「ああ。そうでした。もう、話してもいいでしょう」

 ユリは、歩きながら話してくれました。

「ネムリタロッカ姫は、『眠りの城』に囚われている。城は、日の差さぬ森にある──と、言いましたね?」

「ええ」

 お嬢さまはうなずきました。

「一度踏み込んだら、決して出て来れないという、迷いの森のことでしょう?」

「ええ」

「どうやって助け出すのです? 考えはおありなのですか?」

「もちろん」

 ユリはうなずいて、

「これは、陛下の軍団が経験したことなのですが・・・」

 と言って、不思議な話を、聞かせてくれました・・・

 

 「数カ月前のこと。

  王国の軍団が、王女の行方を突き止めました。

  しかし。

  女神ヒサモンモーリアさまの神域は、人間を拒みます。

  森に放った偵察は、1人も帰って来ませんでした。

  やがて、食料が尽きました。

  王都に帰還しようと、隊長が決めた──

  その夜のことでした。

  満月の光が、森を照らしたのは。

  すると。

  なんと不思議なことに、森の中に、城が見えたのです。

  勇敢な戦士が、城門まで走りました。

  ところが、門に触れるや否や、彼は倒れてしまった。

  仲間が助けにゆくと・・・

  彼は、グーグーいびきをかいて、眠っていたそうですよ」

 

「・・・それで、『眠りの城』と命名されたのです」

「その軍団兵は?」

「行方不明です」

 

 ぱか、ぽこ、ぱか。

 馬の足音が響きます。

 

「『妨害』できる人、いなかったのかな・・・」と、私。

「『妨害』も、疲れるからね。呪いを受け続けたら、いつかはやられるさ」

「じゃあ、ユリもダメじゃん」私は不安になりました。

「ダメなら戻って来るよ」

「戻れなかったら?」

「アスカリアの勇者は、おしまいさ」

「そんな・・・!」

「名もない兵が、姫のために死んだんだ」

 ユリは、肩をすくめました。

 

「勇者が逃げるなんて、できないよ」

 

◆♀◆ 14、ガイコツの駆除 ◆♀◆

 

 モターズ領は・・・

 

 もぬけの殻でした。

 

 砦は無人。関所は破れたまま。

 守備兵ナシ。難民もナシ。

 やせこけた野犬以外、生き物の姿を見ることはありませんでした・・・。

 

 午後遅く。

 行く手に、枝道が現れました。

 これまで歩いてきた街道は、そのまま北西に伸びています。

 そこから、小さな土の道が北に分かれているのです。

 

 ダークエルフのダーリン姉ちゃんが、足跡を調べて・・・

「街道を行ったみたいですわ。土の道には、馬の足跡、ありませんもん」

「では、私たちはこっちだね」

 ユリは、土の道に踏み込みました。

「こちらが近道なのですか?」と、お嬢さま。

「いいえ」

「ん?」

「モターズの国は、おそらく、死霊使いに滅ぼされたのでしょう」

 ユリは、お嬢さまを見上げました。

「ですが、生き残りはいるかも知れません。侯爵が街道を、私たちが枝道をゆけば・・・」

「どちらの生き残りも、救うことができる?」

「その通り」

「なるほど。立派な理由ですわ」

 

 ユリの善意は、すぐに報われることになりました。

 

 夕方、大きな村が、前方の丘の上に見えてきました。

 静かで暗い村でした。人の姿ナシ、煮炊きの明かりナシ、です。

 

「全体、止まれ」と、ユリ。「ダーリン」

「ここに」

 スッ・・・。

 ダーリン姉ちゃんが、音もなくユリの背後で片膝を付きます。

「調べろ。生き残りを発見したら、鏑矢を放て。敵が30以上の時も、鏑矢だ」

「はい」

 

 ダーリン姉ちゃんが村に侵入。

 しばらくして、

 

 ヒョロロロ・・・ッヒョロロロロ・・・ッ・・・と、2回、鏑矢の音がしました。

 

「テニスさま、『フタゴン』お願いします」とユリ。

「わかったわ」

 お嬢さまと私は、去勢馬を降りました。

「じゃ、脱いで」

「らじゃー」

 

 私は、去勢馬に身を隠して、ストリップしました。

 さっきの鏑矢2発は『生き残りがいる』『敵30以上』の意味です。

 モタモタできません。脱ぎます。脱ぎました!

 

「幻のドラゴンの力よここに。火を吐き、征し、モターズの希望となれ! ──フタゴンに、な~れ!」

「ギャオーゥ!」

 

 フタゴン降臨です。

 身体にトーガ巻いてもらう時間すら、もどかしい。

 ズッシャズッシャズッシャ! 走ってユリの下に戻りました。

 

「フタゴン、マレーナ、モリーヌ、ここで待機。モリーヌには、マレーナを守ってもらいたい」

「はい」「はい」「かしこまりました」

「テニスお嬢さまは退避。班長殿、お嬢さまのことはお任せします」

「はい」「承知」

「ダンゼイズの戦士がたは、姫の背後に── う し ろ !」

「なんでじゃ。わしら、姫の護衛じゃのに」「バカモン。火じゃ。火」「ああ、ドラゴンブレスか」

 配置完了。

 ユリは剣を抜きました。

「私が釣って来る。『撃て』と言ったら、私に向かってブレス吐いて」

「・・・当てろってこと?」

「そう。私に当てろ。調節は、マレーナ、君がやれ」

「村を焼くな、ということですね? お任せを」

「じゃ、始めるぞ!」

 

 ユリは村まで駆け上り、名乗りを上げました。

 生きている者はいるか? と、呼びかけています。

 この時点では、返事はありませんでしたが。

 ガイコツは釣れました。

 髑髏狼人です。

 上半身が狼、下半身が人間ってヤツですね。

 村の中央通りから、家の屋根から、畑の窪みから・・・雪崩のように、攻め下ってきました!

 

 ・・・くそ。敵のが高所だと、恐いな。足、震えてきたわ。

 

「ガイコツじゃ!」「なんぼのモンじゃい」「カチ割ったる」「手柄じゃ手柄!」

 ダンゼイズの戦士は相変わらずうるさいです。

 おかげで少し落ち着きました。うるさいですが。

 マレーナ姉さんがクロスボウを出して、レバーを回しました。ガチャコン。

 ユリが駆け戻って来ます。

 時折振り向き、飛び掛かってくるガイコツを斬り落としながら。

「背中に目がついとる」「さすが勇者じゃ」「多いな。百は居るじゃろ」「手柄じゃ手柄!」

 ユリが、私を見ました。

 私は、息を吸い込みました。

 マレーナ姉さんは、クロスボウを構えました。

 

「撃て!」

 

≪モターズ領を、返せぇっ!! ンガァーーー!!!≫

「大気よ変容せよ。竜の炎を渦巻かせ、伸ばし、髑髏魔人を呑み込ませよ」

 

 火の竜巻が、土の道を、吹っ飛ばしました。

 ユリを中心にして。

 

「ぷはー!」

 炎の中から、ユリが出てきました。

 まったくの無傷。見事に『妨害』したようです。

「此は烈火──」

 マレーナさんが別の呪文を唱えて、クロスボウの引き金を引きます。

 ボヨン。受け皿にセットされていた粘土玉が、飛びました。

 ユリの頭を飛び越えて。

 散ってゆく炎を抜けて。

 ユリの背後に迫る、新手のガイコツに・・・ボコッ。当たりました。

「──焼き討て!」

 

 ドガン! フタゴンのブレスとはちがう、重低音の爆発。

 ガイコツが吹き飛ばされ、バラバラになりました。

 

 これで、駆け下ってきた第一波の敵は、壊滅しました。

 10体あまり、生き残りもいましたが・・・

「ダンゼイズの戦士よ! 出番ですぞ!」ユリに叩き斬られ、

「ダンゼーイズ!」突撃した戦士に突き飛ばされ、

「手柄じゃあ!」カチ割られました。

「フタゴン班、前進! ここに来い!」

 ユリの声。

 私たちは、前進しました。

「もう一回やるぞ! それが終わったら、村に突入する。フタゴン!」

「はい」

「ブレスは次で終わりだ。村の中では、絶対吐くなよ」

「はい!」

 

 ユリが前進。釣り出し。

 カウンター・ドラゴンブレス。

 問題ナシ。成功です!

 

「突入!」ユリが叫びました。「生き残りがいるぞ、人間は叩くなよ!」

「おおう!!!」「人助けじゃあ!」

 私は、ダンゼイズの戦士と共に、突入しました。

 マレーナ姉さんは、外に残りました。乱戦を避けるためでしょうね。モリーヌも残ります。

 ダンゼイズの戦士は、私をよく守ってくれました。

 4人で、前後左右を囲んでくれたのです。

 ・・・邪魔! なんもできん!

 

 戦闘終了。

 

 髑髏狼人100体あまりを討伐。

 こちらの被害は、ダンゼイズの戦士3名がカスリ傷。以上。

 

 『勇者一行』の勝利です!

 

◆♀◆ 15、虚ろな食料と、フタゴンの恵み ◆♀◆

 

「おお、勇者さま・・・」

 

 やせこけた初老の男が現れて、ユリの前に膝をつきました。

 村長らしいです。

 

「戦士がやられ、生き残りも、謎の病で、やせこけて・・・もはやこれまでと、覚悟しておったところ」

 ユリを拝み、感謝します。

「あなたは、オネオッツの村の、恩人じゃ! なんでも言うてくだされ」

 

 ユリは、食料の余裕があるかどうか訊きました。

 備蓄はある、とのことで、倉を見に行くことになりました。

 

「何度か、侵入はされましたがのう。所詮はガイコツ。食料は、ご覧の通り・・・」

 運び出された食料。

 麦、根菜、干し肉、酒の入った甕・・・などなど。

 すべて、無事のようでした。

 しかし。

「いけません! その食料、食べてはなりません!」

 マレーナさんが、叫びました。

「な、なんと?」

「見ていてください」

 彼女は、松明を手に取って、その火に干し肉をかざしました。

 干し肉は、灰になりました。

 火が付くことも、焦げることもなく・・・

 一瞬で、白い灰になって、サラサラと崩れたのです。

「やはり・・・」

 マレーナさんは首を振りました。

「どういうことです? 魔術師さま」

「この食料は、すでにヤツらが『食べた』後です。口にしてはいけません」

「なんですと!?」

「ヤツらが『食べた』ものは、虚ろな食料になります。このように・・・」

 

 マレーナさんは、今度は、酒を汲み上げました。

 小さなカップに一杯だけ。

 そこに、火を近付けます。

 酒は、なくなりました。

 うっすらと湯気が昇っています。

 一瞬のうちに蒸発してしまったようです。

 

「・・・この食料では、飢えは収まりません」

「・・・。」

 村長も、手伝いに来た男どもも、沈黙しました。

 彼らは・・・

 全員、ガリガリにやせていて・・・

 その原因は『謎の病』と、言っていましたが・・・

「あなたがたは、飢えているだけです。虚ろな食料を口にしたせいで」

 

 私たちは、空き家を2軒、借りました。

 男たちが1軒、女たちで1軒、分かれて宿泊するのです。

 温かい家で過ごせるのは、ありがたいことでした。

 しかし。

 

「毒だろうと、飢え死にするよりゃマシだ・・・!」

「落ち着け。魔術師さまが・・・」

 村人どもが言い争う声が、聞こえてきます。

「あんな小娘の言いなりになれるか」

「やめろ。食うな。やめるんじゃ・・・!」

 これは、つらいことでした。

 

「・・・彼らは、アレを食べてしまうでしょう」

 マレーナさんは首を振りました。

「なんとなく、わかった気がするわ」

 お嬢さまが、私にもたれかかったまま、話しました。

 眠りかけです。『フタゴン』の呪文は消耗が激しいので、もう限界なのでしょう。

 それでも、理解力はさすがでした。

「味は、ふつうの食料と変わらないのでしょう? だから、食べてしまうのね」

「御賢察」と、ユリ。「ちょっとパサパサしてるけど、まず、区別はつきませんね」

「そうです」

 マレーナさんは俯きました。

「味もするし、お腹も膨れる。だから、飢えた者ほど、アレを食べてしまうのです・・・!」

「・・・。」

 

 カロリーがゼロになる・・・みたいな感じなんかね?

 砂糖が合成甘味料に変わる、みたいな。

 飢えてたら、そりゃ、食べちゃうよね・・・。

 

「君は、ちゃんと警告したさ」

 ユリが、マレーナさんを抱き寄せて、髪を撫でました。

「あとは彼らの運命だ」

 私は立ち上がりました。「らしくねーな」

「・・・リア」

「ユリ。人助けのために、こっちに来たんだろ? なら、助けようぜ」

「君が恨まれるだけだ。口出ししたって・・・」

「口出しはしないさ」

 

 私は、外に出ました。

 地面を蹴って、翼を広げ、夜空に舞い上がります。

 明るい月。ほぼ、満月。

 地上は、青白くぼーっとかすむようでした。

 フタゴンの目には、その明かりで、十分でした。

 

「・・・よし」

 鹿が1頭。

 モシャモシャと木の芽をかじっています。

 私は、翼をたたんで、そいつ目掛けて墜落しました。

 

 ──舞い降りて足で掴めって? そんな芸当、できるわけないだろ。

 

 どがーん! 哀れな鹿を敷き殺します。

 フタゴンはそいつを(今度こそ)後ろ足で掴んで、バッサバッサと飛び上がりました。

 

 村まで戻って・・・

 戻っ・・・て・・・Zzz・・・

 あれ? 眠くなってきた。

 あれれ? 力が抜けてきた・・・

 

「お嬢さま!」モリーヌの声がしました。「フターリアよ変容せよ。御身は鉄! あらゆる打撃によく耐える!」

「リア! しっかりしろ」ユリの声も。「眠るな。目を覚ませ。いま、呪文をかけ直す!」

 

「変容せよ、フターリア」

 お嬢さまの声も。

「幻のドラゴンに。力強く、空飛ぶものに! ──引き続き、フタゴンであ~れ!」

 

「フギャー!」

 気付けば、地面が目の前でした。

 私は、あわてて鹿を放し、翼を突っ張って、頭を起こしました。

 ──が、間に合わん!

 膝が地面に接触。

 バターンとブッ倒れ、ズサーッとヘッドスライディングしてしまいました。

「ほげぇ・・・」

 ユリとモリーヌに引き起こされます。

 マレーナさんが毛布を持って来て、包んでくれました。

 トーガが乱れて・・・おっぱい丸出しになってたんですね・・・。

「バカ。ムチャすんな」ユリに怒られました。「バカ」

「鹿。取ってきた」

「うん」

「食わせてやって」

「うん」

 

 翌朝。

 私たちは、鹿肉しか入ってないスープを頂いて。

 

 狩りと採集で、半日を潰すことにしました。

 

「時間は大丈夫ですか?」

「昼に出れば、何とかなる──足止めを喰らわなければね」

 フにゃーリアになった私は、ユリ・ダーリンと3人で、ウサギ狩りをしました。

 狩りの経験はないんですけどね。ま、役には立てたと思います。

 ネコ娘モードだと、鼻がそこそこ利くのでね。

 ダンゼイズの戦士も、アナグマを仕留めました。

 大漁とは行きませんが・・・

「フターリアさま。虚ろな食料は、火で始末いたしますじゃ!」

 村長が、そう約束する程度には、足しになったようです。

 

 昼前になって、お嬢さまが目を覚ましました。

「大丈夫ですか?」

「元気いっぱいよ」

「良かった・・・」

 お嬢さま。

 私が村に墜落しかけたとき、2回目の『フタゴン』を掛けてくれたのですが。

 それで限界突破して、ブッ倒れてしまったそうです。

「ごめんなさい」

「いいのよ。それより・・・眠りって、さびしいのね」

「さびしい?」

 

「あなたが活躍してるのに、見ることも聞くことも、できないんだもの」

 そう言って、お嬢さまは私の頬を撫でました。

 

◆♀◆ 16、女侯爵を救え ◆♀◆

 

 昼過ぎに、私たちは出発しました。

 丘を登り、木立を抜け、小川を渡って・・・

 モターズ領の奥地に入ります。

 戦闘ナシ。出会いもナシ。

 滅びた村をいくつか通過しただけでした。

 

 いよいよ、満月の日。

 明け方から夕方まで旅をした私たちは、深い深い森の前で、足を止めました。

 

「深緑川の源。雪山を両肩に、2本の高い樫の腕が挟むトンネル」

 ユリは、満足そうにうなずきました。

「──間違いない。ここが、『眠りの城』への入口だ」

 

 私たちは、川を見下ろす小さな丘に登って、天幕を張りました。

 その丘には、大きな岩があるのですが。

 この岩の陰に、野営の痕跡が残っているのです。

「軍団の野営かな?」

「たぶんね」

 私たちは軍団兵に祈りを捧げ、跡地を再利用させてもらいました。

 一番助かったのは、竈です。

 岩を積み上げて造られた、即席建築ですね。

 風が吹いても火が消えないので、料理人が喜んでいました。

 

 さて。

 私たちが、岩陰の天幕で、スープを啜っていると。

 パカランパカランパカラン・・・と、ひづめの音が聞こえてきました。

「ふふふw ようやく御到着か」

 ユリは笑いましたが。

 外に見に行って、すぐ、こんな叫び声を上げました。

「──敵襲! コノマーズ侯爵が襲われている! 戦士よ、武器を取れ」

「おおう!」

「リア、ネコ。天幕を守って!」

「はい!」

 私は、タイツとパンティを下ろしました。

 お嬢さまが私のお尻を叩きました。

 

「変容せよ、フターリア。猫の力をその身に宿し、密かに優美に敏捷に。──ネコ娘に、な~れ!」

「ニャー! ・・・んでお尻叩いた?」

「目の前にあったから」

 

 私はモリーヌと共に天幕の入り口に立ちます。

 下男どもも集まって、天幕の周囲に立ちました。彼らの武器は、棍棒、ナイフ、木の棒などです。

 街道を見下ろします。

 1騎、こちらに駆けてくるのが見えました。

「・・・単騎?」

「どういうことでしょうね」

 私とモリーヌは首をひねりました。

 ユリとダンゼイズの戦士が、「こっちへ来い!」「がんばれ、もう少しじゃ!」と声をかけます。

 大きな戦馬が、大きな黒槍を手にした騎兵を乗せて、ダカダッ、ダカダッと丘を登ります。

 馬脚が乱れました。疲労が激しいようで、なだらかな登りでも苦しそうです。

 乗り手は、大きな黒槍を右手一本で、右に、左に、と打ち下ろし、馬の両脇のガイコツを倒しますが・・・

 髑髏狼人は、ジャンプ力があります。

 馬の真後ろから跳躍して、乗り手の背中に届くほど。

 そうして乗り手にしがみつき、首筋に噛みつく。

 乗り手は手綱を離し、籠手パンチ。

 1体を叩き落とすが・・・

 その間に、右手の槍に抱き付かれ、左足にしがみつかれます。

 ピンチですが。

「突撃ぃーーー!」

 ユリが叫び、ダンゼイズの戦士と一緒に駆け下りました。

 ガイコツにブチ当たります。

 勇者ユリはもちろん、戦士たちもガイコツ相手は慣れたもの。

 数の不利をものともせず、たちまち蹴散らしてしまいました。

 

 戦闘終了。

 我々の勝利です。

 

◆♀◆ 17、女侯爵、負けを認める ◆♀◆

 

「・・・助けて頂いたこと、感謝する」

 傷だらけのヨロイを着たままで、女侯爵ツクノーは、頭を下げました。

 馬も彼女も傷だらけなのですが・・・

 ツクノーさまは、私たちへの礼を優先したのです。

「アスカリアの勇者。アイメンカの姫。そして──ダンゼイズの姫よ。この借りは、きっと返そう」

 

 それから、彼女は治療に取りかかりました。

 兜を脱いで、籠手を外すと・・・

 

「陽の火よ、熱よ、輝きよ。このツクノーを変容せしめよ。癒し、祓い、清めたまえ」

 みずから呪文を唱えます。

 

 ジュワジュワ・・・彼女の傷口に、白い泡が噴きました。

 血が流れ落ち、黒い土の汚れが取れ、綺麗な肌が現れます。

 それから、傷口がふさがっていきました。

「この泡は・・・?」

「この泡は、穢れ祓いじゃ。化膿や狂犬病を、防いでくれるのじゃ」

「すげぇ!」

 

 ハンドソープの泡みたいなの、こっち来て初めて見た!

 いやー。石鹸はあるけど、全然泡立たないし、肌も荒れるんですよねぇ・・・。

 

「そちの方がすごかろう」

 ツクノーさまは、私のネコ耳と尻尾を見ました。

「見事な『変容』っぷりじゃ・・・」

「光栄です」

 フにゃーリアの尻尾。ピン! ピン! と立って踊っています。

 すげぇ! ってなったら勝手にこうなるんですよね。

 ツクノーさまは、そんな私の尻尾を見ながら、栗毛の雄馬のキズを癒してゆきます。

「さすがは、ドラゴン殺しの侯爵家。戦士にふさわしい呪文ですね」

「・・・。」

 

 あれ?

 皮肉ではなく、心から褒めたのに、反応が悪い?

 

「・・・ときに、フターリア姫よ」

「はい」

「そちは、なぜ、そんな姿をしておるのじゃ?」

「急に戦闘になったので」

 私は、ダークグレイと黒のシマシマ尻尾を、ユラユラしました。

「いや・・・『変容』は、まだ、わかるのじゃが、」

 女侯爵は眉を八の字にしました。

「なんで、下女の格好をしておる?」

「本業はメイドでして」

「本業は侍女よ!」

「・・・?」女侯爵は首をひねります。

「侯爵」ユリが声をかけました。

「なんじゃ。勇者よ」

「お仲間のことは、よろしいので?」

「よろしいのじゃ」

 ツクノーは肩をすくめました。

「私が無理して突出しただけで、仲間に危険はない。私より弱いヤツは居らぬし・・・」

 と、ここで。

 パカランパカラン・・・ドドドドド・・・と、馬蹄の轟きが迫ってきました。

「ウワサをすればというところじゃ」

 

 女侯爵と私たちは、迎えに出ました。

 はたして、コノマーズの騎兵たちが、追い付いてきたところでした。

 

「お嬢さまァ!!」

 コノマーズ騎兵。

 その長が、馬から降りるや否や、怒鳴ってきました。

「なんちゅう馬鹿なことをなさる! 万が一のことがあったらと、生きた心地も!!」

「心配無用じゃ。ほれ、生きておる」ツクノーは胸を張りました。

「結果論!」

 コノマーズ騎兵は怒鳴りました。ものすごい剣幕です。

「人の上に立つ者は、結果だけではいけませんと! 何度も何度も!!」

「わかったわかった!」

 

 ・・・と、しばし、お説教のあと。

 

「我が主を助けて下さり、感謝いたす」

 コノマーズ騎兵たちは、一列に並んで頭を下げてきました。

「なーに」

 ユリは、軽く流しました。

「それにしても、1人で突出なさるとは。いったい、何があったのです?」

「大したことではない」と、ツクノーさま。

「途中で、3つ、村を救いましてな」と、コノマーズ騎兵。

「髑髏狼人ですね?」

「そちらも?」

「ええ。こちらは1つだけでしたが」

「なるほど」

 騎兵はうなずいて、話を続けました。

「ま、それで、侯爵は、敵を蹴散らしたあと、単騎で早駆けされたのです」

「討伐を優先なさったということですか?」

「当然じゃ」ツクノーさまは、サラッと答えました。「そちは、どうしたのじゃ」

「討伐しましたよ」

「じゃろう?」

「ふふw」ユリは、笑いました。「『虚ろな食事』については?」

「料理人を残してきた」と、ツクノーさま。「父の代からの、委細わきまえた男をな」

「おお!」

 ユリは、ぱあっと明るい笑顔になりました。

「御身は立派な侯爵だ! 今回のことで、真価を見せて頂きましたよ」

 と、褒めちぎりました。

「褒めすぎじゃ。そして、こちらも同じ言葉を返しておく。そちは立派な勇者じゃとな」

 そして、ツクノーさまは、ため息をつきました。

「なんにせよ、身共の負けじゃ。約束は守ってやるから、いつでも呼び付けるがよい。今夜はダメじゃがな」

「潔い侯爵閣下だこと!」

 ユリは、またまた御機嫌になりました。

 ツクノーさまの両手を握って、

「では、力を合わせて参りましょうか。殿下のために」

「手柄は譲らんぞ!」

「はいはいw」

 2人は、仲良く森のほうへ歩いてゆきました。

 

「・・・お嬢さま」

「・・・なに?」

「私も森に入ることにします」

「ファリアが行くなら、私も行くわ」

「ご冗談を」

「私がダメなら、ファリアもダメよ」

「・・・。」

「・・・。」

「しかし、勇者さまが」

「私と勇者さま。どっちを取るの?」

「どちらかを見捨てるなど」

「あなたの身体は、ひとつしかないわ」

「・・・む」

 私は背筋を伸ばしました。

「ニーズ、あなたです」

 

 └(・v・)┘

 

「わかったわ。行ってらっしゃい。──モリーヌ、『鉄身』をかけ直してあげてはどうかしら?」

「よいお考えです」

 

 夜空には、いよいよ、満月が姿を現わすところでした。

 

「ネムリタロッカ姫! アスカリアの勇者が参ります!」

「御身の敵は、“コノマーズの黒”が祓ってみせますぞ!」

 威勢のいい2人の声が、そんな夜空に響きました。

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